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7. はじめての討伐依頼 受注編

だらだらになりそうなので、そろそろ更新日を設けることにしました。詳しくは活動報告を参照して下ささると嬉しいです。

7.はじめての討伐依頼 受注編


 地上へ転生を果たし近くの町へ辿り着いた私ことファム。痴漢に遭ったり迷子になったり大変なことも在ったけど、生まれて初めてのお友達が出来たり冒険者になれたりと嬉しいこともあった。冒険者は無理にならなくてもよかったんだけど、この地上界で生きていくにはお金を稼がないといけないので魔物を討伐するついでに稼げれば……ということで成り行きで試験を受けたけど、今となってはなれてよかったと思う。戦闘以外まともに出来ない元戦闘天使の戦女神だし、なにより……一日経った今でも大勢から貰った温かい声援を忘れてない。



「んん……ふわわわわ~」

 

 昨日のことを思いだしつつ、身体を起こして大欠伸をひとつ……朝起きた時いつもしている恒例行事だ。ベッドで身体を起こしふわふわ寝ぼけている頭で周りを見回す。ここがどこか一瞬忘れかけていたけどすぐに地上界の宿屋だと把握する。回想してたのにもう忘れたのか!とか突っ込まないでね……。


 昨日冒険者になったあと、クリスさんと一緒に食事を摂ったり町の案内をしてもらった。どこに何があるのか、ここはお勧めのお店だとか色々教えてもらった。最後にこの宿屋を教えてもらってから「またね~♪」と言って別れたのだ。


「またね……かぁ~♪なんかお友達みたいっ!」


 正真正銘お友達になったのだけどなかなか実感が持てない。だって今の今まで友達なんて出来たことなかったから仕方ないじゃない!と自分自身に突っ込みを入れたところで出かける準備をする。クリスさんの勧めで買った寝巻きから白のワンピースに着替え、靴下とショートブーツを履く。背中に剣を背負ってこれまた勧めで買ったサイドのウエストポーチを身につける。中にはジェリーおじさんから貰ったお金入りの皮袋が入ってる。中身は全部入れてると危ないよ~と助言を貰ったので、金貨だけ取り除いてマジックシェルに入れてある。


「……よし、これで大丈夫……あっ、大事な事忘れてた!」


 地上世界でとってお大切な事を忘れていて、私はぱたぱたとある小さな部屋へ飛び込む。そして……


 ……ジャ~~~……


「……はあ~すっきりした♪」


 ランダム周期で訪れる排泄欲……おトイレを済ました私は何故かさっきよりもご機嫌になりながら宿屋の一階へ下りていった。



 一階で朝食を食べてから宿屋の外へ出る。まだ朝の8時くらいだが既に人で賑わっていた。朝早くから活動を開始する冒険者が主な町なのでこんな物なのだろう。冒険者ギルドに向かう途中にあるお店も既に開店していた。……私には早いのか遅いのか判断は付かないけどね?


 5分ほど歩いて冒険者ギルドに到着すると躊躇無く中に入る。そして昨日はあまり関わらなかった入り口右手の紙の張ってある看板が立っている方へ歩いていった。昨日冒険者として受け入れられた後、ミーナさんが依頼を受けるときは看板に張ってある依頼書の中から受けたい物を取って受け付けへ持ってきてください~と言っていたのだ。


「どんなのがあるんだろう……?」


 看板エリアまで辿り着くと既に沢山の人が看板とにらめっこしていた。良く見ると依頼書には色んな色があって、緑・赤・黄などがあった。何かを基準に色分けされているみたいなのだけど私にはわからなかった。う~ん……と思ったけど、昨日の助言通り先輩に聞いてみることにした。


「あの~すみませーん」


「んあ?なんだ……って、おお!昨日のお嬢ちゃんじゃないか。早速依頼を受けに来たのか」


 どうやらあの場に居て声援を送ってくれていた人みたいで、私のことを知ってくれていた。これなら安心して質問できそうだ。


「昨日はありがとでした!それで聞きたいことが在るんですけど……」


「お、早速質問だな?何でも聞いてくれ!」


「依頼を受けるなら依頼書を取って持ってきてと言われたんですけど、この色分けされているのは何か意味があるんですか?」


「ああそれか。それは依頼の種類によって分けられていてな?…………」


 冒険者の男性いわく、依頼には本来数多くの種類が存在するらしいのだけれど、それだと受ける側もどれがどういった種類の依頼なのか判断しにくい場合があるのだという。そのため、ギルド側で大きく種類分けをして色付けをしてくれているのだ。


 その種類は三つ。一つは昨日の試験みたいな採集依頼。これは薬草に限らず指定された物品を手に入れて報告するもので、依頼書は緑になっている。


 二つ目は討伐依頼。その名の通り指定された魔物や、時には犯罪者を退治する依頼となっている。報告するにはその魔物の一部を手に入れて提出するらしく、依頼書は赤色だ。


 そして三つ目は護衛依頼。商人や戦闘経験が無い人々を指定された場所まで守って送り届ける依頼だ。内容は依頼によって大分変わるのでここでは割愛された。依頼書は黄色となっている。……説明された内容を簡潔に纏めるとこんな感じだった。


「……ということなんだがどうだ?少しは役に立てたか?」


「少しだなんて……とっても助かりました!ありがとうです、せんぱいっ♪」


「ぶふぅっ!!?」


 お礼を言いながらちょこんとお辞儀をすると、男性はいきなり噴出した……チラッと見えたが血が見えたような……?


「だ、大丈夫ですかっ!?せんぱいっ」


「ぐほぉっ!?……だ、大丈夫だ……」


「で、でも血が……」


「ちょ、ちょっと逆上せちまっただけだから平気だ……!そ、それじゃ依頼頑張ってな……?」


 そう言うと急に駆け出してバーカウンターのあるほうへ駆けて行ってしまった。一体どうしたのだろうか?説明してくれていた時なんとも無いように見えたんだけど……でも心配ないって言っていた。ちょっと心配が残るけど、冒険者の先輩なのだからきっと大丈夫だろう。


「折角教えてもらったんだから私は依頼を選ばなくっちゃ!……え~とそれじゃ赤いの赤いの……」


 種類を教えてもらったので、私は目当ての物……討伐依頼を中心に探していく。しかしそこでもう一つ壁に当った……


「うぅ、魔物の名前……わかんない」


 ブラックドッグというのは昨日クリスさん達の話しに出てきたのでわかったが、それ以外は全く見当が付かない。仕方ないので何となく想像出来る名前の物を選んで手に取った。


『ブラックタイガー:一匹討伐』


 名前からして黒い虎だろう……昨日のも黒い犬でブラックドッグだったのだから、きっと見ればわかるだろう。そう気楽に考えて受付へ持っていくことにした。



「冒険者になったばかりの方にこんな依頼受けさせられません!」


 受付に持って行った瞬間怒られた。ちなみに担当している人はミーナさんじゃない知らない男の人だ。それにしても何が駄目だったのだろう?


「え、えと……どうして駄目なんですか?」


「どうしても何も……ぶ、ブラックタイガーだなんてランクCの冒険者達がパーティを組んで相手にする魔物なんですよ!?それをEランクの……それどころか昨日なったばかりの女の子に受けさせるなんて出来るわけないじゃないですか!!」


「な、なるほど……そうですね……」


 どうやら適当に選んで持っていった依頼書はそこそこ大変なものだったらしい。とはいえそんなこと書いてないからわからないよぉ~。


「こほん、声を荒げてすみません……あなたにお願い出来そうなのはライム草の採取やブラックドッグの討伐辺りだと思います。その辺りが冒険者になりたての初心者にとって最も妥当な依頼ですよ」


「う、う~ん……昨日の試験でその両方やっちゃったんですけど……」


「試験……ですか?ちょっと待ってくださいね……ああ、確かにライム草の採取は達成されていますね。ですけどブラックドッグの討伐は入っていませんが?」


 受付のお兄さんが私のギルドカードを水晶球にかざしながらそう私に告げる。どうやらあれでカードの情報を見てるみたいだけど……それを聞いて首を傾げる。


「試験の途中で倒しただけなので依頼は受けていないんです。その、魔物の一部も採ってはいないんですけど……」


「ああ、なるほど……ですが物がない以上確認することは出来ませんので……」


「うう、そうですよね……ごめんなさい、別の依頼書取ってきます……」


 結局駄目だと言うことがわかったので諦めて看板エリアに戻る。ブラックタイガーの依頼書を元の場所に戻して、先ほど目に入っていたブラックウルフ討伐の依頼書を手に取る。


『ブラックウルフ:一匹討伐』


「……すぐに終わっちゃいそう」


 愚痴っぽく呟きながらも、まずは下積みが大事なんだと思いなおして再び先ほどの受付へ……


「おはようございますぅ!依頼を受けられますかぁ~?」


「はい……って、ええっ?ミーナさんっ!?」


 さっきのお兄さんではなくミーナさんが受付に立っていた。い、いつの間に……?


「んふふふふ~♪先ほどファムちゃんの声が聞こえたので代わってもらったのですよぉ」


「は、はあ……」


「それにファムちゃんを怒鳴りつけるなんて、とても愚かな事をなさっていたのでたっぷりお仕置きもして置きましたからぁ~」


「……は?」


「そんな些細なことは置いておきましてぇ~……ブラックドッグの討伐ですか?ファムちゃんには簡単すぎる依頼っぽいですねー」


 なんかお仕置きって言葉が聞こえた気がしたけど……しかも些細って……?ああ、そんなこと全く気にしないでミーナさんが進めてるのでこの際考えないで置こう。


「う、うん……でも初心者にはこの辺りが妥当だって言われて……」


「なるほどお仕置き追加ですね……クリスさんから話を聞きましたが、ファムちゃんはこの魔物相手なら全く問題ないと話されていましたので、もう少し強い魔物でも平気だと思いますよ?」


「追加……?ええっと、そうしたいけど実は魔物の種類とかわからなくて……」


「ああ~そうでしたかぁ!それなら……はい、どうぞぉ」


 前半を聞き流して私が素直に告白すると、ミーナさんはなにやら分厚い本のような物を取り出してカウンターの上に置いた。表紙には『世界の魔物大百科』と書かれていた。


「これは?」


「今までに確認された魔物の名称と特徴が網羅された図鑑ですよぉ。索引と目次がありますのでこれで知りたい魔物を調べれば……この通り絵が付いていますのでどんな魔物なのか丸解りですぅ!」


「わあっすごく解りやすい……!それに生息地も載ってるんだ!」


「世界中の冒険者ギルドが力を合わせて纏め上げた珠玉の図鑑ですよぉ。こちらをファムちゃんにお渡ししますので是非自分の能力に合った討伐依頼を受けてみてくださいー」


「ありがとうミーナさん!大事に使わせてもらうね♪」


 そんな貴重なもの……と断ろうとも思ったが、きっと押し切られる上私には無くては困るものと判断し、厚意に甘えさせてもらうことにした。


 早速中を見ようと思ったが、後ろで並んでいる人の邪魔になると行けないので横にずれる。「ああ~……」というミーナさんの声が聞こえたが、すぐにお客さんが詰めてしまったので見えなくなった。みたび看板エリアに向かいながら、私は本で目的の魔物を探し出した。それは……


『ブラックタイガー:黒い体毛を持つ大型の虎。長い牙と爪は非常に鋭く、触れただけで重い裂傷を引き起こす力を持っている。強靭な四肢は目で追えないほどの走行速度を叩き出し、相手を翻弄しながら追い詰める。有効な討伐方法:弓か魔法を使えるものが足止めをし、動きが止まったところを剣や斧などの切断武器で一気に止めを刺すのがベスト。推奨冒険者ランク:B(パーティならCでも達成の可能性在り)』


「ふむふむ……」


 先ほど怒鳴られて渋々諦めたブラックタイガー。確かにブラックドッグなんかに比べて恐ろしい相手のように書かれていた。なるほど、確かに私みたいな初心者が相手にするには絶望的な相手なんだと思う……だけど私は恐怖するどころか、どこか楽しそうな笑顔を浮かべていた。


「……面白そうな相手……♪」


 無意識に笑みを浮かべながら私は呟く。本を閉じると私はある一点を目指して看板エリアに辿り着くと、素早く手を伸ばして一枚の依頼書を取った。周りに居た冒険者達が伸ばされた小さな手にきょとんとしていたが、取られた依頼書を見て驚愕の表情を浮かべた。


「お、おい嬢ちゃん……!その依頼は……ぶへあっ!?」


 そして私と目が合うと、変な声を上げながら顔を真っ赤にしてどこかへ行ってしまった。その時の私には解らなかったが、後で聞いたらすごく魅惑的な笑みを浮かべていたらしい。みわくてきってどういう意味かわからないと言ったら「とんでもなくえろい」と言われた。8歳児程度の子供にそれはどうなの……?


 未来のことは置いておいて、私は依頼書を持ってミーナさんの所へ行った。既に他の冒険者さん達は捌けていたのですぐに受け付けてもらえた。さっきと変わらずほわほわとした笑顔で迎えてくれる。


「良いもの見つけましたかぁ?うふふ、とっても可愛らしい笑顔を浮かべてますねぇ~♪」


「えへへ、ミーナさんのお蔭だよ♪はい、これをお願いします」


「はいは~い……ポンッと。受理しましたよぉ~!……ああ、いけないいけない、内容確認するのを忘れてましたぁ。まあ、ファムちゃんなら平気……ひえっ!?」


 受け取ってそのまま依頼を受理してくれたミーナさんだったが、改めて依頼書の内容を見て驚きに固まった。そこにはブラックライガー討伐の依頼があったのだ。てっきりブラックドッグより少し上の魔物だと思っていたみたいだけど……私は迷い無くそれを選んだのだ。


「ふぁ、ファムちゃん!?こ、これって間違いですよねぇ?ブラックウルフとかファイヤリザードと間違えちゃっただけですよねー?あ、あははは……」


「ふえ?やだなぁミーナさん、見ての通りブラックタイガーだよ?」


「やっぱり見間違えじゃなかったぁ~~~!な、なんで?ファムちゃん、図鑑見なかったんですかぁ!?」


 バンッ!とカウンターを叩きながら身を乗り出すミーナさん。どうやら私が勘違いでこれを持ってきてしまったのだと思っているらしい。だけど私は首を横に振る。


「ん~ん、ばっちり見たよ!それで面白そうだなぁって……」


「面白そうっ!?はあう……ファムちゃん、今からブラックウルフに変える気ないですかぁ?虎と狼ってにてますからぁ……」


「狼って結局犬だよね?だったら虎の方がきっと強いと思うのっ!」


「強すぎますよぉ……ブラックウルフ50匹分くらいありますよぉ……だから今ならまだ間に合い……ああっ!?もう受理しちゃったぁ!!」


 ぐったり顔をカウンターに擦りつけながらミーナさんが私の気持ちを変えさせようとするが、先ほどの自分の行為を思い出したのか、がばっと立ち上がってが~んと頭を抱えた。その衝撃で手に持っていたギルドカードが落ちたので、私はそれを素早く取り去る。そしてにこっと笑う。


「受理されたんだよね?それじゃいってきま~す!」


「あっ、待ってぇ~!急いで依頼の破棄を……ああ、カードが無いぃ~!?」


「さっきから何騒いでんだ……!!って……またお前か!?」


 私が受付から早足で離れると男の人の声が聞こえた。出入り口に向かいながらちらりと見ると、ミーナさんの背後に強面の男性が立っていたのが見えた。


「あっ、ギルドマスター!?こ、これには訳が……」


「全くお前は……いいから奥へ来い!たっぷり絞ってやる……!!」


「そ、そんなまってぇ!!お、女の子がぁ……ファムちゃんが行っちゃうぅぅぅ~~~…………」


 ギルドマスターと呼ばれた人はミーナさんを引き摺るようにして奥へ引っ張って行ってしまった。きっとお偉いさんなんだろう……。ごめんねミーナさん、でも私はこれを受けたいんだ♪


 止められることが無くなったので私は速度を緩める。そして図鑑を出してブラックタイガーの生息地をチェックし、一緒に挟んであった地図があったのでそれと照らし合わせる。……ふむ、昨日の森の奥に居るようだ。そんなに遠くないから問題ないだろう。

 

 本を仕舞うと私はうきうきしながら門へと歩みを進める。……頭の中から既にミーナさんのことはすっぽりと抜けていた……。

ここまで読んで下さり、ありがとうございました!


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