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理系スライムは汚物の海から這い上がる  作者: 愚痴氏
第二章 現地種族との接触
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第92話 敵前逃亡という名の戦略的撤退

ブクマ・感想・誤字報告ありがとうございます。

活動報告にも書きましたが、89話ちょっと弄ったのでよろしければ。

内容には変化ありませんので、読み飛ばしてもらっても問題ないです。


タイトル逆?いや、あってますよ(嘘)

『厄災』と称されている、敵対種族「人間」だが、ヨナはその種族的特徴をよくわかっていた。元々それ(・・)であるために。


人間たちに対する理解度は彼らが『災厄』と称されていることからも分かるように、遠ざけるばかりでその性質の追求などされてこなかった。


そのため、人間がいる世界であるということすら最近知ったことで。


ヨナはたった一人、前世が人間であることを誰にも言えず(誰に言う気もなかったが)、これまでを過ごしてきた。


ゆえに、上意下達(トップダウン)式、他のゴブリンに方針を譲ったことはなく、全てを1人で決定してきた。





ゴブリンの風習に、死者の牙を抜くというものがある。まさしくダース単位で命が失われ行くゴブリンにとって、死体をそのまま捨て置かずせめて遺品を持ち帰ってもらうことは基本的な供養の仕方なのだ。


「・・・・・・」

「ギイイイぃ・・・オオおおおおん・・・」

「・・・・・・」

「うえええええ」


牙を抜き取った後に亡骸に縋りつくゴブリンの婦人たちや子供達を押しのけ、武器などを奪った人間の死体と共に落とし穴へと蹴り落とし、埋め立てる。



本来なら思う存分泣かせてやりたいところだが、状況が許さない。

悲しんでいる暇などない。


どこから(・・・・)あの死神が(・・・・・)現れたかすら(・・・・・・)わかって(・・・・)いないからだ(・・・・・・)


本来聞くべき相手である、襲来時の見張りをやっていた二人組のゴブリンは帰ってこない。死んだと考えて間違いない。

となると、見張りの不慮の事故による死亡がゼロではないとは言え、あの人間どもに殺されたのだろう。



少なくなったゴブリンを復旧工事のために走り回らせている中、ヨナのために特別に用意させた天幕の中で一人地面に地図を描く。


地図とはいえ距離感覚すらもあいまいなものではあったけれど、大した問題はないと考えた。


なぜなら長居する気はない。むしろ一刻も早く逃げたい。

少ないゴブリンなぞで集落が守れるはずがないのに人間(災厄)がいつ来るともしれない場所に居続ける。そんなことは到底できそうになかったのだ。


ただ、残ったゴブリンは戦闘の影響で人口のバランスがおかしくなっている。

まさしく女子供ばかりとなっているのだ。


もはやメインの狩り手が狩りのノウハウと共に消えてしまった以上、食うにも困るという惨憺たる有様だ。


考えられることはただ一つ。


いったい(・・・・)誰を切り捨てるか(・・・・・・・・)


現在斥候を出しているのは、この集落以外でどこか、逃亡するのに適した方面はないか見るため。

持っていくことのできる食料も限られるのだから、より一層の人口削減(・・・・)が必要となってくるというわけだ。


ある程度削減する者には目星がついているため、その中でも無能かつスキルが強く働き逆らいにくいものが斥候に選ばれた。


無能すぎて殺される可能性が大いにあるが、死んだら鉱山でのカナリアのように他の無能で穴埋めすればよいのだから、簡単な話だ。


それに、死んだことが定時連絡で分かればその無能が死ぬレベルの脅威があるということに他ならないのだから、まさしくカナリアの役回りと言えた。




必死の思いで手にしたつかの間の平穏も、僅か1日で崩れ去る。



「ギギュィアグッルイグア!」



無能な斥候役がもたらした有用な報告に身を強張らせたが、意識して肩の力を抜く。

人間が三人というのが余りにもお粗末に思えたからだ。


三人なら分断するのも容易。さらに今回は時間というのが最大の味方だ。

皆で逃げ出すには到底時間が足りないが、罠を張るには十分だった。



「ガアアアアアア!(働けや!)」

落とし穴を埋め立てた跡の上で泣いている雌ゴブリンどもを蹴り飛ばし一喝すると、渋々ながら動き始めた。

彼女らが嘆くことで集団全体の生存から遠のいていくのには耐えられない。一体どれだけのゴブリンがこの重要性を分かっているのだろうか?


そうしてようやく動かせた労働力を使って前回とは比べ物にならないほどの大掛かりな罠を組み上げることができた。


落とし穴に被せる蓋はゴブリン二体の体重でようやく割れる程度の板を用い、

土属性魔法を駆使して掘った穴の底には腐食者スカベンジャーであるスライムを忍ばせた。


足元には細い糸を張り、木の枝のしなりを利用した罠や槍衾(やりぶすま)も用意して万全の構え。






だった。




結果は惨敗というのにはひどすぎた。

罠は容易く食い破られ、集落に侵入されるまで5分もかからなかった。

さらに、【統率】で磨り潰す戦略をとるも、磨るためのゴブリンのほうが耐えられなかった。





心臓の鼓動がうるさい。


折れた腕を力なく垂らし、出血で滲む視界の中覚束ない足取りで進む。

【統率】でなんとか囮を用立てたものの、それもいつまで保つか。


―――なにがリーダーだ、無能共が下に着けば皆同じではないか。


どの瞬間に背後から襲われるかもわからない恐怖に、ヨナの精神は焼き切れんとしていた。

責任を転嫁することでせめて罪の意識から逃れようとしたのだが、彼らはちょうど他ならぬ自分が死地へと追いやったところ。罵倒しても虚しいだけだった。



―――くそ、ここまでか。


とうとう心臓の鼓動すらおかしくなってきたのを感じ、ヨナは口元で笑みを漏らした。


一番幸せになれるようにいくら策を巡らせても、魔法や武術の暴力にはかなわなかった。

あぁ、なんと愚かしいことだろうか!

知恵をいくら巡らせようが、ゴブリンは人間には勝てないのだ!


なぜ生まれからこんなにも絶対的な壁が生まれているのだ。

戦闘能力のない自分が恨めしい。ステータスという壁に気づけなかったのが悔しい。もっと上手くやれず、ゴブリン達を殺すしかなかったのが悔しい。


こんな言葉を知っている。「あとの祭り」。


それでも。



悔しい。



悔しい!悔しい!



悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!!!!!!





「うあ、あああ…ああああああああぁぁぁああああああぁぁあああ!!!!」

立っているのもやっとだったはずが、いつのまにか仰向けに倒れていて、固い土の上で苛立ちを紛らわすように腕を振り回していた。


骨折した左腕が思い出したように激痛を訴えかけてくる。


ぱたり、と文字通り無駄なあがきをやめ、空を見上げた。

日が暮れ、空には赤い月が一つに、幾千もの細かな光の粒。それらがヨナを物言わず見つめている。

それを見上げていると、涙が湧き出て、耳へと伝うのが感じられた。



悔しいけど、やれることはやった。

もう、これでいいじゃないか。



―――本当に?



いいさ。もう、死ぬのはわかってるんだから。



―――それでいいの?

幼い子供の声が、2度目。



ああ、とうとう幻聴まで聞こえ出したか。


それにしては妙だ。

ゴブリンで見える光というのは人間のそれとは異なり、

全く光のない真っ暗闇であっても、獲物がどこにあるのかわかってしまう。


それを加味したとしても綺麗に空が見えすぎる。


出血多量で目が見えなくなってきていたのは、誰だ?



―――ようやっと気づいたね。



心の内を読んだような言葉だ。

そう考えると、



―――”ような”じゃなくて、実際に読んでるんだけどなあ。



その応えが返ってきて、思わず身をこわばらせた。

思考を読まれる。その恐ろしさを想像したからだ。



―――あ、心配しないで。君なんていつでも(・・・・)殺せるんだから。


声は幼児の声で歌うように続ける。



―――君たちの、前世での言葉だっけ、「杞憂」だよ。君の頭の中にある考え方(ハゥ・トゥー)はもう読めた。ここから先、どんなに努力しようとも、僕に思考は追いつけない。

君に期待するのはただ手駒としての役割だ。そのためにわざわざ助けたんだから。






―――悔しいんでしょう?自分ではできないことに直面して。やり返したいでしょう?人間に対して。そのために必要なことは何だってできるよね?一度は死んでるんだから。

なら、

魔族においで。    いや、来い!!



俺に、否やはなかった。


余りにバイオレンスな話を書いていると、時にはボーイ・ミーツ・ガールの甘々な話を書きたくなるのです。

その結果第一人称と第三人称が入り混じったのはご愛敬と許してくださると幸いです。



もちろん書いていく中で筆者の作文能力が上がってきたら、悪いところ適宜治します・・・


わたしにゃ多角的な文章は難しかった。


あとですが、唯一でてきた探索者パーティ名、『風の牙』でしたね。すいません、興味がn(ry

2秒で考えたから由来もなくて次の話書きかけてる時にはもう朧気だったなんて言えない。


はい、すいません。気づき次第直します。

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[一言] やっぱり魔族に勧誘されたか、そして【読心】スキルあるなこれ
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