第79話 行方不明者の帰還
門番前。
「『風の牙』なんて有名どころがお前なんかと知り合いなわけないだろ!」
「いや、実際知り合いなんだが。アリスが呼んでいると連絡してくれたら」
「そんなことで探索者の負担を増やしてられるか!」
身元を証明できる人間がいる、いないで話しが揉めてしまった。
結果、『風の牙』が門をくぐって出てくるまでの数日を口論して過ごす羽目になった。
お役所仕事なので仕方のないことなのだが、両方ともに得をしない。
「でさ、まずレベル上げにさ、そろそろダンジョン踏破したいんだが。・・・げ。」
楽しそうにこれからの展望をかたっていたのに私の顔を見た瞬間、嫌な顔をした彼らを訝しんだ門番が声をかける。
「お知り合いで?」
「・・・ああ。お前なら門番を殺して入ってくるかと思ったぞ」
後半は私に対して向けられた言葉だ。以前の言動とは全く異なる、攻撃的な言葉。冗談の一種であるだろうことは間違いない。だが、そこまで仲が良くなったという記憶は全くない。
その裏にあるのは何だろうと考えを巡らせると、おのずと答えが浮かんでくる。
「失礼な。それぐらいの良識はわきまえている」
風化した記憶などが原因の一端を担っているのは間違いない。そして、虚栄心、敵愾心のようなものもあるのだろう。
疑いの言葉はもう、気にしない。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとはよく言ったものだが、バイアスがかかっている人間の疑念はどれだけ言葉を尽くしても晴れない。根源は違うのだから。
「それで、街から出てきたということは何かの依頼を受領したんだろ?」
「そうだ、察しがいいな」
「終わって戻るまで待つから、門番殿に入れてくれるよう口ぎきしてもらえるか?」
「ああ、そうだな。ケルン、入れてもらえるか」
「そ、そんな・・・こんなやつが知り合いだなんて・・・」
どうやらケルンとかいう門番は知り合いらしい。
「それじゃあな」
依頼に向かう彼らに手を振り、
「30銭、だったか?」銅貨3枚を取り出し、門番の手に押し付けて門をくぐる。
あ、そうだ。
「そういえば、組合に登録する際にかかる料金はどれくらいだったっけ?」
振り返って問いかける。
「ああ、銅貨5枚だと聞いている」
「それと、古着屋はないか?」
「ああ、それなら・・・」
快く(?)教えてくれた。
流石にぼろっぼろの衣服では可哀そうだと思ったのだろう。
情報料とか言ってせしめることもできそうだが、それをするには持ってなさそう、と。
残りの銅貨は3枚。
衣服を買う代金を考えずとも足りないな。
他の貨幣も持ち合わせているが、足りるだろうか。こちらの貨幣事情では大まかには
化学変化を受けにくく、また物理的破壊にも強い金や白金、その他希少金属がそのマジョリティーを占めているらしい。
・・・普通は貨幣には使用されている金属以上の価値を付けようなんて考えないもんな。
現代日本で1㎏のアルミニウムは大体400円で買える。1円玉一枚作る原材料がアルミニウム1gであることを考えるとそれだけの付加価値が現代日本ではつけられているということになるのだ。
こちらでは金属なんて重い物を通貨に選んでいるあたり、その付加価値が小さいということになるから、基本的には希少価値の高いものはそのまま通貨として利用可能、という考えでよさそうだ。
そうなると、拠点作成時に精製した、純鉄などのインゴットで足りるだろうか?
どうも空気中の水分や酸素に触れたせいか、風化が始まっている節があるので価値の減らないうちにうっぱらってしまいたいものだ。
周囲の眼が少々不審者を見るソレになっているのを感じるが、全くの無視を決め込む。
そうして向かったのは教えてもらった古着屋。
店内に入る。
「いらっしゃいませ!何をお探しですか?」
店内にいるのは女性店員1人だけのようだ。周囲の人間が顔を歪めるほどの人間相手にも笑顔。プロだ。
「すいません、これでちょうどいい服、上下を見繕ってもらえませんか。」大きい硬貨1枚と、銅貨全てを渡す。
ファッションには疎い、金銭も心もとない、ということでその女性に全部お任せすることにしたのだ。
「ではこちらの試着室へどうぞ。」
結果は。
「・・・なんじゃコレ。」
着たのはシンプルな白シャツと黒目のズボン。肘や膝の生地が薄くなっていたりする以外はまともだろう。
だが足首や手首が完全に露出し、裾も短くまた肩幅が明らかに合っていない。胸?もともと関東平野、真っ平らだ、問題ない。腹周りや腰は、痩せている関係で完全にダボダボなのだが。これは胴回りを優先すべきか、手首などを覆う方を優先するべきなのか。
「これ以上のサイズは?」
店員に聞いてみる。だが、返答は芳しくない。
「それ以上のサイズは女性用では・・・」
なるほど。これまで感じていた違和感にようやく気がついた。
この女性店員をはじめとする、これまで見てきた完全な人型の女性はすべからく私より身長が頭1つ半は低かったのだ。
要は、この身体は女性とするには大きすぎた。ということだ。
「では、男性用で見繕ってもらえますか。」
なら、男性用で探してもらうだけだ。この肉体は女性型の骨格をベースとし、筋肉の付き方も女性型にしたてているものの、それはもともと魔物の警戒を緩めるために過ぎない。そこから肉体を弄れば再び間合いなどの調節が必要になるのでそのままの状態においているだけで、女装趣味があるわけでもない。
それを言うと、女性店員が少し不機嫌そうな顔になった。妙な言葉を発した覚えもないのだが。
「そこまで綺麗な身体しているのに、勿体ないですよ!」
・・・それは確かに。これでもそれだけ造形にはこだわった。
「だが、実際問題、懐は氷点下なので。二度手間をかけさせてしまい、申し訳ないが。」
流石に彼女も身銭を切る気は無いのか、首肯する。
2回目の試着。
こちらは黒い、余裕を持たせたズボンに襟なしのぴっちりしたシャツ。膝など関節部には当て布がされている。見た目からして、そう、貧乏くさい。
が、今度は袖丈や裾の長さもぴったりで、ちょうど良い。
肩関節・股関節・膝関節などの四肢に加え体幹部もぐるんぐるん動かす。
やはりある程度の角度で限界がきた。服が突っ張る。
破かないようにすぐに元に戻す。人の目に触れるとき限定で着るようにしなければすぐに破いてしまいそうだ。
その支障のない可動でもまあ、日常生活には支障がない。
「ありがとう。これはちょうどいい。いくらになる?」
何やらドン引きした目の女性店員に向ける。
「えぇ、あ、はい。お釣りはこれだけですね。」
変なものを見る目をしつつも、硬貨1枚だけを差し出してくる。
この服にそれだけかかるのか。
もったいない気もするが、必要な出費だと諦めつつ、お釣りを受け取る。だいたい、服は高いのだ。
「では、この外套はどうなさいますか?」
「ああ、それは一応もらっておきます」
「わかりました」
「それじゃ、見繕ってくれてありがとう。」
礼を言って、通りに繰り出す。
次に向かうべきは小銭の補充。
カンカンと騒音を響かせ、魔法が金属に込められる場所。
鍛冶場だ。
ひとまず入り口から、小間使いをしていると思しき少年に声をかける。
「もしもし」
「あん?」
「鉄のインゴットを買い取ってはもらえないか?」
そう言って1キロほどの小ぶりな純鉄インゴットを取り出す。
「あー、うちは専属で売買の契約をしてるから受け取れないんだ」
えー。どこかの金属の業者の寡占ということか。先進的だ。
「わかった、ありがとう」
鍛冶場などでは買い取ってもらえないとなるとより上流、金属の仲買人に売ればいいだろうか。
そうなると、金属を扱うとはいえ魔法などの込められていない純粋な金属類、鍛冶場のように騒音を鳴らし続けるわけでもない場所を探し当てるのは至難の業だ。
振出しに戻る、か。
組合の方で買い取りする業者がいないか、聞いてみるのが一番いいだろう。
周囲の眼が前よりかはマシになっていることに満足し、進むことにした。
標準体型から外れると着る服がないのはどの世界でも同じ。
あと成熟した業界に参入すると村八分喰らうのも同じ。
世知辛い




