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理系スライムは汚物の海から這い上がる  作者: 愚痴氏
第三章 傭兵
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閑話 選べない自由ならば3

今回絆とか愛情とか、とっても!はーとふるっ!!

3分の2が優しいので実質ロキソニン。


僕は、リカード村から久しぶりに街中に出てくることになった。



都市国家であるリア、その庇護下にある衛星都市ノリア。

なぜより大きなリアではなくノリアかと言うとただ近かったから、リカード村との交流がわずかながら存在するからというごくごく単純な理由でしかないのだが。


頼れる知人がいるというのは選ぶに足る十分な理由だろう。


リカード村に来た、行商人を装った人攫いはまず間違いなくノリアを通過し、運が良ければ一泊すらした。


犯人はこの中にいる!なんて行商人のおじさんが話し聞かせてくれたストーリーのようにはいかず、もうすでに下手人は何処かへ行ってしまっているだろうしリースベットさんが細かいその人の特徴を教えてくれたから聞いて回る必要はない。



ーーー話が逸れた。


僕がノリアに来て何をするかというと、

勇者様もそこから始めたという、冒険者だ。


冒険者といえば、成り上がり。

胸が高鳴るけれど、本当の目的はそこじゃない。


腹違いの妹、サラを探すためだ。とっくにトンズラしてるだろうノリア周辺を一人で探るのは効率が悪い。探すにしても、先立つ軍資金が必要になる。

そのためハードルの低い冒険者を選んだのだ。


父さん・・・いや敬意を示すのも嫌だから親父、でいいか・・・親父のせいで村八分にされた挙句、娘を売らざるを得ない状況にまで追いやられた。

情けないのは母さんが僕を身ごもったときにサラの母、リースベットさんに手を出したということだ。

サラと僕の生まれた時期の違いはそこからくると考えると生々しすぎる。



親父は村のためだから、と領主様に直談判するための袖の下や冒険者に依頼するための金は用意してくれなかったが、僕自身が冒険者として活動して妹を探し出すために必要な長剣(ロングソード)は共有の倉庫から持ちだして貸してくれた。ボウガンや魔銃といった村の防衛に使うものでもないからか、僕がずっと使ってきた馴染みの弓も。


親父の所為ではあるけれど親父やリースベットさん以外から見れば僕のやってることは完全な我儘でしかないから、そこらへんが落としどころだったんだろう。それに、魔銃の弾丸は再利用できないくせに値段が張るので初心者(ニュービー)には過ぎた代物だ。



また、親父は『冒険者は金の亡者だ』と言っていた。恥ずかしいのか言わないが、その時期に食事が急に貧相になったあたりおそらく依頼をしたときにさんざ金をむしり取られたのかもしれない。


だからこそ、僕は親父と違って妙なプライドを張らないという決心が持てる。

その点では親父に感謝してやってもいいかもしれない。許しはしないけど。


奇妙な決心は冒険者組合(ギルド)に足を踏み入れた瞬間少しへしゃげる。

勇者様のおかげで冒険者にも規律(ルール)が制定され、表立って拳で分からせるような事態はないというが、それでも僕を見つめる中年冒険者達の澱んだ瞳はまるで餓えたゴブリンのようで恐怖を掻き立てられたからだ。


野生動物のそれに似た眼が睨んでくるのは山に入った時ですらなかなかない。僕が長剣なんて携えてなかった時にはこんな目で見られることはなかったのに。

それでも勇気を振り絞り、右手右足が同時に前に出るのも構わず馴染みの受付さんーーーは埋まっていたのでその隣の受付さんで冒険者としての登録をしてもらう。


元から街の外の住人だということで、街で生まれ育った子供が冒険者になってすぐゴブリン退治などに行かせないためのノルマ、水路の掃除などは免除され、最初に要求されたのは、お決まり(テンプレ)の、薬草採取だ。


と言ってもよく親父と一緒に山に潜り狩りをしていたから、時には現地で薬草を探し出し傷薬のペーストや軟膏を作れる程度の技能はある。


街の中ですら見つかるその薬草を取りつくさないよう気を付けていても渡された袋一杯に薬草の束を詰め込むのは朝飯前だ。

意気揚々と乗り込み、そのままの勢いで受付さんに手渡す。

「あなた出てすぐ戻ったと思ったら…っていやなんですかコレ」


が、思ってた反応じゃない。

「薬草でしょう?」

「・・・えーと、どこの出身でしたっけ?」

「リカード村です」

確か昔英雄を輩出したとかで改名されたとかなんとか。


「あー、あの辺きょ…ンン!申し訳ありません、向こうではそうだったかもしれませんが霊脈の関係でこちらではただの雑草なんですよ」


―――なん・・・だと・・・


「多いんですよねこの間違い、特にあそこら辺の村で。まあいいです。異論はあるかもしれませんが事実なので、お金は払ってあげられませんけど達成扱いにする、ということでいいですね?」

その方がいいでしょう?あちらでは薬草といえばこれのようですし。

にこやかに断定されるが僕には頷く以外ない。


受付さんの言う通りあちこちに群生していたその薬草は使用頻度が高くよく覚えているものの親父が教えてくれた他の薬草はほとんど見かけることはない。さらにそれらも同じように雑草と言われるかもしれないから、大人しく次のお決まり(テンプレ)、ゴブリン討伐に行ったほうがいいということだ。




「ほう、今日は君かな」

これを持って立っていてねと渡された、文字のいくつか入った羊皮紙を片手に壁際で待機していると後ろから声がかけられる。


真後ろを見てもそこには壁があるだけ。

何度も見回してようやく、手元で小さく手を振っている人を見つける。


男のような、女のような、中性的な姿をした人だった。背もモーリスとあまり変わらない。年齢不詳。

老人のようであり、身分が上の女性のようでもあり、僕とそう変わらぬ歳の少年ようにも見える。

―――面妖な。

「名前は何だっていい。とりあえずゴブリン退治までは面倒見てやる」

性別不詳のその人を名前が分かるまではとりあえずで師匠と呼ぶことにした。



ところ変わって。

ロングソードがゴブリンの身体を袈裟切りに駆ける。

だが、入りが浅い。致命には至らないだろう。


けれど―――まだ初心者としては上々じゃないだろうか。

振り回されそうになる剣の重さを抑え込んでのけ反るゴブリンにさらに接近、突くは胸元、心臓。


地面に押し倒した後は足でゴブリンの身体を押さえ、素早く引き抜いて次の仮想敵に対応する構えを取ると、


「間合いが遠い!」

ポコンという間抜けな音がピコン!というレベルアップの効果音と重なって僕の頭に響く。

痛みはないが失敗するたび打ち付けられるそれは鬱陶しいというには十分だ。


「弓やってたからってビビりすぎだ!」

不快さを目に滲ませながら振り向くと、もう一発、ポコン。


そう、僕の主武器(メインウェポン)は狩でも使う弓矢、薪割りをしていたとはいえ長剣を使うのに慣れているとは言えない。

得意なことを伸ばしていくのが冒険者だと思っていたが、それを曲げて長剣の訓練を行うのはこの師匠の方針だからだ。


いわく、冒険者と言えど裏切り(バックアタック)を食らうことは十分あるし、接近された敵への対処をうまくできるに越したことはない。


ニヤニヤと余裕げな笑みを浮かべ、ポコポコ音の鳴る紙風船のような玩具を弄ぶ師匠。

近いうちに見返してやる、と心に誓った。








感情のままにレンガの壁に向かって蹴りつける。

レベルも10と低い俺の脚力では砕くことはかなわず、その反動だけがスネに跳ね返ってくる。


痛い。走る痺れも感情と混ぜ合わせて叫ぶ。ひと足途絶えた路地でもなければこんな衛兵沙汰になりそうなことはできない。

「クソッタレがあぁぁぁ!!!」


”人を弄んではならない”

スキルの一部に人を意のままに操るものがあることもあって一節として聞き間違えようもなく明文化されたそれに真っ向から歯向かう、神を神とも思わぬ所業。


そうでなくても人間を実験台として使()()()()その行為は男にとって、生理的に受け入れられないものであった。

男は実験をしたわけでも、実験に彼らを拘束したわけでもない。


だがそれらの実験台を実験場に運び入れる仕事という形で知らず片棒を担がされていた。そのことだけでもとても男には我慢ならない物であったのだ。



―――俺は悪くない、騙されていたんだ。

否、それはあの時命を助けられた時からわかっていたはずだ。

俺は特別な人間じゃない。学もなく、経験もない、馬鹿な男をわざわざ使うのならそれこそ捨て駒としての役割が最もふさわしい。


”こんなはずじゃなかった”なんていうのは俺の想像力が足りなかったからに他ならない。




こみあげるイライラを抑えるように懐から取り出した水筒に口をつけ、体温で生ぬるくなったそれを飲み込みかけた次の瞬間。


煉瓦の壁に手を着き、昼食のパンと一緒に吐き出した。


例の事故以来、男が酒の味に対してトラウマをかかえていたのはあるが、渡された薬の効果でもある。

薬の名前は嫌酒薬。服用することで酒で悪酔いしやすくなり、アルコールを断つ手助けになる薬である。


それでも酒を手放さないのは、酒に代わる依存先を未だ見つけられていないからだろう。

友人もおらず、家族もできずに故郷にも今更戻れないまま、歳だけ喰った今では仲間も見つからない。

当座の収入面が良くなったとしてもアルコールでさんざ痛めつけられた男には未来がない。


男は得た金で娼館などに入り浸ることはなかった。

眼帯で隠しているとはいえ片目をなくし、不気味な顔になっているのは百も承知で、それをわざわざ娼婦に指摘されることを嫌がったためである。


透明になってきた胃液を口から垂らして、吐瀉物と共にわずかに感情も吐き出したかのようなスッキリした感覚になって男は考える。

人を出し抜くほどの知性を持ち合わせていないし、相談できる人脈もも人を動かす金もないことは百も承知だ。

ずっと男には何もない、詰んでいる。


下っ端も下っ端で、しかも面通しでも色覚に異常を持つ男は刈られた首を本人のそれと判断するだけの能力もない。役立たず以外の何物でもない。


口直しにグビリと今度は違う水筒から水を直のみする。やはり生ぬるい。


―――そうだ、薬。俺を助けたと同時に騙したあの組織。


男は助けたと同時に騙してきた組織の名前すら知らないことに初めて気づいた。







「んんンぅぅぅぅう゛う゛~んん!!んんんんぅぅ!」

奥歯を砕かぬようにと噛まされた布を噛み割かんばかりに食いしばり、気張ると奇怪な呻き声が漏れるがサラには頓着する余裕はない。

痛くて途中で投げ出したくなるが、投げ出しても痛みの根本は胎内に残ったままなのだから今頑張らない限り最初からやり直しになるんだろう、という思考が痛みを少しでも紛らわすためだろうか、脳裏に走る。



それから程なく。


サラにとっては聞きなれた音が達成感と疲労で遠い意識の中聞こえる。

十月十日、約280日と少し前までごく身近に在った音。


村では子守でよく聞かされていた赤子の泣き声だ。


―――達成感がじわじわとこみあげてきて、その赤子の姿を見たいと願うが生憎疲れ切った肉体はそう簡単に動かせそうにない。


赤子の泣き声に混じって臍の緒が切断される音が妙に耳に残る。


じょりじょり、という切れ味の悪いはさみを使ったような音。

やがて泣き声も収まり近づく気配に向けて顔を向ける。


そこにはサラに対して凄惨な実験を伝えた男。


赤子を取り上げたのがこの男だということには苛立ちがあるかと思いきや、意外にもその感覚は弱い。疲れているからかもしれない、とサラは頭のどこかで考える。



だが、それらの安堵もすぐに吹き飛ぶことになる。



産声をあげたばかりの赤子の顔に布がかけられたかと思うと脳天に刃物が突き立てられる。


―――アタシの赤ちゃんが。

掛けられた薄手の布はもうピクリとも動かない。


ところで出産という行為はそれ自体が20時間近くかかることもザラにある大行事であり、出血もあって大怪我をするようなものだと表現される。


事実何度か痛みで意識を飛ばしかけたサラは疲弊しきっており、せめてと手を伸ばすも男の腕に抱かれた赤子は手に触れることもなく男によって遠ざけられてしまう。


「あぁ………ッ!」

サラには嘆くことしかできない。


望まずして得られた子供。

それで十月十日という長期間とそれに伴うホルモンバランスの変化により、人との不用意な接触を遮断されてきた彼女にはかなりの愛着が湧いていたのだ。


一種の執着ともいえるかもしれない。


「ありゃ、むしろこれで喜ぶかと思ったんだけど解釈違いか。これは申し訳ないことをした」

言葉を切った男はわずかに思案する様子を見せ、


少しの間の後に

「こちらへの憎しみは散々ぶつけてもらっても構わないよ、それだけのことをしているのだから。だけど、今の状態では無理だ。ただの村娘に過ぎない君では到底どうにもならない。精々励むといい」

諭すように告げるや踵を返した。





病室につながる廊下を抜け角を曲がるとスタッフが責めるような目を隠さなくなったがそんな目も真っ向から見返して、苦笑しつつも弁明する。

「私も母子間の愛情と言うものを軽視していたから、咄嗟のセリフだよ。母親になる覚悟もなしにお腹が膨らんで妊娠悪阻(つわり)とか、一般的には気持ち悪がられる要素だと思ってたんだけどね」

苦笑は苦く、男は到底理解できていないように見えた。


実際問題として、勇者様に近く教育を受ける機会に恵まれた人間しかこの最先端の研究には携われない。ゆえに、この場にきちんとした親子関係のもと生まれた、この世界では環境的に幸せな方の人間しかいなかったのが問題だった。

社会的に望まぬ妊娠などが避けられるべき事態であることは知っていても、それを受けた人の心情に真に迫ることはできなかった。


自らの母親や自分になぞらえて”穢されてしまった絶望“にいると考えたため、その象徴たる赤子を殺すことで一種の救いを与えるつもりであったのだ。そうして一番目につきやすい復讐の相手を失ったところで間髪を容れずにこちらの計画に積極的に巻き込む計画。


ところがどうだ、いつのまにか娘は赤子に愛着を抱き、拘束、受胎、出産、そして赤子の殺害までと全ての工程(・・)において恨みを買ってしまう事態に至っている。裏目に出ていると十分に言える事態だ。


そしてその恨みをわざわざ想起させた男。さもなくば執着していた我が子を亡くし呆然としていただろうから仕方ないのだろうけれど、それにしたって違うやり方もあったはず。

覆水は盆に返らずということわざがあれど、当初の計画からはかなり外れてしまい、(マズ)い方向へと転がり始める音が聞こえるようである。


「あとは苦痛耐性を生かした改造手術と薬物投与でロールアウト(うんようかいし)だね」

もしかすると、この男に限って失敗を考えていないのかもしれない。

「多くに犠牲があるからこそ、失敗は許されない。気を引き締めて改造案を作り直すとしようか」


おねショタはいいぞ、と言いたかったけれどショタではない(16歳)からできなかった。ついでにお姉さんと確定したわけでもない

一種の自傷行為なので吐いてスッキリ(賢者タイム)するのはやめようね!!食道裂けるから。

勇者様が近くにいることで冒険者というくいっぱぐれの仕事にも安全管理が心持ち導入されてます。

辺境で探索者なら真っ先にゴブリンと戦わせられてるところだからね。ユウシャサマスゴイ!(脳死)

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