発現する変態力
「神走召喚!Vストローム650!!」
彼が右手を掲げ叫ぶと異形の鉄馬が現れる。
「これはスズキのバイクVストローム650という乗り物だ。この能力は女神に与えられた特殊な能力なんだ」
そう言うと彼はバイクに跨りゴブリン共に立ち向かっていった。
そのままゴブリン数体を跳ね飛ばすと、停車して剣を抜き、残りをあっという間に切り伏せる。
「すごいやカズマさん!」
「かっこいい!」
「スズキサイコー!」
だが、その時森の奥から一回り大きな影が現れる、ホブゴブリンだ。
ゴブリンの亜種にしてゴブリンより一回り大きい屈強な肉体と戦闘力を持ったモンスター。
両手持ちの巨大な棍棒は、岩をも砕く破壊力を秘めている。
しかしカズマは恐れる風もなく、子供たちを守るようにホブゴブリンの前に立ちはだかる。
「転身!」
カズマが叫ぶとスズキVストローム650はその形を変え、カズマの体に一体化、その特徴的なフォルムをもった鎧として装着される。
ホブゴブリンが棍棒を振り下ろすが、カズマはそれを片手で受け止める。
「メタリックソニックシルバー!!」
カズマが叫び、手にした剣から銀色の閃光が迸る。
それは屈強な肉体を持つホブゴブリンを一撃で葬り去った。
「そこの君、怪我人の治療をしなければならない。物知り婆さんのところに案内してくれ」
「はい、任せてください!」
俺はカズマさんを連れ、物知り婆さんの住処に向かう
事情を話すと婆さんはすぐに治療道具を持ち出して、畑へ赴き怪我した子供たちの治療を始めた。
そのころには村中の大人たちが畑に集まってきており、村の行く末について深刻な表情で話し合っていた。
「もはや一刻の猶予もない。これ以上被害が出る前に奴らを駆除する」
カズマはそう告げると Vストロームに跨りゴブリンの巣穴へと赴き一人で壊滅させた。
翌日、村へ帰ってきた彼は、無償で命がけの行為を行った英雄として迎え入れられた。
彼はゴブリン相手に大げさだ、子供たちが傷つけられた以上できることをするのは当然、と戸惑っていた様子だ。
しかしそれ以上に俺は彼に何か言いようの無い親近感のようなものを感じていた。
あのバイクという乗り物、皆はあんなの初めて見たというけれど、俺はどこかで見たことがあるような気がしていた。
村の子供たちは連日、カズマの滞在する宿に通い、彼の旅の話を聞きたがった。
俺も一緒になって彼の旅の話を聞いているうちに、ある決意を固めたのだ。
数日後、カズマがまた旅に出るという日、俺は彼が一人になるのを見計らって思い切って声をかけた。
「カズマさん、村を助けてくれてありがとうございました。俺もいつかカズマさんみたいに、バイクを操れるようになりたいです!」
「フッ、そうか。しかしあの能力は特別な条件を持つ者じゃないと使えないんだ。才能とか努力とか、そんなもんじゃない、別のもの、がね」
そう言って寂しそうに笑って俺の頭に手を載せる。
「ん?君は、まさか!?この、スズ菌濃度……そうか、そういうことか」
彼は一人納得したように頷いた。
「俺がこの村に来たのは偶然じゃない。旅をしている最中にスズキの天使に導かれたんだ。その時は意味は分からなかったが、そうか、おそらく俺と君を出合わせるためだったのかもしれない」
カズマは俺に向かって微笑みながら言った。
「いつか、君の元にも覚醒の時が来るだろう。その時のために鍛えておくことだ、君の中に眠る力を十分に振るえるように。そうだな……さしあたって、あの娘を心配させない程度には強くなっておくことだな」
カズマの刺す方向に、木の陰に隠れふくれっ面でこちらを見つめるアーシャの姿があった。
「さらばだ、いつかまた会おう、少年、オレン君!」
そういって彼は右手を掲げる。
「神走召喚!Vストローム650!!」
彼は鉄馬に跨ると、すさまじい速度で走り去る。
俺はいつか、彼のように強くなる、そう決意を固めた。
いつの間にか、背後に忍び寄り俺のケツをつねる幼馴染に心配されない程度には。
その日から俺の修行は始まった。
まず、村長の所に通い勉強を学んだ。文字、算術、地学に至るまで。
そして並行して自警団に入り剣と槍を学ぶ。
ゴブリン襲来事件で、村の大人たちも備えが足りなかった事を痛感し、俺だけじゃなく村の男子のほとんどと、アーシャを含める一部の女子に稽古をつけてくれることになった。
そして長老には魔法も教えてもらえるよう頼み込んだ。召喚術を使うためには魔法の基礎は必須だろう。
しかし俺はいくらやっても魔法が身につくことはなかった。
俺が苦戦している間に、一緒に学びに来ていたアーシャは初日から簡単な魔法を操れるようになり、短期間で基礎魔法の全てを取得してしまった。
「オレン、人には向き不向きがあるんだよ。オレンには別の才能があるよ」
「無いよ、剣はデキには勝てないし、算術はスオの方が早い。力はイヤンが強いし、足はルオが一番早い」
落ち込んでいる俺を慰めようとするアーシャ。しかしできる奴に慰められると余計情けなくなってくる。
さらに落ち込んでいると、アーシャは空で右指をくるくる回しながら言った。
「たぶん、オレンには治癒魔法の方が向いてるんだよ。ね、明日一緒に物知り婆のところに行ってみよ」
治癒魔法の才能の持ち主はかなり希少で、俺にそんな才能があるとは思えない。
だがせっかく慰めてくれるアーシャの気持ちも無下にはできず、一緒に物知り婆の元へと赴いた。
ものは試しと、治癒魔法の修業を受けてみたら、驚くべきことに俺の中に治癒魔法の才能が発現した。
一方アーシャは他の魔法の才能には恵まれていたが、治癒魔法の取得は難しいと言われた。
「ほら、言った通りだったよ。特技が被ってないから将来は一緒に冒険者のパーティーを組めるよ、約束だよ」
俺も嬉しかったが、それ以上にアーシャの方がはしゃいでいたのが印象的だった。
そして時が経ち、俺は15歳になり、旅立ちの日を迎える。