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理系スライムは汚物の海から這い上がる  作者: 愚痴氏
第二章 現地種族との接触
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第100話 敗北?

なんだかんだやっているうちに100話を超えて吃驚してます。


「――い、――――おい――――」


心地よいまどろみの中、声が聞こえる。

どうやら戦いのさなか、意識を失っていたらしい。


分裂体が無数に存在する私の意識は、全てが同時にシャットダウンされるような特殊事例でもない限り、失われるようなこともないはずなのだが・・・何らかのからくりでもあるのだろう、即座に理解することは難しそうだ。


横たわっている姿勢から起き上がろうとするが・・・途中で違和感に気づいて中断する。




その違和感の正体は簡単。

両腕、それも肘から先の中身(・・)が失われていた。


体の表面や、その中味である筋肉は存在するものの、それら高重量を支える骨組みが存在しない状態。

半ば自動的に自己再生を行っている身からすればかなり違和感を感じるその状態は、

”身体の一部”に”骨格”が入っていないという、スライムの身体から人体を再現する模擬人体であることを考えれば当然ありえる事態だ。


人間でいう内臓がまるごと存在しないために重心のバランスがより末梢側によっているため、

手足を動かすことによる体全体への作用は人間のそれよりも大きい。

よって両腕を満足に動かせない状態であるためにその本来あるはずのモーメント力を生かせず、

苦労しながらもそのまま体幹を活かして起き上がると同時、周囲に意識を張り巡らせると、戦っていた相手である二人が知覚できた。


地球でもないのに、クラシックな方のメイド服を着こんだ女性と、いやに露出の多い服―――いや、もはや布か?―――をかろうじて身にまとい、その凹凸の激しい肢体を空気にさらしている女だ。


対照的というのがふさわしいだろう異なる格好の二人は、それでいて妙に様になっていた。



相手と私、両方が生きている・・・?

私なら倒した相手を生かしておくわけがない。

ということは意識を失う間に起こった結末はただ一つ。


・・・負けた、ということだろう。



それでいて、私を殺さないのは奇妙だ。



どこにでもいる、凡庸の塊に過ぎない私に何の価値があろうか。


能力的にはゴブリンやオーガを歯牙にもかけない程度(・・)、通常の生物の枠を外れた、死ににくく、変幻自在に近い肉体を持つだけの社会的にはなんのコネもない、流浪の民と呼べば響きはいいかもしれないが、ただの根無し草だ。


死ににくく、かつ敵対する私を殺せる時に殺さない、という選択肢を選ぶ積極的な理由が全く思い浮かばない。




「起きたか」

静かに混乱しているさなか、我に立ち返る。先ほどから話しかけているのは露出の多い女だ。呼びかけていた声もこれだろう。


「あぁ」

「さて、講義(レクチャー)といこうか」

当然敵対者に声をかけられることなんて初めてで、生返事しか返せない。



・・・いや待て、レクチャー?

勘違いして、情報の食い違いが起こっているのか。


情報不足の中、とりあえず話を合わせようと、ひとまず目で続きを促す。

下手に口をさしはさんでは面倒なことになるからだ。


さきほどから二人の片割れ、メイドがガンを飛ばしてきているが、無視を決め込む。

大方意識を失った内にやらかしたのだろうけれど、何をしたのか覚えていないものを謝ったところで関係の修復・再構築などあり得ないからだ。むしろ火に油を注ぎかねないことは前世が証明してくれている。


付き合いの改善には真面目に成果を出し続けるしかないのだ。



「転移魔法、銃器の扱いに、魔力泉の場所、だったか」

ご丁寧にラインナップを説明してくれる。


や、転移だと?


身体をミクロに分解するなどというまどろっこしい真似をせずに移動できる、本物の転移?


手持ちの現代技術では実現不能な、まさに『魔法』というべきものに胸が高鳴る(心臓などないが)のをよそに目の前の女は続ける。

「魔法はなるだけ手っ取り早く習得してもらった方がいいだろう」


言うや否や、その手元に魔力の反応。ほぼ間断もなく長い銃身・ストックを持つ銃のシルエットがその手に収まった。


・・・なるほど、どうやったのかさっぱりわからない。

【魔法】の名を冠するからにはスキルなのだから当然だが。


そういえば、スキルを「教えてもらう」ということは初めてだ。


「そういえば、銃器の改造方法については?」

その答えを半ば確信しながらも、聞いてみる。



「決まっている、実戦形式だ」

無造作に構え、放たれた弾丸はしかし、虚空を貫いた。






当然ながら、銃口の位置・方向すらも見えてしまっている状況では、弾道予測ができる。さらに魔力的な何かが感じられる銃ならば尚更その精度は跳ね上がる。

それならば、回避も容易い。


間断なく飛来する、高魔素の込められた弾丸を避けながら回避という単純な方法に思いをはせる。



相殺するでも、弾丸の進む方向を捻じ曲げる・逸らす、でもない、だがそれゆえに安全な方法。

かといって万能かと思いきや、その単純さゆえに対処のしようもなく、どうしようもない課題が大きく口を開けていた。






ギリギリのタイミングで傾けた頭、そのこめかみを弾丸がかすめ、揺れる毛髪にあたって大きく方向を変える。

絶対的な重心の安定性を誇っていたはずの私は、詰将棋のごとく徐々に体幹をブラされ重心の軸もブレ、いつのまにか回避し辛くなってきていた。


見た目に見合わない高密度・重量級のこの身体は、モーメントの関係で一度重心が傾けば、相応の力でないと立て直すことができない。



避けるということは態勢を弄ってその向けられる攻撃の進路上から逃げる行為。

最小の動きで逃げようとしても、体幹を狙われれば5センチ避ける程度では足りない。

それに対して、銃器を扱う側は銃の向きをわずかに変えるだけで調整できるのだから、

圧倒的に銃器の方に分があるのだ。


このハナシは銃弾が続く限り、という前提条件付きの、ごくごくありふれた暴論でしかないのだが、

かなり苦しい態勢にまで追い詰められているという現状が、その前提条件が保たれていることを示している。


銃弾が、尽きないのだ。


明らかに消費されている銃弾の量が、銃の体積よりも多いのだから、察しもつくというもの。


【氷属性魔法】で脚の表面に物理に関しては絶対的に近い氷を張り、その脚で4つほど来る銃弾を切り払うと同時、反射した銃弾が向きを強制的に変えられて、他の銃弾も巻き添えにあらぬところへ飛んでいく。


魔力が魔法だとしても、その直進性を強化するものではないらしい。


フレアがわりに魔力感知の邪魔になっていた銃弾が一時的にせよ消えたことで感知精度も、時間的余裕も生まれた。


意識を銃の機関部に集中させ、反響定位(エコーロケーション)を用いてその中身を測る。



結果、物理的にはこれまで把握していた構造と何ら変わりないことが分かった。

となると、魔法か。


これが【転移魔法】、と言いたいわけだ。


経験をもとに言えば、魔法を使う感覚は体性感覚、つまり「自然とやりかたが分かる」に近いのだが、それを伝えるにはこのやり方が良いのだろう。


そう、無理矢理納得させてなんとか感覚に集中することにした。

魔王様、完全に合理主義に毒されてきてます。

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