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理系スライムは汚物の海から這い上がる  作者: 愚痴氏
第二章 現地種族との接触
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第72話 悪手

ブクマありがとうございます。


地上から見れば接地すらままならない状況での、超重量級2体の戦いはとても滑稽であったろう。

半径5mほどの円状に、石など欠片も残さず砕かれ、柔らかくなった肉片交じりの土が踏み込みを悪手へと変じさせるため、体重移動すらままならない。足払いをかけてしまえば起き上がることもできず沈みながらの戦いとなった。


それでも特別長い腕を持つ三つ口の巨人はその腕を利用してなんとか胸まで浸かりながらももがいて踏み鳴らされた地面を目指し、『泳ぐ』。

翻って人間の中ではかなりの長身だが、巨人の前腕部より短い身長の人型はもはや体のどこの部位も見えないほどに沈んでいた。


それでいて戦いになっていたのは、魔法の存在と不定形の肉体ゆえである。

巨人が得意とする炎の魔法。それが断続的に土を焼いているのが地面から吹き上がる炎でわかる。

地上からはそれと知れることはないが、溶解液や氷属性魔法を無効化すると同時に搦め捕ろうとする触手を重い泥の中なんとか振り払おうとしているのだ。


さすがにオークなどとは格が違い、硬いし、速い。与えた傷もすぐに塞がる。


氷属性魔法を火属性魔法で無効化し、火属性魔法を魔素の砲弾で食い破る。

もちろん肉弾戦の波状攻撃により体力を地味に削ってはいる。地上から見えない状況であれば、髪や脚を元のスライムの触手にしても、その手数を頼りにして下半身を中心に攻撃を行い、行動を阻害するのも何ら問題ない。氷属性魔法と一緒に焼かれもするが、無視できる程度。


これを延々と続けられるのは、継戦能力こそが集合体たる自分の強みだと知っているからだ。高等な生き物であればなんでも、睡眠をはじめとした休憩を必要とする。


こちらはスライムが数万、数十万も集まった集合体なのだから、髪や手足をスライムに戻して巨人と拮抗し、同時に何十もの魔法を行使したといっても手数的には大幅に手加減(・・・)することになる。

精々が筋肉700個を超えず物理の手数が少ない、また拮抗できる程度の魔法しか使わない一体の魔物相手にはそもそも、存在からしてオーバーキルだ。それこそ、何かのチート(ズル)でもない限りはこの差は埋まらない。


さらに言ってしまえば、偶然ながら肉片が大量に入った、空気を含む柔らかな泥はスライムにとって、消化しやすい優秀な栄養補給剤となると同時に浮力のため、触手を伸ばす手助けとなる。


超重量級と超重量級の戦いと見せかけて、全体的に継戦能力や有利な条件の点で大きなアドバンテージを持つ集団(region)と一個体との戦いとなったわけだ。そうしている間にさすがに手に負えないと判断したのか、『風の牙』はどこかに去った。救援なぞ出されて勝ち戦を邪魔されるのは甚だ不本意なところなので、早期に決着を付けたいところではある。


その結果、13時間も経てば分泌していた溶解液により泥もろとも溶かしこまれることとなった。異変に気付いたか、巨人は大きく苦鳴をあげ、もがくその足が魔法の炎で覆われ、溶解液が蒸発する。

どちらにせよ、火を通した溶解液はその消化能を失うので仕方ないのだが、炎の中を身を焦がしながら、逆に拘束を強め、血管内部に滑り込ませる。


内部に侵食したスライムは食いちぎった栄養を利用し増殖。下半身の血流・関節をふさぎ動けないように、かつ血やリンパなど流れる液体をそのまま食らう。

そうすると変化はすぐ訪れた。


身体が痙攣し、頽れる巨人。

身体を高速で巡る血液が減少し、出血によるショック症状が引き起こされたのだ。

本来であれば食い破られた血管などは即座に塞がれるのだろうが、その材料である血液から食らっているので、関係がない。


死んではいないものの力を失った巨人。一息にまとわりつき、神経を雷属性魔法を使って灼くと同時に、筋肉を千々に引き裂き、再生した端から喰らいつき、引き摺り込んで溶かしていく。


こうして、まさしく捕食されていっている状態なのだが、それにしては肉の味が薄い(・・・・・・)

まるで霞を食べているかのようだ。スライムに人間でいう味覚は存在しないので、正しく表現するとすれば、肉に含まれる栄養分が低い、ということだ。


再生能力がある生き物の肉に含まれる絶対に栄養素が低いか、といわれると決してそんなことはないのはオーガの巣で遭遇した再生能力のある個体の例が示している。とはいえこれまでの例が少なすぎるので断言しようもないが。


そうしていかに捕食するか。どのような抵抗が考えられ、それらをどう潰していくか。

詰将棋のごとく追い詰めるばかりで盤上にないものの存在を忘れていた。



ジュワアッ

「!!??」


何やら液体らしきものが高速で飛んでくるのを認識し、巨人の身体を引き込む速度を跳ね上げるのと、

巨人の胸部に液体の弾がぶつかるのはほぼ同時だった。

液体は白い煙を上げながら、巨人の胸部を溶かして貫通し、泥沼のふちに穴をあけた。


貫通した穴は胸部を食いつぶすように広がっていき、

溶かされていった結果、物言わぬ死体はその上半身のうち首、両腕が胴体から分離させられ、重力に従って泥に沈む。液体は溶解液の類だろうか。


飛来元は、黒いもや(・・)。そういえば、炎で氷を溶かされた時も、徴候を見ることはできなかった。

感知域が半径2kmほどにもあるため、大方の行動は予測可能だと思っていたが、魔素の動きや筋肉の硬直も読み取れないような大きな予測不能要因はこんな近くに転がって(?)いたのだ。


もやから引き離して戦えればよかったのだろうが、偶然にも有利な状況を作ってしまったがゆえに、その場所に固執してしまったのが大きな原因だろう。


溶解液に触れるのも困るので触手を戻して手足や髪を再構成する。少々余るが、余剰分を収納する箇所ならいくつか残っている。


さて、件の溶解液だが、こちらのそれと同じであるという仮定で行けば魔法の炎や氷により無力化することが可能のはずだ。

問題はもや(・・)。これは他の攻撃手段を隠しているとも、また新たな魔物が生まれるとも限らない。

何しろこれまでのように魔力感知が通じず、ノーモーションで攻撃をはじめられる点で圧倒的に優位に立っているのだ。


もやが未だ移動する気配を見せないことから、動くことができない、もしくは渋っていることが救いだろう。


つまり撤退は比較的容易。

食べられるかもわからない代物を相手どるほど暇でもない。

そう算段を付け、そろりそろり、と沼から這い上がる。


びくびく、びっくんびっくん脈打ち始めたもやを背に、一目散に逃げだした。

はやく近接戦闘にまで持ち込みたい・・・

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