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理系スライムは汚物の海から這い上がる  作者: 愚痴氏
第三章 傭兵
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第138話 大乱闘急

こつにくあらそうじごくちほーへようこそ!ゆっくりしていってねえ!!!

べつのじごくもあるよ!

ラスボス感出してるけど主人公なんすよ、多分本来は。人間のように分化された細胞で分業体制を敷いている生物とは違う、単純な構造なために全身iPSみたいなものなだけで。

改稿は書いた残りかすが末尾にくっついてたので取っただけ。


「ー〜〜〜ーーーー〜」

内臓のうねりを小声の自己暗示(プラセボ)で誤魔化しつつも、777に大怪我を二度も負わせた敵に対し勇者な行動(むこうみず)を仕掛ける奴、否奴()の声は聞こえてきた。

「ひとあてしたら逃げるんだよ?!!」

……訂正。

暢気な奴らだ。



人間の可聴域を超えた超音波はその音量によって肉を直接震わせることで、ヒトにその存在を知らしめる。777(てんし)のように特殊な生まれ育ちでもない限り"聞こえ"ないその音は、ある種の暗号として機能した。

「グルーるぅああ~ウォ(たすけにきたよ)!!」


尤も、人間の声帯とほぼ同じものしか持たない777が同様の言葉を同等の習熟度で操る訳もなく、それだけの声量を持つわけでもないため一方通行のディスコミュニケーションである。


よって18から777という一方的な意思伝達ののちに、18による突撃が敢行された。

誰かに倣ったかそれとも天性か、翼を折り畳み空気抵抗を減らし、重力に身を委ねるそれは鳥類でよくみられる動きだ。

「無鉄砲にも程がある……!」

そう呟く777の言葉は無情に掻き消される。


なぜなら18番は全体的に見て777(てんし)の下位互換。

天使が特化した魔法以外でもほとんどの分野で天使未満の能力しかない。

巨大な体躯も人間サイズの重量を魔法無しで浮かせるために用意された物なので鳥類同様大して重量や強度はない。


777を力技で押さえつける芸当も熟せるヤツにとって、18は掴みやすい、軽い、重心も高いと3拍子が揃っている。


だからその展開も容易く脳裏に思い描くことができた。


嘴を鷲掴まれ首に蹴り込まれては呼吸が出来ない。

よって大鳥は少しでも体勢を楽にするべく両脚で地を蹴り、再び巨体が宙に浮く。

そして嘴を中心とした回転を決めさせられた18は無防備な腹を空に晒し、背中を地面に激しく打ちつけた。


速さをほとんど変えないまま全身に打ち付けたのだ、背中全体とは言え激しい衝撃に空気を口から漏らし痙攣するが、五体に大きな傷はなく、せいぜい内出血と骨折だろうか。

むしろ、まだ鷲掴まれた嘴から顎を縦に引き裂かれていないだけかなりいい方だと言えるだろう。


遠距離攻撃手段を持たない18と奴との相性はステータスの差を含めると最悪、被食者と捕食者というのが一番しっくりくる。



ゆえに18が殺されないために777にお鉢が回ってきた。

失神した大鳥にトドメを刺すのを『天使の一矢(サギタ)』で妨害し、距離を取ったところに庇うように回り込む。


嘴の先を横殴りに蹴り付け大鳥を再起動させる。


()()しなさいっ!」

そして下からの殺気。

当然のように地下に対する範囲攻撃手段など持ち合わせちゃいない。

脳震盪と失神明けにより状況を把握していない18に、単純な命令を送り8mを超える巨体がみるみる縮んでいくのを見ながら、その身体にタックルを仕掛け地面から伸びる剣山を回避させる。


18の足元に縋り付いている弱々しい人間は努めて無視するとして、問題は地下からの攻撃を続けて迎撃することが難しいという点だ。


とはいえ回避する手段(カード)は向こうから来てくれた。

直前までいたところに氷が突き立つ光景に理解を及ばせた18が人間の言葉で尋ねる。

「あれは?!!」

「ヤツの魔法ね。地上ならどこも危ないみたい。…………つまり、地面から離れておく方がいいってこと」

端的な表現をするも18の脳天に疑問符が浮遊しているのを幻視すると、ああこの子はそうだったと具体的な話し方に切り替える。


天使に比べて知能の遅れが著しい18と対等な議論など望むべくもない。

そも潜在能力(ポテンシャル)的には天使に及びうる()()()()()()のに、そのチャンスをふいにしたのはその頭脳ゆえである。


通常であれば狩りに始まる行動は練習や反復の中で最適化され自動化されるが、知能の遅れによりそれらの行程が踏まれないのだ。技能の習得も遅くなれば時間経過で加速度的に彼我実力差は開いていく。


認知能力が低いとそれらの能力を引き上げるにも特別な指導(コーチ)が必要になってくる。

本を読んで学ぶことができず、ただ口を開けて餌が運ばれてくるのを待つ雛のように。


同じく元吸血鬼であるにもかかわらず、さらに純粋に慕われていると理解して尚、内心777は18が嫌いだった。


とは言えど生死を分けるレベルの出来事が起きているのだから手を携えない理由もない。

悪意を押し殺し、()()()の表情で。

「一先ずアレは殺さなくちゃならない。空へ上げてもらえる?」



技術だけでなくステータスでも全般的に劣化版777と言った趣きの18だが、魔法特化に調整されていたわけではない。

彼女が得意とし、また特異とするのは一点、飛翔能力である。魔法を使わない単独飛行能力は、魔法の併用により強化され777でも及ばない大量の積載量(ペイロード)を誇る。

よって人間一人分を脚で掴むのに加えて背中に777を載せることもわけはない。

背筋群の動きがダイレクトに伝わる分乗り心地は保証されていないが。


「うんわかったー」

暢気な18が再び変身、翼をはためかせたところに再び死角(ました)からの殺気。

牽制の『天使の一矢(サギタ)』を真下……ではなく魔法使用者(マジックユーザー)本人に向け僅かに注意を逸らすことで辛くも逃れる。


脚で掴まれた人間はまだ原型を崩してはいないようで、その事実に舌打ちしつつも背中に着地できたことに内心安堵の息を溢していると、突き立った氷の様相が変わる。



それはまるで日に当たった雪が融けて消える様に同時多発的に起こった。

刺さったまま凍りついたヒトの死体が溶けていったのだ。

氷だけは解けず、その上にある人間の肉が、皮膚が、骨すらもグズグズに溶けて消えていく惨状。


下手人は分かりきっている。が、手段(How)がわからない。

溶けた肉はどこへともなく消えていき、人が着ていた衣服や鎧だけが支えをなくし氷柱をずり落ちる。



消化液を獲物に撃ち込むなど、体外で消化する動物がいないわけではない。

驚くべきはその消化速度にある。獲物を身体に取り込むのと違って体外の場合消化液を持続的に肉体に撃ち込むにも量的な制限がかかる。通常消化速度には限界があるのだ。


それを解決した手管はスキルなど考えられるが、再生能力と組み合わされば状況は逼迫してくる。



証明するかのように人外の肘から先と胴体、さらに髪までが氷から置き換わる。


それはつまりそういうことだ。

左腕を何の躊躇もなく食らうあたり倫理を一緒に食らってしまったのだろうが、口に入れていなくてもものを消化できるのであれば別の意味でヤバい。

即ち殺したもの全てが餌、再生の原料となるのだから()()()()には犠牲を出さないことが重要だということ。


そんな作戦、始まる前から破綻している。

主な攻撃が777の『我々の祈り(プレイ)』二発分にも満たない魔力量からの魔法頼りだというのに。


「再生スキル持ちか??」

「それだけじゃない。あれは・・・・・・自己保存に特化したバケモノよ」

人間の言葉に即妙切り返す。


超速で再生と吸収を繰り替えし自己を保存する怪物(モンスター)

周囲のモノを飲み込み生き延びようとする生き汚さはまさに天使が人間に見出していたものと同質だが、その無差別性は人間というよりも死肉漁り(スカベンジャー)に近い。



興奮は醒め魔力不足を訴える身体が脳血流を減らし、頭がぐらつく。

羽ばたきで律動する筋群に押され身体がずり落ちるのを力の入らない体で堪えた。

人間の実験体に対し返事をしてしまったことに自己嫌悪を感じる暇もない。


「なんとか逃げるしかなさそうね」

下の大鳥に言い含めるように心中を吐露する。


自尊心(プライド)が高い自覚はあるが死後の名声には興味がない。

ゆえに、命あっての物種。なに、今殺せなくても後で殺せるようにすればよかろうて。素体(ベース)が吸血鬼のために時間はあるのだから。

怪物(モンスター)の氷柱によるさらなる追撃が襲うが、散発的なそれは脅威とならず空中で運動エネルギーを使い切り放物線を描く。


まるで負け犬の遠吠えのようなそれは却って幾ばくかの安堵をもたらす。

安心という感覚は精神衛生において多大なる効果を及ぼす。

下手な高度上昇は航続距離の低下につながると考えていたのが不味かったのかもしれない。



地面から生える氷はすべて怪物(モンスター)の思うがまま。

そして魔法の氷は物理則にとらわれない強度を有する。


既に条件は天使に示されていた。

その2点から天使は察してしかるべきだったのだ。


氷を足場とすれば届き得る()()()()()()というもしも(if)に。




全身で感じる加速度と、その後の無重力。

防御魔法『ホプロン』を下面に展開していなければ命はなかったろう。

下からの突き上げをクッションを介して自らの運動量に変化させていなければ。


跳ね飛ばされた天使は手足を大きく広げ加速度を抑えつつ着地点となるべき眼下に大鳥を見つける。

広げれば体長の約5倍にもなる巨大な翼には穴が空き、脆い鳥類タイプの骨も一部折れているのがみてとれた。


身体全体からすれば小さなものだが衝撃とで飛行に支障をきたした身体には少し荷が重い。錐揉みまでは至らないものの揚力を維持できずわずかずつ高度を下げていく。



下には敵はいない、ならば。


地面に落ちる影を探すまでもなく地上で散々感じた殺気。

身体を捻ると脇腹を掠めるように氷が落ちていった。


ただしそれは天使にとっての話で、大鳥の後ろ羽根を何枚か貫いて地面に突き刺さる。


大鳥、天使、怪物が同一直線上にいるために二人のうちどちらかが攻撃を引き受けなければならないというわけだ。

悪辣にも程がある。さらにそれは高重量の衝撃を脆い骨格の大鳥が受け止めることにもつながる。


理解すると同時警告が口から飛び出る。

「逃げなさい!」


ダイナミックな五体投地を決めかけた大鳥は地面スレスレを半ば這うように翼を羽ばたかせ着地点をズラした。

それを追いかけるように切り離された氷の足が投下される。


宝石のように透き通った氷の塊の中に焔が点っていることを察した時、ぞくりと背筋が凍った。



氷の中に閉じ込められた熱源は氷を炙り内圧を著しく高めるため危険物の括りに入る。

破片手榴弾と同じ原理のそれは、魔法を用いることで下手な鉄よりも強度のある氷の破片を撒き散らすことができるのだ。


天使の一矢(サギタ)』で近づく前に迎撃、爆散させてダメージ減を狙おうとするが、上から怪物(モンスター)が襲いかかってきたことで妨げられる。その重量の大きさにより空気抵抗が相対的に下がるために空中でも追いついてきたのだ。



果たして、破裂音と散乱する氷の破片。


衝撃に弱い鳥類型の骨格は耐えられない。まして真上、衝撃を、破片を全身で受け止めたのだから。



大鳥が沈むことを予期していたかのように、変形させた氷の足で天使を切り裂こうとするのを『ホプロン』で受け地上へと加速。一足先に地面との邂逅を果たす。


同時に疑問がひとつ脳裏を過ぎる。


氷の牙はどうした?()()()()の筈なのに。



疑問を他所に、のし掛かりという天然の武器を着地点から逃れることで避け逆に着地点に仕掛けた『天使の一矢(サギタ)』が再生して間もない腕を貫く。

筋肉の間、上腕動脈が本来走行しているであろう位置。


大出血が見込める大怪我だがこの程度の傷は氷で塞いでくる。


その認識をある意味で裏切るかのように躊躇も見せずさらに加速、接近しようと試みてくる。

当然だ。なにせ下半身も殆どを失うレベルの攻撃を喰らった上で攻めているのだから、この程度で止まるはずがない。


殴りかかろうと振りかざした拳の奥の上腕には傷ひとつなく、再生したことが窺える。


だから、足を止めるのは目新しさ。『神の一撃(ゴッドブロウ)』を超えるそれだ。

コスパ最悪、6割以上の力が攻撃ではなく余波やそれを抑えることに使われるため逆に()()にはそう手間はかからない。


腕を伸ばし、掌を地面に向けると地面との間で紫電が走る。

古来より雷は人智を超える力の代表格とされ、神の力のあらわれであるとされてきた。天使がそれを使うなんて、なんとも()()()だろ?


ハッタリを利かせた微笑みで睨め付けると驚いたことに()()()()()()虚勢(ハッタリ)を維持できる時間は短いと判断した天使は逆に踏み込み、距離を詰める。


それでも接近戦は分が悪い。

ならばどうするか。

文字通り手も足も出ない距離から照射時間を伸ばした『天使の一矢(サギタ)』で薙ぎ払うのだ。指先から出して振り回す分同じ箇所に当たる光量は減ってしまうが、物理攻撃を主体とするバケモノには有効な手段である。


「ウラアアアアっ」

右手を後ろ手に隠し威嚇する。



ふと、目で笑われているような気がした。


無意識へと出力した魔法は自動的に即席の光の剣として形而下へ現界を果たし怪物(モンスター)を両断せんと迫る。


この数回何度も命を救った第六感に従い、手首を返して怪物(モンスター)に掠らないように勢いを逸らす。


直後、狙っていた斬撃の線に合わせて造られていた氷がサラサラと音もなく空気に溶けて消える。

氷と水を利用した鏡。


光を反射することでそのまま自らを焼かせるつもりだったのだろう。その悪辣ぶりと機転にはもはや頭が下がる。

重量のない剣を手首の返しで振り回し鏡を翻弄しつつダンスのようにステップで付かず離れずの距離を保つ。


二合ほど交わした頃だろうか(実際刃を合わせてはいないが)、ローキックで足元を崩しにかかるのを避け、氷の(つぶて)をホプロンで受けて『天使の一矢(サギタ)』を解除、単発のそれに切り替えてもう一度放つ。



チラリと目をやると、大鳥は血を流しながらも突っ込んできていた。


体勢の崩れた怪物(モンスター)は避けるすべを持たない。……尤も、性格からするに迎え撃ちそうだが。


大鳥が地に向かって嘴を大きく広げている都合上、坂のようになった背中を駆け上がると同時に硬質な嘴、その中の大顎が怪物(モンスター)を捉えた。



「ー〜〜?!!、〜〜!!!」

悲鳴は大鳥から上がった。いや、それは悲鳴と呼べるだろうか?

気管に横から大穴を開けられたショックからくる、反射的に吐き出された息による喘鳴のようなそれは巨体に見合わぬ高い音程を奏でた。


気管や食道に入った突然の異物に暴れ、嘴から髪が一房零れた。

氷の柱により開けられた直径が拳ひとつ分もあるその穴は、巨体もあって完全な死角。



利用しない手はなく、氷を融かし貫通させるように使った『天使の一矢(サギタ)』が再び敵を貫く。




天使ちゃんがんばえ、鳥ちゃんがんばえ。たとえ脳くちゅされても、腕捥がれても。


ケーキを切れない非行少年たち。いい本です。

なお救いがなさすぎる。人の世って不平等だからね、仕方ないね。


追伸。当方23歳独身、25歳で結婚している同職の方を見てメンがヘラるなど。わからん……兄弟から見放される例とか見てるのになぜ赤の他人を愛するということができるのかマジでわからん……人間やぞ?愛するってなんだよ(苦悶)

それだからモテないんだぞって?あっそっかあ。知ってたよ。

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