第99話 名前のない怪物
「・・・なに?」
騒音の余韻はまだ残っているが、その痛みも再生能力のおかげか、直ぐに引いていく。
・・・もっとも、本当の意味で「使える」者の数が少ないことも相まって自己再生能力自体が詳しくは解明されていないので、真実は定かではない。
『その程度なラ』『直グ治るだろ?』
その、明らかに魔王に対して向けられた言葉に我に返る。
「自分でやっておいて言えた身・・・!?? えっ!??」
そこまで行って気が付く。
声が出そうとしても出てこないのだ。
発声を行う際には、発した言葉を自分でも聞くものだが、そのトーンがどうしてか異なって聞こえる。叫んだ時には気付かなかったが、発声時に絶対に生まれてくるはずの『喉の震え』がない。
・・・まるで頭に響くこの声のように、自分の頭に働きかけているかのようだ。
それでも声が出ないという簡単にわかるようなこと、いつから、どうやって、全くわからない、気づかない、というのはどうしてなのか。
とうとう自らの身にまで起きた異常事態に、思わず自分の正気を疑うが、疑ったところで何ができるのか、と気が付く。
ここで自分が正気かどうかなんて、ナンセンスという奴なのだろう。
『おぉ、そこで正気疑うノやめるの』『マ、その方が都合がイい』
・・・うるさい。
触手攻撃から、今まで見たこともないような自己再生能力、そして精神攻撃、思考の先読みまで。
永く続く魔族の歴史でも数例あるかどうか、生物としてありえないほどに広い能力の幅を、すべてある程度極めるくせに強力無比な魔法を使わず、触手攻撃を使ってくるなんて言うのは何の意味があるのか。
それを私の様な上級、いや特上の魔族に狙いを付けて?
このバケモノの存在もそうだが、コレの目的は何だ?
『そウだなア。集合知って知ってるか?』
思考を読んで答える声。どうやら対話が目的の一部らしい。つまり即座に殺す気はない。
尋問か?
『アッチの知識で話すのもどうかとウが』『コチラでは無意識トイウ概念が薄いヨウだからな』『ユルセ』『トモカク、今のワタシタチはスライムのアリスという人格、それヲ下で支えている無意識と思えばイイ』『無意識領域に住まう無数のスライムには自我は存在こそすれ泡沫のように生まれては消えるモノだから』『個体として、連続しているトイウコトモナイ』
意味は脳内でよく響くが、理解が追いつかない。
聞いたことに全く理解ができないというのは、全く初めての感覚だった。
『アァ、話す必要はないゾ』『脳波・・・も知らないカモだが』『今ナラ頭の中ノ情報をある程度覗くコトガデキルカラ』『発語なんて言うまどろっこしいマネハイラナイ』
アリス・・・?
………………。
『だから、試そうナンテ考えはよせ。これ以上何か言っても』『欺瞞にしか思えないだろうから、ただ思うだけでイい』
おや、何も考えないようにしたのだが、それも見破ってくるらしい。
『さテ、何か質問かな?』『コミュニケーション、相互理解には雑談もおおいにアリアリだが』
お前の存在自体はよくわからないことが分かった。
で、何が目的だ?
『襲った理由からイコウか』『もちろん狙撃サレタ時には気が付かなかったが、感知に引っかかった瞬間、食欲が勝ってしまってな』『お恥ずかしい』
・・・ん?
食欲のためにわざわざ魔族の王になるこのヴァルヴァラを襲ったというのか?
それは、余りにも予想外だ。
魔物の群れを魔法で一掃するほどの単体戦力、かつ群れのトップを殺したのちにはそそくさと退散するというある程度優れた危機感知能力が備わっているという極めて使いやすそうな人間の人材だと思っていたのだが、
その実情は食欲に任せて本来襲うべきではないモノすらも襲うアクティブモンスターだと?
とんだ拍子抜けだ。
『アクティブモンスター?言い得て』『妙ダナ』『言ったろう、本質はスキル効果で食欲に支配されるスライムにスギナイと』『行動原理が文化ヲ持つ』『人とは大きく異なってしまうのはどうしようモナイ事実だ』
『そしてソレを最大限遂げさせるべく現実に即した最適解を下すのが、ワレラノ役目』『胴体を両断さレタトキハ』『一時的に意識が起動シタが』『あとはお察しの通リ』『というヤツだ』
バケモノと思っていたが、的を得ていたらしい。精神性は魔族基準で見たとしても異形といって差し支えない。
「主人格なしにたくさんの意識が統合する」など、考えたこともない。
蟲系魔物の扱いに特化したビー族でも、その操作系として「意識の統合」なんてものは使わなかったはずだ。
多分ここまで情報を与えておいて、殺すような真似はするまい。
それで、もう1つ問題が生じる。
では、どちらがメインなのか?
『統合されたほう』『ダナ』『なにせ【無意識】だし』
そう言えば言っていたな。
では、このアクティブモンスターは御しがたい生物であり、しかも話の通じない方がメイン?
当然こんな人材願い下げだ。
しかしコレは枷のはめられていない獣も同然。
対話を是とする無意識に働きかけて、なんとか将来的にこちらの有望株・主力を潰されないよう、約束を取り付けたいが・・・
『あぁ、ドレガ有望株なんだ?』
・・・は?
『元々ワタシタチが制御で』『きなくて、暴走してしまったのガ』『原因ダカラな』
『会話の内容モ一部聞こえてイタから』『お前ヲ殺すことデ』『得られるビネフィットと負うリスクが』『釣り合わナイ』『ソレハ理解していた』
『よって落としどころを』『探っていたンだ』
なるほど、余りにもこちらに都合の良すぎる提案だが、受け容れよう。
それで、追加でオーダーは何かあるか?
『三つあル』
『一つ目はお前たちで言う魔力、だったか』『魔力の溜まっている場所を知っているカギリでいい、教えてくれ』
『二つ目。集団デ空間を移動する魔法や武器の製作・改造、アレを教えてホシイ』
『三つ目』『もう一人ノ存在だ』『アレには今のハナシなど伝わってはいない』『カトイッテもう一回精神汚染ニモ等しい行為はりすきぃ過ぎる』
『『というわけで喫緊は三つ目だ』』
・・・そう言うことかよ。説得してくれと?
『『『その通り』』』
何たる人任せ。それでいいのか。
『割と殺しにカカッテル』『死にはしないけど鬱陶シイ』
『断ってくれるなら、踏み潰すガ?』
最後にお願いのカタチの脅しを突っ込んできやがった・・・
説明回で、情報を盛り込み過ぎて時間かかりました。
また、文章力の上がったころに直します。
次期魔王ヴァルヴァラが話しているアリスの無意識は、スライムの集合体として転生した彼女(女?)を構成する一つ一つのスライム達です。
バケモノは精神の構造自体が人外でした。




