第49話 2度目の進化
ブクマありがとうございます!
初の人型との邂逅です。
意識が覚醒するとすぐに身の安全を確認する。ひい、ふう、みい・・・25486体揃っている。はい?オーク戦で少し減っているのならまだわかる。だがむしろ増えたのはどういうことだろう。わからない。まあ処理能力が上がり、使える術式も、その精度もシミュレーティングでは跳ね上がっているようなのでよしとする。ただ、食糧問題がすごそうだが。
さて、体の確認をする。
スライムに分かれて進化したはずなのに、なぜか疑似人体の状態にまで戻っている。眼球などはもちろん自分の肉体ではないはずの頭蓋骨の状態まで戻っているのは少し恐ろしいものだ。
とりあえず目を開けてみる。すると眼前に顔があった。こちらを見ている。
目をもう一回つぶって、開ける。まだ、いる。自然と見つめる。顔立ちから女性だと思うけれど、最近はイロイロ施術を施した人もいるから一概には言えない。肌は結構白いし、正中からの距離から考えて相当な精度で目鼻立ちも整っている。惜しむらくはまだ視覚がモノクロなことか。色が全くよくわからない。
暫定女性はとりあえず顔面は美人といっていいのではないだろうか。思わず目をそらす。前世ブサイクな男子だった身としてはこれは精神的にクル。
すると、手で頰を抑えられ、正面を向かされる。
しょうがないので口を開く。
「なンの用ダ?」
「あんたは、誰?」
あんた、ときた。
答えようとするが、そこで人に対して出せるまともな答えを用意してなかったことに気づく。名前という点でも、種族という点でも。迂闊だった。
「誰でもいいだロう。」
仕方ないのでどうとも取れる言い方でやり過ごす。
そこで、気づく。『あんたは、誰?』これはどういう含意があるのだろうか。
前回の戦闘で魔法から魔術、そしてスライムへと戻った姿にまでなった。それをもしこいつが見ていたとしたら。
途轍もなく面倒なことになった。拘束していたからと言って五感を封じたわけではなく、いきなり戦闘から進化まで至ったここに至っては拘束すら施していない。つまり『このひとまものです!』といえる人を大量に作ってしまったわけだ。魔力感知を起動させ、周囲を確認すると、大部屋にいた女性陣は一部を除いてみな起き出して活動している。
なんてこったい、まさか口封じをするわけにもいかん。わずかな労力が無駄になる。・・・ってこれは損切のできないダメな思考だ。
オーケー、話を整理しよ・・・
ゴツン。
頭突きを食らった。
「戻ってきた?」
「ただイまもどりまシた」
「で、あんた何者?」
「いや、だから「答えろ」・・・なんで従わねばなら「街に行ってこいつは魔物ですって言ってやってもいいんだけどけど」・・・。」
何こいつめんどい。口封じに殺すとか考えないのか、とか言いたいことは山ほどあるが、とりあえずは
「不可思議生命体だヨ?」
またすっとぼける。状況が把握できないのでちゃんとした答えを用意できない。仕方のないことだ。
相手が諦めてくれるまで続ける。
「ハア…それでいいわ。問題なのは何でオーク様を殺しちゃったわけ?」
え。
思考停止。何を言っているのだこいつは。
「え、いや、食糧とするためと力試しに来たんだけれど」
「あの力強い腕!雄々しきイチモツ!耐久性も抜群、出される量も大量ときた!私たちにとって最高の餌だったのに!」
見解の相違が生じているようだ。とりあえずは
「死んでしまったもノは仕方ナいでしょ?諦めろよ。あと退いてクれ、重い。」
そう、実は馬乗りになってのしかかられていた。実際そこまで重さは感じなかったけど、文句の意味で言ってみる。
目が三角になる。地雷ふんだかな、とは思いつつも、さっさと退いてくれたら何も問題ない。
とは思っていたが。なぜかグニグニ頬をつねられる。そして顔を寄せられ、
「お前のほうが重いわー!」
耳元で怒鳴られる。
ごもっとも。金属製のフレームを持ち、かつ20000体ものスライム達を内部に収めているこの疑似人体が重くないわけがない。でも、
「とりあえずどいて?」
どいてくれないと立ち上がれない。
「…こいつは。」
今度はさっさとどいてくれた。最初からそうしてほしい。
そうして立ち上がると、違和感を感じた。重心が変化している。目線から考えて、身長はそう変わっていない。多分。体内に意識を向けて見ると脂肪のつき方が違っている。主に胸腔、腹腔内部から体表に至るまで脂肪が分厚く、またサシが入った霜降り肉ほどではないが、筋肉の間にも脂肪が入っているのだ。
なるほど、筋肉に変わる限界量に達して余った分が脂肪に変わったか。
とりあえず問題はなかろう。あとの調整必須だな。
とりあえず周りを見渡す。なぜかオークの死体が存在せず、女性陣はもちろんというべきか全裸で何も喋らず壁際に寄りかかっている。死体が消えているのはむしろ喜ばしいことなのだが、女性陣が恐ろしいモノを見るような目を向けてくるのはどういうことか。ああ、ここで蹂躙してたから当然かもしれない。
目の前のコイツは身長は自分より頭一つ分ほど低い。で、いわゆるぼんっきゅっぼん、体型のようだ。メロンが胸部装甲として二つある。こういうのに全く情動を覚えなくなったあたり、男としては終わっているな。いや、もう男でもなんでもない。無性生物だったわ。
「とりあえずあんたら食糧とかあルのか?」
聞くと、彼女たちがぴくり、と動いた。
「・・・ねえ、あんた私達が何に見える?」
「何って、少なクとも男には見えない」
盛大にため息をつかれた。解せぬ。
「この髪の色!この瞳の色、そんでこのツノとしっぽ見ればわかるでしょ!サキュバスよ!」
・・・モノクロ視覚だし。そもそもサキュバスの色なんて知らんし。てか目を向けてようやくツノとかあること気付いたんだけど。自分のトロさにビビるわ。
「あー、ごめん、私色盲なんだわ」一応間違ってはいない。
「・・・?」
首を傾げる。庇護欲を掻き立てられそうだな、男なら。自分にゃ通用しないけど。
分からないのか?
「色が認識できないってことだ」
少し待つ。まだ傾げたままだ。
まだ待つ。まだまだ。
・・・。
これでもわかってないようなので助け舟だしてやろうか。
「暗闇の中で物を見るトキって日中より色の違いわかリにくくないか?あれノよりひどいバージョんだ」
暗闇の中では光量が足りないため色覚に関連する錐体細胞が十分働いてくれない。あれで多分一般的な説明としては成り立つはず。
そういうと理解してもらえたようで、
「あんた大変ね・・・」
同情いただいた。
「で、サキュバスってことは・・・ああ、そういうことか」
サキュバスというのでほぼ一分の齟齬もなくわかった。
つまりはオークのそれを搾っていたからこれまで食糧があったけれど、
「これから大変だな」
「ええ、たいへ・・・ってあんたのせいじゃない!」
これまたごもっとも。
「それにみんな妊娠してるし…」
…サキュバスって妊娠するんだ。へえ。どーでもいー。
「つまりは食糧がより必要ってことよ!」
・・・いうまでもなくそういう機能を備えてないため、こちらが食糧を供給してやることができない。
死んだ餌なら狩って来れそうなのに。生きたやつでないと当然それは出せないので。
「んー、ゴブリンやオークの精巣持ってきタら食べるか?」今なら前立腺も持ってきてあげよう。
それを栄養源とするなら、その大元の臓器にその栄養素は含まれているだろう、とまあそういうことだ。
「せいそうって、何?」
え、サキュバスなのに知らないんだ。
「そういうのを作り出す臓器だ。あんたらなラ知ってると思ったが。」
「知らないわよ、実技方面には自信あるけどそういう知識には疎いの」
そういうもんか。
「で、それで事足りるのか?」
「わからない。それを食べたこともないし。ちなみに生きている雄なら最悪生き延びることはできるんだけど・・・?」チラッ
「期待されても元々応えるつもりはナいから安心しろ。いつまでその食糧はなくてイいんだ?」
そもそも足を折られている状態では生存は絶望的なのに、それで生存できるかもしれない可能性をあげているのだから感謝してほしいものだが。これ以上の譲歩はなしだ。
「生まれてこのかた食事に困ったことはないわ」
飽食か。当てにならん。一遍限界まで空腹にさせてみてやろうか。
そういえば、拘束していた女性たちの様子はどうなっているのか。分身体が生きているかどうかも合わせて確認。一気に増えた分、そう言った作業も繁雑にならざるを得ない。でも自分を殺すというのはどう考えても狂人への大きな第一歩に繋がりそうなので自粛せざるを得ない。ああめんど。
拘束された女性たちのの方もオークの死体はなく、拘束は施されたままであった。安心(?)して狩りに向かえる。
「そうだ、この部屋以外にも捕まってる人らがいるんだ。一応骨折部位の整復は済ませてあるから傷口の消毒を頼む。後の治療は帰った後で行う。」
スライム達を退避させ、少しむくれた様子のヤツに指示しておく。食糧(仮)を提供してやるのだ、その分の仕事はして欲しい。
「足を折った妊婦に無理させろと?鬼畜ね!」と言った罵声は無視して、とっとと食糧を狩りに向かう。
言い分は分からなくもない。が、無理しろとは言ってない。できる努力の最大限を求めているだけだ・手伝ってもらうのになんでそこまで言われなければならないのか。逆に自分の共感能力が低いのか?サイコパスか?
洞穴から出たが、とりあえず情報を得なければ始まらない。進化による処理能力の圧倒的増加により、川の流れなど自然音に混ざる生き物の不協和音。手に取るようにわかる。
魔力感知をベースとして非言語的に集積。言語での伝達というのは結局言語で把握できる限りの情報しか伝達できない。伝える相手が自分である以上無駄でしかないということだ。
・・・ミツケタ。この疑似人体の身長を160cmとして約178m向こう、森の中に四つの群れ、数は2976体。オークに、一部はゴブリンも混じっている。魔力の流れなのか、スキルか何かの効果なのか、目を離すと危険。そう思わせる者もいる。気づかれたか。声をあげて先導し始めた。四方八方へと逃げだす。だが、魔術兵器群の射程圏内だ。ニガサナイ。
光線系と吸熱系をセレクト。餌を狩る以上、死体すら残さぬ爆撃は適切でない。また、光線系はホログラムとして投影することにより術式を遠隔使用することが可能だ。
それでは殲滅を始めよう。
身体強化を用い、群れに向かって走りつつも群れそれぞれの上空に2つずつ術式を投影。1つは物体を蒸発させない程度、森を焼く程度の熱量を与えて火事を起こすもの、そしてもう1つは光線でそれぞれの頭を消し飛ばす。
一斉射。6割程斃れた。残りは避け、直撃を免れたので逆に胴体の中身が零れたりしてしまっているので各群れにもう1つ魔法を付け足す。光属性魔法による攪乱だ。魔法という術式に依拠せず、完全にこちらの頭数の分だけ増やすことのできる光線はスキルレベルが存在するせいもあって攻撃力としては期待していないが、四方にバラバラに逃げる各々を動揺させるには十分だ。
魔法に続く形で一斉射。残った集団の5割削れる。戦闘訓練でも積んでいるのか、手持ちの武器で攻撃をそらしやがった。これからはそういった相手との戦闘もできるようになっておいて損はないだろうね。とりあえず1800体分は優に獲物が取れたし、
もう、消しちゃっていっか。
火事を起こす術式から変更。群れの真横に術式を開いて、即発射。
出たのは、ただの液体。だが温度が桁違い。液体の空気だ。凝縮されたがために密度も上がったその川は分子あたりの大きさ、質量も水より上。温度が変わることによる急激な膨張、もはや爆発によりさらに勢いを増し、またその断熱膨張によりさらにその温度を下げ、凍傷どころではない即死の攻撃へと昇華する。
その膨張性ゆえに必中。当たって死なずともそれで丸ごと揺さぶって次弾で仕留める。
経験が浅く、狩るために考えられた手法は拙さはあるが、その分をパワーで補えばよい。
手加減など一切なく、技術面でもサポートはほぼ行わない、ただの力技。
射線上の森が押し流される。液体空気を精製したために発生した部分的な真空。それを埋めんと風が、衝撃波が吹き荒れる。
どこまで貫通したかはわからないけど、とりあえず群れを消し飛ばせたから良しとしよう。
遅れて人体が到着する。この攻撃の際にはある程度術者と離れたところで発動せねばならないというデメリットがある。取り回しがしづらい。
そして到着して気づいたのだが、衝撃波やらなんやらで獲物は完膚なきまでにひき潰されてしまっていた。
凍った肉片や骨片がそこらに転がっている。もちろん採集など望むべくもない。完全に凍ることによる靭性の劣化や衝撃波などを無視して考えていたために予想よりはるかに威力が高くなってしまった。
後悔はない、といいたいところだがむしろ後悔しかない。
自分の迂闊さにあきれてばかりだ。
仕方ない。次の獲物、それも逃げ場の少ないようなもので狩猟の練習をせねばなるまい。
初狩猟がオーバーキルによる採取不可とは呆れる。
ピコン!レベルが上がりました!
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ピコン!スキル【暴食】のレベルが上がりました!
ピコン!スキル【魔力操作】のレベルが上がりました!
ピコン!スキル【光属性魔法】のレベルが上がりました!
次回ヒロイン(笑)のお話です




