第87話 とある巣と棄民
ブクマ、評価ありがとうございます。
グロはないが、陰鬱。
あえてクリスマスに合わせて、どうぞ(ゲスイ顔)。
街道というのは例えるならば国においての血管。必然人通りが多く、ゴブリンにとっても簡単に餌や女を得られる優良な繁殖地足りえる。
必然ゴブリンの巣は加速度的に膨れ上がっていくのだが、それと同時に、人目を集めてしまう関係上、討伐も加速度的に受けやすくなるという弱点も持つ。
流れのゴブリンリーダーであるヨナは、その点において革新的な対策を示した。
家族計画による人口調整だ。
この時代において、人間社会の中ですらできていないものを、規模が違い、あるスキルの助けを借りたとはいえ、一つのゴブリンの巣においてできたと言えば、その凄さがわかるだろうか。
ただ、それでも生命力の強いゴブリンなので数は必然増えてしまう。
それを抑えるために、群れを完全に二つに分離することにした。一つの群れを小さくすることで数の暴力と引き換えに、隠密性を獲得したのだ。
もっとも、ゴブリンリーダーたる彼が自分の身を守るため戦力・サバイバル能力を不均等にしないはずがない。群れの中でもヒエラルキーも高く、戦力としてカウントできる者を軒並み側近として奪った結果、残った群れはロクに戦えない者となってしまった。
これは棄民政策と言って差し支えないのだが、それを認識するものも、指摘するものもいない。
ステータスにINTの欄があるように、一定の知能を付けるには一定以上のレベルが必要なのだが、戦力外の彼らにはそんなレベルには到達しているはずもない。
・・・もちろん、必ずしもINTがそのまま知能というわけでもないのだが。
本来の住処から遠く離れた、平原のより街道に近い場所で申し訳程度の干した人肉や、壊れた女を与えられた彼らは、やりたくもない仕事を押し付け、食物の殆どをかっさらってしまう上位者がいなくなるということで喜んで、行きとは比べ物にならないほどの速度で去っていくのを見送った。
計画性など欠片も考えていない200匹ほどの彼らはその干し肉を空腹が訴えるまま思う存分食らい、壊れた女で初めて犯し、そして殺して肉を食らって―――――
そこから彼らの地獄が始まった。
生育も早く、子供に至るまで一定以上の戦闘能力があるとうわさされるゴブリンだが、生まれた時からずっと大人のゴブリンの戦場など見たこともなく、ずっと戦場からは無縁の細かな作業に従事し、上位者に分けてもらうことで生きてきた彼らに家づくりや狩猟、罠、隠遁などの技術や本能が身についているはずもなかった。
なによりも、200匹もの大人数で行動するすべをもっていなかったため。
「グゲエギャギャ!ギャッギャジャグゴゲア!ぐぎゃ!(俺の肉食ったろ!もうこんなところに居られるか!抜けさせてもらう!)」
「グギャ!(勝手にしやがれ!)」
いざこざが生じること多数。集団はさらに分裂し、仲の良かった4つほどの群れに分裂することとなった。
それでも平均して50匹という数の力を利用して街道を暢気に歩いていた一人旅の旅人を殺したりするものの、それにかかった犠牲者数は大きく、その減った頭数を考えてもその肉の量では全員の腹が膨れるはずもなく。
さらには意図せずニンゲンに返り討ちにされ、命からがら逃げだし、平原のグリーンウルフどもを追い払い。
そうして食べられるものもなく数と腹を減らし、死んだゴブリンすらも餌にしていきつく先は。
「ぐが!?」
湿った音を立てて、剣が振り下ろされる。
仲間であった、強い絆で結ばれていたと信じ込んでいたゴブリンは突如後頭部に打撃を加えられ、地に倒れ伏した。
その獲物に対して、ゴブリン達は刃筋を立てるすべを知らないまま、剣や棍棒の殴打を繰り返し、死に至らしめた。
「グガー!(飯だー!)」
そうして出来上がった肉の塊に対し、狂ったかのように群がるゴブリン達。
餓死したゴブリンや、たまに捕まえられる獣の肉では到底足りず、とうとう生きている仲間のゴブリンすら糧とするようになったのだ。
咀嚼音が平原にむなしく広がる。
しかし、この生き残り作戦が成功するわけもなかった。
仲間が敵に変わりうるため、いつ背後を取られるかもわからない。
疑心暗鬼にかられる状態でこのまま集団が維持できるわけもなく、段々と瓦解し始め、一匹、また一匹と群れから外れるものが現れ始めた。
外れていくゴブリンは狩りでの能力が高いものが多く、残った群れの狩りの精度はさらに落ち、餓死者はさらに増えていくこととなった。
そんな群れの地獄は突然終わりを迎える―――――ゴブリン達の死という形で。
平原なので見晴らしもよく、街道の方からナニカが近づいてくるのはよく見えていた。
しかし、憔悴した見張りがそれを知覚しきる前には目前に迫っていた。
「グギ!(敵だ!)」
その言葉と同時、見張り役の首が宙を舞う。
「おやおや、ずいぶんと眼窩が落ちくぼんで」
これまで狩ってきたニンゲンと比較してもかなりの偉丈夫の、しかし女だ。
全身からゴブリンの血臭を漂わせた死神が、武器を持たないにもかかわらず、首を刈り取った。
それを見て応戦しようとするも、まず相手の動きが目で追えないのだ。
全滅する以外の未来はなかった。
ゴブリンの低い視点からの視界では、人間とはかなり目視による索敵は異なってきますよね。
彼らは無能ではないが、職能として別のことに特化していたから生存においては無能同然だったのです。




