表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/43

9. 初討伐依頼成功!……だけど本当の敵は依頼報告だった!

物語を書く時に音楽が欠かせません。

だけど、聴いていないときの方が手が進むのは何故……;;

9.初討伐依頼成功!……だけど本当の敵は依頼報告だった!


 巨大な強敵、ブラックタイガーとの死闘を終え私はその舞台であった森から無事に脱出を果たした。……死闘なんか無かった?そんな事無いよー、襲われる間一髪の所で倒すっていう素晴らしい戦いが……こほん、ナンデモナイデス。


「はあ、やっぱり残念だったなぁー……でもこれっきりってことは無いだろうし、また今度探せば良いよね……?」


 自分で自分に質問そして考える……。図鑑で見る限りは一匹しかいないわけじゃないし、きっとまた会えるときが来るはずだ。その時に今度こそちゃんと手合わせしてもらおう。だから今日はあくまで討伐依頼を済ませたってことでいいはずだ。うん、きっとそうだ!


「……だねっ。よし、依頼達成っ!……とと、報告するまでが冒険って言ってたっけ?それじゃ気を引き締めて帰ろ~!」


 自分との脳内相談が終わったところで気持ちを完全に切り替える。ここで油断して怪我なんかしたら間抜け以外のなんでもない。クリスさんに教えてもらった通り帰り道こそ気を引き締めて帰らなくっちゃね!……ほら、早速ブラックドッグもいたことだしちゃんと倒しながら帰ろうね♪


「もう遊んであげないからね?『空牙』、それぇっ!」


 小さな気配と共にひょこっと現れたブラックドッグに容赦の無い一撃が飛ぶ。哀れなワンちゃんは、断末魔をあげる暇も無くスパッと真っ二つになった。獣の魔物=お肉になっている今の私は、埋めることなく尻尾だけ切り取ってその骸をマジカルシェルへ収納した。最悪虎さんが食べられないと言われても平気なように保険だ。……まあそうしたら泣きながらの食事になりそうだけど。


「あ、ついでに今のうちにワンちゃんたちの尻尾も出しておかないとね。ギルド内で出すわけには行かないから持ってきた袋に入れ替えておこう」


 虎探しの合間に、倒しに倒した犬のしっぽを取り出して手提げ袋に移しておく。さすがに全部は入りきらなかったので半分ほど袋に詰めて残りはマジカルシェルの中に戻す。この手提げ袋も当然クリスさんの助言で買ったものだ。今思うとクリスさんと会ってなかったらきっと大変だっただろうなぁ……。


「何かお礼したいな……あっそうだ!虎さんのお肉を一緒に食べよう♪きっと喜んでくれるよね~?」


 これまた良いことを思いついた!とばかりに心がうきうきする。ならばとクリスさんがどこに泊まってるか聞きそびれちゃってたから探さないと行けないので、町へ戻る速度を歩きから駆け足にとアップさせた。クリスさんを置いていく位の速さを保ちながら、日が沈みかけてオレンジがかっている町に向かって急いだ……。



「とう~ちゃくっ!さあ報告して早くクリスさん探さないと……」


 特に何事も無く辿り着いた私は、門から町に入り一度速度を落とす。手提げ袋の中身を確認しながら一人でぶつぶつ言ってると、聞き覚えのあるあの声が掛けられた。


「あっファムちゃんだー!おーい、やっほ~っ!!」


「ふぇっ……?わあ、クリスさんっ!!なんて良い所に~♪」


 なんとその声の主はクリスさんだった!クリスさんも似たような手提げ袋を持っており、中がこんもりしてるのでこれから報告するところなのだろう。二つの意味でナイスタイミング!!


「依頼が終わって帰ってきたところだったんだ~。その様子だとファムちゃんも?……なんか嬉しそうだね?それに良い所って……」


「私も依頼終わって報告しに行くところだったの!それでクリスさんを探そうと思ってて……へへーっ!」


「おおっなるほどね!それで嬉しそうだったんだね~♪いやぁ、そんなに喜んでもらえると友達甲斐があるよ~!」


「あははっ、実はそれだけじゃないんだけど……それは後でのお楽しみにね?ねね、これから報告に行くんだよね?一緒にいこっ?」


「もっちろん!」


 これからの予定を聞くとクリスさんは笑顔で頷いて私の手を握る。昨日も感じた温かくて柔らかい手だ。心が自然とほにゃっととなる。


「ファムちゃんの手やっぱりちっちゃくて可愛いね!でもとっても温かい♪」


「ちっちゃいのは余計だよぉ……でもクリスさんの手の方が柔らかくって温かいよ?」


「えーそうかなぁ?」


「そうだよっ♪」


 そんな風に笑い合いながら、私達は並んで冒険者ギルドへ向かって歩き出した。そういえば……とクリスさんが私に問い掛ける。


「ねね、どんな依頼受けてきたのー?私はちょっと街から離れた所でブラックウルフの群れの討伐行って来たんだけど~」


「群れの討伐なんてあるんだ?一匹って言うのしか見つけられなかったよ~」


「ん?ああ、依頼書には書かれてないけどその分の証拠の部位を取ってくれば上乗せしてくれるんだよ……って、そう言いながら袋の中からいっぱい飛び出してるのってブラックドッグの尻尾だよね?知らないで持って帰って来てたの?」


 クリスさんは私の持ってる手提げ袋を見ながらちょっと呆れたように言う。


「う~だって、もっと詳しく聞く前に冒険者の先輩がどこか行っちゃったからぁ……」


「あらら、そうだったんだー?ごめんごめん、ついからかっちゃった♪……それでもちゃんと持って帰ってきてるんだから、偉いというかちゃっかりしてるというか……」


「なんか引っかかるんだけど……?うん、折角討伐したのにそのままにしておくのってなんだか勿体無くって。もしかしたら何かあるかな~って持って帰ってきてたの」


 悪戯っぽく言うクリスさんにぶーっと返しながら私は持って帰ってきた経緯を話す。折角何十匹も倒したのに勿体無いよね?ただワンちゃんも美味しいお肉になるって最初から気付いていれば……惜しい。


「やっぱり抜け目ないねー。それにしても随分入ってるように見えるけど……何匹くらい倒したの?」


「んー……わかんない」


「ええっ、数えてないの?一体どれだけ倒してきたの……あ、ごめん、やっぱり言わなくていいや。昨日のあれ思い出したら相当倒してそうだから……」


 詳しく聞こうとしてクリスさんが口を開きかけたが、やっぱいいと首を振って拒否する。


「んー?あ、空牙のこと?あはは今日はあんまり使ってないからそこまでじゃないよ~」


「へっ?使わなかったの?何でまた……」


「だってこの子使う必要ないし……手で叩いて倒したほうが血とか飛ばないで倒せるからこっちの方が色々いいんだよ?」


「はあ……?えっと、手って……このちっちゃい手ぇ!?」


 素直にそう言うと、クリスさんは握った私の手をぷにぷにしながら叫んだ。


「ちっちゃいは余計だって……そーだよー、ぎゅっと握って飛び込んできた所をこう……パンチでね?」


「あ、あははは……うっそだー!とか言いたいけど嘘じゃないんでしょ……?」


「うん」


「躊躇なく頷いちゃったよっ……はあ、ファムちゃんって本当に……なの……?」


「んん~?」


「……あっ!い、いやなんでもない……!」


 クリスさんが何か小さく呟いたが慌てて口を塞いで目を逸らす。昨日も何か呟いていたのを聞き逃したけど、今回はばっちり聞こえた。私が何者か、かぁ……創造神様が言っちゃ駄目って言ってたけど……あんまりとも言ってたから信用できる友達になら言っても良いよね?


「……クリスさんになら教えてあげても……いいよ?」


「へっ?」


「だけど……まだないしょっ♪」


「ええ~~~っ!?」


 もうちょっと待っててね?こういうのは焦らして焦らして……良いタイミングを見計らっての方がきっと楽しいよね♪


「それまでいっぱい悩んでくれると良いよ~♪さっきちっちゃいっていっぱい言ったお返しだよー!」


「ああっ地味に根に持ってたの!?うう、謝るから教えて~~~!!」


「あっははは♪でもだ~め、また今度ね~?」


 握っていた手を離して私は人混みに紛れ込む。昼間に比べればはるかに人数は少ないけどそれでもそれなりにいるので追いつくのは大変だろう。後ろからクリスさんの叫んでる声が聞こえたけど、私は笑いながら真っ直ぐとギルドに向かって走っていった……。



「……あ、やっと来た!」


 小さな逃亡劇を繰り広げたにも関わらず、私は何気ない顔でクリスさんが到着するのを待っていた。私が到着してから約5分、ふらふらになりながらクリスさんが到着した。


「は~は~……なんか、昨日から走りっぱなしなんだけど……」


「良い運動になるんじゃないかな?」


「それって私が太ってるって言いたいの……?」


「えっ?いやいやそういうわけじゃ……」


 何気ない私の一言にジト目で睨んでくるクリスさんに、慌てて弁解しようと思ったが……ある一転に目が留まってやめた。


「うん、太ってる」


「なっ!?」


「特にここが~~~!!」


「へっ?ほわああっ!?」


 ぐにゅっと掴んだのはお腹ではなく胸っ!可愛い顔して結構なボリュームがあるその胸をぐにゅぐにゅと揉むとクリスさんが変な悲鳴を上げた。


「ちょっ、やめっ……!」


「べ、べつに羨ましいわけじゃないもん……だけど、いっぱい運動して小さくなれば良いんだぁ!」


「はうあっ!そこは弱いからだめぇ~~!?」


 私の理不尽な攻撃に色っぽい声で叫ぶクリスさん。そんなクリスさんに周りにいた他の冒険者さん達も顔を赤くして見つめている。女の子同士とはいえ、そんなことをしてれば注目の的になるのは当然だろう。そしてそんなに騒いでればもちろん……


「うるさ~い!ギルドの入り口で何いやらしいことしてるんですかぁ~!!……ってクリスさんとファムちゃんですかぁ!?クリスさん、ファムちゃんに変な事教えないで下さいよぉ~~!!」


「あ、やりすぎた……ごめんなさーい!」


「ち、ちがっ!?私は被害者だよお~!!」


 受付にいたミーナさんから叱責が飛んできたので、さすがにこれ以上は止めて手を離して解放してあげる。はふぅっとクリスさんは脱力して尻餅をついてしまった。顔を赤くしてなんだか……えっちっぽい。そんなことを考えてたら「やりすぎだよぉ!!」と半泣きのクリスさんに本気で怒られてしまったので、心の中で反省しながらごめんなさいとちゃんと謝りました……。 


「もう~、厳格な冒険者ギルドをなんだと思ってるんですかぁ!ぷんぷん!」


「「ごめんなさい……」」


 立ち直ったクリスさんと一緒にミーナさんがいる受付に行くと改めて怒られた。まあ、こちらは本気では無いみたいなのですぐに許してくれた。


「……私も混ぜてくれればよかったのに……」


「「…………」」


 そんなこと言っていたのでまあ平気でしょう。あ、突っ込みません。スルーします。


「それより……ファムちゃんったらあたしの制止を振り切って飛び出しちゃってぇ!も~心配したんですよぉ!?」


「あ、あははは……でもミーナさん自分の力にあった依頼を選べって言ってたから良いかなって思って~」


 笑ってごまかすとばかりに笑いながらそう言うと、「うぐっ!」とミーナさんが一瞬詰る。それでも下がるつもりは無いのか言葉を続ける。


「確かにそう言いましたけどぉ……でもまさかあんな依頼受けるだなんて思うわけ無いじゃないですかっ!!」


「……そういえば聞きそびれたけど、ファムちゃんなんの討伐依頼受けたの?ブラックドッグ、じゃないの?」


「ち~が~い~ま~す~よぉ!ぜんっぜん違いますぅ!!ファムちゃんが受けたのはブラックたむぐぅ!?」


「わわわっ!私の方は時間掛かりそうだからクリスさんから報告してよ、ね?」


 大声で依頼内容を叫ぼうとするミーナさんの口を抑え、クリスさんに先に報告を済ませるように促す。困惑していたけど、厄介なんだなと理解して(呆れていたのかもだけど……)素直に頷いてくれた。


「そ、それじゃ私の方からよろしく……えっと、ブラックウルフの討伐依頼の報告で……10匹の群れだったよ」


「むぐぐ……っ……ぷはぁっ!……うう、苦しかったですぅ……こほん。はい、クリスさんの討伐依頼はブラックウルフ一匹の討伐でしたね。それで……10匹の群れでしたか。袋の中身を確認させてもらいますね…………はい、10匹分の尻尾を確かに確認いたしました。よってこの依頼を10回分の完了をカウントさせていただきますね。……はい、それではギルドカードの返却と……こちらが報奨金となります」


「うん、ありがとう」


「……はあ……ミーナさんかっこいい……」


 さっきまでの慌てっぷりから、仕事の出来るお姉さんへと変貌したミーナさんに思わず感心してしまう。公私を完全に切り替えられる姿はとっても見ていて格好良く見えた。そんなミーナさんが私の方を見ながら微笑んでほんのり顔を赤らめる。あ、その真面目モードでそんな仕草されるとなんだかドキッとする。


「それでは次はファムちゃんですね。ファムちゃんの依頼は……ぶ、ブラックタイガー一匹の討伐依頼……でしたね?」


「……へっ?」


 私が返事する前にクリスさんの間の抜けた声が入った。ぽかんとした表情で私の顔を見る。説明を求めてるようだけどまた話がこじれるのでここはスルーしておく。……ちなみにミーナさんの声が聞こえたほかの冒険者さん達もぎょっとしてこっちを見てたりもする。うう、なんか気まずいけどスルースルー……


 私はギルドカードをミーナさんに差し出しながら頷く。そしてもう一つ、切り取ったブラックタイガーの尻尾をポーチ……ではなくベルトのように巻いていた所からしゅるしゅると外してカウンターに置く。長すぎるのでポーチに入らなかったのだ。


「はい、ブラックタイガーの討伐で間違いないです。ギルドカードと、これが採ってきた尻尾です」


「……か、確認させてもらいます、ね……?」


「……ファムちゃん……?ブラックタイガーって、あれ?……その、大きな黒い虎型の魔物の事?」


 ミーナさんが若干青ざめながら尻尾を手にとって確認に入り、その合間にクリスさんが呆然としながら質問してきた。周りの人も固唾を飲んでじっと見ている。……もうここまで来たら隠すものも無いので私はしっかりと頷く。


「うん、そうだよ。昨日クリスさんの一緒にライム草を採ったあの森。その森のもっと奥に入って倒してきたんだよっ!」


「ああ、そうなんだ……あはは……もう私、ファムちゃんのことで驚くの止めるね……?」


 私の言葉を聞いてクリスさんは死んだ目をしながらそう言った。あ~、なんか全体的に白くなってる……。あの虎さんってそんなに怖いやつだったのかなぁ?倒し方があれだったからいまいち実感が……と、どうやらミーナさんが確認し終わったみたいだ。


「……はい、確かにブラックタイガーの尻尾であると確認しました。その上この個体のサイズは平均的なブラックタイガーに比べ、二回りほど大きい強大な魔物だったと判明しました」


「「「な、なんだってええええええっ!!?」」」


「わあっ!?み、皆さん……?はふぅ……び、びっくりした……」


 なにそれ?と私が聞き返す前に、周りで話を聞いていた冒険者さん達が目を剥いて叫んだ。そしてざわめく彼らをミーナさんは一瞥し、「コホン」と咳払いをして静かにさせた。か、かっこいい……!!しかしそんなミーナさんの目にじっと見つめられて思わずドキッとしてしまった。そんなことは露知らずミーナさんは続きを話し出した。


「……ですので通常の依頼報酬と共に、町への脅威を事前に取り除いた功績を称えまして特別報酬を上乗せさせていただきます。どうぞ、遠慮なくお受け取りください」


「特別報酬?……わあっ!!」


 さっきに続いて私は驚きの声を上げてしまった。それは渡された報酬の袋が昨日貰ったものより大きかったことでは無い。重さは少しびっくりしたけど一番は中身だ。


 それは銅貨も銀貨も入っておらず、ただ金貨のみが……ジャラジャラと音を立てて入っていたのだった……。

 

ここまで読んでいただき、ありがとうございます♪

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ