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新世界VS異世界  作者: ティンダロス
一章「四宝組編」
8/23

第八話 廃墟暮らし★



 時間は巻き戻る。


 一花と水葵が去った後、真冬はその場に倒れていた。

 いかに『崩壊耐性』が優れた耐性とはいえ限度があるのだ。


 しかし、いつまでもこの地域で、寝そべっているわけにはいかない。


 この地域に人が寄り付かない理由。

 抗争も終わり、人々が戻ってきてもいいはずなのに、誰も戻ってこない理由、それは、


 『魔物が出る』からだ。


 人がいない所には魔物が湧く。それはこの世界の共通認識だ。


 今は亡き、かの三大害悪『魔物』の能力者。

 その死後も残った能力の残滓が、その原因とされている。


 彼の通った後には、魔物が湧いたという。

 それを悪用し生前に世界中を歩き回った『魔物』の能力者は、世界全土にマーキングしたのだ。


 過去の偉人が残した負の遺産。

 今この時も、世界中で、人間たちは魔物に襲われ死んでいる。


 ここから近郊のスラム街には、腕利きの能力者がごろごろいる。グンマから派遣されたマタギの一団もいる。


 それでも、失った居住区域を取り返そうとしないのは、その魔物の件があるからだ。


 四宝組対、その他の武力組織の抗争。それは哭龍が就任してからの話である。


 一年でここまで誰も住めない状態にしてしまったのだ。


 「喧嘩なら外でやってくれ」と、武装警察からの御達しもあった。武装警察としても、敵対組織同士が潰しあって戦力を消耗するのは助かるのだ。


 近郊と郊外の間で、人々を避難させ、思い切り争わせた。

 魔物が発生したのは、最初はその一部だけだった。だが対処が遅れた。


 瞬く間に郊外を一周する形で、人々は内側に追われ、廃墟が出来上がった。それだけ魔物の被害が凄まじかったのだ。

 こうなると奪還はかなりの労力を要する。


 武力組織はもちろんのこと、武装警察も見て見ぬ振りを決め込んでしまった。


 真冬はその時の戦いには参加しなかったが、参加していたとしたら裏切るのが早まったことだろう。



「うおおぉ」


 真冬は、無事な腕を目一杯活用し、上体を起こす。

 傷は痛むが、清十郎にやられたときほどではない。

 ここでこうして横になっているのはマズい。血の匂いで魔物がやってくる。


 真冬は、ナナのほうを見る。

 いた。まだ気絶しているが、連れて行かれていない。


「待ってろよ」


 真冬は携帯電話を取り出す。前にも傷ついた心紅を、何も聞かず迅速に運んでくれた、個人タクシーを呼ぶのだ。


「な、なんでだ」


 携帯が真っ二つになっていた。水葵の攻撃を受け止めたからだ。戦いの中では九死に一生だったかもしれないが、今となっては大変困った事態になってしまった。


 監禁されていたナナが携帯を持っているわけがない。

 ここから徒歩じゃ、心紅の家に戻るのに時間がかかる。


 真冬の体力も限界が近い。それに加えこの冬の寒さである。

 血を大量に失った、スーツもズタボロ、そして護るべき者もいる。厳しい状況に陥ってしまったのだ。


 状況は割と最悪。うん、いつも通りだな。とりあえず暖を取るか。真冬はナナを担ぐと足取り重く廃墟を歩き出す。


 なぜまだこの街にナナはいたのか。四宝組が固執してナナを狙う理由は何だ? 真冬は歩きながら考える。


 逃せば、そこで諦めると思っていた。

 あそこで死んでいたら、本当の意味でナナを助けたことにはならなかった。

 俺の自己満足で終わっていた。


「心紅には感謝してもしきれないな」


 哭龍は無駄な事をしない。ナナに拘る何かしらの理由があるはずだ。


 それを知らないと、対策も打てない。

 せめて諦めさせたい。

 今の状況でナナを親元に返したとしても、また攫われるのがオチだ。


 心紅の家で保護するのが一番安全か。

 頼ると決めたが、心苦しさは取れないな······。

 でも、背に腹は変えられない、心苦しいまま力添えいただこう。俺も成長したもんだ。


 辿り着く前に、俺の体力が尽きそうだ。

 暖も取りたいが、腹も減った。

 その時。


「グルルル」


 真冬の眼前に熊が現れた。

 それもただの熊ではない、熊の魔物だ。

 二本足で立ち上がりこちらの様子を窺っている。


「今夜は熊鍋か、って鍋がないじゃないか。スーパーにまだあればいいけど」

「ぶおぉォォ」


 強烈な横薙ぎのベアクロー。まともに喰らえば即死だろう。


「ッと」

「ぶお!?」


 真冬は腕に纏った暗緑色の『崩壊』のオーラで攻撃を受けた。斬撃と衝撃が崩壊し、肉体まで届かない。この能力は防御面でも優れているのだ。


「どら!」


 右ストレートを魔物の腹に打ち込む。と、同時に『崩壊』のオーラが流れ込む。


 熊の魔物は、後ろに倒れ狂ったように暴れる。その間も腹に空いた穴がどんどん広がっていく。

 熊の魔物が動かなくなるまで、崩壊させ続ける。

 十秒後。


「こんなもんかな」


 真冬が能力を解除した。

 熊の魔物についていた『崩壊』のオーラが消える。


「念には念を、オラッ」


 頭部を殴り、頭だけを崩壊させる。



「よし、どうやって運ぼうか」





______





 数時間後、完全に日が落ちた。

 満点の星空が闇夜を照らす。


 真冬は、無人のコンビニに上がり込み、熊肉の調理を開始していた。


 ここに来る前に、薬局で傷の手当をした。

 デパートにも行きスーツを新調した、それだけでは冷えるので厚手のコートを、ナナにもサイズの合う赤いダウンジャケットを用意した。もちろん、どこも人はおらず無断で拝借した。


 ちなみに、コンビニやスーパーには缶詰やペットボトル飲料も残っていた。だが、せっかくだからと真冬は熊肉を食べることにした。


 すでに熊の魔物は生肉にされ、一センチの厚さに切り分けられていた。味付けとして味噌が塗られている。

 カセットコンロでそれをカリカリになるまで焼いていく。


「んぅ······」


 ナナが寝返りを打つ。

 そろそろ起こすか。


「ほら、起きろ」

「ふぬぅ」


 顔をしかめ寝返りを打つ。


「おら、起きろ!」


 真冬が揺さぶる。するとナナは目を薄らと開く。

そして閉じる。


「起きろ!!」

「は、はい!」


 ナナは飛び起きた。


「って、恩人! どうしてここに? ってここはどこだ! って、うまそうな肉! じゅるり! ああ! 違うそれどころじゃない! 恩人だ! 恩人殿だ! うひょお!」


 ナナは、目覚めたばかりなのに、かなり興奮している。


「お座りなさい」

「はい! 恩人殿!」


 ナナは言われた通りに、その場に正座する。


「恩人殿じゃない、俺の名は崩紫真冬だ」

「真冬殿! 改めまして私はナナ・トランスだ! 先日は助かった!」


 ナナはペコリとお辞儀をして握手を求めてきた。


「握手はやらないことにしている」


 真冬は自分の手を見てそう言った。


「そうなのか! これは失礼した!」

「そんなことより、ほら、肉だ、食え。」

「いいのか! やった! いただきます! ばくっ! がつがつ! ごくん! うまいッ!」

「どれどれ、もぐ。うん、中々旨い」


 十分後。

 食事が済み、一息ついたナナが話を切り出した。


「ところで今気づいたのだが、真冬殿。そのけがは?」

「鮫島と戦ったときの傷だ」

「ああああ」


 ナナは情けない声を出し、真冬にすがりつく。真冬の体を弄りけがを確認してくる。


「お、おい」


 真冬は胸を抑えながら一歩後退する。


「私を助けたがために、真冬殿はこんな大けがを······うぅ」


 ナナは、大きな瞳に涙を貯め今にも泣き出しそうに真冬を見る。その手は空中でわなわなと震えている。


「命に別状はないから! 気にするなよ!」

「そうなのか! よかった! 私に出来ることがあるのなら、なんでも言ってくれ!」


 ホッとしたようにナナは言った。

 騙されやすいな、この子。


「そのつもりだ、色々聞きたいことがある。いいか?」

「もちろんだ!」


 ナナは右拳を胸に当て言う。


「ナナ、君のことを教えてくれ」

「私のことか、いいだろう。何から話そうか」

「家族は?」


 ナナの家族。きっと心配しているはずだ。


「いない」

「孤児か」


 俺も孤児院育ちだったな。七歳くらいのときに、この手が原因で追い出されたけど。


「ちょっと違うな、私は作られた存在だ」

「作られた?」


 人を作る能力者なんてのは聞いたこともないが、また俺の勉強不足か?


「そうだ、私は能力者になるように始めから設計されて作られた人造人間だ」

「人造人間」


 いきなりの告白カミングアウトは女の子の特権ってか。

 反応に困るな、人造人間だから人間とはどう違う? ナナを見る限り違いがあるとは思えないな。


「遺伝子をなんちゃらしたとか、博士がわけのわかんないことを言ってたけど、能力を持った人間ってだけみたいだ。体は多少丈夫だけど」

「なんだ、それなら俺と一緒だな。どんな能力なんだ?」

「『変身』能力だ。不完全だけど」

「聞いたことのない能力だな、見せてくれないか?」


 若干ワクワクしている真冬を尻目に、ナナは颯爽と立ち上がり、自身の髪を指差す。


「これを見てくれ、とあ!」


 髪の色が赤から青に変わった。


「おお!」

「続いて、ドン!」


 今度は髪がどんどん短くなっていく。腰まであったツインテールが、ショートカットにまでなった。


「おお!」

「最後は、これだ!」


 ナナは空中に拳を放つ。突き出した右の拳が鋼鉄に変化している。


「こうやって拳を鋼鉄に変えることも可能だ!」

「いい能力じゃないか」

「······顔の形とか背丈は変えられないから、姉兄からは不完全、失敗作とよく言われたものだが、そう言ってもらえると嬉しいな!」


 ナナは、興奮気味に顔を赤らめてそう言った。

 髪色が青から赤色に、髪型はツインテールに戻る。


「ん? 兄弟がいるのか? さっき家族はいないって」

「あ、違う。誤解させてすまない。私の言う姉兄は、家族とは違う。私より先に作られた人造人間たちのことをそう呼んでいるだけだ」

「そうか、なぁ、ナナ」

「なんだ?」

「家に帰りたいか?」

「研究所にか······ちょっと微妙だな。この街は楽しかったから」

「微妙か、そういえば、逃げたあとは、どうやって暮らしていた?」

「水葵殿に世話になってた。······でも悪い人なんだよね?」


 ナナはバツが悪そうに言った。


「人間、悪い部分も良い部分もあると思う。あのキザ野郎は基本優しいからな」


 なんで俺がキザ野郎のフォローをしてるんだ。


「うん、優しかったぞ! 水葵殿の歌も好きだ」


 ナナの笑顔を見れたし、殺せなくてよかったのかもな。


「当面は信頼できる人の家にいてもらう。いいな?」

「うん!」


 その後、流石の真冬も睡眠を取らざるを得ない状態となり。

 ナナに見張りを頼み、真冬は暫しの仮眠を取ることにした。





______





 その日の深夜。


 見張りをしていた、ナナが背を低くし慌てて戻ってきた。


「真冬殿、起きて」


 真冬の耳元でナナが囁いた。


「······どうした」


 真冬は、すっと立ち上がる。

 傷は痛むが、数時間は睡眠を取ることができた。


「外に何かいる」

「魔物か」


 真冬はコンビニこ両開きドアを少しだけ開く。頭を出してぐるりと周りを見渡す。

 道路の右奥に白銀の毛色を持った狼の魔物がいる。顔を出した真冬と目が合った。


 襲ってくる素振りはみせない。


 何ガンたれてんだ、あの犬っころ。

 殴るか······いや、きっと追手も近くにいる。目立つ行動は極力控えよう。


「あれは、構わなくていい」


 真冬は、すぐにドアを閉めて戻る。


「真冬殿、何なんだアレは?」

「わからない」


 魔物は人間を見たら襲ってくるもんだと思っていたが、違うのか。


「わからないのに、ほっといていいのか?」

「ああ、無駄に殺り合っても意味がないしな。向こうに熊の死骸も残っている、奴も飯には困らないはずだ」


 まぁ、襲ってきたら殴るけどな。


「そっか、魔物は怖いけど。真冬殿がそう言うなら」


 夜空に遠吠えが響き渡る。

 ナナは怯えたようにブルりと体を震わせる。


 怖いのか、まだ子供だもんな、しょうがない。そう思い真冬はナナの隣に座る。


「ん、真冬殿······寝てなくていいのか? 見張りならこの私が」

「いや、寝るよ。座ったままな」

「······はは、そんなけがでも気丈に振る舞えるなんて、真冬殿はすごいな」


 始めて魔物と戦ったのが七年前か、あの時の三匹に比べたら、そこへんの魔物はインパクトに欠ける。


「ナナがいるから、安心して寝れるんだ」

「お、おお! 任せてくれ、また何かあったら起こそう!」


 こうして夜は更けていった。





______





「見つけたぞ」


 都心のビルの屋上。ウルフマンが呟く。


「お、目っけたか」


 隣で夜空を見上げていたレオンが言った。


「支配下に置いた狼の魔物からだ。郊外にいるぞ、急げレオン!」

「そう慌てなさんな、場所さえわかれば問題ねえのよ」

「いつ行くのだ!」

「今から行ったって、夜が明けちまうだろ」

「それはお前の能力でなんとかしろ!」


 ウルフマンはレオンに掴みかかる。


「ぐ、放せ」


 レオンの左目が光る。


「ぐわおぉん! やめろッ!」


 突如苦しみしたウルフマンはレオンを放す。


「げほげほ、はぁ、仲間内で暴力はやめようぜ?」


 レオンの左目の光が消える。


「グルル······わかった」

「狼の魔物を使って、常に崩紫たちの居場所は抑えておいてくれよ。もしスラムのほうに行くようだったら、見失う前に殺るしかないが」


 ウルフマンはグルルと唸り声を上げ首を縦に振る。


「できることなら万全の状態でだ、久乗さんの二の舞いにはなりたくねえしよ」

「俺とお前がいれば、崩紫を完封できる」

「そうだな、上手くやろうぜ。ウルフ」



 そして夜が明ける。



挿絵(By みてみん)

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