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理系スライムは汚物の海から這い上がる  作者: 愚痴氏
第二章 現地種族との接触
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第90話 ゴブリンの罠



石畳以外の場所では地面の状態を全く無視した加速で魔物を片付けていった結果、総合的に他の追従を全く許さない速さで魔物を狩りつくして次の街に到着することができた。


対面通行のため、すれ違う旅人・通行人もいたが、返り血ゆえか、顔を歪められたのはご愛敬、といったところだろう。加速をフルに生かした殺戮で全身血まみれだったのだから、その印象も血の方に行っているだろうし、問題あるまい。その血も街の近くを流れる小川で洗うことできれいさっぱり・・・いや染みは残っているか。


試しに街の周りをまわってみると、感知圏内に街のかなりの部分を収めることができた。

その街の面積から考えても、街に住む人口から考えても前の街より小さい。

こちらの方が仕事などを探すのは難しそうだ。


そう考えて、敢えて街の中へは入らず、魔物を狩っていくことにした。





街の周囲に点在する畑。

それをぐるりと囲むようにして鳴子が設置されている。

足をかけると音が鳴るだけでなく、魔力的なバイパスを使用して街で暮らす人に危険を知らせる。さらには本来の入り口ではない場所から侵入することでも警鐘を鳴らす、マギクラフト社で作られた、2世代前の魔導鳴子・・・というものらしい。


というか、その効果を身をもって知らされることになった。

魔物を狩る中で、なぜか感知に引っかからないまま、鳴子の警戒範囲に踏み込んでしまったのだ。


「ほんとうに、知らなかったんだな?」

「えぇ」

「ったく、仕方ねぇな。ちゃんと道に沿って行動してたらこんなこと起こらねえんだぞ」

「申し訳ない」

「次からは、気を付けろよ?」


というわけで、畑の前で軽く絞られていたところだ。



現在感知で総合的に判断している判断材料は、魔力感知と全身の振動覚と統合した聴覚をメインとして据え、さらにゴブリンの目をモデルとした視覚を補助感覚としている。


それらの感知で全く違和感を感じず、存在を知ってすら感知には引っかからないとなると、そこそこ厄介だ。それですら2世代前というのだから、マギクラフト社の技術力は馬鹿にならないということだろう。


外側から見る限り、そのマシーンはただの直方体に糸が伸びているようにしか見えない。

軽く外装を叩いてやり、反響具合から密度や空洞などを探ってみるも、あまり芳しい成果は上げられなかった。


ただ一つ分かったのは、鏡をいくつも利用していることからおそらく光学系を利用しているだろうこと。


ゴブリンの目には見えない光を利用しているのだろう、視覚でも全く捉えられていない。


さすがに非破壊検査ではこれ以上どうしようもないので、今度購入して分解(バラ)す時に調べるとして。


ふと再び感知に引っかかった獲物を仕留めるべく、狩りを再開することにした。

幸運なことに、群れで行動しているらしい。


が、明らかに何かから逃げているような動き。

いつでも離脱に移れるよう注意し、森や荒野にぽっかりと空いたにタテヨコ揃えて整備された区画を暫定的に畑とみなして避けながら接近を始めた。



だが、追うのは途中でやめた、

何から逃げているのかわかったからだ。


人間、大の男が10人程度。

おそらく自分と同じ探索者なのだろう、革鎧やローブなど、一人ひとり異なった防具をつけて、ゴブリン達を追い回していた。


当然途中で獲物をかっさらうなんてことは造作もないことだが、良心がとがめた。

獲物だけかっさらうなんて非道な真似できるか、と。


―――もちろん、漁夫の利の由来となった故事みたいなことになれば話は別だ。

魔物同士で争っているなら、争っている間に両方とも狩り殺してしまえばよいのだから。


というわけで人間の魔物の狩り方、ゴブリンの足でなんとか人間たちとの距離を保つことができる理由に興味がわき、両方を感知圏内に収める位置取りを続けることにした。


そうして観察していると、集団としての質の違いに気づいた。

人間たちは明らかに個体間の能力差が大きく、かばう動きが一方向的に見られたのだ。また、かばわれる側の人間はそもそも体力自体がなってないのだろう、もはや顎も上がり、肩で息をしているのがよく分かった。

せっかく詰めた差もそこで引き離されてしまうらしい。

魔銃だろう、銃弾が散発的にばら撒かれるが、有効射程距離ではないことや、走っていて態勢が整えられないことも手伝ってなかなか当たらない。


ゴブリン達は互いにかばいあい、よく見れば代わる代わる負担の大きいしんがりが入れ替わっているのが分かった。動きすらも大まかには同じで工場生産か何かの様な画一性を感じさせるものだった。

言葉で意思伝達もなしに、画一的な能力を生かして負担を一定にしようとするゴブリン。

逆に引き離してしまわないのか、とも思ったが、常に群れの先頭に立っているゴブリンがたびたび振り返っていることで納得がいく。


わざと(・・・)、距離を開けないでいるのだ。

そのことが何を示すか。

答えは簡単、ゴブリンに何か策があるのだろう。


地上・地下を問わず精査してみると・・・ちょうど数本生えた樹の間、進行方向に細い糸が張られていた。

ゴブリンばかりを見ていた探索者たちはちょうど首あたりにあたるよう調整して張られていた糸に気づかず・・・


「「え」」

「グえぇっ」

「つっ!!!」

血しぶきが空を舞う。


先頭を走る探索者たち数人の首に食い込み、あるものはその命を絶たれた。

残された探索者たちが息をのむのがよくわかる。


「罠だ!ゴブリンとの身長差を利用して罠が仕掛けられている!」

「そんな!ザック!」

「くそ!!仇はとってやる!」


そうして勢いを無理やり抑え込まれ、罠を警戒して走らざるを得なくなった彼らだが、罠はまだまだ続いている。


「気を付けろ、ゴブリンとの身長差に気を付ければなんてことはない!」

うーん・・・事実ではあるのだが、その先にある罠まで読み切って言っているのか?これまでとは比べ物にならない、かなり危ない罠が仕掛けられていた。


ゴブリン達が小さい森に入った瞬間、何かの合図を出すのを見て確信する、ここで止めをさす気だ、と。

この後の展開はさすがに予想することも容易い。

さらに移動して、ちょうどいい位置取りに着いた瞬間と、探索者たちの残りが森に入るのはほぼ同時だった。


茂みを通過するタイミング。


「のわっ?!!」

瞬間、頭の高さが拳3つ分ほども沈む。


足が断ち切られたわけでも、物理的に身長を縮められたわけでもない。


何の変哲もない、子供でも時間をかければ掘ることのできる簡単な悪戯の一つ、落とし穴。それを少々大きく、さらに意地も悪くしただけの何のことはない・・・罠だ。

そんな子供だましに引っかかってしまったのも仕方ないといえば仕方ない。

目線あたりを警戒することとなった彼らは、つい足元もおろそかになっていたのだ。

ゴブリンとの体格差は身長における違いだけではなく、体重などにも違いがあるのを気が付かなかったことも大きい。


まるでホームア〇ーンを丸パクリしたかのような流れは、いっそすがすがしい。


だが、そうして広げられた意識の隙間を突き、何かが塗られた槍をもって探索者に襲い掛かる5体もの伏兵は、決して公共放送には出せないような結果をもたらすことになるだろう。



ここまでもすでに予見済み。


でも、と心の中で呟く。


ここからは私のターンだ。


空中に撒き散らされる高魔素と、地面を伝う振動。

高い魔力をはらんだ高魔素により脈打つように動く空気とストンピングで起こした振動は、探索者、伏兵ゴブリン両方の動きを瞬間的に鈍らせることに成功した。


その間隙を逃さず、茂みに突入。

落とし穴にはまり、その下に敷き詰められた泥濘から引きずり上げ、戦闘の邪魔にならないように放り投げる。


泥から魔力感知で反応があり、おそらく同族(スライム)が入っていることが分かる。

それも罠に含まれると考えて間違いあるまい。



ついでに少々武器も拝借する。

なぜ抜きやすい長さの短剣を、ストッパー的なものもなしに正面に柄が向くように取り付けているのかわからない。


近接戦において敵に武器を与えるようなものだ。

普通、というには常識がないことは自覚しているが、柄は後ろ方向を向くか、太腿の向きと同じになるよう調節するものだと思っていた。



それはそれでおいておくとして。


右手、順手に取った短剣と左手でゴブリンの突き出す槍の穂先を除け、態勢を低くしたゴブリンの、ちょうどいい位置(・・・・・・・・)にある頭を少ない動きで蹴り砕く。


しかし伏兵は5体、手足は2本ずつ。

軸足にした左足は動かせず、さらには魔法を使いかけているゴブリンもいるとなると手数がとても足りない・・・本来なら。


氷属性魔法で出した氷で左の指先をコーティング。2本目の槍先を掴み、持っていたゴブリンごと振り回して伏兵を弾き飛ばす。


振り落とされたゴブリンは狙いをつけるのも面倒なので顎を蹴って黙らせ、


上半身の動きだけを用い、アンダースロウで放った槍は樹の上に控えていたゴブリンの目を貫く。


訪れる静寂。

槍を持ち直した伏兵は、いまだに士気が下がっていないらしい。



身体の操作に集中していたため一時的に失われていた、

『音』を感覚から音へと再び落とし込む感覚。


「ガアアアア!!」

僅かにゴブリンの表情筋に変化があり、声にも怯えが含まれていた。

「グギャア!!」

「ぐげふ!」


それに応えるように残りのゴブリン達も声を上げ、

一斉に両手で構えた槍を突き込んでくる。


そりゃあ、怖いものなア。


そう心の端で同調しつつも、

氷属性魔法を使用、氷で覆われた両手で毒塗りの槍先を捌き、カウンターで頭を蹴り砕いていく。


流石に3体では味気なく、数合もしないうちに勝敗は決したのだった。

ホームア〇ーンの泥棒たち、ほんと不死身。

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