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理系スライムは汚物の海から這い上がる  作者: 愚痴氏
第二章 現地種族との接触
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第74話 未知の存在X

ブクマありがとうございます。

逃げ出したのに、溶解液による追撃はなかった。

それでもあちらの射程圏が分からないので街の近くにまできても警戒を解くかは微妙なところ。



しかし、ここでさらに問題が一つ。

街にたどり着いたはいいものの、身分証も、その代わりとなる金銭も全く持ち合わせていないのだ。

見た顔の兵士が門番をしているのでともすれば、通してくれるかもしれない。

が、ほぼ顔見知りにも満たないような人間に対して行うほどの厚顔無恥でもない。


どうせあの戦闘で死んだと思われてるだろうから、あのパーティに別れの言葉は必要あるまい。普通人は、呼吸が何時間もできなければ死ぬ。


もともとあんな場所で遭遇するなどとは想定していなかったせいで装備品や金銭の代わりとなる魔石などもっていない。

こうして一度装備類や金品を整えるべく、街を後にしたのだった。



とはいえ装備類は、現状ほぼ必要ない。

武器の扱いにも慣れていない状態で、高ステータスを誇る現状、どうしても武器で相手を害するよりも武器が壊れないかということに意識が行ってしまうからだ。

となると簡単に、かつ動きの精細さが必要なくとも効果を発揮する武器はただ1つ。飛び道具だ。

いわゆる牽制用、ということだ。


槍投げ用の短槍を氷で作るのもアリだが、もうちょっと近代的な装備のアテがある。魔砲だ。


飛び道具は装弾数など不安が残るものの、戦力リソースの外部化と言う見方から見ても有用な兵器である。

魔法などと違って放ってからの形の維持まで行う必要がなく、引き金を引くだけで攻撃を繰り出せると言うのだからそれはもう恐ろしい。命中させることを中心として考えるとすれば、弾丸の質量と反動、弾道計算の速度からみて連装砲(ガトリング)を始めとする機関砲の方が得意なのだろうが、アテとした魔砲はボロいの一言に尽きる代物、期待してはいけない。実情はどちらかというと、(けん)は銃よりも強し。おそるべしステータスシステム。


ついでにデータリンク内に保存されていた、魔術兵器用の弾道計算の方程式を弄って銃弾の軌道計算に最低限の機能だけ持たせたモノへと変貌させていく。要はダウングレードに等しいが。


その過程で気づいたのはコリオリ力の存在。


地球において、自転の存在のため、キロ単位で見てようやく目に見えるほどの小さな、しかし命中に大きく関わる力がかかっていると見ることができる。この見かけの力がコリオリ力だ。

方角によってベクトルの異なる力がかかる、というのはこの地面が移動し続けているということとニアリーイコールである。元の方程式がこの世界に順応しているから間違いはなさそう。

つまり、地動説。地動説は、日周運動やこの地上が球体であるという説の傍証たり得る。


それならば万有引力の法則に始まる天文系の法則の存在可能性も高まってくるというものだ。

ニュートン力学だけでは説明できない、マクロな物理に対して手が届くかもしれない。



そんなこんなで本体の埋められている周囲を警戒しつつ、近づく。大方の貴重品はここに埋めていた。

つけられていないことを目視その他で確認したのち、地面から薙刀に始まり、棍棒などの武器が生えてきた(・・・・・)。乾いた土壌のため、地面に埋めても物品の劣化は少ないと考えていたが、結果はこの通り、薙刀の柄には虫が住み着き、皮鎧などかなり痛んできている。どうやらここらの微生物は強いらしい。


そんな侵食されつつある武器に強度的な心配をしつつ使うのも面倒、土に還ってもらうことにした。

金属鎧はまだ強度的な信用はおけそうだが、何分この大柄の肉体には少し小さすぎる。

地面にいつのまにか転がっていた袋を覗き、中身の魔砲二丁と魔石数百個、そして通貨何枚かを確認する。ずっと本体の知覚下にあったので本来見るのも必要ないのだが、念のため。


これだけあれば、なんとか城門通過の交渉材料がわりにはなるだろうと、鎧諸共突っ込んでしまう。

通貨の価値は一応わかっているのだが、それと魔石とのレートがわからないのであまり信用はできない。


やるべきことは大体終わったのでものはついでと、この本体の場所を移動させるための予定地を思案していると、知覚範囲内にそれは現れた。



見たのではなく、『知覚した』というのは、それが地下からの反応だったからだ。

岩盤を掘り進め、ウネウネとアメーバ状に移動するその粘体は、紛れもなくスライムである。

だが、それにしては微妙に魔力反応が濃く、また動きは普通の動物レベルには高く、地下を進むにしては距離をぐんぐん詰められている。そしてそれが十数体。


何事かと見れば、そのスライムの辿ったルートは、殆ど以前の脱走に使ったルートであった。

わざわざ分岐も辿っているというのか。


これが何を指し示すかというのは確証はないのだが、少なくともスライムの性質としてこうも迷いなく地下の穴をたどっていく、というのはこれまでの観察からすると異例である。それが同時多発的とくれば意図がなくては成立しない。


またその速度、さらにその速度を最大限に発揮するような動きはただのスライムと見ては痛い目にあう。

速さと知能を上方修正して考え、必要な道具その他を集めて、仕掛けを軽く施した後本体と共にその場から逃走することにした。



逃走をわざわざ選んだのには訳がある。

一つ目はその速度があまりにもとろく、水平距離でも垂直距離でもかなり離れているため、直接相手が近づくまで待つのが面倒だという理由。

二つ目はこちらの掘り進めてきた穴を進んでいる関係上、相手の動きなどは手に取るように読めるため、直接相手せずとも、倒せるという理由。

三つ目はその選択した倒し方の場合、高重量の肉体が地面に乗っている状態では思わぬとばっちりを受けるかもしれないという理由だ。


少し移動したところで、スライムが地下に掘られた横穴の終着点に到達した。


…まさかとは思うが、これがいつか杞憂かもしれないと考えつつも怯えていた外敵ではあるまいか。

そうだとすれば、相当に拍子抜けだ。そんなことをさらっと思うまでに精神的な余裕があった。



最後のひとピースを組み込む形で起動したのは地下に描かれたとある魔術回路。

これまで魔術回路を用いてエネルギーを高魔素の形に変換していたが、その魔術回路自体も高魔素から構成されるのだから、それ自体が魔術回路を動かす燃料たり得る。


その魔術回路のもたらす効果は、自爆。


自爆なんて術式は一般的に防衛戦とは逆の方向性を行くものだが、ある条件において、一致することがある。それは、敵と味方の立ち位置が防衛戦におけるそれと全く逆の場合。すなわち、敵こそが城の中にいる場合だ。

三国志で語られるとある戦において、もぬけの殻の城内に敵を誘い込んだのちに火矢などで包囲殲滅する戦術を使ったものがあるのを彼らは知っていただろうか。

地下側に向かって総合的な爆風のベクトルを与えられた地下通路は、呆気なくスライム達を巻き込み崩壊する。

その余波は指向性をもってその下の地盤を貫通する。


スライム達は全滅したとみてよいだろうが、念入りに殺してしまったほうが良い。


地下千メートル以上の深さまで掘ってしまうと、何が出てくるのか。

それを如実に表していた。


どんな地面にも雨がきちんと降る限り、地下水が流れている。


そんな地下水は地下深くに流れているために高圧を常に受けている。

その通路に穴を開けるだけで。


ゴゴゴゴゴ…


音が離れていても伝わってくる。

この深さでは水がここまで吹き上がってくることはないが、少し浅いだけのスライムの通路を蹂躙するには十分な勢いがあったようだ。


水流で魔術回路の残骸も洗い流されていることだろう。地上部分の魔術回路を物理的に破壊したのち、立ち去ることにした。いくらなんでも悪意のある編成だから、裏で操作しているものがいても不思議ではない。というか、さすがにその疑いが強すぎる。

その割に高魔素で構成される魔術回路や、直ぐ近くを地下水脈が走る事にも気づかず、その即応性を上げるための追加要員もいないなど、粗が目立つが。

そんな中途半端な技術力・注意力では一方的に殲滅されるばかりだろう。


これまで地下に刻み付けることで情報の形で保存してきた資料は既に私を構成するスライムに表面構造として刻み込まれているため、持っていく必要もなかった。

実質的に増えたモノは、銃器と魔石、使えない金属鎧とあとは入れ墨の入った皮膚、金銭がちょびっと。

この紋章とも何とも言えない代物はおいておくとして、


「ちょうどいい置き場所(きょてん)を見つけないとな」

本体となるスライムを腹のうちに抱えたため少々出っ張った形となったそれを撫でながら思う。


できれば火山の近く。それはすなわち地震・噴火とはオトモダチになることを意味し、地下により気を配らなければならないということである。

だが、高山植物や食虫植物を雑草と同じ環境下に置けば瞬く間に駆逐されるように、そんなニッチな生息環境では競争相手の数は少ない、ということも言える。恵まれない生息環境に生きるのはいつだって弱者だ。

第一にそんなマグマという自然の武器が近くにあるのなら、ちょうどさっき行ったようなトラップも組み放題なのだ。


探知能力では精査するのは2キロが限界、だが精度さえ甘くすれば、20キロ、30キロ先の1000m越えの山などを感知することは容易だ。


いつものようにサキュバスどもにお土産を持っていったら、拠点探しの旅としゃれこむとしようか。



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