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6. いざ冒険者になるために!そのに 採取完了!そして報告へ…

6.いざ冒険者になるために!そのに 採取完了!そして報告へ……


 クリスさんが突然森に向けて始めた駆けっこは、後から出発した私が3倍以上の差をつけるという形で終わった。でもってまた息を切らせたクリスさんはよたよた歩いてる。


「大丈夫?」


「はあはあはあ……さ、さっきよりは差をつけられなかったよ……!げほっごほっ……!」


「そ、そうだね……」


 息を切らせて咽せながら笑うというすごいことをしながら、その笑顔は素敵だったけどこんなことに無茶はしないで欲しい。素敵だけどどこか抜けてるなぁ~と思いつつ背中を擦ってあげた。


「あ、ありがと……それより、そろそろライム草の群生地が近くにあるはずだよ」


「ホント?まだ入り口に入ったばっかりだけどそんなに近くにあるものなの?」


「うん、何故か魔物達はこの森の外側には入ってこないし、奥に居るのもここまで出てくることは無いんだ。詳しい理由はわからないけど、きっと魔物同士の暗黙の了解なんじゃないかな?……ほら、言ってる傍から見つかったよ?」


 そんな説明をしてくれながらクリスさんは何かを見つけると、そっちに向かって指差した。釣られるように私もその方向へ視線を向けると、他の草とは色の違う草が集まって生えているのを見つけた。深緑色の草に混じって明るい黄緑色のそれこそがライム草らしい。


「わあホントだ!森に入っちゃえばすぐに見つかるものなんだね~」


「前はこんなところに来なくても手に入ったんだけどね。何でかわからないけど町の周りに生えてたのは魔物達が荒らし尽くしちゃって絶滅しちゃったんだよ」


「酷いことするね……ねね、これって町の中で栽培すること出来ないの?」


 魔物達の悪辣な行為にむかっと気ながらも私は思いついたことをクリスさんに聞いてみる。


「う~んどうなんだろ?そういえば誰も試したことなかったような……でもそのまま持って帰っても薬には出来るけど、植え直す頃にはさすがに元気無くなってるんじゃないかな?」


「あ、そっか……花なら種とかあると思うんだけど、草だと難しいね……ん?あっ、あれならきっと大丈夫かも!」


「えっ、何か良い手が見つかったの?」


「うんっ!でもその前に一つ採取するね?」


 思いついたことを試す前に私はしゃがみ込むと、ライム草の一つを選んで引っこ抜くのではなく根っ子からとるために周りを丁寧に掘り始める。ただ引っこ抜いただけだと、根っ子が傷ついたり切れたりしてしまうのでしっかり丁寧にやる。


 大体5センチくらい掘り進んだところでライム草のちょうど真下に当るところに手をもぐりこませる……よし、平気そうかな?問題無さそうだったのでゆっくりと押し上げるようにして土ごとライム草を持ち上げる。引っかかるようなら周りを少し削って動きを良くし、それを何度か繰り返すうちにすっぽり抜くことが出来た。


「ふう、上手く採れたよ~」


「わっ、土ごととったの!?すごいキレイに穴空いてる……でもそれでどうするの?そのままだと結局変わらないんじゃ……?」


「まあまあ慌てないで~。えーと、仕舞いたい対象に触れて強くイメージ……収納!」


 根っ子ごと採取したライム草を凝視し、頭の中の収納箱に仕舞うことを強くイメージする。するとシュポンッ!と音がしたかと思うと手の中にあったライム草が消えた。


「え?あれっ!?ライム草が消えちゃったよ!?」


「大丈夫、仕舞っただけだよ~」


「仕舞ったって……どこに?」


 想像通りの反応をしてくれるクリスさんにくすっと笑いながら説明してあげる。


「魔法で仕舞ったんだ!どこにって言われると説明し難いんだけど……私の中、になるのかな?」


「え、魔法使えないんじゃなかったっけ……?それに物を仕舞う魔法なんて聞いた事無いよ?」


「そうなの?創造……これを教えてくれた人は一般的な便利な魔法って言ってたんだけど……」


「いやいや、そんな魔法が一般的だったら大変だよ……。何が……とは言わないけど、色々めんどくさいことになるのは確かだと思うよ?」


 マジカルシェルの魔法を目にしたクリスさんは、呆れたような表情でそう言う。詳しい問題は言われなかったけど、確かに人前ではあんまり使用しないほうが良さそうだ。使うなら信用できる人の前だけにしよう。


「わかった、あんまり人の前で使わない様にするよ。クリスさんも内緒にしてね?」


「そりゃファムちゃんのためだから誰にも言うつもりは無いけど……くれぐれも気をつけるようにしてよ?」


「うん、ありがと~!」


 こういうことは一人でいたら知らずに多用するところだった。やっぱりこうして意見を言ってくれる友達が一緒に居てくれると助かるね。


「それじゃ後いくつかそのまま採集してっと……よし、これでオッケーかな?」


「だね。それじゃ町に戻って報告に戻ろうか!……っとここで気を抜いちゃ駄目だよ?報告に帰るまでが試験であり、冒険だからね?よく調子に乗って帰るだけだ~って言って、やられて帰ってくる人とか居るんだからしっかり気をつけるように!」


「は~い!しっかり注意しながら帰りま~す!」


「よし!それじゃ町へ帰還ー!」


 急に試験見届け人に戻ったクリスさんの言葉に返事を返す。でもなんだか急に冒険者の先輩っぽいことをするものだから、我慢できず笑ってしまった。


「あっはははは!クリスさんなんだか似合わないよ~!」


「あーひっど~い!折角最後くらいはかっこよく決めようと思ったのにっ!」


「ごめんごめん!でも……ぷぷっ、あっはははやっぱり駄目~!」


「もー笑いすぎだよ!自分でも似合わないなぁ~って思ってたんだから軽く流してよお!」


 顔を真っ赤にしながらぷりぷり怒るクリスさんに笑い転げる私。結局クリスさんの注意にも関わらず、緊張感の欠片も無い帰り道になってしまった。



 しかし現実はこんなもので、事件のじの字も無くライム町の冒険者ギルドまで帰ることが出来た。町の門に辿り着いたところで、再び私が大笑いしてクリスさんにまた顔を赤くして怒られたのは言うまでも無い。


 笑いながら冒険者ギルドに入ると、何人かの人にチラチラッと見られた。だけど私はもう萎縮することなく、笑顔を浮かべたまま受付まで向かうことが出来た。たまに目が合う人が居てにこっと笑顔を返すと、顔を赤くしたり手を振ってくれたりしてくれた。初めはちょっと怖い気もしたけどそんな事無いと解ってなんだか嬉しかった。


 そんなことをしてると相変わらずガラガラな新規登録受付に辿り着いた。お姉さんが奥で椅子に座ってこちらを見ている……と思ったらこちらでは無いどこか虚空を見つめてボーっとしてるだけだった。


「ただいま~!」


「ほへー……」


「お姉さん?」


「ほへー……」


 クリスさんと目を合わせると、「駄目だこりゃ」と両手をあげて首を振った。そんなに暇だったのだろうか……?でも偉い人とかに怒られたりしないのだろうか?しかしこのままだと報告も出来ないのでどうしようかと悩む……あ、そうだ!


「ちょっと痛いかもしれないけど……しょうがないよね?」


「ん?何するの?」


「空牙だよ?」


「……は?ちょ、ミーナを殺す気!?」


 あ、お姉さんの名前ミーナさんって言うんだ?ってそんなわけないよ!


「ちょっと突っついて起こすだけだよ!まあ見てて~」


「ほ、ホントだよね……?さっきやっつけられた魔物、チラッと見たら真っ二つになってたんだけど……」


「平気だって!いっくよー……空牙もどき!」


 剣は持っていないので、手をチョップの形にして軽くぶんっ!と振る。すると……


 こつんっ!


「あいたっ!な、何ですかぁ!!折角気持ちよく眠ってたのにぃ~!!」


 上手く行った様で無事にミーナさんを起こすことが出来たみたいだ。おでこを擦りながら文句を言ってるけど、こうでもしないといつまで経っても報告できそうに無いから仕方ないよね?


「ミーナさんただいま~!」


「え、その声はぁ……ファムちゃん!?えぇ、もう帰ってきたんですかぁっ?」


「私もいるよー。もう、仕事中に寝ないでよね…………」


「あっもしかしてクリスちゃんが起こしたのぉ!?もー、折角夢の中でファムちゃんとにゃんにゃんしてたのにぃ~」


「にゃんにゃんって、なに?」


「……ファムちゃん、剣貸してあげるからもう一回さっきのやって良いよ。もう遠慮なく……ね?」


 あ、クリスさんの目が笑ってない。本気で私に剣渡そうとしてるし……不穏な空気に気付いたのかミーナさんが慌てて私達のほうへやってきた。


「な、なにするのかわからないけど止めて!居眠りしてた私が悪かったからぁ!!」


「全く……いくら他の受付と独立してるから上司に見られないからって油断しすぎだよ?あまりにも酷かったら私が報告しちゃうからね?」


「そ、それは許してくださいぃ~~!前に本当にばらされてすっごく怒られたんだからぁ~!!」


「だったら仕事するっ!晴れてファムちゃんが冒険者になる瞬間だって言うのに、ミーナが台無しにしちゃ駄目でしょ?」


 そう言いながらクリスさんが私の方に振り向いて「ごめんね?」と謝って、受付の近くに来るように促される。あははと苦笑しながら私はミーナさんの前に行って取ってきたライム草(後で取ったやつ)をカウンターに並べた。


「これが指定されてたライム草だよね?」


「……はい、間違いないですね……一応確認しますが、クリスさんは採取に関して手を出していないですか?」


「うん、ちっとも。ライム草については教えてあげたけど、それ以外はノータッチだよ」


「そうですか……」


 う~んと悩むミーナさんにクリスさんは付け足す。


「森に向かう途中に魔物と……ブラックドッグと遭遇したんだけど」


「え、魔物にあったんですかぁ!?……それはクリスさんが退治したんですか?」


「ううん、ファムちゃんが一人で対処したよ。本当は私が手を出そうと思ったんだけど、ファムちゃんは魔物との戦闘経験があるって言ってたからね。で、その言葉の通り全くの無傷で倒してたよ」


「良かった……それにしても戦闘経験有ったなんて、先に言ってくれれば試験なんてしなかったのに……」


 申し訳無さそうにミーナさんはそう言うが、私はいえいえと手を振って否定する。


「冒険者の依頼の流れが知れたからとっても為になったよ。それにクリスさんと一緒に行けたから楽しかったし……」


「それなら良かったです……そっかぉ、あたしも一緒に行けばよかったなぁ……」


「公私混同しないっ!それよりも今はもっと大事なことがあるでしょ?」


 しょんぼりするミーナさんだったが、クリスさんに一喝されてはっとする。椅子から立ち上がって一つ咳払いをすると、背筋をしゃんと伸ばして話し出した。


「……冒険者への登録試験の結果ですが文句なしの合格とさせていただきます!」


「やったぁ!」


「これよりギルドカード……あ、身分証のカードのことです。そちらに冒険者としての活動の許可を追加しますので一度貸してもらって良いですか?……はい、ありがとうございます。それでは登録を行いますので、こちらの水晶球に手を触れてください」


 ギルドカードを渡すと、ミーナさんは受付の近くにおいてあった水晶球をカウンターに置く。私は指示されたようにその上に手を置くと突然水晶球が光りだした。


「わぁ……!」


「ふふ、心配しなくても平気ですよ。これでギルドカードにファムちゃんの情報が魔法で登録されました。万が一カードを紛失した場合でも、お金こそ掛かりますが再発行が可能となりました。……はい、ギルドカードをお返しします」


「ありがとう!……あれ、Eランクって言うのが追加されてるけどこれは?」


 返されたカードを確認してみると出身地の下に大きくEランクと金色のスタンプが追加されていた。


「それは冒険者としてのランクと言う物を表わすものになります。Eというのは最も下のランクでその上はD……次はCと上がって行き、最高はSランクとなります。これは依頼をこなした数やギルドへの貢献度でどんどん上がっていきますので是非ランクアップを目指して頑張って下さい」


 なるほど、仕事の頑張りに応じてランクが上がっていくんだ!ちゃんとそういうのが目に見えて解るのはなんだか楽しそうだね♪内心うきうきしていると、ただしとミーナさんから注意事項が告げられる。


「長い間依頼を受注しなかったり失敗が多く続いた場合はランクが下がる場合があります。また、犯罪や他の冒険者への意図的な妨害行為を行った場合は即刻冒険者ランクの格下、最悪の場合は冒険者登録そのものの抹消処理をさせてもらいますのでくれぐれも注意して下さい……まあ、ファムちゃんがするとは思いませんけどね?」


 途中まで仕事の出来る女性の事務的な語り口からだったのに、最後はあはは~とさっきまでのミーナさんに戻ってしまったので残念だ。そんな私の内心は知らずに、ミーナさんはにこっと微笑んだ。


「改めまして……ファムちゃん、冒険者登録おめでとうございますぅ~!私達冒険者ギルド一同はあなたの華々しい活躍を影ながら応援させていただきます!!是非沢山の依頼をこなしてランクアップに励んで下さいね!!」


「あ……!はいっ!ありがとうございます!!私、頑張りますっ♪」


 ミーナさんに笑顔を返しながらしっかりお辞儀をする。すると隣で見ていたクリスさんがパチパチパチっと拍手をしてくれた。と思ったら……!


 パチパチパチパチパチパチパチパチッ!!!


「「「おおおおおおおおおおおっ!!」」」


「おめでとお~~~!!」


「可愛い嬢ちゃんの活躍楽しみにしてるぜえ~~~!!」


「何かわからないことがあったら遠慮なく先輩に尋ねろよお~~~!!」


「……わあっ!!」


 冒険者ギルド内に居た冒険者の皆が皆拍手をしてくれたり、大きな声援を送ってくれた。中には助言なんかもくれたりする人もいた。近くに居た人は握手をしてくれたり頭を撫でてくれたり……とにかく歓迎してくれた!それがとっても嬉しくて温かくて……思わずまた涙が流れそうになっちゃった。だけど後ろからクリスさんが肩を抱いてくれたお蔭で涙は流さずに済んだ。その代わりに……


「ありがとございます~~~!!皆さんのような素敵な冒険者にきっとなって見せます!!」


 とびっきりの笑顔を浮かべて冒険者の皆さんに向かって宣言した。拍手と声援が更に大きくなって私を温かく包み込む。私の心がとても満たされる気がした。


 こうして私の地上界での第一歩を……そして冒険者としての一歩も踏み出した……。

ここまで読んでいただきありがとうございました!


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