第83話 儲からない。
ブクマ、感想ありがとうございます。
それを感じたのは日暮れから数時間後。真夜中である。
魔力感知でのその感覚はどうも目新しくて、意識を外界に向けた。
場所でいえば組合の建物周辺、地下だ。
通常の生物・魔物が放つそれとは異なる、完全に無機質なリズムで脈動するように放たれる気配。聴覚には引っかからないのでおそらく無音なのだが、それもまた異彩を放っている。
少し考えたところで、一番ラクな一手を打つことにした。
即ち、無視。
人間の世界の常識に疎いのだから、十分なリサーチ前の干渉はリスクでしかないのだ。
一夜明けて組合前。
夜明けとともに身を起こし、人の移動が多少落ち着く、昨日訪れた時間帯まで、ぶらぶらと彷徨っていた。
その喧騒から、ある程度噂程度の情報もつかむことができるため、一石二鳥だ。
組合の扉を押し、空気が少し変化したのを無視しそのまま一直線にちょうど空いていたカウンターへ。
組合長のおじさんはいないらしい。
ブラウスに黒ベストという、シックな服を着た女性の受付係員に、ゴブリンの耳を糸で通して束ねたものとライセンスを渡す。
「常設クエスト、完了した。」
束を見て目を丸くしながらも、
「それでは確認させていただきます。」と笑顔を崩さずに答えてその数を数え始める。
聞いておくべきことがあったんだった。作業に移ろうとする係員に、尋ねる。
「ちょっとすみません、子供のゴブリンは大人のと同じなんですか?」
「えぇ、そうですよ。成長速度早いですからね、アレは」
そう言って作業を開始した。
その間に遠目ながら道具屋の商品を調べておく。いつもこちらを見つめてくるバーテンダーがいないため、心なしか視野が広くなっているようだ。それでもこちらをちらちらとみてくる人がいるのが気に食わないが、気にしたところで今は服を替える余地がない。
しかし役立ちそうなものは少ない。それも当然だ。10mは軽くありそうなロープも、あの細さでは十分な強度を発揮できず、身体を支えるには足りない。
ナイフと、鋸くらいは使えるか。解体用の物であって、武器としてはあまり使えないだろうが、それでも。
数え終わったらしい。振り返ると、
「他のクエストは、受けていらっしゃるのですか?」という質問。探索者というのは、一度にいくつもクエストを受けることができるらしい。初耳。
「いや、そのクエストのみだ。」
「そうですか。では、少々お待ちください。」
そう言って彼女は、席を離れ奥の扉をくぐっていった。
もう取り立てて興味の惹かれるものもない。瞑目し、脳内(?)の情報を整理しておく。
主に組合内での権力構造だ。組合に入った以上、その権力構造と無関係ではいられない。うまく立ち回って利を得られるとは到底思えないが、迷惑を避けることや、予測することはできる。見たところ、組合の係員の間での争いは起きていないようだが、多少なりの確執は上層部では起きていることが分かっている。
少なくとも、組合長と、バーテンダーとで諍いがあることは間違いない。聴覚を利用して聞いて回ってみてはいるものの、残念ながらその情報を発している人間の人となりを知らないため、情報の確度が怪しい。
これで体表の汗の変化まではかれようものならうそ発見器まがいもできそうなものを、そこまで情報処理能力を高められていないのが実情だ。凡才なのが恨めしい。
ついでにシミュレーティング。私なら権力闘争で上司を蹴落としたい場合、どうするか。
まず思いつくのは傀儡。うまく取り入ったあと、腹心の部下として上司に出入りする情報を制限してやることで暗愚として操る。責任を押し付けて追い落とす。
次に思いつくのはクーデター。ひそかに戦力をため込み、一気にその首を狙う。
とりあえず思いつくのはこのくらい。
これらで、上司と対立していることを自分から見せることに何のメリットもない。
というか、追い落とす相手に警戒された時点でかなりアウトな気がする。
警戒されてまで得たいものとは何か?
その脳内での問いに答えが出ないまま数分が過ぎ、
「お待たせしました」
係員さんが戻ってきた。
「こちらが750レイとなります。」
トレイにしぼんだ巾着袋を乗せている。
「どうもありがとう。」
早速巾着袋を手に取り、手に中身を出してみる。
中から出てきたのは銅貨が3枚と、銀色の硬貨が2枚。2枚は明らかに造形が異なる。
うん、硬貨でどっちが高い価値を持つのかすらわからない。そして銅貨の価値が、レイ、だったか?
そう、何レイになるかで大きく変わってくる。まあ、大した額ではない。こんな誰でもできるのは儲からないのは市場原理があるから仕方ない。
そそくさとトレイをひき戻し、列に並んでいる次の人を呼ぼうとしている彼女に恥を忍んで聞いてみる。聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥、というやつだ。普通は貨幣の価値を聞かれたら不審者扱いをするわけだが、元々不審者とみられている節のある私ならば、今更問題とならない。
「申し訳ない。この硬貨の金銭的な価値を教えてくれないか。」
途端に彼女は嫌な顔を隠さない。そりゃあそうか。次の人を呼び掛けたところだから。仕事の邪魔をして大変申し訳ない。
「大きい、銀色の硬貨が小さい銀色の硬貨の5倍、銅貨の10倍の価値があります。」
それだけ言うと、ふい、と顔を後ろの列に向ける。
これ以上の会話を拒否してくるのには少しむっとはするが、十分な情報は得られた。
つまり、大きい銀色の硬貨が500レイ、小さい銀色が100レイ、銅貨が50レイということだろう。
わざわざ小さい銀色1枚分を銅貨2枚分に分割してくれたのは少し気になるが、この情報を実地、すなわち買い物で確かめれば問題ない。
列に並んでいる人たちに会釈をしつつ、そそくさと立ち去る。こちらの裸足の足元をじろじろ見てくる人間もいたが実害はない、完全に無視する。
扉を抜け、目抜き通りから街の中心部にある噴水へと向かう。噴水を中心として放射状に道があるため、噴水には人が常に多くいる。
必要なものは接近戦用のナイフなどの刃物類、鈍器でも可。それに魔銃の弾。余裕があれば衣服やタワーシールドなどの大型の盾も欲しいところだが、それらは流石に買えないはずだ、懐的に。
魔銃の弾の補充がてら、相場の値段を見ておいて、そこから魔銃をゴブリンに対して使うか決めればいいか。
人の流れの中を、体の接触がないよう気を使いながらすり抜けていく。レベル15なのに巌のような硬さを誇っているのは流石におかしいからだ。それでも奇妙な動きに見えるのだろう、人の目を感じる。
そうして目抜き通りを歩いて行き、噴水のすぐそばの銃を象った看板。
その看板を下げている店の扉を押す。
できる限り安いと嬉しい。
通貨単位やっと出せた。




