2(シズク)
仮想西暦2060年3月某日 正午過ぎ
ラグーナポリス繁華街 某所
魔族の代表者『連合』へ卓也が連絡を入れてから、しばらく後。
雫は『易占奇術』一行に連れられて、『連合』の支部だという場所に案内されていた。
そこは娯楽施設から歩いて5分ほどの、繁華街のど真ん中にあった。
「・・・えっと、本当にここが?」
ここが目的地だ、と示された建物を前に、雫は疑わしげに尋ね返した。
中華飯店『魔境』
そこは誰がどう見てもごく普通と答える、中華料理の食堂だった。平日の昼食時とあって、中はスーツや作業着姿の客でごった返している。
こちらにジト目を向ける雫に対し、卓也はそれを予想していたという風に、肩をすくめる。
「まぁ、一見さんは皆、疑っちゃうよねぇ。でもね雫さん、ここも立派な『連合』近畿支部の入り口の一つなんだよ」
「一つ?・・・入り口って、いくつもあるんですか?」
「一応、正式な玄関口は北東地区の市役所なんだけど。ここみたいに、おふざけでこしらえた『通用口』が3つあるんだ」
「お、おふざけ・・・」
雫は思わず、顔をひきつらせた。
それに苦笑で応じながら、卓也は入り口へ進む。
「魔族は色々と個性が強いメンツばっかだからねぇ。その代表たる『連合』も、推して知るべし、って訳。それを最初に覚えてもらう為に、ここを選んだんだ。さ、これ以上混まないうちに入ろう」
そう言って暖簾のれんをくぐる卓也。ミカとララは、それに何も言わず続く。
ジョークやドッキリの類ではないと察した雫も、踏ん切りをつけるように深呼吸を一つ。それで覚悟を決め、3人についていく。
*****
『魔境』 店内
「ラッシャイマセー。アイヤ―、『算命先生(注:中国語で占い師の意)』ゴイッコウサマ!今日ハ食ベニキタカ?」
中に入ってすぐ、顔の右半分をお札で覆い、左目に瓶底ほどの片眼鏡を掛けた、チャイナ服姿の女性店員に出迎えられた。
「悪い、小猫。今日はテイクアウトだ。干焼蝦仁4人分」
「アイヤ―、残念ネ。奥ノ個室へドウゾー。デモ偶ニハ店デ食ベテ欲シイヨー」
愚痴をこぼしつつ、食べ終わった客の会計へと走っていく店員を見送りながら、4人は卓也を先頭に、暖簾で仕切られた奥の個室席へと進んでいった。
「あの、今のやり取りは?」
「『連合』の遊び心、その2だね。無関係な客に気付かれずに支部へ入る為、合言葉が設定されているんだ」
「合言葉・・・さっきの、『感謝おしゃれ』とか何とか?」
「『干焼蝦仁』、『エビチリ』の中国名だよ。ちなみに、この店の持ち帰りメニューは、ギョーザとシュウマイだけだ」
「『エビチリ』が、『カンシャオシャーレン』・・・なんかカッコイイ」
中二心ならぬ、高二心をくすぐられた雫であった。
店内奥にあった個室は、普通に座っても背中が壁についてしまうほど狭い、やや縦長な直方体型の空間だった。
全員が難儀しながらも円卓に腰かけると、卓也は隅に置かれた呼び出しボタンを押した。
するとなぜか、そこから先ほどの女性店員の声が返ってくる。
『ミナサン、着席OKカ?ナラ振動ガ収マルマデ、起立ハゴ遠慮願ウネー』
プツリと小さなノイズが、連絡の終わりを告げる。次の瞬間、部屋が上下に揺れた。
ゴドンッ!ブーーン
「ひゃっ!?」
雫は思わず、何も並んでいない2段テーブルにしがみ付く。
そして周りに目をやると、4方の壁が上へ伸びて行くのが見えた。
いや違う、自分たちが下がっていたのだ。
「え、エレベーター?・・・もしかしなくても」
「『連合』の遊び心、その3♪」
「・・・ここまでやるかぁ!?」
無垢だった少女は、こうして魔族の色に染められていくのであった。




