覚醒、神走召喚!
突如村に現れたゴブリン集団。
それをたった一人で蹴散らした男カズマ
『神走召喚』を使う彼との出会いから5年の歳月が過ぎ、俺は15歳となった。
村では15で成人したとされ、一人立ちすることを許される。
そして俺は両親や兄たちに告げる。
「俺は村を出る、あの人のようになりたいんだ」
俺はあれから家業を手伝いながら修行を続けていた。
自警団で剣と槍を学び、長老の元で勉学を学び、物知り婆の元で治癒魔法を訓練した。
あいにく攻撃魔法の才能はなく、それらは全く取得できなかった。
隣の幼馴染のアーシャはそっちの才能に恵まれていたらしく、数年の修行で長老を超えてしまい、昨年成人し西にある王都の魔法学園へと留学するため旅立って行った。
「オレンは治癒魔法の才能があるよ、そっちの勉強に専念したほうが結果は出るよ」
いつまでも攻撃魔法を取得できない俺に対して、アーシャは確信したかのようにそう言った。アーシャは人に時々鋭いことを指摘するのだが、そういう時に空に右手人差し指をぐるぐる回しす妙な癖がでるのだ。
半信半疑で物知り婆のところに通うようになったのだが、本当に治癒魔法の才能は恵まれ、今では村では一番の治癒術師へと成長していた。
アーシャからは定期的に手紙が来ており、俺にも魔法学園へと来るよう誘われている。
治癒魔法の力を伸ばすため、まずはそこを目指してみよう。
俺は両親や、一緒に育った友人たち、物知り婆や長老といった恩のある人々に別れを告げると徒歩で村を跡にした。
王都まで徒歩では何か月もかかってしまう。
俺はまず船に乗るため、近くの港町を目指し歩き出す。
初めての徒歩旅はきつかった。
足に豆はできる、ペースがつかめずバテて倒れそうになる、携行性を重視した保存食はあまりうまくもない。
「こいつが無ければもっと辛かったかもしれないな、感謝だ」
そう言って俺は背負ったリュックをポンとたたく。これは製法の分からない高級な布地や謎の材質でできている。とても頑丈で軽く、中のものも取り出しやすく使いやすい。
これはいつの間にか俺の私物の中に紛れていた品で、家族の誰も買った覚えがなく、村の誰も自分のものではないという。旅の行商人に見てもらったこともあるが、値段もつけられないし買い取れないとも言われた。
なんとも怪しい逸品だが、俺はどことなくこれに見覚えがあるような気がして今回の旅に持ってきてしまったのだ。
そして目的の港町まであと少しというところで事件に遭遇する。
幼い金髪の少女が、モヒカンにトゲ付き肩パッドの野党のような男に襲われていたのだ。
「わわ、やーめーてー!そのスズキエコバッグは私のですの、無いと困るですの、返してくださいですの!!」
「ガハハハハ!何かよくわからないけどとりあえず、人が大切にしているものは奪う!それが俺のモットーだ、ギハハハハ!」
「うう、おねえちゃんの言いつけでここに来たのに、それがないと使命が果たせないですの」
俺より2、3年下くらいだろうか?なぜこんなところに一人でいるのだろうか?
いや、それより助けないと、あの子自身が危ないかもしれない、俺はいそいで駆け寄った。
「グハハハハ、お嬢ちゃん、チミみたいなかわいいロリっ子が荷物だけで済むと思うのかなぁ?」
「わわ!まさかあなたはロリコンさんですの?乙女の純潔が危険がピンチですの!」
「ゲハハハ、俺はガキには興味はある!しかし売ったほうが金になるから丁重に誘拐して趣味の悪い金持ちに売り飛ばしてやんよ」
「いーやーでーすーのーーー!助けておねえちゃーーーん!!」
肩に食い込む荷物重い。
息を切らして、ようやく近くまでたどり着く。
「待つんだ、そこのモヒカン氏!紳士ならノータッチでなくてはならないだろう!」
「なんだテメーは!正義の味方気取りか、ああん?どこのイナカモンか知らねぇが、バテバテじゃねぇか、ゴハハハハ!」
確かに悔しいが俺は長旅の疲労が蓄積しており、一気に飛びかかって少女を救出なんて芸当はできそうにない。
村であれだけ鍛えたはずなのに、なんということだ。
「ああ、何ということですの、私のせいで犠牲者が増えてしまったですの!やはりヒーローはスズキのバイクに乗って現れるものですの」
スズキのバイク……聞き覚えがある。それはかつて憧れたカズマさんが言っていた力の名前。
俺はモヒカンが強奪していた少女のバッグを見る。
そこに描かれた文様に見覚えがある、そうだ俺のリュックに描かれたマークと同じ!
「キミ、あのバッグの模様は一体!?」
「わわ?あなたスズキエコバッグをご存じですの?」
「ああ、俺のこのリュックを見てくれ、どう思う?」
「すごく……変態です」
え、なにその返答。
「ザハハハハ、テメーラ俺様を無視して何盛り上がってやがる、おいイナカモン、テメーのリュックも大事そうだからついでに強奪してやろう、なぜならそれが俺のモットーだからだ!」
そして槍を構え近づいてくるモヒカンに対し、俺は腰の剣を抜き身構える。
しかしこのモヒカン、言動はザコっぽいが構えに隙がなく、切り込むことができない。
俺の田舎剣術では、チンピラ一人の相手もできないのか?
「ジハハハハ、殺しはしねーよ。テメーは縛り上げてホモに売る」
もっと嫌だよ。
少女を放り出し近づいてきたモヒカンが、じりじりと間合いを詰めてくる。
「待つんですの、貴方からもの凄いスズ菌濃度を感じますの。もしかしてあなたは私が探していた、あの人ですの!」
少女は俺とにらみ合って動けないモヒカンに駆け寄ると、なんと大胆にも後ろからひざカックンをかましたのだ。
「こけーーっ」
思わず変な声を出して体勢を崩すモヒカン。
少女はその隙に、俺の方に駆け寄ってきた。
「思い出してくださいの、わたしはスズキの天使ですの、あなたあの時の……」
そう言うと俺に抱き着き、唇を合わせる。
俺のファースト……いや思い出した、昔アーシャに遊び半分でやられたことがあった。
8歳という微妙な時期だからあれはノーカンにすべきかどうか……あん時あいつ9歳だったし。
などと考えているうちに記憶がさらに過去へ遡る。
初めての家業の手伝い、初めての友達との出会い、初めてのアーシャとの出会い、そして。
俺は全てを思い出した。
俺は抱き着いたままの天使の体をそっと持ち上げ、背後に庇うように置く。
そしてモヒカンと対峙し 目を開け体を確認する。
動く、生前の記憶とは若干違う体、しかしここで生きた15年の歳月でなじんだ今の体。
戦える、あの日から鍛えてきたから。
手を伸ばす、熱いアスファルトに倒れ、あの日届かなかったものを取り戻すように。
そして叫ぶ、あの時憧れたあの人のように。
「神走召喚!SV650S!!」