第52話 魔物使役って戦力のバラツキを生じざるを得ない
権利を委譲されてから周辺状況を把握し始め2週間ほどが経った頃。ようやく賢者様により開発されたグレェーート・ホワイト・ブラッド・セル、略してGWBCが導入されることになった。予想外の早い仕上がりにマチルダは素直に喜んだ。さっさと終われ。賢者様万歳。
賢者様によると、そのGWBCのかたろぐすぺっく(?)とやらはWBCを凌駕し、特にAGIが従来の27倍、つまり3^3倍(なぜこれを強調したのだろう)はあるそうで、ついでに本来核だけが鮮血のように赤く、他の部分は無色透明だったはずが、核は固まった血のように赤黒く、それを覆う他の部分は紅に赤く染まっているそうだ。そこの説明がやたら長かった彼女によれば「速さが3倍なら、赤くしないとね!」だそうだ。正直言って何言ってるのかさっぱりわからない。
ともかく、移送されてきたGWBCのステータスを調べる。
名前:なし
種族:グレェーート・ホワイト・ブラッド・セル
Lv22
HP 727/727
MP 358/358
STR 81
VIT 38
AGI 958
DEX 17
INT 56
LUK 1
スキル 魔力感知Lv10(MAX) 状態異常耐性Lv7 身体強化Lv5 火属性魔法Lv7 水属性魔法Lv4 土属性魔法Lv5 魔力吸収Lv2 魔撃Lv10(MAX) 鬼化Lv3
称号 同族殺し スライムキラー
ちゃんと十分制御に置くことができる程度のステータスには留めてくれているようだ。ありがたい。
経験則から奴隷にしろ何にしろ、強制的にその行動を制御する魔法の難易度はその相手である生物のステータスのうち、DEXとINTに関係があると言われている。まあ高レベル者には効きにくい。
その魔法は高レベル者でない一般人一人操るのでさえ、一般的な国が抱える魔法使いのトップクラス、大体レベル70の魔導師が使える魔法のキャパシティのギリギリと、コストパフォーマンスが大いに低い。
つまり国家転覆のリスクも低く、レベル100オーバーの高レベル者を国で囲うくらいにしか国は関知していないが、それに類する効果をを発現させる魔道具などは現在賢者様一人のみが現在生産可能であり、人一人が簡単に数千、数万もの人間を操ることが可能なため、国で厳しくその生産からその流通、使用まで管理される。
さて、その魔道具『首輪』であるが、スライムの変異種であるGWBCに応用するために極限までオミット、小型化し、GWBCの核に埋め込んであるらしい。賢者様によればスライムというのは根本的に他の生物よりも本能に乏しく、極限まで「命を守るための機能」をオミット、摂食行動まで自ら行えないほどの制限をかけ、兵士がGWBCと感覚を同調させることで制御は完璧である、とされていて、説明を聞く限り多分大丈夫だとは思う。
だが、魔物を扱うという経験が軍の関係者にはゼロレベルで浅い。言うまでもなく、敵だからだ。探索者のギルドには魔物を操るテイマーも多数所属していると聞くが、それは魔法によりお願いする形で言うことを聞いてもらっているらしい。つまりは動作云々までは直接制御下に置けていないということだ。今回扱うように魔道具を用いた完全制御とは程遠い。
ましてや今まで現れたことのない、改造を加えた魔物、賢者様達によれば「セイブツヘイキ」の類を直接制御した経験のある人間など、この国にはいない。当然、ビクビクものである。
しかしそれは失敗しても責める人間が存在しないということでもある。基礎理論はすでに構築されているとはいえ、その生態が詳しく明らかになっていない、不定形の生物に埋め込むという時点でその本来の用途から外れかかっているのだ。「応用できる」のと「それが実際に高い汎用性を持ち使える」のとは大きく異なる。そんなわけでいわばパイオニアとしての仕事なので評価しようにも比較対象がいない。
結果が相対論で見られないというのは精神衛生上かなり楽である。
兵士達に操作方法をレクチャー、練習を経てGWBCの動作確認をきちんと済ませ、万一の時のための自爆装置も取り付けて、順々に7番ゴミ処理槽に空いた穴から進ませる。
先頭のGWBCが魔力感知で得た情報を『首輪』を通じて、操るレベル75の兵士にフィードバック。彼は元はAランクの探索者、斥候役で、魔力感知の扱いに長ける。もちろん魔力感知で得る情報の、わずかな違いにも敏感で、1km先の、5mぐらいの差なら見分けることができるらしい。この軍においても斥候として最優クラスなので引っ張ってきた。
一本だけだと思っていた逃走経路が分かれていることが分かる。掘られた穴がただ横穴につながっていた、とするのは少し乱暴だ。大体それなら新たに穴を掘る必要などない。つまり、
「「「増えた・・・」」」
より単純に掘るのが複数体になったと見るのが順当だろう。
スライムというのは有性生殖は行わないけれどその代わりにより面倒な能力を持つ。それが無性生殖による単純な増殖だ。増えた分はその大元と同じスキルを持つため、良くも悪くも質が揃えられたスライムが大量に生まれるわけだ。その性質はWBCを量産する際にも利用されているのだが、
今回はその性質が裏目と出た。全滅が目的とされるものなのにひとつ潰している間に増えるとはこれいかに。無性生殖というのはその増殖速度がウリなのであながち冗談でもない。
とにかく追う個体が増えたのだが、翻ってこちらの戦力というのはGWBCのみ。操る人間が各個体で必要であり、また増殖能力もないため、捜索できる数というのは一定でしかないのだ。まあ分が悪い。
より進んで、別れた穴のその先を見てもらう。予想通り、それもまた枝分かれしている。
これはもう、きりがない。これが示していることは、分裂、別方向へと向かっているのだ。知能のないスライムのことだ、意図してのことではないだろうが、地中という範囲攻撃が制限されるフィールドにおいて、この上なく有効だ。
作戦を変更。一網打尽を狙わずに、スライムが新たなスキルを得ていないかの威力偵察に切り替える。
分裂したあと、スライムは分裂後もスキルの獲得やステータスは共有されるとかいう話は聞かない。
各GWBCで分かれて、個別にスライムを追い、戦力としてどれほどまでの性能ならば倒すことができるのかを試す。
各個体での戦力のバラツキがあるか、また倒せる戦力の下限値が分かれば、より効率よく十分な戦力を生み出す手助けとなるだろう。
一方このころ、スライムくんは、
「地上キター!なにこの草、なにこの草!」
とはしゃいでいる模様。




