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理系スライムは汚物の海から這い上がる  作者: 愚痴氏
第二章 現地種族との接触
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第65話 人との遭遇(生者)

洞窟内でのまず気にすることは何か。

3回ほど掃討を重ねていると、優先順位もついてくる。


出口はたった一つなのか。内部構造はどうか。

これが実力差のある場合最重要だ。罠も関係ない。一度、正面から攻めていったら、別の出口からわらわらと逃げられた。

もちろん追いかけて全部肉に変えたが。


というわけでセオリーに則って、見張っていたオークを悲鳴もなく殺した後氷属性魔法と筋力を用い、ひとつの入り口を除いてすべてふさぐ。


そして洞窟の中に入って内側から氷属性魔法で出口をふさいだところから殲滅の開始だ。魔力感知や聴覚における探知能力も極力排して、戦うことにしようか。


これまで入ったことのある洞窟より天井は低く、腕を上に上げると天井に手の先が触れる感覚がした。

部屋の数は6個。それもあまり大きくない。好都合でもないが。

手斧などの武装したオークが最初から向かってきた。が、天井にわずかながら頭がこすれており、リーチの短い武器を持っていたところでその軌道は限定されてしまう。アキレス腱を刈り、スライムや自分の武器で気管や頸動脈、脊髄などを切らせる。


やはりこの空間は手狭だ。この廊下のように続く狭い空間なんて、オークから見ても願い下げのはずだろうに。

なんでこんなところに住んでいるのやら。

まあ、何であれ、聞く価値もない。ただ、掘り進めることができなかった、という理由を仮定すると、壁に負荷を与えるのは避けた方がよいだろう。


とすると、

突き出された拳を掴み、それを支点として、変形させた脚による蹴りを胸部ど真ん中に打ち込む。


攻撃の運動エネルギーを全てオークと自分との間の運動の系で完結させる。


変形させた脚は廊下にいたオークども全てを抉るのには十分で。

足を戻し、そのまま前傾で倒れこんでくる死体を後ろに避けて、再び血の散らばる廊下を進む。

重量はどれだけ増加したのだろうか?オークの武装なども体重をかけるまでもなく簡単に変形し、意味をなさなくなる。ほとんど使えそうにない。


分かれ道に差し掛かる。両腕を変形させ分かれ道の先を進ませ、食らう攻撃も完全に無視して脳漿を散らす。

やはりただの作業となってしまっては、あの高揚は影も形もない。

とらわれていた人間もさっさと殺し、消化・吸収している間に、浸透させたスライムを使ってオークの肉体をできるだけ同じ場所にまとめていく。


そして、奥の小部屋で食べることのできない武装を解除していく。

斧なんか、ちょっと大きいが、重量的にはこれが最高クラスだ。2本の指ですらぶん回せる程度しかないというのに。投擲ぐらいがいいところだろうか。



氷属性魔法が炎で溶かされるのを知覚したのは選別しているその時だった。



~~~~


勇者様発案の、放牧をオークに応用した放牧場により王国の食肉事情は大きく改善された。

グラム単価という単位の導入や氷属性魔法の大々的な技術転用による冷蔵の魔道具の普及、これらによりその肉はより正確な値段で、より安全なものを、より安く入手できるようになったのだ。


俺達、『風の牙』は男性のみで構成され、オークを狩る事を国から請け負った対オーク専門の探索者パーティは毎週やっているようにオークを収穫(・・)しに、指定された群れの巣へと足を運んだのだが、

今週は群れだけでなく巣やその周りを取り巻く雰囲気が異なることを巣に向かう途中から察していた。


「音が・・・聞こえない」斥候役を担うライムンドがつぶやく。

そう、全体的にまるで何かに怯えるかのように息をひそめていたのだ。

明らかな異常だ。が、それならばなお一層向かわねばならない。安全性を考慮しなければならないが、基本的な収入の殆どはオークを狩る事で稼いでいる身だ、収入源がどうなるのか確認する必要性は十二分にある。


そうして指定された巣の洞穴に近づくや否や、あることに気づく。2mほどの高さのある入り口が完全に氷で封鎖されていたのだ。ここの不自然な氷の塊はおそらくは氷属性魔法によるものだろう。1年前の収穫ではあと2つ出口があったはずなのだが、それも見つからない。


数年前にあった事例を思い出す。それは新聞に載っていた、手傷を負ったコボルトの上位種、ハイコボルトによる薬草農園の襲撃と立てこもりであった。魔物が堂々と戦略を立てて襲撃し、水属性魔法を使った逃走経路を確立するなど、人間ですら難しそうなことをいとも簡単にこなしているという報道から強く印象に残っていた。


あの事例は一般化され、対集団戦の心得がある個体がいるばかりでなく、戦闘以外にも智慧を発揮する個体が存在する、と全ての探索者組合でその大元の事例も含めて公表された。もちろん安全性を第一に考えての配慮だ。


ともかく、この場合考慮すべきは出口を塞ぐだけの戦略と中のオーク達を殲滅できる戦力、そして氷属性魔法を扱うことのできる魔物だ。オークを狩っているうちにレベルを上げているとはいえ、決して油断できる相手ではない。たとえその推測が外れていたとしても、氷属性魔法がこれほどにまで使える魔物なのだから、警戒するに越したことはない。


パーティメンバーとアイコンタクトを行うと、頷きが返ってきた。どうやら立ち向かう相手の強大さを同じく想像しているのだろう。


意を決して火属性魔法を使う。魔法というのは物理的な外力にはめっぽう強く、氷属性魔法を外部からの力で解くには、火属性魔法が最も手っ取り早い。


それを行って集中している間、左右と後方をパーティで警戒してもらい、また氷を破った後いつ飛び出してこられてもいいように構えながら。魔法を扱えるのはパーティの中で俺だけだからだ。


全体的に堅い。使用する魔力量を増やして、何とか溶かし始める。

氷の壁にようやく穴が開いた時に漂ってきたのは鮮烈な血の臭い。オークどもはもうすでに死んでいるのだろう。オークの肉に夢中になっている隙に、早く殺してしまわないと。


氷に空いた穴を広げると同時に中を覗くが、穴のすぐ向こうから暗く、よく見えない。

しかし、魔力の感じからして近くにはいなさそうだ。


早く、早く。


人一人がようやく通れる穴をあけて、暗視能力を持つ斥候役のライムンドを先行させ、様子をうかがわせる。

その間にいざというときの脱出経路を確保すべく、穴を広げ、溶かし切ってしまう。魔法で構成されたものの一定の割合が破壊されれば自壊してしまうはずなのに、3割以上溶かしてもまだ自壊していない。


なんて強固さだ。こんな魔法はきっと、氷属性魔法よりも上位の魔法に違いない。また持ち帰るべき情報が増えた。根拠のある情報は組合に報告書として提出することでよい収入源となる。幸いにして腐らせない装備は持っている。死体をそれで運べば十分すぎるだろう。


氷を何とか人が並んで二人通れる大きさまで広げて、早速事前準備を整えていく。


氷属性魔法でなくとも、氷系統など基本的な魔法なら単純な付与魔法、『抵抗(レジスト)』で対処可能だろう。『抵抗(レジスト)』は火属性魔法・水属性魔法・雷属性魔法などにも効力のある、きわめて汎用性の高い魔法だ。

それに加えて暗視能力を付与する『暗視』をライムンドを除いた、自分含め5人のメンバーにかけている最中、ライムンドが戻ってきた。


焦った様子。しかし彼の状況報告により張り詰めかけた空気は弛緩する。

「美女がいた。それもすっごい上玉だ」

完全に男性のみで構成されたパーティ。サキュバスなどの魅力的な女性型魔物を見る機会も多いにもかかわらず、実際に触れる機会は皆無に等しい。

それは女性の見目に関する観察眼は否応なしに上がると言うもので、しかし実際には人間の女性に出会う機会自体が少ない。


要は全員数年ほど彼女なしということだ。


「お前がそこまでいうんなら…それで?」

パーティの中でも、斥候であるライムンドの女性に対する観察眼は特筆すべき領域に到達している。

あくまでも見た目だけだが。


「気づいた様子はなかった。190は優に超える長身だから、捕まえるのには苦労するかもしれないが、好き放題できるぞ」


そういわれると、俄然ヤル気が漲ってくる。それは皆同じようで、

「まずは背後から強襲かけて、うつ伏せで寝かせるぞ、いいな?」


「「「おう!!!」」」


とにかく男は単純なのだ。



〜〜〜〜〜


しくじった。人間がこちらにくることは予想していなかった。

一人集団から離脱して、単独でこちらに向かってくる。

魔力感知で見る限り、感触が違うので、自分に対する付与でもかけているんじゃないだろうか。練度が知れているのでおそらく押し負けることはあるまい。


そのまま接近したことを知覚していること、それを知らせないように意識して身体を動かし、オークの装備で丈夫なところだけ選り分けていく。



しばらく廊下から見つめていたかと思うと、身を翻し戻っていった。


逃げ出したら追いかけて捕えるし、追いかけてくるなら返り討ちにしてくれる。

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