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理系スライムは汚物の海から這い上がる  作者: 愚痴氏
第二章 現地種族との接触
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第108話 社会通念、一般常識

森に近づいていくと、付近に魔力反応をいくつも感じた。

動きからして生体、それも人型生命体のそれだ。


どんな罠かと少し怯えていたのがそれを確認したことで落ち着いたのを感じる。

なぜなら、生前において最も詳しい生命体であり、生後の交戦経験からしても私が一番得意とする相手だからだ。

罠であると勝手に断定していたが、無人であるということは一言も言われていなかった。

が、同時にいくつか罠も仕掛けられているのはご愛敬、と言っていいのだろうか。


おや、気づいたらしい。

モーションパターンが変化したのを感じ、こちらも急加速を開始。

地雷の様なものか、地面からトラバサミが現れるが、私の速度に全く追いつけておらず、宙を噛む。

魔力反応があることからも判別は容易だ。


視野に黒装束姿を収めた次の瞬間。

そのまま軽く飛び上がりながら、一体のがら空きの頭部を蹴り上げる。


筈だった。



宙を蹴る感覚。

どこに行ったのかなんて考えるまでもなく、真下に向かって氷属性魔法を放つ。

それにより足を地面に縫い付けたことを確認しながら木々の群れに突っ込む羽目になった。


空中で体をひねるが、それだけでついてしまった勢いを殺すことはできない。

木に一本一本、ぶつかる度に破砕音と共に抉り取られていく。


一緒に仕掛けられていたワイヤートラップなども吹き飛ばして。


2回転、3回転と回転するごとに勢いを殺し、たっぷり7回転もしたところで木を蹴り倒した反動でわずかに方向転換を行うと、本来のルート上に刃が突き立つ。



木を蹴り飛ばすことで追撃の盾としつつ、その柄に手を伸ばし、引き抜きながら、

「ラオァ!!」

小さく、拡散させた音波衝撃を拡散させ、疾駆する。


魔法的要素を一切廃した音波攻撃で一当て、二撃目で咄嗟に防御に回した左腕ごと側頭部を打ち抜いたところ、左腕は千切れ、こめかみから陥没させてしまった。


力加減を先の一人に合わせて調整したのがあだとなったらしい。

そのことを勘案する余裕もないまま背後から音もなく首元を狙った斬撃。あえてその斬撃に向かって進むことで速度の乗りきる前に右手首で受け流し、すぐ脇にあった木にその手を叩きつけると、ごきり、という感触を得た。

おかしな方向に曲がった手首を離し、ふらついた両脚先を連続で踏み付け粉砕することで無力化を済ませてしまう。



今度は遠距離攻撃か。

向かってくるたった一つきりの魔法攻撃に回避挙動をして見せるも、軌道を変え付きまとってくる魔法に心中で舌打ち。

魔法そのものを投射するタイプの魔法は投射後もしばらく操作できるのだが、私しか実際に操作しているのを見たことがない関係上、他人がどこまで操作できるのかわからないために安全策を取らざるを得ないためだ。


体幹を逃がして避けてみせていると、動く気配を感知。足元の死体が動いていた。

側頭部を打ち抜いたはずなのに蠢く死体はその右手をこちらの足首へと伸ばし・・・振り下ろした足に肘関節を粉砕骨折されることで妨げられる。




そうこうしているうちに余裕もなくなってきた。

氷属性魔法を纏わせた裏拳で追尾してくる魔法を叩き落とす。


そう、わざわざ逃げ回っていたのは単なる確認でしかないのだ。

魔法というスキルというだけでなく、そのスキルを使う中で緩急をつけ、命中率を上げる技術の確認。


いわゆる舐めプといわれ、忌避されるものではあるが、その能力技術のばらつきを図り、そこからデータを推測、確信へと昇華するためには多少ならずとも必要なものであった。


やはり、レベル、精神力から個人によって異なっている。

粉砕骨折され、流石に精神がキャパオーバーしたのか白目を剥いて悶絶している男と、即座に両腕両足を潰され、戦闘不能でのたくっている男とは比べるべくもない。


それが示すことは、どういうことなのか。

合わせたように黒装束でまとめられ、組織立った行動を見せる者たち。紋章その他の所属を示すためのものもない。

真っ先に想像したのは戦力を一定のレベルで調整、固定された軍隊という存在だが、軍隊と言ってもこちらの、ステータスにより個人の能力の差が天地ほどに違いを見せているこちらの世界では「地球の軍隊」を基準にして考えることはできない。

テロリズム、もしくは抵抗勢力レジスタントに属する者たちであることも考えられる…


考えた末、考えを絞ることを諦めた。

こちらの世界における人間社会の情報に、あまりに疎いことに気づいたためだ。

こちら側での科学知識と魔法を学んでいても、社会知識が一般常識と呼ばれる段階のものから圧倒的に欠けていた。

社会性というものを全く失って久しい私も、『人間』に擬態する都合上、悲しいかな社会的束縛から無縁ではいられない。


接近する気配。

彼らが気が付いた時にかける文言を考えながらも別の意識では油断はしていない。

ナイフを手に下から迫る男にあえて対応を遅らせ引き付けたところで、リーチの差を活かして首めがけて伸ばされた前腕を蹴り飛ばす。

そして二段蹴りの要領で体幹を柔らかく真上に蹴り上げ、呼吸を強制的に停める。


勢いを失い、落下するナイフを拾って落ちてくる男の膝裏を撫でれば、チューブを千切る感覚。振り抜いて、足裏でもう片方のひざ下を踏みつけ脛骨を踏み折れば、呼吸不全から脱したと思しき男の口から絶叫が上がる。


もう少しは呼吸は止まると思っていたが、予想よりも回復が早かったのだ。

さらに完璧でなくなった結果にほぞを噛む思いを少々抱きながら、軽く木を蹴り方向転換を繰り返しながら魔法遣いの背後に立ち回り、そのがら空きの後頭部を鷲掴みにして地面に軽く押し付ける。


とりあえず、知覚圏内には仲間と思しき人間は他全ての無力化が完了した。

全員をわざわざ無力化した(うち1人は完全に殺したものと思っていたが)のは、地域に深く根を張り人脈を備えたヨスターなら軍隊の私有化なんてこともありえるかもしれないと考えたためだ。


どうも社会常識に疎いためか、権利だの、社会的なアレコレで嵌められることが多いように思えるので、

本来なら絶対に使わない気の遣い方をせざるを得なかったのだ。


逆にいうなら彼らとヨスターとの癒着具合を証拠を纏めて国そのものに報告、直談判すれば一気に失脚させることも可能だろう。……国自体ともズブズブなんてことは考えたくない。

そうなると、これまで生きてきた経歴を全く辿れない、どこからか降って湧いた存在(わたし)の言の信用性という問題に行き着いてしまう。


政府だか官僚だかがあるかはわからないが、賄賂という病魔に襲われていない可能性の高い人間がそうそう会えるとは思えず、会うためには社会的な信用が不可欠なのではないか、という疑問だ。

このまま領主に襲撃者達の身柄を引き渡したところで即座に解放されるか、処分されるかの二択ぐらいしか考えられない。

それよりも、とうずくまる襲撃者達に目を向ける。


やはり契約主から引き離されている彼らをいかにこちら側に引きずり込むか。

…まあ、本など読んでいても一般常識が前提知識として存在するものばかりだったためか、そう言った知識が存在することを認識こそすれ理解には程遠い状態なのだが。

残念ながら百科事典のように一から十まで示してくれる辞書はなかったのだから。

アリスはなんだかんだ言いながらも社会規範を守る子

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