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理系スライムは汚物の海から這い上がる  作者: 愚痴氏
第二章 現地種族との接触
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第71話 シュレッダー

ブクマありがとうございます。

『風の牙』が『風の刃』に変わってました。申し訳ない。

一般的に、硬いものは脆いとされる。形状を変化させ得るほどの力を加えた時、そのまま形状を変化させる性質、すなわち靭性に欠けるからだ。

ではその靭性というものは、物理的に破壊され、小さくなった場合は?

この場合は上昇する。形状を変化させるにはそれ相応に大きくなければならないのだ。


ここで話を戻すが、氷属性魔法というのは、一部物理を逸脱する氷を生み出すものだ。その逸脱とは、強度面。氷属性魔法の氷は一般的な物理的外力で壊せず、魔法ではない熱では溶けない。

つまり相当に硬い。

では、無数の細かな氷属性魔法の氷を組み合わせて、1つの氷塊を作り上げた場合、どのような相互作用を生み出すだろうか。



もやの周囲には多種多様、ゴブリンにオーク、よくわからない鳥類らしきものに巨大な甲虫や、もやをそのまま千切ってきたような、真っ黒な不定形もいる。


試しに氷属性魔法を手のひら大で使うが、魔法が立ち消えする様子もない。

これなら、いけるか。


音もなく創造したのは氷の檻。中心をもやとする球形に、目を細かく組まれた特殊構造のそれは、魔物たちを地面もひっくるめて一息に囲い込む。

だがその内部の空間は膨張する魔物の群れでどんどん奪われていく。

「おい、そんなもん無理だ!さっさと逃げよう!」

我に帰ったらしき、剣士だったか、ロニーが近寄って来て言うものの、策はまだ尽きていない。むしろこれからだ。シカトをかます。


そうして満杯になると、奇妙なことが起きた。鳥類がついに飛び立ち、檻を構成し、翼の先端が支えている氷の柱に触れ、同時に裂けた。

「ギャース?!」鳥類にあるまじき鳴き声を上げつつ墜落する鳥は、犇く魔物の間に入り込んでいき、やがて、見えなくなった。味方に踏み潰されでもしたのだろう。

奇怪なことはまだまだ続く。魔物が氷の柱に触れ、そこに沿って傷が走る。

驚き、避けようとするも、閉鎖空間に逃げ場所はない。内部から生まれて来る魔物に押され、自然魔物の肉体は押し付けられる形になり、やがてシュレッダーにでもかけられたかのように物言わぬ死体となって押し出される。


これは、氷の柱に細工を仕込んでいたため起きたことである。

一見氷属性魔法の1回で作られたように見える球状の檻は、実は柱ごとに別々に作られている。さらに言えば、氷の柱すらも細かな氷の欠片、大きな欠片が組み合わさって出来ていて、魔法による氷特有の脆さを全体の「しなり」で補完しており、また内側に向かって尖った形状をしている。


いわば、氷でできた鉄の処女(アイアンメイデン)だ。原作と違うのは細切れの肉を逃がすための網目が無数に存在しているから悲鳴がずっと響き続けていることと、その概形か。

またその分細かな氷の欠片が魔物の衝突ごとに壊れていくので常に状況を把握しなければならないあたり、効率よく殺せているとは言えないが、だいたいの能力、戦法を封じたうえで、見た目『人のできる』レベルの魔法はこのくらいだろう。

剣士の晒している間抜け面と、肉片の網目から噴き出す様相を眺める。


ただこれの残念なところは受け身的に魔物から突っ込んでくるのを待つための物なので、魔物の群れがその場に留まってしまえば全く効果を発揮しないこと。全滅させる手段としてではなく、勢いのある雑魚を手早く葬る手段に過ぎないのだ。


そうつらつら考えていると、もやの魔物が網目の隙間から出て来た。

不定形魔物の代表格、スライムは不定形とは言うものの、核までは不定形ではないのだが、この魔物は本当に不定形、もしくは核の大きさが小さいらしい。魔石の存在があるから、おそらく後者だ。

足を一歩踏み込み、宙を舞う。空中に逃れようとする、手のひら大よりわずかに大きい魔物に追いすがって、手で虚空を掻く。


核がどこにあるか目視できないため、狙いが外れたか。だが。

氷属性魔法で周囲の空間も含めてまるごと凍らせる。

一般的な生物や魔物は生まれの関係上、魔素を多く含む物質そのものを通過することは不可能なのだ。

地面に降り立ち、飛行能力を失ったのだろう、落ちて来た氷塊を手で受け止める。

しばらく蠢いていた魔物だったが、手から分泌した溶解液で氷ごと溶かしてしまったら、4分の1も溶かさない内に動きを止めた。そのまま吸収してしまう。


スキル【空中浮遊】を得ました!


やはりスキル持ちだった。このスキルは名称的には空中機動を可能とする代物なので、大切に育てていきたいところだ。



また段々肉片が飛び出す速度・頻度がともに落ちてきたため、本物のアイアンメイデンよろしく網目状の穴に合わせて氷の球の半径よりもわずかに短い棘を打ち込みどんどん止めを刺していく。


しかしそれだけではない。全ての穴に挿入したのち、ミキサーの如く檻そのものを回転させる。だがミキサーと違い縦ロール、横ロール、斜めまで自由自在に動かせて、しかもミキサーで言うブレードの数も段違いだ。。地面に半ば埋まっていたため、土が掘り返され、砕かれる音、魔物の苦鳴、肉片の散らばる音などが響く。


ミキサーよりも残酷に、しかし効果的に虐殺を行う。このローリングはミキサー同様、完全に詰まっていては効果が薄いため、中身が増えていくタイプには適さない。段々復活してきた『風の牙』のメンバーが近寄ってくるが、まだ安全が確保できていないのだ。振り向かずにしっし、と追い払う動作をすると逆に近寄ってきた。

どうしてだろう。


壊れていく氷が少なくなって来たことから十分ミンチになったと判断し、氷の棘を外してやると、内部から泥に混じって白い破片やピンクの破片が出て来た。

さらに内側、もやをちょうど覆う氷の檻を作ってしまえば、外側の檻に用はない。完全に解いてやれば、氷に付着していた泥や肉片が落ちて来た。

新たな魔物は即座に切り刻まれ、肉片として生まれる。


「おいおい、あそこまで切り刻むことはなかったんじゃないか?素材が採れないじゃないか。」ロニーはもう、まるで魔物の発生が終わったかのような口ぶりで言う。

「再生能力がある魔物もいたかもしれないからな。安全第一だ。それに、運搬出来るもの持ってないだろうが。」失神したり呆然としているしかできなかった者に口をはさむ権利などない。


それより、と続ける。

「まだ後続で、これを突破してくるやつがいるかもしれない。安全確認が取れるまで逃げてろ、そこの伸びてるやつら引きずってな。」

「・・・ハッ!随分と下に見られたもんだな。こんな嬢ちゃんによ。」

だが、そう言って全く耳を貸す様子がない。


注意はした。あとは知らん。おそらく彼らを制圧したときにリーダーを盾に脅したことでも根に持っているのだろう。


そうしていると、やはり、というべきか1分ほど魔物の発生がなくなったかと思うと、魔力感知に感あり。もやから炎が噴き出す。全方位に撒き散らされる火の粉に氷が触れるや、氷は霧消した。

火属性魔法だ。


だが、それに対する方策はいくつも考えられる。

高魔素を指先に集め、放出。

強い魔力をもつ魔物程、発生は遅れる傾向にある。高度に圧縮させた魔素は放出してもすぐに魔物へと変化することはなく、魔物や生物、そして魔法や魔術を破壊する汎用性の高い道具足りえるのだ。


この距離では外すことはあり得ない。そう確信をもって放った魔素のビームはしかし、障害物の発生により命中しなかった。


それを防いだのは巨大な右腕前腕部。前腕だけで2mあるだろうか。そんな腕は魔素の砲撃にもかすり傷程度であった。明らかに危険。


「じゃあな。」

『風の牙』に向けて呟きながら、大きく踏み込む。と同時に地面が大きく揺れる。

次の瞬間、大きく風を受けながらも地面を吹き飛ばして飛ぶ(・・)。スキルは使用していない。

当然向かう先は巨大な右腕。あれはぜひとも食べたい。たべたい。食べタい。


ちょうど出てきた右上半身。なぜか胸元に一つ、唇らしきものがある。左腕を手先まで伸ばして右胸を突く。溶解液も表面に展開したその突きは、その速度が触れた直後から急激に落ちていく。

ゆっくりと、しかし確実に沈み込んでいく指先に笑みを深める。


しかしそこまでだった。

巨大な右腕がその左腕を掴んで押しとどめたのだ。着地してさらに力を加えようとするが、緩い地面のせいで力が入らず、それどころか沈んでいく。仕方ないので指先に力を籠め、傷口に指をひっかけ、肉を指で掻き出すように掘り進める。そうすると、びくりと痙攣し、パクパク唇が開閉したら押し返す動きが強くなった。

右腕はそのまま持ち上げて放り投げようと何度も試みるが失敗した様子で押し返す方に切り替えたらしい。

なすすべなく押される。


そのまま押されていくと、右下半身、頭、左半身の順に残りの身体が出てくるが、地面に足をつけるや否や、沈み始める。私同様に相当重いらしい。足の長さは2mちょっとのようで、腕の長さが極端に長いようだ。

一つ目のフサフサ頭が出てくると、罵詈雑言らしきものがその口から飛び出すが、知らない言語のようで、全くわからない。

「「「・・・貴様かあああ!!!!!」」」

胸元にある二つの口と合わせて3つの口で叫ぶものだから、うるさい。

そして喋れるじゃないか。


「言い残すことはそれだけか?」

その言葉を皮切りに、泥仕合が始まった。


そんな簡単に物事進むわけない。いかせない。

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