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理系スライムは汚物の海から這い上がる  作者: 愚痴氏
第二章 現地種族との接触
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第66話 鎧袖一触

他の人が出てくると筆が進むといったな、あれは嘘だ。

向かってきたのでひとまずは安堵。


それにしても、怪しげな動きをしているが、再び起動させた魔力感知にきっちり映っているため、隠形的な効果は最初から全く見られない。まあ、動きと骨格から全員男性であろうことは察せられた。


そしてこちらに攻撃を仕掛けてくる瞬間を待ちながら、オークの装備で丈夫そうなものを選別していく。

攻撃の瞬間こそ一番警戒心の緩む時だ。


捕まえたら何しよう?やはり持っている知識の照らし合わせてはおきたいところだ。

あとは、うん、戦闘の体配など学びたいところなのだが、動きを覚えておくか。ひょっとすると、あの珍妙な動き自体がそれに当たるのかも知れない。


ひたすら待つ。もうすでに仕分けの作業は終わってしまっているから、余った革鎧などの革製品に細工を施してみる。その作業も触れた指先だけで完結するため、全く人目を憚る必要がないのは素晴らしい。


革という立体の内部を弄って海綿状の柔らかさにしたり、はたまた体内で行っているのと同様に魔術回路を作ってみたり。

強度を無視すれば、パズルのような感覚。失敗しても費用は掛からない。プラモとかの趣味と比べても気楽だ。




さて、集団のうち戦闘の一人、そのまさに襲いかからんとした瞬間。

高魔素を体表から噴出させる。含む魔力は全魔力の0.1%にも満たないが、母数が大きければ別の話。

そこに生じた隙を突き、立ち上がると同時に氷属性魔法で作った氷を展開して前方に足場、後方に100cm四方ほどの簡素な衝立をつくりあげる。


そして衝立にぶつかる男を尻目に走り出す速度で身体をひねりつつ足場を踏み込み、反作用を使って高く、天井スレスレまで跳ぶことで集団先頭の男を追い越して。


着地した時にはもう、新たに魔法を使う準備もほぼ終わり。

態勢を低くし、一人だけいるゆったりとした服装の男目掛け、這うように接近、と同時に魔法を使用。


氷の壁が男たちに迫る…なんてことはなく、ただ氷の壁が突き立つだけだ。

だが、一瞬であっても動きを抑えられれば十分すぎる。

すれ違いついでに男の腰に差さっていたナイフを引き抜きながら、正面から足払いをかける。


その速度を踏み出した足で無理やり抑え込み、軽く反転。体勢を崩した男の首に背後から腕を回し、持ち上げるように引きよせる。

そして、その首元にナイフを添えれば、立派な人質が完成する。人質となった彼も、峰を顎に押し当てると大人しくなった。重畳。

「さて、武器を捨てな。」


ああ、でも人質も切り捨てられれば何の意味もないのか。人質を取ってから気づいた。失策だ。



そうした不安をよそに、残った彼らはアイコンタクトを交わすと、手に持っていた武器、提げていたカバンを下ろし、武装解除しだした。どうやら彼はこの集団に必要らしく、人質的価値があるようだ。それでも警戒を緩めず、また警戒を露わにしておく。



やがて彼らのうちの一人から声が上がる。

「こっちは徒手になったんだ、武器を降ろしてくれないか。」

徒手?いや。

「全員懐にナイフとかを隠しているくせに」

そう言うと、表情がこわばったので、そちらに目線を向けたまま


ざく。


下顎の表面を走る動脈をピンポイントで切る。


「う、うわああああ!!」

手足をばたつかせるが、その動きには力がそれほど籠っているわけもなく、捕まえるその腕も微動だにしない。


「わかった、わかった!全部の武器置くから!!」

全く表情を変えることなく切ったことで今更恐れをなしたのか、声色を変えて叫ぶ。

おーらい。

ナイフを再び首筋に戻す。刃先はきっちり頸動脈への最短ルートのままだが。





感知で見る限り、手持ちの武器も、すぐにはワンモーション挟まないと手で取れない場所に言ったことを確認し、口を開く。

「さて、なぜなぜ私を襲おうとした?」


そういうと、人質が口を開こうとしたので、再びナイフの背を顎に押し当てて、物理的に黙らせる。どうやら人質がリーダー役だったようだ。丁度よかった。

それを見ていた、叫んでいた男が口を開く。ナンバー2といったところか。

「ああ、そうだよ。お前を襲うためだよ。」


・・・


「だから、この通りほぼ素っ裸の私には奪うようなものもないはずなんだが。」

「・・・。」


なぜか変なものを見る目で見られているが、続ける。

「そもそもここには氷で封がされていたはずだ。わざわざオークの巣に入ってくる理由が分からないんだが。」


そういうと、ちょっととぼけた顔をした。

「・・・いや、そもそもここオークの放牧場だし。」

誰からともなく声が上がる。


いや、そんなはずは。

否定の言葉を出しかけたが、口に出る前に再考することに成功する。

もし彼らの言が正しくて、オークを放牧している場所だった場合。


オークは言うまでもなく繁殖力において人間などの追随を許さない。

それを放牧?と言うことはオークを繁殖させて何か、そう肉などを採取するということだろう。それも大量に。

男しかいない集団。いきなり襲いかかってきたこと。ようやく納得がいく。

要は襲われる心配のない男だけでオークを収穫しにきたのだろう。


「オークを狩った件については済まない。」

だけど。

「だが、襲ってきた件とは話が別だろう。」

峰を強く押し当てる。ちょうど人質含め、6人いることだ。


人質が緊張しているのを感じながら、続ける。

「二人組になって、一方がもう一方にロープで相手の両手首を背中で縛れ。」

そこの鞄に入っているだろう?


そういうと、観念したのか二人組を手早く作り、縛り始める。そうしている間にもオークの内臓その他を食べさせていたスライム達を気づかれないように脱出させる。

1人あぶれた男には人質の両手首を前側で縛らせる。

余った3人でまた二人組を作らせることを2回繰り返すことで、一人を除いて全員の手首を縛ることに成功する。視た(・・)感じ緩みやすそうな感じもない。


そうして手首を縛られた人質を解放し、最後の一人の手首を縛り終えた後で、多少問いただす。

「ところで、オーク肉はこのままでは運べまい?」

「どういうことだ?」

「運搬手段、そうマジックバッグなどあるんだろう?ということだよ。多分あれだと思うが。」

そう言って一つだけ小さめな鞄を指さす。

あの鞄だけは強い魔力の反応がして、音響を利用して中身の硬さを調べることはできなかった。跳ね返ってくる感じがなかったのだ。

となると、なにかしら、そう、魔法ででも中の空間がなかったことに(・・・・・・・)でもなっていると考えられる。


「最初から何でも分かってるんじゃねえか。ああ、あれだよ。」

「そうか。」

何でもは知らない。知ってることだけ、と浮かんだセリフを打ち消しながら言う。このネタは通じないのだ。


まだ上等な革鎧を身に着けてその上からオークの腰布を上に羽織る。襤褸ではあるが、他にちょうどいいものもなし。

全ての鞄をなんとか肩にかけたりして運べるようにしたのち、

「お、おい?!!」などと焦った様子の声を無視してマジックバッグにオークの肉を詰め込んでいく。

入り口に持っていくだけでスルリ、と入っていくのでかなり楽。


助けを呼ぶ声がうるさい。

オークの巣全体から肉を回収したのち、男たちを多少無理に立ち上がらせる。

まだ余裕のあったロープで男たちの手首をつないで、気分はどこかの商人だ。


さて、キリキリ歩いてもらおうか。


ええ、マイペースながら確実にやっていきたいと思います、ええ。

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