始めよう、モヒカン狩りの時間だ
天使のひざカックンで体勢を崩していたモヒカンが復活する。
「ズハハハハハ、お嬢ちゃん、ナメたマネしてくれるじゃねーか、しかもいきなりラブラブチューだと、くっそうらやましい、爆発しろやリアジューが!」
油断していたところに少女に一撃をくらわされ、精神攻撃まで食らって相当怒っている。
落ちついて観察するとよく分かる、モヒカンとして威張るために鍛えたであろう肉体、プロの野盗として修羅場を潜り抜けてきたであろう面構え。徒党を組まず、単独で活動する圧倒的な自信。こいつはふざけた態度とはうらはらに相当な強さを持つ。
だが、全てを思い出し、かつての人生の知恵と知識と経験が、今の人生で培った肉体に宿り、女神に授かった能力を持つ俺ならば、絶対に負けはしない!
右手を掲げ叫ぶ。
「神走召喚!SV650S!!」
まばゆい光と共に俺の体からオーラがあふれ出し、かつて事故で失った愛車を形作る。
スズキSV650S。
その尻に優しくない四角いシートに腰を掛け、SSほどではないが前傾強めのポジションを強要するセパハンに手をかける。
セルをまわしエンジンをかける。デジタルメーターに光が灯り、Vツイン独特のリズムと鼓動が俺を昂らせる。もちろん約束通りタイヤはピレリのハイグリップ仕様に換装されている。
「すごいですの、やりましたですの!やっぱりヒーローはスズキのバイクに乗って現れるんですの!オレンさん、それがあなたの神走召喚ですの!私はこれを伝えるためにやってきたんですの!」
「ありがとう天使ちゃん。全ては君の唇から伝わった。とりあえず先に相手をしなければい奴がいるんで、話は後でゆっくりしよう」
「わわ、はいですの」
天使はそう言って顔を真っ赤にして唇を抑えて俯いてしまう。
「ゼハハハハ、テメーなんだそのノリモンは、チョーカッコイイじゃねーか。おもしれー、大切そうだから奪ってやるっ、なぜならそれが俺のモットーだからだ!」
そう叫んでモヒカンは槍を構えて襲い掛かる。
俺は静かにスロットルを開けクラッチを繋ぎ、一瞬で限界まで加速しそのままモヒカンを跳ね飛ばした。
「モヒィィィィーーーー!」
血まみれになりながら吹き飛ぶモヒカン。しかし奴もただ者ではない。ぶち当たる瞬間俺の左わき腹に槍で一撃を加えていた。
「ああ!あの速度を見切って一撃を加えるなんて、あの人ただのモヒカンじゃないですの!」
「たしかにちょっと痛い。しかし、俺の特技は治癒魔法なんだ、この程度の傷は一瞬で治せる!」
「ぐぬぬ、ちくしょう、だが俺は負けねぇ、このモヒカンにかけて、キサマを倒してやる!」
「オレンさん、聞いてください、神走召喚にはもう一つ使い方があるんですの!」
跳ね飛ばされた痛みをものともせず立ち上がり、鬼の形相で向かってくるモヒカン。
驚くばかりのタフネスだ。
しかし俺は知っている、かつて憧れたあの人のもう一つの姿を。
「天使ちゃん、それはもう知っている」
「わわ!?どういうことですの?」
「これだろう、転身!!」
俺の叫びと共にSV650Sが俺の体に鎧となって装着される。
パカっと開く特徴的なタンクや角形トラスフレームを基調とした装甲、鋼鉄の鎧を身にまとっているのに、まるでコミネのプロテクターのように軽くて動きやすい。
ただの防御のための鎧ではないく、身体能力向上の効果もあり、身に纏うだけで力が沸き上がってくる。
俺は剣を抜き構える。村一番の鍛冶師となったイヤンの最高傑作だ。
「死にさらせーーーー」
叫びながらも巧みなフットワークとフェイントでこちらの防御を崩そうとするモヒカン。
やはりこいつただ者じゃない、正規の槍術を学んでいる、それも相当な練度だ。
おそらく記憶が戻る前の俺ならば疲労がなくても負けていただろう、しかし今の俺は神走召喚がある。
俺の剣がモヒカンの槍を弾き飛ばす。
そこで奴はニヤリと笑うと、空いた両手で髪を挟むようにする。
「必殺!奥義モヒカッター!!俺にこれを出させて生きて帰った奴はいない」
そのまま前方に髪の中からカッターを飛ばしてきた!
しかし俺はその攻撃は読んでいた、剣をかざしカッターを叩き落す。
「コレ、回避したら、戻ってきて背後から刺さるやつだろ」
「な、なぜそれを知っている!?」
「俺の生きていた世界じゃな、モヒカンが髪にブーメランを仕込んでいるのは常識なんだよ!!」
俺は剣を両手で握ると、モヒカンに向かって駆けだした。
「バーニングカッパーメタリック!!」
剣を一閃、橙の光がモヒカンを打ち抜き、俺は初めての命のやり取りに打ち勝った。
俺は神走召喚を解除し倒れているモヒカンに近づいた。
「俺の負けだ。殺せ」
俺は無言でモヒカンの傷に手を伸ばし、簡単な治癒魔法をかける。
「何をしている……」
「俺が神走召喚する前、お前はその気になればいつでも俺たちを殺すことができた。だがお前はそれをしなかった。これはその借りを返しただけだ」
「ゾハハハハ、甘い奴だ。殺せば金にならないから殺さなかっただけだ」
「……これで動けるだろう、さっさと行け、そして悪行からは足を洗え」
「後悔するぜ、今度会ったら最初から殺す気でやってやる」
「その時はまた返り討ちにしてやるさ」
モヒカンは傷口を抑え立ち上がり、港町と反対の方向に去ってゆく。
「アバヨ」
数歩歩いたところで振り返りる。
「カーキタだ」
「?」
「俺の名前だ。裏の世界じゃちょっとは通っていてね。何か手が貸せることがあれば一度だけ助けてやんよ。その後で改めてお前を倒す、それまで悪行は休業だ。なぜならそれが俺のモットーだからだ」
そう言ってモヒカンの男はカーキタは去って行った。
「天使ちゃん、立てるかい?」
「はいですの、ありがとうございますですの」
「とりあえず、ここじゃ落ち着いて話もできないだろう。港町まで行こう」
「はいですの、お供しますの」
「神走召喚」
俺は再びSV650Sを呼び出し、リュックを背負う。
そうだ、このリュックは女神からの贈り物だったっけ。
しかもロゴがアドレス。購入キャンペーンの奴じゃねーか。
天使はタンデムシートに座り、俺の腰に手を回す。
「行くぜ」
俺は懐かしい感覚に身を任せエンジンをかける。
そしてバイクは走り出す、最初の目的地港町に向かって。
ところで、ハンドルん所にミツバの一体型ETCついてるけど意味あんの?