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新世界VS異世界  作者: ティンダロス
一章「四宝組編」
16/23

第十六話 忘却の剣士


 水葵と清十郎が相見えるころ。銀鏡宅前。


「オラァ!!」


 真冬は次々と迫り来るアンの部下と、その中に入り交じる火血刀の作り出した何十体もの分身を相手に苦戦を強いられていた。


「背中がガラ空きだよ!」


 その混戦の中を、アンは隙を見つけては、どこからともなく現れて真冬に不意打ちを仕掛ける。


「ふん」

「ちぃ!」


 しかし、真冬の背後に立つクロジカがそれを許さない。


「悪いクロジカ」

「グゲゲ、これくらい自分でなんとかしてほしいものだがな」

「そうは言ってもな」


 すでに数十人倒している、だが包囲網を突破するには至らない。


「大技くらい持っているんだろ?」

「あるけど、心紅の家の近所だし」

「そんなことを気にしている場合かよ······、変なところで律儀な野郎だ、めんどくせぇ、退いてろよ」


 そう言うとクロジカは真冬の前に一歩出る。


「更地にしてやる、グ、グゲゲ」

「何をする気だ」

「魔法を発動させる、俺から離れるなよ。死なれたら俺が心紅に殺される」

「わかった」


 クロジカは四つん這いになった、尻尾が地面に突き刺さり体を固定する。全身の鎧のような鱗が一斉に逆立つ。


「『噴火イラプション』!!」


 クロジカの口から、とてつもない威力で溶岩が吹き出した。

 数日前のものとは比べ物にならない爆発力だ。

 火山魔法ボルケーノマジック噴火イラプション』だ。


 アンは経験則からか「ヤバイのが来る」と直感で気づいたのだろう。

 クロジカの魔法の発動と同時に、アンは能力を発動させた。


「『暗黒支配』」


 アンの纏うローブが意志を持ったように動き出す。


 アンが纏っているローブは、ただのローブではない、暗黒物質という未知の素材でできている。アンはそれを自在に操ることができるのだ。


 ローブはアンを包み込み、菱形ひしがたになった。鋭い先端部を地面に突き刺し、衝撃に備える。クロジカの魔法が直撃した。


 辺りは火の海に包まれた。直撃したものは痛みを感じる暇もなく焼却された。辛うじて避けた者も火だるまとなり皮膚の焼ける痛みに耐えきれず悲鳴をあげて転げ回っている。


 無関係な一般人が避難していたからそこできる魔法だ。


「ほら、あらかた片付いたろ」

「······ああ」


 今のを見て、戦意を失ったアンの部下も多い。火血刀の分身は数こそ減ったものの、相変わらずこちらに刃を向けている。


「こんな助っ人がいるなんて聞いてないよ」


 漆黒の菱形の一部が開き、アンが顔を覗かせる。


「なんだあれは?」

「あれはアンの能力だ、あの黒いのを操る能力だ」

「はぁん、俺の魔法にも耐えるか、どんな素材でできてるんだか······それでお前の拳でどうにかなるのか?」

「わからない、試してみる」


 『崩壊』のオーラを纏わせ真冬はアンに迫る。


「ぶっ壊してやる!」

「なめんじゃないよ!」


 真冬は飛び上がる。全体重を乗せた右ストレートを菱形に打ち込む。


 ゴォン! という鐘をたたいたような音と共に菱形が地面を削りながら後退する。


「崩れないだと!」

「暗黒物質がそう簡単に崩れるわけないだろう! そらお返しだよ、火血刀!」

「へい」


 火血刀の刃から血が噴出、血は刃となり火血刀の刀身を伸ばす。


「くっ!」


 『崩壊』のオーラを纏った左手で防御。崩壊する血が本体に届く前に火血刀は血を切り離しす。


 間合いがコロコロ変わる武器。それだけでも十分な脅威となる。


「なんだ、壊せねぇじゃねぇか」

「まだ一発殴っただけだ」


 ウルフの時もそうだった。『崩壊』のオーラをもっと打ち込めば。


「かぁ〜、そんな悠長なこと言ってる場合じゃねぇだろが」

「だったらどうすればいいんだよ」


 鎌柄を無視して進めないことは、クロジカもわかっているだろ。真冬は焦ってた。


「先いけよ、ここは俺に任せな」

「クロジカ、俺を守る命令は平気なのか?」

「ああ、この女が坊主に害をなし続けている間はな」


 なるほど、アンが俺の命を狙ってる間は、俺から離れてアンの相手をしていてもいいってわけか。

 心紅的には俺の側にクロジカを置いときたかったんだろうけど、そこはクロジカの知るところじゃないか。俺としても助かるけど。


「ただし坊主」

「なんだ?」

「これで心紅に怒られたら庇ってくれ」

「ああ、わかった」


 そう言うと真冬は包囲を突破して走り去っていく。

 それを見届けたクロジカはアンに視線を戻す。


「追わないのか?」

「アタシとしても、戦力の分散は願ってもないことだからねぇ」

「んぁ? 素直な女だな」

「崩紫の抹殺は、あくまで『おまけ』だからね、それに一人で本部に行けば、流石の崩紫もお終いだろうよ」

「それで俺の足止めか、謙虚な女だ」

「足止め? バカを言うんじゃないよ、息の根を止めるんだよ! 魔物!」

「魔物じゃねぇ! 魔人だ! 人間!」





______





 同時刻。四宝組本部前。


 正門を守護する玄道は、無線から現在の状況を聞き、事態を把握していた。

 それでも仲間の加勢に行かないのは、この入口を死守する命を初代組長より受けたからだ。その命は代替わりした今でも引き継がれている。


 正門があれば裏口がある、当然このビルにも裏口はある。

 だが、そこは狭く、構成員の詰所も近いため、玄道は安心して正門のみを死守することに専念できるのだ。


「······む、雨か」


 ポツリポツリと降り始めた雨は、徐々に強くなっていく。

 玄道は傘も刺さず、仁王立ちのまま、前を睨み続ける。


 雨音に乗じて裏口から一人の男が侵入したことに、玄道は気つかなかった。





______





「······」

「お前はブレイドだな」


 四宝組本部ビルに侵入したロアは、通路にて四宝組十二幹部の一人、ブレイドと相対していた。

 裏口を警備していた構成員を徒手空拳にて手際よく制圧したため、まだ侵入には気づかれてはいない。

ブレイドがロアと出会ったのは偶然だ。


「······」


 ブレイドは背負っていた二本の大剣を抜き払う。

 本来ならば両手で振るう大剣を、まるで双剣でも扱っているかのように一本ずつ持っている。


「ふ、剣士とやるのは久しぶりだな」


 そう言うとロアは腰に手をかけて剣を抜かんとする、が、すぐにハッとした顔をする。


「······剣を忘れた」

「······」


 両者の間に微妙な空気が流れたが、それもつかの間、ブレイドは剣を構え、ロアに向かって駆けだす。

 ロアは徒手空拳で応戦する素振りを見せる。しかしそれはフェイントだった。ロアはブレイドの斬撃を転がり込むように回避、ブレイドの脇をすり抜けて逃げるように通路を走る。


 ブレイドも切り返して、そのあとを追う。


 何度か角を曲がると階段を見つける、この巨大ビルに相応しい広い階段だ。

 ロアは迷わず階段を駆け上がる。


「なっ! なんだてめぇ!」


 途中、踊り場にて三名の構成員と出くわした。


「賊だ、止めろ」


 ロアの背後から静かな声がする。声の主はブレイドだ。


「ぶ、ブレイドさん!? へい!」


 三人は『武器召喚』の能力者だ。

 普段無口なブレイドが喋ったことに驚きつつも、それぞれ、ハンマー、刀、槍を召喚した。

 刀を持つ構成員が上段の構えから剣を振り下ろした。


「よこせ」

「ぐあッ!」


 ロアは刀の一撃を最低限の動きで回避した。さらに流れるような体捌きで刀を奪い取ると、向き直ってブレイドと応戦を開始した。


「能力を解除しろ」


 冷めたブレイドの声に構成員はぶるりと震え、能力を解こうとする。


「あ、あれ? 解除できない」


 普段なら武器を消すことができるのだが、ロアの握る刀は消える素振りを見せない。


「『反対』の能力者か」

「違う」


 階段での剣戟は長くは続かなかった、ロアが後方の壁を斬り裂いて、ビルの外に出たからだ。


「お前たちは、この事を報告しろ」

「へい!」


 ブレイドは構成員を残し、ロアを追って外に出る。顔に雨が吹きつける。雨は本降りになっていた。

 ロアはというと、非常階段を駆け上っている。


「······」


 ブレイドは二本の大剣を合わせて、ハサミのように構える。

 そして、ロアの方に向けてシャキンと刃を擦り合わせた。


 これこそがブレイドの持つ妖刀『上顎じょうがく』『下顎かがく』の二本で一つの合わせ技。どこまでも届く斬撃を放つ『無限のあぎと』だ。


 この大剣は二本で一本。普段はただの大剣だが、擦り合わせることにより、射程を意のままに操る斬撃を放つことができるようになるのだ。


「む!」


 ロアは、すんでのところで回避した。遅れて非常階段は縦に斬り裂かれた。斬撃はビルの屋上にまで及んだ。


「妖刀か」


 立ち止まったロアにブレイドが追いつく。さらに追撃を加えんと踏み込む。

 上段に構えた右手の『上顎』が振り下ろされる、と同時に下段に構えた左手の『下顎』が振り上げられる、『無限の顎』だ。


 シャキンという音と共に、非常階段が横に裂ける。

 ロアは、これも紙一重で回避した。


 剣戟の最中、隙あらば放つ『無限の顎』をロアはかわす、一撃一撃が重いブレイドの大剣を、ロアは一本の刀のみで捌く。


「ふっ!」

「······!」


 ロアは刀をブレイドの頭目掛けて投擲した。ブレイドは『上顎』の腹の部分でそれを弾く。



「抜刀」



 両手を軽く広げ、ロアは呟いた。その言葉に呼応するように雨雲から一振りの剣が落ちる。

 『天雲の剣』だ。天雲の剣はブレイドの脳天目掛けて一直線に落ちた。

 ロアの抜刀術は一撃必殺、初見殺しのこの技は、受けることも避けることも難しい。


「······」


 だが、ブレイドは天雲の剣が脳天に直撃する瞬間、消えた。

 まさしくロアの眼前から姿を消したのだ。

 ロアは後ろを振り向く。『瞬間移動』したブレイドが剣を振り下ろすのが見えた、


 『上顎』の一撃を背中に受け、ロアの背中から血が吹き出す。

 その痛みに怯むことなくロアは非常階段から飛び降りた。


 ブレイドも追って飛び降りる、二本の大剣を壁に突き立てて落下の速度を落とす。

 ロアは何度か非常階段に捕まって減速。そして目当ての物を手に入れる『天雲の剣』だ。


 頭上から二本の大剣で叩きつけるように斬り掛かるブレイド、それをロアは天雲の剣で薙ぎ払う。堅さが取り柄の天雲の剣だからこそできる力技だ。


 ブレイドはクルリと身を翻して器用に着地した。

 場所はビルとビルの間、一番下まで降りてきたのだ。


「『瞬間移動』の能力者だったとはな」

「······違う」


 そう、この戦いは互いに能力を隠しての戦い。

 さきに能力の本質に気づいた方が有利になるのは明らかだ。


「行くぞ」


 先に仕掛けたのはロア、ブレイドの能力は不明なままだが背中の傷もある、早々に勝負を決めなくてはならない。


「······」


 再び始まる剣戟、ロアが繰り出す不規則な攻撃を、ブレイドは上段の攻撃は上顎で、下段の攻撃は下顎で受けて、的確に捌いていく。


「はぁ!」


 ロアが放つ渾身の中段突き。二本とも大きく上下に揺さぶられているため、腹部まで間に合わない。


 切っ先が触れる、その瞬間、ブレイドは物理法則を無視した動きをする。剣をかわし、ロアの胸を『上顎』で切り裂いた。


「······」


 ロアはよろけて数歩さがる、胸を抑える手には血がべっとりとついている。


「もしかして『反撃』か?」

「······」


 ロアは、ぺっと口の中の血を吐き出す。


「沈黙が答えか」

「······」


 ブレイドは無言で剣を構える。ロアは天雲の剣を持ち直す。


「忘れる前にやるとしよう」

「······」


 両者が走り寄る。四度目の剣戟。


 今度は中段の突きを警戒してか、ブレイドは『無限の顎』を多用する。

 威力を調節してあるのか、ビルの壁に深い傷がつくものの貫通まではしない。

 ちなみに両刃なので、どちら側を擦り合わせても『無限の顎』が発動する。


 『無限の顎』を防御するのはリスクが高いため、ロアは『無限の顎』だけは回避する。あとの攻撃を天雲の剣で捌く。


 かわってロアの攻めは、二本の大剣を前に防がれてしまう。

 大剣の二刀流を実現させるのは『獣人(白虎)』の腕力がなせる技である。

 それでも剣を持ったロアは強い、手負いとは思えない動きを見せる、だが三度目の『反撃』が発動する。


 ブレイドは物理法則を無視した動きで、ロアの腹部を『上顎』『下顎』、二本の大剣で突き刺した。


「ぐっ!」

「······」


 ブレイドはトドメの『無限の顎』を放たんと腕に力を込める。そして。



「······!?」


 驚愕するブレイド、大剣がピクリとも動かないのだ。


「やっと掴んだ」


 ロアは『天雲の剣』を捨て、腹に刺さった『上顎』『下顎』の刃を掴んでいた。どこにそんな力が残っているというのだろうか。『獣人』の腕力を持ってしても、押すことも引くこともできない。


「『刃王』を知っているか? ブレイズ」

「······『刃王』だと!」


 自分の名前を間違えられたことを注意することもできず、ブレイドは『上顎』『下顎』に視線を向ける、大剣がカタカタと震えている。


「まさかお前が『その手で触れた全ての刃物を支配する』といわれている『刃王』の能力者か!?」

「違うな、支配じゃない」


 『上顎』『下顎』が有無を言わせぬ力で回転。ブレイドの手を離れる。


「友達だ」


 ロアは手にした『上顎』『下顎』を擦り合わせ『無限の顎』を発動させる。

 ブレイドは『反撃』を発動させ、それを回避する。しかしながら追撃はしない、後ろに距離を取る。

 『無限の顎』を放てる相手に距離をとるなど愚策でしかない。だがブレイドは違う。


「その刀は」


 ブレイドが手にしているのは、ロアが最初に奪った構成員の能力で召喚した刀だ。ここまで落ちてきていたのだ。


 武器を交換した二人は、ジリジリと間合いを詰める。

 いかに『無限の顎』の射程が無限とはいえ『反撃』を持つブレイドには通用しないからだ。


「······」


 ブレイドは背を低くして、居合の構えで突撃する。

 ロアは『無限の顎』を発動させる。ブレイドに向けてではなく、刀を狙ってだ。


 噛み砕かれるように刀は真っ二つに砕ける。ブレイドの居合切りは失敗した。


 だがしかし、ブレイドは刀から手を離しつつ、あえて『無限の顎』の射程圏内に入る。それにより『反撃』の発動条件を満たす。周りの動きが急速に遅くなる、その合間に前転、ロアの後方に回り込む。

 そして、落ちていた天雲の剣を手にし、ロアの背中、心臓部を狙い突く。








「······ッ!?」


 天雲の剣が反転、ブレイドの胸を貫いた。


 振り返ったロアは『下顎』を手放す。そして両手で『上顎』を握り、振り下ろす。

 ブレイドは『反撃』を発動させる、僅かに横に移動して回避した。右の抜き手でロアの左肩を深々とえぐる。


 ロアは『上顎』すらも手放す、そして肩に突き刺さったブレイドの右腕を掴んで投げる。堅いコンクリートの床にブレイドの顔面が激突する瞬間、猫のように身を翻して着地した。



「抜刀」



 ブレイドの胸に刺さっていた『天雲の剣』が右肩を切り裂き、ロアの手元に戻る。



「納刀」



 天雲の剣がブレイド目掛け飛び出す。ブレイドは『反撃』を発動させ、ギリギリで回避する。


 『天雲の剣』は『一度刺したものを鞘として記憶する』雨雲を鞘と認識しているように『一度貫いたブレイドを鞘として認識した』のだ。

 抜刀と納刀、二つの言葉で、自在に動く。それが妖刀『天雲の剣』の能力だ。


「ヒュー······ヒュー······」


 ブレイドは肩で大きく息をしている、全身を覆う白虎の毛を持っていなかったら、額を脂汗で濡らしているのがよくわかっただろう。右腕はダラリと垂れ下がっている。



「抜刀」



 ブレイドの後方の床に突き刺ささっていた天雲の剣がロアの手元に戻る。

 その通過点にブレイドがいる、が、再び『反撃』を発動させて、ロアの横を前転で潜り抜けて立つ。攻撃はしない。


 ロアの足元に落ちていた『上顎』を左手に持ち『下顎』を口にくわえたブレイドは、ロアを睨みつけている。


「どこに行く」

「······」


 ブレイドはロアに背を向けて逃走した。


「引いてくれたのか」


 ロアは天雲の剣を、抜き身のまま腰にさして、裏口から中に入っていった。





______





 四宝組本部、魔法陣部屋。


「ラスボスのご登場ってわけかい」


 水葵は不遜の態度を崩さず、ニヒルに笑っている。


「ラスボスではない」

「いいや、あんたは、ここの誰よりも強い、そうだろ?」

「そうだな」


 清十郎は水葵の言葉を否定しない、さも当然といった顔をしている。


「魔物と融合したりしてるせいか、妙に強さってやつに敏感になっててね、あんたは強すぎて戦う気にもなれなかったが······」

「なかったが?」

「いざ敵として目の当たりにしてみると面白そうだなって、今の俺は心底そう思ったのさ!」


 水葵は清十郎へと最短距離を『最速』で駆け抜ける。

 この世の全てを置き去りにした速さだ。正真正銘、全身全霊、『最速』の一撃。


 この技は水葵も大ダメージを負う。それでも水葵はニヒルに笑い清十郎に襲いかかるのだ。



「弱い」



 水葵の体がぐるりと反転、地面に叩きつけられる。

 傍から見れば何が起きたのか全くわからなかっただろう。


 清十郎が水葵を受け止めて、地面に叩きつけたのだ。


「がぼぁっ!」


 水葵は口から血を吐き出す、特別性の強固な床がべコンと凹み、水風船を割ったように水葵から血が吹き出した。


 魔法陣が書かれているところは無傷だ。


「速いだけでは勝てん、力もなくてはな」

「······へへ、がはっ!」


 水葵が力不足でないことは、ここにいる誰もが知っている。速さとは力なのだから。

 清十郎の基礎能力が高すぎる、それだけのことだった。


「······ごぼっ······俺の、負け、かい」

「そうだ」


 倒れたまま動かなくなった水葵を見て、清十郎は視線を朱欄に向ける。


「今度は仕事をしたぞ」

「はい、ご助力ありがとうございました」


 朱欄は礼をして、呆然とするナナに歩み寄る。


「諦めなさい、楽にいかせてあげるから、さぁ魔法陣の中央へ」

「あ······あ······」


 溢れんばかりの涙を蓄えた瞳をぐっと堪えて、ナナは水葵に魔法の言葉を言う。


「ア、アンコール、アンコール!」

「何を、さぁ来なさい」

「アンコール! アンコール!」


 ナナは涙声で叫ぶ。


「アンコール! アンコール!」

「やめなさい」

「アンコール! アンコール!」

「今のを見たでしょう、鮫島さんは死んだのです」

「アンコール! アンコール!」

「もう起き上がるはずがないでしょう!」

「アンコール! アンコール!」


 ギョーーン。


 そこには男が立っていた。

 全身ズタボロ、骨は折れ、体液は漏れだしている。

 しかしその目には、力強い意思を感じる。


「よく立ったものだ」

「どこにアンコールを受けつけねぇ音楽家がいるのかい?」


 立っているのもやっとだろう、それでも水葵は力強い視線を清十郎に向ける。


「よく言った」

「へへ、そっちまで行くのは、ちょっとしんどいから、かかってきな」


 清十郎が一歩、歩を進めると、背後の扉が切り裂かれた。


「ロアにぃ!!」



 一人の剣士がそこにいた。

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