第95話 みんな人外だよっ
前の話に誤字があったようで。
数年前見た本では「お疲れ様でした」は使わない方がいい、っていってたんだけれど、ネットで調べたら今はそうじゃないらしいです。
あっれぇ~?
ちなみに敬語ver.は「お疲れの出ませんように」だそうです。(使わない)
「ご苦労様です」に変えておきます。
ご指摘、ありがとうございます。
追記:28話もミスがあったようです。
本当にありがたいです。(人任せにすんなよ)
「人間か・・・?」
次期魔王の何気なくつぶやいた言葉。
しかし、その言葉がトリガーとなった。
「さあて、どうだろうねぇ」
誰に言うともなくつぶやいたセリフに返答があったのだ。
襲撃者の目に灯っていた、紅蓮に燃えるような魔力の塊も、いつの間にか鳴りを潜め。
殺害予告そのものの発言をした時と同じ、飄々とした口調でしゃべるその姿は先ほどまでの獣そのものの表情からは考えられない。
先ほどから襲撃者が話している言語はウェルシュ語だ。
勇者が魔王を殺した翌年あたり、だったか。勇者を擁するリーゼン国の国際政治における発言力が増大すると共に急速に公用語であるウェルシュ語はよく話されるようになり、10年近く経った今となっては立派な覇権言語の一つとなっている。
もちろん次期魔王であるから魔王として君臨する将来が約束されているため、必要な道具は揃えている。
当然覇権言語であるウェルシュ語は履修し終え、母国語同然にはペラペラなのである。
傍付きであり、同様にペラペラであるメイドに目配せをする。ひとまず一時戦闘中断だ。
「で?いきなり撃って来て。何の用?」
獣のように上体を曲げた状態から身を起こし、直立姿勢になりながら大女が訊く。アレは戦闘態勢だったらしい。半ばで断ち切られた外套の下は…何も着ていなかった。
うっすらと腹筋がのぞくその腹部から下を隠そうともしない様子は野生児を思わせる。
あいにくと、ノーマルな性嗜好を持つ魔王はそれに対して何も思うことはなく。
「・・・いや、この流れはおかしい。そちらこそなんでいきなり襲いかかって来るんだ」
メイドが弓を下ろしたのを見ながらたまらずツッコミを入れた。殴りかかってきたのはお前の方だろ、と。
「チ。しかし、それでも最初に撃って来たのあんたらでしょう。ゴブリン達転移しちゃったし、後顧の憂いを断とうかなって」
「後顧の憂い、ね。それにしては、お粗末な有様だね」
一度は胴を両断されたことに対する煽りなのだが、気づいたかどうか。
「それもそうだな。で、なんで撃って来た?それも人間が」
幸か不幸か完全に受け流して大女が訊いてきた。
「私は、人間なぞではない。れっきとした魔族だ」
さすがに殺す相手でもない部外者に魔族の内情を知らせる愚は犯すわけにもいかず、そうポイントを外した答えを返す。
それにしたって、魔族のトップたる魔王と人間を間違えることは何事か。
静かにメイドの襲撃者を見る視線も冷ややかなものになっている。
大女はほう、と息を漏らし、
「魔族だのはよくわからないが、人間ではないのか」
よくわからなかったらしい。
「魔族自体を知らないだと?
一体お前、どこの大陸の出身だ?」
これでも諜報に長けるメンツが多い魔族の長なので、魔族が人の心にトラウマという形で大きな影響を与えていることはわきまえていたつもりだったのだが・・・
人間の世代交代に伴って心的外傷が人の心から風化していくのは予想よりも早かったようだ。
「ここらの出身なんだが」
肩透かしを食らった気分になりながらも探りを入れる目的で挟んだ文句に、またも肩透かしを食らって、
この大女に対する認識を改めることにした。
隠喩や皮肉が通じない性格か、それとも教養がないのか。どちらであっても、直截的な物言い以外は通じない相手なのだ。
「お前どれだけ物を知らないんだよ…」
こんなヤツを魔族のシンパとするには抵抗があるのだが、我々もそこまで落ちたか。
「人との接触は、数日前に初めて…と言ったところだからな」
仕方ない。そう言って脂肪の薄いその胸を張る。
「それで、結局目的は何だったんだ?」
「うん?」
かと思ったら質問をぶり返してくれた。
「だから、目的だよ、目的。ゴブリンを操るなんて回りくどい方法を何でとるのか、という疑問だ」
ここまでくると、何らしかの確信があるのだろう。
言い逃れは、できるがそれはポリシーに反する。
だが、その前に。
「それを聞いてどうするつもりだ?」
「どうもこうもしないよ。そもそも人間が数日前にあったばかりの私を信用すると思うかい?」
そう言って肩をすくめるしぐさ。それが示す意味はよくわからないが、なんとなくはわかった。
天涯孤独、というやつか。ならちょうどいい。
メイドが口角を釣り上げているのが、何か企んでいるようで、少し怖いが。
「それで?勿体ぶって何の話だ?」
「そう焦るない。
天涯孤独の身の上なら、将来について悩んだことは何回もあるのではないか?
自分の能力が埋もれたまま忘れ去られることを考えたことはないか?」
慣れない人心掌握のための美辞麗句を並べたてながら、様子をうかがう。
しかし
「いや、全く」
一言でぶった切られた。
「なんかのカルト宗教かなにかか?
それなら、もういいな?
ちょっとだけ、食べていいな?」
これだけ大物が揃うなんてめったにないしな、とぼやいている間にも、再び魔力の紅眼が火を灯し始める。
「おいおい、これヤバイよな」
言葉を使わずに連携する戦闘訓練を積んでいるとはいえ、流石に意思決定に関してはメイドとの会話が一番有用だ。
「もちろんです。勧誘に失敗してしまったら、次は警戒されてしまいますから」
そんな分析は聞かずともわかっていることだ。
問題は。
「こいつマジで喰う気で居やがる・・・!」
利用してやる、とかいう強欲などではない。生命に直結する分、生存欲求に直にひしひしと、その食欲が向けられているのを感じる。
一合交わした感じでいうならSTRではあちらの方が有利。全くの格下とは言えない、本気で殺しに来る相手を殺さないように気遣いながら無力化するなんて、どこまでできることやらわからない。
よし。決めた。
「監視頼む。少し本気出す」
その言葉とともに発せられる大量の魔力。
濃密なそれは大波と表現するには温すぎる物理的な圧力を伴って、周囲にいた二人を圧倒する。
顔を歪ませながらも瞳の色が失われず、それどころか対抗するようにその輝きを強めていくことに闘争本能を掻き立てられながら、呟く。
「【変化】解除」
背骨が一気に伸長し、四肢の骨がきしみを上げ、
全身にある筋肉・内臓に至るまでが伸長・肥大していき、纏っていた薄布は容易くも破られる。
だが、最も変化が大きいのはその頭部だろう。
耳と閉じられた目はそのこめかみ付近にまで移動し、
角が側頭部からにゅるりと、顎は長く、首の向きもめりめりと音を立てて変わっていく。
しまいにはその尻から細長くもしなやかさを持つ尻尾がぬるりと伸びる
その姿は見る人が見ればこう言うだろう。
『ミノタウロス』と。
アリスは食欲に忠実です(食欲に支配されているともいう)。
「ちょっとだけ、ちょっとだけだから!(左足パクリ)」
人間の三大欲求のうち二つ、睡眠欲と性欲を奪われ、スキル【暴食】の効果でブーストをかけられているためです。




