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新世界VS異世界  作者: ティンダロス
二章「幼女教編」
23/23

第二十一話 狂信者

次話投稿は気長にお待ちください。



「にへへ」


 薄暗い部屋に、弾んだ笑い声が響く。

 声の発生源は部屋の中心にいる青年からだ。


 青年の顔立ちは、中性的で愛嬌がある。背の低さと線の細さがそれに拍車をかけている。目の下には大きなクマをつけているが、それを加味してもとても可愛らしい印象を与える。


 Z型のポニーテールを揺らしながら、心底楽しそうに笑っている。


 青年が着ている白い病衣が、彼の異常性を雄弁に語る。

 それでなくとも、この部屋を見れば、誰でも分かる。

 壁や床には不気味な魔法陣が血で描かれている。部屋の隅には若い男女が十人ほど、手足を縛られ拘束されている。


 ガムテープで口を塞がれているため、話すことはできないが、その代わりに悲痛な唸り声を発している。


「にへへ。さぁさ皆さん、準備はよろしいですかにぃ」


 そう言って青年は、拘束された一人の女に目を向ける。青年からの視線を感じたのか、女は顔を伏せて震える。


「まずは貴女からですにぃ」


 青年は女の髪を無造作に掴むと引っ張り上げる。細い体のどこにそんな力があるのか、女の身体は軽々と宙に浮いた。


 青年は女の口を塞いでいたガムテープを剥がす、それを皮切りに女は命乞いを始める。女のその姿を見て、青年は困った顔で返す。


「何を、言ってるんですかぁ?」


 青年のキョトンとした声を受けて女の顔が青ざめる。青年の無垢な笑顔が、彼女の運命を決定づけたのだ。


「神様への供物となれるのですよぉ。それはそれは尊いことなんですからぁ」


 青年は無理やり女にキスをした。


 女は最初こそ暴れていたが、青年の圧倒的な腕力に、次第に力を抜いていく。むしろ、トロンとしてきた。


 その部屋にいる、キスをしている二人以外が顔に疑問符を浮かべている。だが、その疑問はすぐに解消されることになる。


「んふっ!? んんーーッ!!」


 女が再び暴れ始めた。それも先ほどよりも激しく、脂汗をかき、必死に青年の拘束から逃れようと全力で暴れている。爪を立て、足で蹴り、口を閉じようと歯を立てている。


 その抵抗も長くは続かない、女は糸の切れた人形のようになった。

 女がぐったりした後もキスは続き、五分ほどして女は開放された、干からびた死体となって。


「ーーッ!?」


 戦慄。全員が青年から少しでも離れようと、部屋の隅に移動する。手足が縛られているので、芋虫のような蠕動運動で迫る『狂気』から逃れようとしている。


「いいですねぇ、健康そうでぇ、神様もきっと喜んでくれますよぉ」


 ケラケラと笑う青年は、思い出したように「あっ」と声を出した。


「名乗らないといけませんでした」


 こほんと咳払いをして、唇をつたう血を拭う。

 恭しく頭を下げたあと、青年はこう続ける。


「僕は『幼女教』の気高き信者。九頭竜狂四郎くずりゅうきょうしろうですぅ。逝ったあとに、向こうで神様にお会いしたら、そうお伝えくださいにぃ」





ーーーーーー





 銀鏡宅。早朝。

 哭龍との決戦から、一ヶ月が経過した。


 最初は、四宝組からの反発が多かったものの、ひとまず落ち着いたようだ。

 これも心紅の手腕だろう。真冬はそんなことを考えながら、ダイニングキッチンで朝食をとっている。


「犯罪が多くなったわ」


 隣に座る心紅が箸を置いてそう呟いた。

 呟いたとはいっても、真冬に向けたものだろう。真冬はすぐに言葉を返す。


「春が近いからかな」

「そうね、って、ちゃうわ!」


 心紅のエセノリツッコミだ。心紅はテレビっ子で、テレビの影響を結構受けている。


「じゃあ、どういうことだ?」

「四宝組の弱体化が原因ね」


 ますますわけがわからない。『風が吹けば桶屋が儲かる』ってことわざも、俺はいまだによく分かっていない。風吹かなくても頑張って売れとしか言いようがない。


「必要悪とでもいうのかしらね。他の悪に対する抑止力になっていたみたいなのよ」

「ああ、なるほどな」


 伯龍がいた頃はそれが顕著に見られたな。潰すでもなく脅すでもなく、伯龍が存在するという畏怖のみで、他の武力組織の頭を抑えてきた。


 それでも暴れる武力組織には、俺が出向いたわけだが。


「まぁ、いずれ私の代が四宝組の全盛期だって言わしめてみせるわ。だから安心しなさい」

「ありがとな」

「どうってことないわ」


 心紅は、粉骨砕身で頑張ってくれている。

 学業と、四宝組の組長を両立させている。とてもじゃないが俺にはできない。


「俺もなにか手伝おうか」

「能力が使えない真冬に用はないわ」

「そんな言い方ないだろ······」

「真冬は『崩壊』の能力があっても無くても無茶をするんだもの。今の貴方は特に危険だわ」


 ぐ、否定できない。


「だから、能力が使えないなりに、強くなってもらうしかないわ」

「そうだな」

「本当にわかっているのかしら、いつもみたいに、私がこっそり守ってあげることもできないのよ」

「はは、大丈夫だって、今日いくGGBって会社には、心紅も太鼓判を押していたじゃないか」

「そうだけど、ちゃんと気をつけなさいよ。異世界の魔法でも『死んだ人間を生き返らせる』ことは、できないのだから」


 死んだらおしまいってのは異世界でも同じなのか、ちょっと意外。


「俺は逆に心紅が心配だけどな」

「なんでよ、そんなふうに見えていたのかしら?」

「いや、心紅は頑張りすぎるからな。ここ一ヶ月でそれがわかった」


 学生と組長の両立。それがどれだけ大変なことか、真冬は心紅の生活を見て理解していた。


 学校のある日も、帰りに四宝組に寄っているし、休みの日は四宝組本部ビルに入り浸っていることも多い。明らかに心紅の負担のほうが大きい。真冬は心の底から心配していた。


「それじゃあ、交換条件ね。二人とも、ほどほどにしておくってことで、それでいいかしら?」

「ああ、それでいい」






ーーーーーー





 ここが、GGB株式会社か。真冬が現在いる場所は、トウキョウの中心部に位置する街だ。

 この辺りの治安はお世辞にもいいとはいえないが、それでも活気のある街だ。治安の悪さなど、この街ではさも当然と、人々が闊歩している。


 自分のことは自分で守る、それがこの街で暮らす最低条件なのだ。


 GGBの本社が入っているビルは五階建てだ、その二階のフロアを借りて、事務所として使っている。


 カンカンカンと鉄製の階段を登り、インターホンがないので、ドアをノックする。これまた鉄製のドアなので、ゴンゴンと思ったよりも大きな音が鳴る。


「はい、お待ちください」


 中からした声は、子供っぽい、声変わりを迎えていない少年のものだ。真冬は疑問に思いながらもただ待った。


「お待たせしました、GGBの六車翔むぐるましょうです。依頼ですか?」


 扉を開き現れたのは美少年だった。艶のある黒髪に、黒のライダースーツ。


 真冬より背が低いので見上げている。上目遣いがとても似合う。


「いや、依頼じゃない。面接に来た崩紫真冬だ」

「······ああ、そういうこと。はぁ」


 翔の態度がガラリと変わる。笑顔は消え失せ、目つきも悪くなった。わざとらしいため息をつくと、部屋の中に戻っていく。


 真冬は翔の背中を追いかけて部屋に入った。

 部屋の中は散らかっている。デスクの上には書類が山ほど乗っている、パソコンのモニターにはヒビが入っている。奥の社長が座りそうな席には、カラになった酒瓶が何本も置いてある。


 唯一、客間だけは小綺麗に整頓されていたが、その客間も現在、翔が占領してしまっている。


「いま僕しかいないから。てきとーに座って待ってなよ」


 なるほどな、こっちが素か。さっきのは営業スマイルってやつか。などと考えつつ真冬は翔を観察する。大きなソファーに寝転がり、携帯ゲームに勤しんでいる。


「よっこいしょ」

「······どこに座ってるのさ」


 真冬は社長席に座っていた。


「適当に座っていいって言ったろ」

「どうでもいいけど、社長が見たら怒るよ」

「お茶も出さない部下よりはマシだろうな」

「言ったな、僕は怒ったよ」


 翔は軽い身のこなしで立ち上がると、真冬に詰め寄った。


「ここには誰も来なかった、そういうことにしようと思うんだけど」

「へぇ、最近のガキにしては、なかなかトンガってるな」

「脅しだと思ってるでしょ、皆そうなんだ、僕が子供だからって舐めてかかる」


 一触即発の緊迫した空気が漂う。


「おーおー、騒がしいな」

「社長」


 男の登場に、翔は真冬から一歩下がった。


「お、来てたか。お前が真冬だな? 悪い悪い、俺の会社の連中は血の気が盛んでな。ま! 元気なことはいいことだ! ガハハ」


 大口を開けて笑う男。その男を表すなら『派手』の一言だろう。黄金の額当てに、黄金の籠手、筋骨隆々で長身。真冬の金髪よりも黄金色なゴワゴワした髪は腰あたりまで伸びている。


 赤い革ジャンはピチピチに張り詰めている。背中には『守』の筆字がプリントされている。今どき珍しい草履をはいており、手には酒瓶が握られている。


「よろしくお願いします!」

「かしこまんなくていいからよ、敬語とか、かたっくるしいのは無しな。翔のやつは頑なだから例外だがな、ま! これからよろしく頼む」


 男は真冬の背中をバシバシ叩く。

 あれ、面接は?


「社長、面接はしないんですか?」


 翔も疑問に思ったのだろう、真冬の代わりに質問する。


「ああ、来たら採用しようと思ってたんだよ」

「はぁ」


 翔は諦めたようにため息をついた。ソファーに寝そべりゲームを再開した。


「採用ってことでいいのか?」

「もちろんだ、心紅が「困ってるから助けてあげて」って、頼み込んできた、あとで礼をいってやんな」

「心紅が······」


 すでに根回し済みか、何から何まで、帰りに何か買っていってやるか。


「さて、元四宝組十二幹部の崩紫真冬クン」


 そこまで調べ済みか。隠す事でもない、心紅もその中心核にいるわけだし。


「四宝組? 社長、そんな危ない奴がこの会社に加わるの、僕ヤなんですけど」


 く、こいつ、完全に俺を敵視してやがる。仲良くなれる気がしねぇ!


「ガハハ、それはお前も似たようなもんだっただろう!」

「僕は別ですよ。ちゃんと更生しました」


 いいや、絶対してないね!


「そうだよな、なら新人の面倒を見てやってくれるか!」

「え! いや、それはーー」

「頼んだぞ、俺は依頼先の連中と話がある。場合によっては各地に散らばった社員を招集するかもしれない。追って連絡する」


 翔の言葉を遮り、それだけ言うと、男は早足で去っていった。

 そして、戻ってきた。


「ああ、俺の名前は金剛忠守こんごうただもりだ。皆、ニックネームがわりに社長と呼ぶが、いちよそれが俺の名だ」


 今度は本当に出ていったようだ。


「はぁ、珍しく事務所待機だと思ったら、やっぱり、最初からそういうつもりで」

「よろしくな先輩」

「せんぱ······、まぁいいや。これも仕事だし、ついてきなよ」



 翔に連れられたさきは街の繁華街だ。


「こんなところでなにをするんだ?」

「いいから、ついてきなよ」


 採用されたはいいが、GGBがどういった会社かすら俺は知らない。聞こうにも、社長はどっか行ってしまうし、先輩がこの調子じゃあな。


「あ、向こうを見てみなよ」


 翔が指さす先には人だかりができていた。


「なんだあれは」

「さっそく人が困ってるようだけど、うちの社訓を知らないの?」


 『人助け』それがGGBの社訓、前にGGBの社員が言っていたな。


「お手並み拝見させてもらうよ」

「わかった、様子を見てこよう」


 真冬が人混みをかき分けて円の中心に入ると、そこには一人の老婆が力なく座り込んでいた。


「どうしたバァさん! 大丈夫か!」

「あいたたたた」


 真冬は老婆を抱き起こすと、懐から小瓶を取り出した。


「これを飲みな」

「こ、これは?」

「いいから、飲みな」


 真冬は半ば強引に老婆に銀鏡印の回復薬リカバリーポーションを渡した。


 人混みの話に耳を傾ける、どうやら、ひったくりらしい。この街ではよくある事だが見過ごすわけにはいかない。


「先輩、ひったくりだ!」

「見ればわかるよ、犯人あいつ、愚直に真っ直ぐ走ってるよ」

「ンだとぉ〜!」


 翔が指さす先には、小さくなっていく人の姿。


「どけっ! そこのお前、バァさんを頼んだぞ!」


 老婆を人混みに任せると、真冬は走り出す。全速力だ、狂犬時代を彷彿とさせる力走だ。


「ぅオラああああ、待てやァ!」

「ぐっ、はえぇ」


 真冬はグングンとひったくり犯との距離を縮めていく。


「『特殊装備召喚』!」

「なに!」


 ひったくり犯の靴が光り輝いて鉄のような材質のものに変わる。


 『特殊装備召喚』とは、そのままの意味で、特定の能力が付与された装備を召喚できるというものである。このひったくり犯の場合は、走る速度の上がる効果が付与されている靴を召喚できる。


 縮めた距離がひらいていく。このままでは逃げられる。


「仕方ないな」


 翔は能力を発動させる。一瞬にして翔の肉体がバイクに変化した。

 翔の能力は『機械人タイプ・バイク』。特定の機械の能力を使えるというものだ。体の一部を機械に変化させたり、その馬力を再現することができる。


 さらに翔の場合は『機械人』の一部のみが使える『機械化』を習得している。


 翔はバイクに変身することができるのだ。


「うぉ!」


 漆黒のバイクは真冬を易易と追い抜き、ひったくり犯と並走する。


「GGBです、大人しくしていただければ、必要最低限のシメで済ませます」

「くっ、なんだ! バイクが喋った!?」

「警告無視と、ほんと、舐めてるよね」


 翔は、さらに速度をあげて、ひったくり犯の前に出る。

 そして能力を解除する。


「じゃ、邪魔だガキ!」

「しらないから、どうなっても」


 翔の下半身の一部のみが機械化される。腰の両側に一本ずつマフラーがまとわりつき、臀部の中心部分のやや上に尾灯がつき橙色の光を放つ。関節なども球体人形のようになる、右足の踵にはタイヤがついている。


ドルン、というエンジン音とともに踝についた車輪が回り出す。


「ふっ!」


 翔の高速回し蹴りだ、ひったくり犯のこめかみを捉えて、地面に叩きつける。


「アンタなにもしてないねー、やめたらこの仕事?」

「くっ!」


 俺ではこのひったくり犯を捕まえることはできなかった。真冬は押し黙ってしまった、返す言葉もない。


「この会社には実力者しか必要ないよ、非戦闘民、一般人が入ってこられると困るんだよね。わかったら退職届を」


 これが社会の洗礼か、何気なく見てきたサラリーマンたちが、偉業を成し遂げた英雄に見えるな。


「それはどうかな! とぅ!」


 ビルの屋上から飛び降りた男は、真冬と翔の間に着地した。

 ド派手な格好にド派手な登場、忠守だ。


「ずっと監視していたんですか」

「そうだ! 崩紫には悪かったが、様子を見させてもらった。言っておくがひったくりは自演ではないからな! この街ではよくある事だ!」


 そっか、採用ってのは嘘で、これが入社試験だったのか、街を歩いて困っている人を助ける。俺は不合格だな、犯人を捕まえられなかった。


「それでは社長も見てましたよね、この人はダメです」

「ああ、採用だ」

「な、どうしてですか! ひったくりを捕まえたのは僕ですよ?」

「バァさんを見てみろ!」


 翔は老婆のほうを見る、少し遠いがこちらに向かって元気に歩いている。


「けがをしていたはず、なんであんなに元気に」

「引き分けだな、翔は犯人を捕まえた、真冬はバァさんを助けた。翔もまだまだ甘いな」

「······精進します」

「よろしい! だがな二人ともまだ終わってないぞ! そこに『救ってないやつがいるだろう』」


 忠守の熱い視線は倒れているひったくり犯に注がれている。


「え、まさか」

「崩紫、まだ回復薬持ってるか?」

「ああ」


 忠守は真冬から回復薬の小瓶を受け取ると、ひったくり犯に飲ませた。すると、たちまち元気になり起き上がった。


「ぐ、どうして」

「お前にも、理由があるんだろう。俺にはわかる!」

「は、はぁ?」

「お前が諦めたものを俺が叶えてやる!」

「な、なにを言って」

「がーはっはっはっはー!」


 忠守はひったくり犯を引きずって行ってしまった。



「次は、勝つから」


 翔の呟きは真冬に聞こえなかった。




ーーーーーー





 その日の夕方。


 一台の黒い車が、目立たない位置に停車している。車内には四宝組十二幹部の三名が座っている、鬼武健太と茂籠、そしてブレイドだ。ブレイドが運転席、助手席に茂籠、後部座席に健太が座っている。


「銀鏡さん、まだかなぁ」

「もう来るころだな」


 三人は下校する心紅を待っているのだ。


「待たせたわね」

「うお!」


 突如、健太の隣に心紅が現れた、心紅は『認識ずらし』を使って、誰にも気付かれずにここまで来たのだ。


「脅かさないでください」

「悪かったわね、さ、車を出しなさい」


 心紅たちが向かった先は、上流階級が多く住む区画だ。

 華やかな街並みを進んでいき、高層ビルの地下に入っていく。


 厳重に警備された堅牢な高層ビルには、武装警察の中でも屈指の実力を持つ戦闘集団、武装刑事たちが配備されている。鼠一匹通さないように、鋭く目を光らせている。


「あなたたちはここで待機、ブレイドは私についてきて」

「はい!」

「了解です!」

「······」


 車に健太と茂籠を残して、心紅はブレイドをつれて建物の中に入った。武装刑事たちは心紅を見て怪訝そうな顔を見せるが、後につくブレイドを見て、納得したように道を開ける。


「顔が広いのね」

「こういう場にはよく連れてこられた」

「そう、頼りにしてるわ」

「······」


 最上階の部屋に到着した、全面ガラス張りで見晴らしがとてもいい。VIPルームだ。


「ようこそ、若き長」


 部屋の奥に座るは穏やかな顔をした小太りの男だ。背後には二人の武装刑事と、脇には一人の少女がいる。


「貴方が長官?」

「いかにも」


 そう、この男こそ武装警察のトップ、警視庁長官、国末護くにすえまもるだ。


「そう、なら話が早いわ」

「長官に向かって失礼だワン!」


 護の後ろに立つ犬のような顔をした刑事が吠える。それを護は片手をあげて制する。


「お気になさらず、若き長。それで我々についてどれほどまでご存知ですか?」

「引き継ぎは完璧よ、元々武装警察を作ったのは伯龍だってことも知っているわ」


 護衛の刑事が驚愕の色を見せるが、護は顔色一つ変えない。


「おや、そんな事まで、朱蘭さんは本気で貴女に全てを引き継いだようですね」

「その若き長って呼び方やめてもらえるかしら」

「これは失礼を『異世界の魔女』」


 心紅は指を鳴らす、鳴らした手に魔法陣の書かれた紙が召喚される。すぐにそれは煙をあげて消える、魔人クロジカが召喚された。


 二人の刑事が護の前に出る。

 ブレイドは心紅の隣に立ったままだ。


「次に私のことをそう呼んだら殺すわよ」

「ふふ、若いのはいいことだ、若者には後も先もない、あるのは今だけ。ですが、それが貴女の本当の感情ですか?」


 護は隣に立つ少女に視線を向ける。それが合図となり少女は口を開く。


「ブラフです。全く怒っていません」

「その子、人の心が読めるの?」

「はい、この子は大悟法詠子だいごぼううたこ、『読心』の能力者です」

「まぁ、いいわ。私は銀鏡心紅よ、」

「ええ、では銀鏡さん、時間もありませんので話を進めましょう。どうぞ席についてください」


 心紅は護と反対の位置に座る。クロジカとブレイドはその後ろだ。


「哭龍さんのことは残念でしたね」

「生死を確かめるすべはないけれど、死んだでしょうね」

「それで、哭龍さんがしたことへの対応としてはどんな措置をお考えですか?」

「トウキョウを異世界に転移させようとしたことは未遂だから許してほしいわ」

「もちろんです。実害もなく、というか証拠ももう無いでしょう?」

「そういうことよ」

「では、続けてください」

「抗争が原因で魔物に奪われた郊外の件ね。正直、現状ではどうしょうもないわ。そうね······、一年くらい待ってもらえれば、大規模な奪還作戦が行えると思うわ」

「たった一年でですか? にわかには信じ難い話ですね」


 護は詠子に視線を向ける。詠子が口を開く。


「嘘はついてないです」

「狂言ではないとなると、大層な自信家ということでしょうか?」

「並の精神力で裏のボスをやれるわけが無いでしょう。じゃあマニュフェストに掲げてもいいわ。前の代の失態を私が払拭してみせるわ」

「わかりました。急かすような真似はしません、むしろ楽しみにしています。それにあの件は悪いことばかりではありませんでしたから」

「他の過激派の武力組織を潰せたからかしら」

「はい、それもあります、お陰で内側の治安はかなり向上しました。ですが」

「なによ」

「代替わりによる治安の悪化。犯罪が増えるのは『流れ』として理解していますが、その中に一つ異質な者が現れました。そもそも、代替わりとは関係なく現れた可能性もーー」

「長ったらしいのはいいわ、どんな奴なの?」

「それはどうも、我々は彼を『狂信者ゼラトゥ』と呼称しています」

「ゼラトゥ?」

「はい、どうやらカルト教団の信者のようです。彼自身、先日まで傷害事件を起こして精神病棟に入っていたようですが、脱走しました。そして問題となっているのは彼がやっている、とある『儀式』です」

「儀式ね。どんなものなのかしら?」

「『人の臓物を集めている』ようです」

「悪趣味ね、規模はどれくらいかしら?」

「判明している被害だけですでに十件」

「分かったわ、あとで四宝組本部まで資料をまとめて寄越しなさい」

「助かります。あと一つよろしいでしょうか?」

「なにかしら」

「異世界でも儀式はありましたか?」

「······」

「銀鏡さん?」

「今、頭の中で考えておいたから、あとでその子に聞いておきなさい」

「大悟法、聞き取れましたか?」

「はい」

「それじゃ私は帰るわよ。お互いの利益になるように協力し合いましょう」

「もちろんです、この街をともに守りましょう」


 心紅は席を立つとすぐに出て行った。


「大悟法、銀鏡さんはなんと思っていたのですか?」

「ノーコメント」

「ノーコメントですか」


 護は優しく微笑んだままワインに口をつけた。



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