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新世界VS異世界  作者: ティンダロス
一章「四宝組編」
19/23

第十九話 夢幻の漆黒



 屋上に出ると雨が止んでいた。

 『雨乞いの呪い』を持つロアがいるにも関わらず、雨が止んでいた。

 天を仰ぎ見ると、分厚い雨雲に大穴があいている。本部ビルに雨が降っていないのはそのためだ。


 よく見ると穴の中心に、不安定な円形の形をしたものが浮いている、異世界のゲートだ。


 到底トウキョウ全域を転移させる力があるようには見えない、現段階では人一人が通れるか否かといった大きさだ。

 やはりナナを生贄に捧げなければ異世界に行くことは困難なのだ。


「伯龍には会えたか?」

「ああ、サンキューな」


 肝心の二人はというと、いたって穏やかだ。これから決闘をする男たちの様子とはとても思えない。


「雨が止んでいるのは哭龍の能力だよな」

「無論だ、天候を統べることなど容易い」

「確認しておきたいんだが、俺が勝ったらどうなるんだ?」

「お前が勝つ未来など永劫ないが、お前が新しい四宝組のボスになる」

「やっぱり、あのルールなんだな」

「そうだ、お前がここまで到達することができた場合、それで決着をつけようと思っていた。俺の前に立つことすらできない軟弱者には、俺と戦う資格すらないからな」

「運が良かっただけなんだけどな」

「その運はお前のものだろう」


 真冬は無邪気な笑顔を見せる。哭龍も口角がクッと上がっている。

 ぶっきらぼうな会話だが、これが二人のやり取りなのだ。


「二人とも、よろしいですか?」


 立会人を務める朱欄が言った。

 屋上の端には、心紅(背中には鎖蜘蛛がくっついている)、クロジカ(背中にロアを背負っている)、ナナ、そしてその数歩先に朱欄が立っている。

 ちなみに朱欄の『コア』は、まだ心紅が所持している。


「いつでも構わん」

「始めてくれ」


 真冬は伯龍からもらった手袋を外して、ポケットにしまった。


「畏まりました、では、この銅鑼の音が開始の合図です」


 朱欄が銅鑼を胸の前まで持ち上げる。少し間を置いてから、ジャーンと銅鑼を鳴らした。


「ナナは死なせない!」

「俺は異世界に帰る!」


 暗緑色の『崩壊』のオーラが、真冬の両手から吹き出す。

 抑え込まれていた漆黒の魔力が、哭龍の体を覆い尽くす。


「ああああ!!」


 猪突猛進、弾き出された鉄砲玉の如く、真冬は哭龍に向かって一直線に駆け出した。


創造魔法クリエイションマジック大砲キャノン』」


 哭龍の周りに何台もの砲台が作り出された。

 これが哭龍の魔法。創造魔法だ、想像した物を魔力で作ることができる固有魔法だ。


「チッ! どゥ!」


 真冬は両腕を前でガッチリと組んで防御姿勢をとる。足は止まらずそのまま突っ込んでいく。


「放てぃ!」


 大砲が同時に発砲。砲弾が容赦なく襲いかかった。


「真冬殿!」


 ナナが叫び声をあげる。


「······? 心紅殿?」


 心紅の表情はポーカーフェイスそのものだ。だが、ナナの肩に置かれた手は僅かに震えている。


「男の戦いだ、黙って見守ってやれ」


 腕を組み、ウズウズしているクロジカが言った。


「わ、わかった!」


 もうもうと立ち込める煙を抜けて真冬が現れた。無傷だ。

 全ての弾を『崩壊』のオーラで防いだのだ。


「ああああ!!」


 真冬の拳が哭龍に迫る。


「『稲妻ライトニングソード』」


 雷でできた剣を作り出す魔法だ。本来なら一本のところを哭龍は両手にそれぞれ作り出した。


「ダオラああああ!」


 即座に真冬は稲妻の剣を叩き崩した。


「ふん」


 哭龍は折れた稲妻の剣を捨て、刹那の速さで稲妻の剣を作り出す。詠唱無しでも作ることができるのだ。


 真冬が殴り崩す。

 哭龍が作り出す。


 創造と崩壊。

 異世界の魔法と、新世界の能力がぶつかり合う。


 何度も続く拳撃と剣撃。

 そんな攻防も永遠には続かない。真冬の拳が哭龍を捉えたのだ。


 拳は左肩に命中。それだけで十分に致命傷だ。ものの数秒で崩壊は全身に及ぶだろう。しかし相手は哭 龍。バックステップで距離を取り、左肩をまるで人形のようにガコッと外して放り捨てた。


 捨てた左腕が暗緑色のオーラに包まれて塵と化した。


「創造魔法『予備義体スペア』」


 哭龍は魔法で左腕を再現した。哭龍の肉体の八割は魔法で作られた義体なのだ。これならオーラの侵食を防ぐことができる。


「アらアアアアア!」


 真冬の連続攻撃だ。哭龍も稲妻の剣を何本も作り出し応戦する。


 体を斬り裂かれながらも、真冬は拳を五発命中させた。

 殴られた箇所が、自動で周りごとガコッと外れる。そして一瞬にして元通りになる。


「くそ、キリがねぇ」

「ふん、未熟者め。この俺が『崩壊』対策をしていないとでも思っていたのか?」

「んッだとぉ」


 哭龍は羽を大きく広げ、空高く飛翔した。


「待てコラぁ!」


 『崩壊』のオーラが渦巻き、黒々と変色していく、真冬の切り札『崩壊の籠手』が発動したのだ。頬にヒビが入り、ブシッと鮮血が吹き出す。


 『崩壊の籠手』は崩壊の強化はもちろん、空間を掴むことがようになる。それを利用してロッククライミングの要領で哭龍を追う。


「ふん、創造魔法『巨人ジャイアントハンド』、創造魔法『巨人ジャイアントフット』」


 石像のような手と足の巨像が真冬を挟み潰す。

 真冬は『崩壊の籠手』を広げる。石像の手と足がバキンと割れてボロボロと崩れ落ちた。


「創造魔法『巨人ジャイアントハンマー』」


 巨大なハンマーが真冬目掛けて振りかざされる。


「がああああ!」


 両手を真上に掲げる。打ったハンマーのほうが砕け散った。真冬は反動で勢いよく落下する。

 ガリリリリッと、空間を掴み速度を殺す。


「創造魔法『戦車タンク』」


 落下する真冬に、戦車が並ぶ、哭龍は戦車のコマンドーキューポラから上半身を乗り出して、口角をクッと上げている。


「放てぃ!」


 戦車から放たれる砲弾を、真冬は片腕で弾き崩す。

 片腕だけでは落下速度を殺しきれず、本部ビル屋上に激突した。


「『地獄の火炎吐息ヘルファイヤブレス』」


 戦車を乗り捨てた哭龍の口から、漆黒の爆炎が巻き起こる。地獄の業火は瞬く間に真冬を包み込む。それでもなお威力は留まらず心紅たちに迫る。


「『噴火イラプション』」

「はぁ!」


 クロジカと朱欄が迫り来る爆炎を、魔法と炎の羽で防ぐ。黒炎は一部を残して消えた、本部ビルは類火の難を逃れた。


「たく、なんて威力だ。こっちにまで飛び火させんなよ」

「ああ、真冬殿が燃えてしまった! もう決着は着いただろ! 早く火を消さなくちゃ!」

「待ちなさいナナ」

「で、でも! 真冬殿が!」

「真冬はまだ負けてないわ」


 炎も消え、黒煙がしだいに薄くなる。人影がうっすらと見える。


「七年前、私を初めて助けてくれた時、真冬は見せてくれたわ。真の能力を」

「真の能力?」


 黒煙が完全に消える。

 そこには、暗緑色の鎧が立っていた。





「ヴアアアアアアアアアア!!」





 それは絶叫だった。地鳴りのような雄叫びは、聴く者全ての心を震わせた。

 真冬の奥の手『崩壊の鎧』だ。


「やっと出したかッ! 『崩壊の鎧』ッ!」


 哭龍は再び飛翔する。真冬はそれを見上げる。

 真冬は、ガツン、ガツンと、ゆっくりと空間を踏みしめ、まるで見えない階段がそこにあるかのように登り始める。


「······ッ」


 真冬の全身に激痛が走る。だが、そんなことで歩みが止まることはない。

 二人の目線が、遥か上空で交差する。


「風間のときは使わなかったようだな」

「あのときは使えなかった」


 今は後先考えなくてもよくなったからな。真冬の奥の手には大きな危険が伴うのだ。


 真冬は、遥か下にいる心紅に目を向ける。兜の隙間越しだが不思議と目が合った気がした。

 そして、手袋をしまってあるあたりをさする。


 伯龍、俺に勇気を分けてくれ。


「俺は死なない、俺は生きるために戦う!」

「よろしい、ならば俺は、全力を持って滅ぼそう」


 哭龍はさらに高く飛んだ。真冬はそれを睨みつける。


「『隕石メテオ』」


 先ほどの巨像よりも、遥かに大きな隕石だ。直撃すればトウキョウそのものが消滅しかねない。


 ガツン、ガツン、ガツン、ガツン ガツンガツンガツンガツン ガツガツガツガツ ガッガッガッガッ。


 真冬は駆け出す。空間を踏みしめ、どんどん加速していく。


「ヴヴアアアア!」


 天を突き刺す右ストレート。空間が割れて、時空が捻じ曲がる。落雷のような爆音が轟きわたる。

 隕石がバラバラに砕け散る。砕け散った先から、崩壊して砂になり、最後には何も残らない。


「『流星群ミティアーストリーム』」


 哭龍は真冬に息つく暇を与えない。

 空を翔る流星が意志を持ったように軌道を変えて真冬目掛けて降り注ぐ。


「アァヴアアアアアア!」


 まさに鎧袖一触。鎧に触れただけで、隕石群は塵と化していく。『崩壊の鎧』は拳で直接触れなくても崩壊させることができるのだ。


「ふん、俺の魔力とお前の体力、どちらがもつか、根比べといこうか」


 哭龍は攻撃の手を緩めない。魔法は魔力を消費して発動される。魔力は能力と違い有限だ。いかに膨大な魔力を持っていたとしても、こうも大規模な魔法を連発すれば、いずれ尽きる。


 能力には制限がないものが多い。しかし真冬の場合は別で、強力すぎる能力が体を蝕むのだ。


「ヴアアアアアアアア!」


 真冬の雄叫びだ。若干悲痛な叫びにも聞こえる。鎧の隙間から血が滲んでいる。滴る血が落ちる前に塵となって消えた。

 着々と真冬の体を蝕んでいるのだ。


「『重力捕縛グラビティアレスト』」


 真冬を含む周囲十メートルの重力が増大する。並の人間なら潰れて即死するだろう。だが真冬は微動だにしない。足元の空間が薄氷の如くヒビ割れるだけだ。


「『火炎牢獄フレイムプリズン』」


 真冬は炎の球体に包まれた。だが、片腕を振るうだけで掻き消えた。周囲の魔力ごと崩壊させているのだ。


「『聖槍ホーリーランス』」


 哭龍の手に光の槍が作り出される。それを真冬目掛けて投擲する。


 聖槍は真冬の頭に突き刺さった。否。触れた先から崩壊して刺さっているように見えるだけだ。まるで恵方巻きを食べているかのように、光の槍は消えた。


 その後も何本も光の槍を、矢のようにバンバン投擲する。

 身体中を串刺しにされたかに見えるが、実際は刃先から崩壊している。





 ここで一つ疑問が浮上する。なぜ哭龍が異世界の魔法を知っているのか、赤子の時に新世界に来たのであれば、師に出逢うこともなかったはずだ、と。


 答えは明白。伯龍が教えたのだ、酒の席でのことである。伯龍は、数千年前に出会った異世界の人間から、魔法の話を、魔法陣の話を聞いたのだ。


 創造魔法だけは、哭龍が血のにじむ努力で編み出したオリジナル魔法だが。





「······」


 真冬はゆっくりと一歩踏み出す。その瞬間、尋常じゃない威圧感が真冬から放たれた。歩く様は神々しさすら感じられる。


 再び哭龍と同じ目線まで上り詰めた真冬は、両手を胸の前で合わせる。

 まるで挨拶でもするような素振りだが、違う。

 合わせた手を少しずつ離す。手の間で緑色に光る雷のようなものがうねっている。それはやがて球体となり。見る者に畏怖の念を抱かせる。


「······ッ!! 『瞬間移動テレポーテーション』」


 哭龍の姿が一瞬で消え、百メートル離れた場所に現れた。


 その直後、暗緑色の球体が崩れる。とたんに真冬の周囲約五十メートルの空間がボロボロになって崩れだす。『崩壊の鎧』を着た真冬だけが無傷で存在できる空間。それが『崩壊球』。


 二本目の奥の手である。


 ガツン、ガツンと哭龍に近づく。


「瞬間移動したのか? 魔法ってのはなんでもありなんだな。さっきの岩を降らせるやつとかさ、荒唐無稽にもほどってもんがあるだろ」


 実際の魔法使いは違う、得意属性などがあり、全ての属性の魔法を使えるのはごく一部なのだ。さらにそれを全て極めるなど指で数えられるほどしか存在しない。


 哭龍には魔法に対する天性の才能があった、そして努力の才も。


「ふん、今のお前もなかなかに理不尽極まりないぞ。さっきの技も初めて見たが」

「ああ、『崩壊球』っていうんだ、あんなのこんな時じゃないと使えないだろ?」

「ククク、そうだな」


 会話を終えると二人は構える。先に動いたのは哭龍だ。


「『拘束リストレイント』」


 光の輪が出現し真冬を締めつける。

 だが、真冬が軽く腕を降ると、周囲の魔力ごと霧散した。


「『魔法強化マジックリインフォースメント』」

「『肉体強化ボディーリインフォースメント』」


 次に哭龍は自身の強化を行った。防御系の魔法は使わない、無意味だからだ。


絶対零度アブソリュートゼロ


 指定範囲全てを凍結させる魔法だ。強化魔法により威力も上がっている。だが、真冬は特に反応も無く歩き出す。


「創造魔法······」


 哭龍は両手を広げる。その手には膨大な魔力。


「『飛竜軍隊ワイバーンアーミー』」


 何十何百の飛竜が次々作り出される。

 結果として天を覆い尽くすような飛竜の大軍が創造された。


「喰らえぃ!」


 何千もの飛竜が、一つの生き物のように規律良く動き出すと、真冬に襲いかかる。


「本物みたいだな、これも魔法かよ。便利すぎるだろ魔法!」


 真冬は何匹もの飛竜に齧られているが、それすらもどこ吹く風だ。


 飛竜がまとわりつき、巨大な球体となった。球体内部が赤く光り出す。中にいる飛竜が炎を吐いているのだ。飛竜も無事では済まない。それほどの熱量を真冬一人にぶつける。主人の敵を焼却せんがために。


「俺は勝つ。絶対に勝つ」


 真冬は自分自身に言い聞かせるようにつぶやく。

 ボロボロと空間が崩れだす。規模が大きくなっているが『崩壊球』だ。飛竜の群れが消滅する。


「強がりにしか聞こえんな、俺の魔力はまだまだあるぞ?」

「俺の体力もだ! なんでか知らないけどな! 力がみなぎってくるんだ! 今の俺は、今までの人生の中で一番強い!」


 真冬はギラついた目で哭龍を捉えると駆け出した。必殺の拳を構える。


「ガガッがぁあああぁらあああああああ!!」


 真冬は空間を殴りつける。空間の歪みとヒビが哭龍を襲う。


「創造魔法『要塞フォートレス』」


 哭龍の前に堅牢な城壁が作り出された。歪みとヒビが城壁に衝突、ヒビが入り崩れ、波打つ歪みでバラバラに砕け散る。

 さらに哭龍はもう一度『要塞』を発動させる。今度は止めることに成功した。


「哭龍ぅ!!」


 その間も距離を詰めていた真冬が龍に殴りかかる。振りかざした右拳が強い光を放っている。


「『瞬間移ーー」

「うらァ!!」


 瞬間移動が間に合わず、哭龍の左腕が砕かれ宙を舞った。


「創造魔法『予備義体』」


 哭龍が左腕を作り出そうとする。

 だが、何かがおかしい、左腕が一向に再生しないのだ。


「『壊れたものは直らない』」

「なんだと!?」


 真冬の言葉に哭龍は驚愕を隠せない。


「この『崩壊の鎧』を着ているときは不可逆的な崩壊も可能になるだ。『不可逆崩壊』っていうんだけど、だから左腕はもう治らない」


 三本目の奥の手『不可逆崩壊』。崩したものは不可逆となる。


「ぐぅ、まだそんなものを隠していたか」

「だから、こんなもん普段使ってたまるかよ」


 会話しつつも、二人は手を休めない。

 特に真冬の拳が光るときを見極めて注意深くかわしている。

 しかし、拮抗していた鬩ぎ合いも終局のときを迎える。


「かッ!」


 真冬の光る拳が、哭龍のみぞおちに当たったのだ。

 ボロボロと崩れる体を止める術はない。


「おおッ!!」


 崩壊が及ぶ前に、哭龍の首から上が、戦闘機から飛び出す射出座席のようにスポンと抜ける。

 その首は心紅たちのいる本部ビルに落下した。


「な、生首!?」

「哭龍さん!!」


 押っ魂消るナナを無視して、朱欄が駆け寄ろうとする。

 それを遮るように真冬が降り立つ。


「グッ!」


 膝をつく真冬、『崩壊の鎧』がガシャガシャと砕けていく。

 鎧が完全に消えると、ヒビ割れ血だらけの真冬が姿を見せた。


「真冬」


 心紅が真冬に肩を貸して立たせる。


「勝ったの?」

「······ああ」


 真冬は哭龍の首を見る。体が再生する様子はない。

 勝った、あの哭龍に勝った。これでナナを守れる。


「ちょ、ちょっと、勝ったからって気安く触らないでほしいわ」


 いつの間にか心紅を抱きしめていた。心紅もそうはいいつつも、離れる素振りをみせない。しっかりと真冬を支えている。


「さっきの? 結婚するって正気? 狂ってるわ」

「······嫌か?」

「そ、そんなことないわ」

「そっか、ならよかっーー」

「真冬殿! あれ!」


 ナナの声に、バッと真冬は哭龍の首があったほうを向く。首がなくなっている。


「ククク、クハハハハハ!! 解いたな!! 『崩壊の鎧』をッ!!」

「哭龍!!」


 哭龍は頭から翼を生やして飛んでいた。


「お前がその娘とイチャついている間に、『不可逆崩壊』の穴を探していたのだ!」


 哭龍の翼をよく見ると耳が変形してできているものだとわかる。


「知っているぞ『崩壊の鎧』の弱点をな! お前はもう『崩壊』の能力を使えない!」

「······くそ」


 心紅から離れた真冬は両手に力を込める。しかし能力が発動することはない。『崩壊』の能力が、過度な力に耐えられず壊れたのだ。


 前に使ったときは、すぐに解除したため数ヶ月後に復活したが、今度はもう復活しないかもしれない。


「能力が使えなければただの人だな。真冬よ、俺の粘り勝ちだ!」

「けっ、生首が元気そうによぉ、一足先に伯龍のところに送ってやるからかかってこい」

「ふん、異世界に帰るまで、俺は死ねないのだ!」


 コウモリのように哭龍は夜の空に消えた。

 少しして、黒雲が空を覆い隠す。ゴゴゴと、大気が震えだす。


「『龍を屠る龍、龍殺し。同族殺して貪るその姿は漆黒』」


 稲妻が走る黒雲の中を何かが蠢く。不気味に光る赤い目玉が世界を見下ろしている。


「創造魔法『黒龍ブラックドラゴン』」


 黒雲から巨大な黒龍が現れた。


「まだ、あんなものを隠していたのか、ぐあっ!」


 痛みでふらつく真冬。それを心紅が支える。


「ダメだ、まだ終わってない、離れてくれ」

「嫌よ、どうせ死ぬなら一緒がいい」

「······わかったよ、そばにいてくれ」

「もちろんよ、でも欲を言えば勝ってほしいわ」

「任せろ」


 そうは言ったものの、どうしたらいいんだ。能力は壊れちまったし、頑丈だけが取得の一人間が、あんな怪物とどう戦えば。


 そこでふと、ポケットにしまっていた、伯龍がくれた手袋のことを思い出した。


 最後になるかもしれない、最後くらいちゃんとはめよう。そんな気持ちで真冬は手袋を取り出した。その時、手袋が脈打つような光を放った。


「······伯龍、力を貸してくれるのか」


 それは紛れもない『無効』の光。

 真冬は確信した、手袋を今にも崩れだしそうなヒビ割れた両手にはめる。


「真冬、これで終わりだ。降参するなら、その娘の命だけで許してやる」


 黒龍の手に握られた、哭龍が言った。


「グダグダ言ってねぇで、さっさとかかって来やがれ!」


 真冬の怒号が最後の一撃の合図となった。


「俺の最後の壁め、踏み潰してくれる!」


 黒龍が大口を開けて、真上から突っ込んでくる。その質量をもってすれば本部ビルも無事では済まない。


「おおおお!!」


 真冬は両手を掲げた。深くヒビの入った腕を精一杯伸ばす。

 純白の手袋が強い光を放つ。『無効』の光だ。


「そ、それは伯龍の!? ぐおおおお!」


 光を浴びた黒龍が掻き消える。翼となった耳も元に戻り生首だけとなった哭龍は抗うすべなく落ちる。


「ぅうオラぁ!!」


 真冬は、最後の力を振り絞って走る。追いつき、右手を突き上げ、落下する哭龍を殴る、しかし落下する鉄球を殴るようなものだ。真冬の右手は粉々に砕ける。


 哭龍の肉体を豆腐のように破壊できたのは『崩壊』の能力があったからだ。ただの人間が哭龍の鱗を破壊するのは至難の技だ。


「がぁるああああッ!」


 哭龍の生首を床において、右足で思いっきり蹴る。右足の骨が折れた。


 転がる首に、真冬は狂犬の如く襲いかかる。


 右肘打ち、骨が折れる。左足での踏みつけ、折れた右足が軸足のため威力が乗らない。左手で殴打。骨が折れる。左肘打ち、骨が折れる。


 『無効』の効力が消えれば、今度こそ真冬に勝ち目はない。


「ぶはぁ!」


 哭龍の額に亀裂が入った。それを真冬は見逃さなかった。


「うおおおおおおおおお!!」


 全身全霊を込めた最後の一撃。頭突きだ。

 そのまま、哭龍の横に倒れ込む。


 しんと静まり返った屋上。

 皆が見守る中、しとしとと雨が降り始める。





 哭龍は白目をむいて気絶している。

 真冬は仰向けになると拳を掲げる。



「俺の勝ちだ······」


 勝ったのだ。四宝組組長に、異世界の竜人に、真冬は勝利したのだ。



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