第51話 例えばあなたの青は私にとっても青なのか?
目についた(?)オークをつい、死体すらまともに残らないほどに殲滅してしまったため、また人型の魔物を探さねばならない。
さて、例の兵器のせいで森は惨憺たる有様になっている。聴覚を意識してみても、全くと言っていいほど動物や魔物がたてるであろう足音なんかの音は聞こえない。
身を縮めている動物なんかもいるだろうに、その心音すら聞こえないとなると、やはり洞穴内と違って開放的な空間だと情報処理が追いつかないのだろう。進化により多少処理能力が上がったとしても、だ。
進化による能力増加に酔っていた。これはまごうことなき事実だろう。
今のうちに気づけるとは、運がいい。
まだ意識さえすれば抑えられる類の驕りだ。
独り者だからこういうことを指摘してくれる人がいればなあ、とは思うけれど、利害とかが絡んでくる限り、そういうわけにもいかない。利害の全く絡まない人間(?)関係が欲しいものだ。難しい。
いかんいかん、考え込み過ぎた。手に入らないモノのことを考えるのは意味がない。
それより現状獲物を見つけるめどすら立っていないことのほうが深刻だ。
より確実に人型魔物の死体を入手する方法は存在する。罠を仕掛けておいたのがまだ生きているので。
そちらに意識を向けてみると、相も変わらずスプラッタな光景だった。新しい罠を作ろうとして失敗しまくっているからね。かなり量が多い。
死体は腐りかけている物もあるのだが、そういう腐りかけを好むやつもいると考え、そのまま放置している。結果、とても衛生上悪い環境が完成している。
それ自体はやぶさかではないのだが、さすがに汚すぎる環境だと、誰も食べに来ないらしい。
それをどうして放置しておいたのかというと。
「視覚情報についての解析やってて、めんどくさくなってきた」とまあそういうことらしい。
白色光を分けることはできたものの、「何が青色か、どこまでなら紫外線や赤外線なのか」という哲学的な問いに直面している。さらにこの視覚は異世界であり、そしてこの目はゴブリンのものが大元であり、人間由来ではないから、「人間と全く同じものが見える」とは到底言えない状態なのだ。
例えば。
虹があるとして、それは実は正確に7色などではなく、少しずつ周波数が違うのだが、それをこの視覚で見た時に色が判別できるのか?答えはノー。周波数だけ分かったところで、色を人が認識する「色」としては認識することができない。色を示す言葉を知らない子供に何色か聞いてもわからないように。
また、今の世界は、かなり可能性は低いといえ、もしかしたら樹の葉っぱが緑でないかもしれない。
人と犬ですら感知できる光に差があるのだから、ゴブリンの目は、もしかしたら赤外線などが見えるものなのかもしれない。
わかるのは自分でできる分はこれが限界ということだ。あとは認識の問題だ。人の手を借りなければどうしようもない。
とりあえず、まだ分身体達の記憶類を完全な形で同期させることができていないので、本体を除いたすべての分身体達で同期させておく。これまでの成果を完全な形で共有し、より感覚、能力を鋭敏にする。
さて、より確実な方法が自滅した以上、他の場所に移るより他あるまい。ここらを更地にして森から追い出すこともできるが、とりあえずやめておくことにする。コストパフォーマンスがすこぶる悪い。居場所がわからない以上、彷徨うしかないというのは少しばかり辛いけれども、仕方ない。
ついでに使える全ての魔術兵器を空中に空撃ちしてから移動することにする。使用する魔力の波長を自分が本来持っている形から変化させ、偽装して。どうせ移動するのだし、獲物もいないし。少しさらに獲物が逃げ出すかもしれないが、その分だけ追い込んでやることができるので問題はない。生き物が住むのに適した環境というのは広いかもしれないが、無限ではない。
変数をいじり、威力を考え得る限りの最小にしつつも単発で一つ一つ丁寧に、直接的な効果範囲からそれに付随して現れる効果、温度変化、気圧変化など調べていく。
対生物用のマイクロ波から、攻撃をそらすことに特化した球状に展開する物理結界、レーザー、空気を高温のプラズマへと変えて、通電性を上げて雷などをそらすことも、そのまま人にぶつけて肺を焼き、死に至らしめることも可能なプラズマ発生、射出装置、etc。色々種類豊富で、その割に捕縛とかそういう用途のものは少ないのが玉に瑕だ。
これら魔術兵器はあの変な人工知能のデータベースにあった術式で使えそうなものをピックアップしてコピーしたが、まったくそういう用途の物はなかったことから、やはりレベルやステータスの概念があるために個々の耐久能力が大きく異なるのに、安全に動きを抑える方法は魔術では作れなかったのだろう。
ちなみに魔法には闇属性魔法や使役系の魔法の一種で安全かつ簡単に捕縛できるものがある、らしい。まほうすごい。ないものねだりだが、ついさっきほしかったところだ。
一通り終え、改善点を洗い出したところで、未だ凍ったままのオークの死体の破片を、凍った大地をさらに踏み砕き、森の中を分け入っていく。
さっさと現れてくれよ?人型魔物ども。




