第89話 ナンパ
あけましておめでとうございます。
ブクマ・感想ありがとうございます。
街道をゆくと、次第に感知圏内にはいる魔物も魔物の足跡も増えてきた。
流石にこちらがガンガン速度を上げて引き離しているにもかかわらず、いつの間にか隣やすぐ近くに表れる私のことを訝しんだのだろう、馬車から声がかけられる。
「お姉さんお姉さん、何をしているんだい?」
「ん?ああ、魔物狩りだ」
「ここら辺低レベルの魔物しか出ないでしょう、高レベル者がやらなくてもいいんじゃ?」
・・・しまった。
組合の説明を受ける限り、レベルごとに受ける仕事は分配される。
低レベルの魔物を狩るのは当然低レベル者の仕事だが、低レベル者には相応の動き・身体能力というものがあるのだ。それを全く考慮に入れずに目立たないことのみを心掛けていたが、出せる速度が低レベルとは思えなかったのだろう、高レベルの人間だと勘違いされたらしい。
しかし、どうしても出てきてしまうであろう、身体能力とレベルの乖離について何も言い訳を考えてこなかったわけではない。
「これでもレベルは20にもなってないんだよ。生まれもって特殊スキルがあるだけでね」
そう。
ステータスの問題は、生まれついてのスキルで身体能力を向上させている、とすれば、誤魔化すことができる。
実際はスキルの重ね掛けだが、一見したところで違いなど分かるまい。
生まれ持っているスキルが云々、という話をしても、うらやむことはあっても聞いた人間がフィードバックすることはできない。だからこそ”生まれ持っている”と言えるのだし。
ここで踏み込んで聞いてくるのはただの野次馬根性か、情報に価値を見出して聞き出そうとしてくるかの二択だろう。
そもそも論として、ステータスという存在があるがゆえに他者との能力的な差も大きく、前の世界よりも個人主義が発達しそうな土壌が形成されているのだから、能力向上の理由となるスキルについてプライバシーの概念が芽生えてもおかしくはないのd・・・
「へぇ、なんてスキルですか?」
手綱を操りながら、会話に御者が割り込んでくる。
訊いてくる奴、目の前にいたよ。
「教えられません」
「またまたぁ~、勿体ぶっちゃって~。本当は言いたくてたまらないんでしょう?ちゃっちゃと教えてくださいよぉ~」
御者殿の口元は大きく弧を描いている。が、髭もじゃのおっさんがやってもなあ。
まあ、
うぜえ。
柄にもなく、そんな感想が心中に生まれる程度には鬱陶しかった。
「教えられるもんですか。低レベルとは言え、探索者という、肉体強度が問われる職業で明かすわけがないじゃないですか」
「えぇ~?そこまで言っておいて~?」
「そりゃ、生まれ持ったスキルは真似できないのがほとんどですから」
真似して肉体強度を上げられないのに聞いてなんになるのだ、と暗に言ったわけだ。
「それは逆に、言っても問題ないってことになりますよね?マネされたら困るわけだぁ~」
そう煽ってきやがる。
「はいはい、そうです真似されたら困ります。そういうあなたは何でそこまで執着するんです?」
「もちろん、面白そうだからぁ~」
はあ。こんな野次馬に使った言葉の分エネルギー返してほしい。
そう思っていると、さらなる追撃がかかる。
「よく見れば、お姉さんすっごい美人さんじゃん!胸はうっすいけどお~、お尻とか最ッ高じゃね?ねえねえ、街に着いたらウチに泊まってかない?」
はあ。ナンパの類かしらん。
「とりあえず言っておくが、そんなんで釣られる女性ってまあまあいないぞ。やり直せ」
あ、敬語も消えちゃった。だけどまあ、いいか。どうせもう二度と会うこともないし。
その言葉を最後に、前まで馬車を引き離していた時の倍、速度を出して、走り抜けることにした。
生まれてこの方、ナンパの類など受けたこともないのだから離脱を一旦試みるのは最善の選択肢と言えるだろう。三十六計逃げるに如かず。
踏み込む脚力を強めた結果、石畳の一部が軽く沈み込む。
石畳を構成する石材ではなく、その下の土の層が圧力に耐えきれずに体積を縮ませたのだ。
空気をかき分けるようにして踏み出した一歩は全力には程遠く、しかし加速度的には及第点。
得られる推力を最大限生かすため、重心をはじめとして体勢を維持し、かつ踏み込む足は静かに。
「えっ・・・えぇ~~」
ドップラー効果でさらに声が低く聞こえるのを感じながら、前へ。
しかし、感知で感じる相対距離の開きが小さく・・・いや、むしろ縮まっている?
魔力感知に大きく感あり。ということは、何らかの支援がかかっているとみてもよさそうだ。
何だこいつは。
さすがにこの重量でこの速度以上を出すと石畳の方にダメージが行きそうだから出したくないのだが、
「ちょっと待てよぉ~」
躊躇している間にまたもやドップラー効果のせいか、心なし高くなった声を聴きながら追いつかれてしまった。
動力源はどこに?
曳いている馬を見れば、うっすらと脚部が光を帯びて見え、魔力感知もそれに反応している。
大体魔法のせいだと思うのだが、いつも私が魔法を使うときにはこんな光なんて出ていない。それにこの魔法らしきもの、明らかに効率が悪い。馬自体が身体強化されている感覚に慣れていないのがまるわかりだ。
考えてみれば当然の話だ。
まあ、魔力を使用しているのだろうが、そのエネルギーが光という形で漏れてしまっているのだから、実際に使われているエネルギーはより少なくなっているとみて間違いない。
そして馬のほうも、身体強化をいきなり足のみに付与されては、同じ感覚で踏み出しても馬車を引いている分、足以外の箇所に負荷をかけられるに等しいので、その負荷に加えてその調整等にも意識を割かれてしまうこととなり、一層疲労がたまるのだろう。
それらの理由に加えてなぜ常時このバフを使わなかったか?と考えると少し落ち着くことができた。
何らかの、ステータス的な理由か、精神的疲労etc.の理由で常時発動はできないと見込める。
馬の息が相当上がってきているのが分かったので、ストーキングが終わるのも近いだろう、そう思えた。
そうした限界も近い馬を一顧だにせず、御者のおじさんは続ける。
「いや~速いね!ところで話の途中で逃げるってどう思う?」
「ハア」
「話の途中で立ち去るなんて許されない行為だと思うんだよね!」
「へえ」
「そんな許されない行為をしてきたき・み・はぁ~、どうやって落とし前つけるつもりなのかなあ?」
そこまで追いついたことが凄いことか?底が知れる。
いい加減ちょっとばかしイラっとしてきた。この速度なら、見ている人もいなかろうと、少し脅しを加えてそれで引くなら良しとするか。
「おい、馬車の中の人」
「・・・」
返事がない。しかしまあ、構うまい。
「殺って構わないな?」
声を外向け用から変え、高身長ゆえの低い声に切り替える。
同時に封じてきた高魔素を放出。
火属性魔法を全面展開して、御者の両眼球から1センチほどの距離に一つずつ固定、さらに首などに周を描くように火の針を軽ーく、突き立てる。
「ひぃっ・・・つアっ苦!!?」
声を反射的に出してしまったせいで首が動き、さらに食い込んでしまったらしい。訓練してスキルレベルを上げた今、火の小さな針とはいえ、皮膚をじっくり灼くには十分すぎる代物だ。
速度を変に落とすと首に食い込むことを察したか、バフは維持されたままだ。速度が下がったとしても、筋肉まで焼くくらいにとどめるから日常生活に支障はないはずだが、ダメージを受けることを怖がっているらしい。
「黙ってろ、雑魚が」
流石に殺すのは後処理が面倒くさいので後腐れの少ない痛めつけをした。
「これ以上はやめてください!」
ん?
「一応訊いたはずですが?あと、躾はきちんとしておいてくださいよ。」
「うちの者が大変失礼をいたしました・・・魔法を解除していただけませんか・・・」
もう苛めておく必要もないか。
ただ、
「馬に無理させたせいで息も絶え絶えだ。魔法を使っているのだろうが、無理させるなよ」
そう言葉を残して魔法を解除。
バフを解除し、一瞬バランスを崩すと共に速度を落としていく馬を尻目に、現状の速度を維持。
魔物狩りに戻ることにした。
ナンパなんてしたこともされたこともないから、実際どんなものなのか知らないんだよなあ・・・
ということで「ホントはこうだぞ」なんて思っても流してください、分かりません。




