第17話 決断
ノックの音がして、返答すると、職員がおずおずと入ってくる。その様子からさすがに察した。うまくいかなかったようだ。その結果はわかりきっていたが、形式的に報告を促す。
「結果を報告します。出したWBCの魔力反応は消失、残らず倒されたようです。また、倒した存在Xの魔力反応も消失しました。どどど、どうしましょう?」
報告を聞き、アルトは即座に決断を下した。その様子に対して怒って今怒鳴り散らすのは簡単だがそのせいで対応が遅れてしまっては元も子もない。まずは、
「それらを報告書にまとめ、1刻後に提出しろ。簡易なもので構わん。」
こういった不祥事の報告書は早く上げるに限る。
職員の去っていく姿を横目に、アルトは査問や会議で受けるであろう質問、というか嫌味の予想と、それに対する返しをメモ用紙で検討し始めた。全ては安定した生活を保つために。
1刻後、全ての大臣と国王が顔を出す朝の会議でまとめて報告するため、提出された報告書を持って転移魔方陣を用いて王城へと向かう。
ゴミ処理局は賢者様、勇者様、聖女様それぞれの強い要望により設立されたものの、これまでにない全く新しい組織であり、その人為的に魔物を発生させるというシステムが忌避されたというのもあって、ゴミ処理局を管轄に置く省は10年もの間、まだ決まっていない。誰が好き好んで暴走して、魔物を発生させるかもしれない機関の手綱を取りたいと思うだろう。
「・・・それでは本日の王様の予定がこちらになります。」
「うむ。本日の朝会議はこれでお開きとしよう。」
「ちょっと待ってください!報告したいことがあります!」
アルトが割り込んだ。
仕事にとりかかろうとしていた面々の額に軽くシワが刻まれる。
「なんだね?この不作法者は。」
「私はゴミ処理局局長のアルトです。」
「…で?なぜ会議に割り込んできた?報告したいことがあるのなら、定期的に提出する報告書に書けばよいではないか」
ここで、宰相が王に耳打ちする。
「王様、ゴミ処理局からの定期報告書は月一と決められております。緊急事態が起こったのではないのでしょうか。」
「ふむ…とりあえず報告の内容を聞こう。それまで闖入してきた件については保留だ。」
「報告することは二つあります。まず一つ。7番ゴミ処理槽内で変異スライムが現れたと思われます。賢者様により開発された、変異スライム駆逐用スライム、WBCをまとめて倒すほどの。そのスライムが処理槽から抜け出しました。局に保管されているWBCも尽きたのでそれを倒してもらいたいということ。
二つ目は先ほど申し上げましたが、WBCがもうなくなってしまったので、WBCの生産と配備をお願いしたいということです。」
「その変異スライムの行方はわかっているのか?」リーゼン国の軍を束ねる長、フェルナンド元帥が口をはさむ。WBCが全損している以上、通常武力的には国軍に頼るのが一番いいだろう。そう、普通なら。
「わかっておりません。槽内はオリハルコンでおおわれているため、槽内からの脱出は難しいはずなのですが、魔力の反応が消失しています。」
「他のスライムの魔力反応に紛れている可能性は?」
「WBC達を倒して増大した魔力反応が紛れるはずがありません。」
「とにかく、居場所がわからない、どんなものかもわからない、では倒しようがない。後日その魔力反応について報告書を書いてこい。それでは皆、仕事にかかろうか。局長への処罰については宰相に一任する。」王が半ば寸断するように話を終わらせようとする。
「あります。」アルトが遮る。
「魔力反応の報告書に、WBCの倒され方についての資料もあります。局内の、量産型の魔力検知装置を使っているので魔力反応はその大きさぐらいしかわかりませんが。」
王は露骨に嫌な顔。仕事後の、王妃とイチャイチャする暇が減る。
しかし、提出するよう言った資料が今あるのだから見ないわけにもいかない。
魔力反応の大きさは…大して大きくもない。添付された通常スライムの魔力反応よりは大きいものの、同じく添付されたWBCの魔力反応と比べると見劣りする。
WBCの倒され方は…ほぼ同時に散らばった状態から倒されている。
ここから導き出されるのは、
「肉弾戦タイプの、超大型もしくは群体型といったところか、フェルナンドはどう思う?」
こういった相手の予想はより人型でない魔物と戦ってきたことの多い元帥に判断を委ねるべきだろう。
「同意見です。」資料から顔を上げた元帥が王の意見に同意する。
「では、この魔物については元帥に全て任せよう。WBCが駆逐される以上、新たなスライム駆逐用の人造魔物の開発を依頼せねばならんな。宰相、賢者様にコンタクトをとってくれ。」
「「わかりました」」
「それでは、頼んだぞ。」
王が去り、残された面々で、慌ただしく動き始めた。
「より詳しい資料があるだろう?ウチのやつを向かわせるからまとめておいてくれ。あと、7番処理槽…といったか。封鎖は?」
「もちろんしてあります。」
「よろしい。」
アルトさんは動機は不純(?)だが有能