第60話 化け物の戦い その2
あけましておめでとうございます。
多少危なかった。いや、これを多少と呼んでいいのかは判断が分かれるところだろうが。
気流の変化を肌で感じ取り、直前で貫通する場所に自主的に穴を開ける事で実質的には避けることができた。
持っているのは剣一本のみ。さらにその細い剣、レイピアとかいうやつだろうか?で肋骨の間から心臓を貫通させることを狙ったようで、、肋骨は傷ついていない。
人間でないことに気がついているのなら、人間の急所がそのまま急所となるとは限らないことに気がついても良さそうなものなのに。
そもそも本体が肉体を構成する個々のスライムであるからして、剣による刺突自体では個々のスライムを殺すことすら難しい。
それら全てを殺さないかぎり自分という個体全体には「死」は訪れない。
つまり、剣の一撃のみで殺すのはほぼ不可能。これは相性の問題だ。
考察を瞬時に終わらせ、対処に乗り出す。
筋群を動かし、剣を固定。同時に体に右回り、縦軸の回転を加えることで
その細い剣身を折ろうとする。
だが、それを予期していたかのように柄を手放され、折ることができない。
そのまま気配が再度消えるのを感知。
すると4分の1回転ほどしたところで、左脇に気配。ということはほぼ移動していなかった、ということか。今度は脚の付け根のため骨があり、その分避けることができない。
大人しく刺される。すると今度は左臀部の擬似脂肪や大臀筋などを貫通し、大腿骨骨頭と寛骨臼の境界部に突き刺された。
大腿骨骨頭と寛骨臼により股関節を形成しているため、これが阻害される事で通常は動かすことができない。そう、普通なら。関節の動きが阻害されようとも、筋肉で無理やり動かす事自体は可能だし、それによる痛痒もない。
そのまま左股関節に刺さった剣先を、筋肉と骨による力技ですり潰しつつ、軸足として右足で回し蹴りを放つ。
めきめきと、人体(?)が放つべきではない音を立てながら脇腹にめり込み、上向きのカーブを描いて吹き飛んでいく。
蹴った時の反作用、そしてその速度から逆算して、体重はゴブリン3体分といったところか。こちらと比べるべくもなく、圧倒的に軽い。
ふと考えているうちにまた気配が消える。その瞬間には足が地面についていないにもかかわらず、だ。
つまり、その移動法は空中にいても使用可能、ということ。
剣を何本も隠し持っていたり、瞬間移動に加えて空中でも発動可能とか、チートだこいつ。
とすると、こちらはさながら殴られつつも一発殴り返すいじめられっ子、といったところだろうか。
今度は真上。横へのロール運動で避けつつ氷属性魔法による攻撃。
しかしその姿は当たる前に搔き消える。インターバルが短い。
今度は真ん前、本当のゼロ距離。
認識する前に背骨が分かたれる。が、その剣が通り過ぎた直後から傷は埋まり、筋肉は再生を果たす。
ゼロ距離ゆえに、残った左腕と、右腕の肘から上を使って捕まえようとするも、覆ったと思えば、逃げられていた。これはキリがない。
長期戦の様相を呈し始めていた。
あちらの物理的な斬撃、刺突は全く効かず、しかしこちらの魔法攻撃や、殴打などは届かない。
いや、長期戦というのも実は違う。そもそもこちらは単騎。対してあちらは後続がいる可能性がある。でなければ、わざわざ出せる攻撃を絞って千日手に持ち込むものか。
こちらの攻撃を図っている可能性もあるが、その誘いには乗らざるを得ない。
状況を一気に変化させるのは戦力の集中。
2000体のスライムによる同時ターゲッティングと発射。つまりは単純に、その数を利用した弾幕だ。
チート(スキル)にはチート(物量)。
周囲にオーガが転がっているが、構うものか。そもそもかなりの高い再生能力があるのだから。
火属性魔法、氷属性魔法、雷属性魔法、水属性魔法で別々にターゲット…
今度は左側頭部を狙われている。が、頭蓋骨に、何も中には入っていない。そのまま受けると同時、頭をひねって刃を折りつつ、左エルボーによるカウンター。が、姿がかき消えて、空を切る。だがそれでいい。
発動。
火弾、氷弾、水弾、出たのは雷属性魔法以外、全てがただの弾。雷属性魔法はその性質上、速度が桁違いに高く、それが形を形成することは少ない。
それらがてんでバラバラな方向へと向かい、その先で消えていく。
それでもかまわない。もとより弾幕というのは費用対効果が極端に悪い。それでもそれに見合うだけの倒す必要性があると考えての判断だ。
どん。どっどどどどどどどどっどーーーーーーーーーーー
起爆音が連鎖し、まるで一つの音のように響く。
最悪、これで鼓膜も破れてしまいそうだ。
断続的にかつ狙いを弄りながらの弾幕は、乱数で調整されているためそこに規則は見出せず、瞬間移動を徹底的に阻害する。
着弾を音の差異から判別、とうとうくらってくれたようだ。
一回食らい、少し怯んだその間にどんどん弾や雷属性魔法がその体に当たり、弾いてその体力をすり減らしていく。被弾し続けている状態では瞬間移動が使えないということだろうか。
まあとにかく、相手側としては、新たな一手を投じるならここ以外ない。
がしかし、投じない。
そう、新たな動きを見せないのだ。
まさかあの一撃離脱のみが戦法というわけでもあるまい。
どうせこれで油断させよう、って魂胆だろう?知ってる。
攻撃にバリエーションを加えよう。
まずは火属性魔法の火弾を中核に、さらに間隔を空けて周りに水属性魔法、氷属性魔法で薄く水と氷の層を形成する。要は軽い爆弾だ。魔法爆弾とでも仮称しようか。
氷属性魔法と水属性魔法の違いの一つはその三態変化における状態が固定されていることにある。
その強度はスキルレベルや魔力に応じて異なるものの、状態は液体や気体といった流体ではなく、氷という固体の状態で固定されるのだ。
つまりどれだけ温度が高かろうと、基本的に同じ魔法以外の方法ではそれは溶けず、砕くしかない。
そして固体を使うならば話は簡単。
壊れやすい箇所をわざと用意する事で衝撃波の出口を一極集中、逆に威力を高める。
総弾数10。
次に、水属性魔法により形成されるレンズを利用した、光属性魔法の屈折。擬似的なオールレンジ攻撃だ。
鉛ガラスとかいうやつはガラスよりも屈折率が高く、また鉛がそのまま入っているはずなのに、透明なのだが、それと同様のことが水属性魔法の水でも起こせるかもしれない。まあそれはおいおい調べるなりなんなり。
こちらはより少なく、総弾数3。魔術で形成した水であれば、形の維持だけで済むのだが、魔法で作った水でないと、なぜか直進してしまう。
最後に、魔法爆弾をちょっと弄った、徹甲弾。氷属性魔法の氷の強度を利用し、貫通した後、爆発する事で内側から焼く。その特性上、魔力が湯水のように消えていくのはお察し。
総弾数は、予備の魔力を考えて、1のみ。
いささか心もとないが、なに、四肢切り落として食らえばある程度回復するだろう。
魔法で無双する日はいつになるのやら…




