5. いざ冒険者になるために!そのいち、友達は唐突に。
5.いざ冒険者になるために!そのいち、友達は唐突に。
「ぜーはーぜーはー……」
クリスさんが到着したのは、私が門に到着してから十分近く経ってからだった。かなり大変だったみたいで、私に気が付くとその近くで座り込んでしまった。
「えっへへ~、私のかちー♪」
「けほこほっ……ううぅ、あんなの反則だよぉ……ファムちゃん、魔法使えたのぉ?」
咽ながらクリスさんは恨みがましい目を私に向けてそう言う。魔法は……確かに使えるけど今は一切使ってないので首を振る。
「んーん、使えないし今も使ってないよ~。ほら、私ちっちゃいから人の間を上手く通り抜けて行ったんだよぉ」
「それにしても程度があると思うけど……まあいいや……それじゃいこー……」
すっかり疲れきったクリスさんはそう言って門を指差して私を促す。離してる間に呼吸は整ったのか、幾分かマシになっていたけどふらふらして危なっかしい。悪い事したなぁ~と思って反省しつつ、私はその背中に続いて町の外へ出た。ちなみに来る時に担当してくれた人は今はいなかった……残念。
町の外に出て、まずは森の場所を見つけるために辺りを見回す。う~ん、こっち側には見当たらないってことはちょうど町を挟んで反対側かな?そっちを目指すそう……と思ったらクリスさんが口を挟んだ。
「森は町から左に行った方にあるよ。この時点で街道から外れるから魔物に気をつけて進もうね」
「あ、あれ?クリスさん、見届け人だから口は出さないって……」
「……疲れたからもういっぱい歩きたくないの……」
「あ、うん……ごめんなさい」
……よっぽどさっきの駆けっこが効いたのかさっきの発言を取り消してそう言うクリスさん。本当にすみませんでした……。
「そ、それじゃいこっ?」
ぐったりしてるクリスさんの手を掴んで励ますと、少し元気が戻ったのか顔を上げて何とか笑みを返してくれた。すると空いてる手で頬をぽんっと叩くと気を取り直したのか「よしっ!」と言って気合を入れた。
「そうだね!ここからはホントに口出さないから、好きな様に依頼に挑んでね?」
「うん、わかったー!」
明るい声で宣言したクリスさんに私も元気いっぱいで応える。さあ、気を取り直して試験開始だ!ほんのちょっぴり緊張するけど、冒険者になるためなんだからそんな子と言ってられない。がんばろ~!
クリスさんのアドバイス通り町の左側に進むと遠くに木が密集して生えているところを見つけた。どうやらあれが目的の森のようだ。距離はそこまで遠くは無いけど、近くも無いので程よい距離だ。初心者の依頼ということだったので試験にも持ってこいだろう。
街道を外れているからいつ魔物が出てきてもおかしく無いということなので、しっかり警戒しながら進む。気配はそれなりに感じることは出来るけど、天上界にいたときほどじゃなくなってるみたいだ。あの時は自分から5キロメートルくらい離れた距離まで感じることが出来たんだけど……今は100メートルくらいまでしか感じ取れないみたいだ。大分戦女神の力を制限されているみたいだけど、それでも体力や頭で考えたことへ即座に身体が付いてこれるくらいの運動力は健在だったのでまあ良かったと思う。
「ファムちゃんは魔物と戦ったことはあるの?」
手を繋いで横を歩くクリスさんが不意に私に尋ねた。さっきは子供だから危ないとは言っていたものの、私が剣を背負ってるから聞きたくなったんだろう。別に隠すことでは無いので素直にうなづいて話す。
「あるよー。と言っても一回だけだけど……」
「……あるんだ?それなら初めて遭ってパニックに……ってことは無さそうかな?」
「それは大丈夫~!」
実際戦ったのは一回だけど、相手にしたのは万を超える単位だから……とはさすがに言わなかった。言っても信じれもらえそうにないし、天上界での話だからね?今それをやれといわれてもきっと無理だと思う。
「見た目で危ないって思ってたんだけどちゃんと経験はあるんだね。う~ん、ちゃんと話聞いておけばこんな試験なんて無かったかもしれないね。……あと私の疲労も……」
「あ、あははは……でもクリスさんと一緒に居られて嬉しいなぁ♪もしこの試験が無かったらきっとクリスさんともう別れてたもんね……」
「ん?あ~……確かにそうかもね。多分食事に誘ってたかもしれないけど、その後はすぐに別れてたかも。でも私一緒にいて楽しい?歳だって結構離れてるからファムちゃん話にくいんじゃ……?」
クリスさんがもしもの話をしながらふと思ったのか、そんな質問を私に投げかける。特別な意味は無いとは思うけど、私は笑いながらも真剣に応えた。
「あはは、だって私友達も親しい人もいないから~。創造し……パパは優しいけど、いつも一緒に居られるわけじゃなかったからずっと一人だったんだー……」
「ええっ?でもファムちゃん人見知りする感じじゃないし、ちょっと話せばすぐに友達なんて……」
「……同じくらいの子は誰もいなかったし、大人の人は沢山いたんだけど話しかけても全く相手にしてくれなかったんだ。何でもパパと仲が良い私のことを妬んでたみたいですごく冷たくされてた。だから私は一人で部屋に篭ったり、一人でご飯を食べたりして過ごしてたの……それでもこんなに明るくいられるのも、パパが私のことを大事にしてくれたからなんだと思うんだー……」
「……ファムちゃん……」
「友達いなかったから嬉しい!」って言うだけのつもりだったけど、何故かずらずらと愚痴っぽく言葉が続いてしまった。声のトーンも落ちちゃってクリスさんまでどよ~んとさせてしまった。……いけない、折角創造神様が私が元気になれる様にって送り出してくれた地上での大事な第一歩なんだ!それをこんな気持ちで進める訳にはいかな……
ぎゅう……
「……ふぇ?」
突然柔らかくて温かい何かに包まれる。それが何かすぐに理解できずに困惑するも、それがクリスさんだと解るとなんだかとても安心した。
「ごめん、辛いこと思い出させて。ついファムちゃんが明るいからって勝手にそうだと決め付けて、酷いこと言っちゃったね……」
「クリスさ……」
「なんでもなかったら一人でなんか町に来るわけないのに、そんな事も察して上げられなくてごめん。許し
てとは言わないけど……でも辛かったなら、思いっきり泣いて良いよ?私なんかの胸でよければいくらでも貸すから……ね?」
「……あ……う……ぁ」
転生する前に創造神様に抱きついたときのことを思い出す。あの時は私のことをずっと見ていてくれたことへの嬉しさで泣いてしまったけど……。今は私がずっと一人で抱えて抱えて、重くても置くことも出来ずに更に抱え込んだ苦しいほどの寂しさを……今日初めて会ったばかりだというのにクリスさんは置いて良いと言ってくれた。私の詳しい事情は知らないだろうに……とは思わない。ただただ純粋な優しさが伝わってきて、私の中で無意識に押さえていた感情が爆発する。
「う、うえぇ……!ず、ずっと……ずっと寂しかったの……っ!と、友達も、優しくしてくれる人も居なくって……!!」
「うんうん……」
「創造し……さまのために働きたくても仕事がなくて……そのせいで他の神様達に馬鹿に……されて…………すごく、くるしかったのお……っ!!」
「うんうん……うん?」
「だから……だからねっ……天上界から地上界に……転生、して……クリスさんに、会えて……すごく、嬉しかったのおっ!!」
「うんう……えってんじょうかい?てんせい?え、どういう……」
「うわあああ~~~ん!!」
クリスさんが優しく抱き締めながら相槌を打ってくれているのを感じながら、私は溜まりに溜まった苦悩と、クリスさんに会えたことへの嬉しさを思いっきり吐き出して……最後は堪らず叫びになってしまった。途中自分でも何を言っているのか解らなかったけど止まらなかった。……ごめんね、うるさいかもしれないけど……受け止めて……!!
「え……と……?ま、いっか。ほら、遠慮しないで全部吐き出しちゃってね?大丈夫、全部受け止めてあげるから」
「ひっぐえぐ……うえええ~~~ん…………!!」
そのうち頭も撫でてくれて……優しく声を掛けてくれながらずっと抱き締めてくれた……。
「落ち着いた?」
「ぐす……うん……」
結局あれから10分以上クリスさんに抱き締めてもらって泣いていた。いや、最後の方は泣き止んではいたんだけど、クリスさんの柔らかくて温かい身体が気持ちよかったのと、甘い香りから離れたくなくて離れたくなかっただけだ。クリスさんも気付いていたみたいだけど、それでもされるがままになってくれてた。そして今名残惜しみながらもようやく顔を離した所だ。
「改めてごめんね?ファムちゃんのプライベートに勝手に踏み込んじゃって……許してもらえるとは思えないけど、せめてこれが……」
「クリスさん私とお友達になって!」
「終わって……へっ?」
クリスさんが頭を下げながら何かを言っていたけど気にせず、私はそれを遮ってクリスさんにに言った。
喋ってる途中で聞こえなかったみたいなのでもう一度。
「私の初めての……お友達になって!!クリスさんと、お友達になりたいの!!」
「わ、私と……?で、でもファムちゃんを傷つけて……」
「そんなの関係ない!クリスさんが好きなのっ!だから……お願いっ!!」
「す、好きっ!?……わ、私なんかでよければ……ううん、勿論だよファムちゃん!私もファムちゃんとお友達になりたい!」
声が上ずっていたけど、クリスさんは笑顔を浮かべるとそう言い返してくれた。その瞬間私の心の中で何かが弾けた。さっきの寂しさを吐き出していたときとは比べ物にならないくらいの……嬉しさが大爆発する!
「やったあああ~~~~~~~!!」
嬉しい嬉しい嬉しいっ!!生まれて初めての……お友達!!優しくて素敵でキレイで可愛くて……とにかく素敵なお友達!!
「クリスさんとお友達……!ホントに……ホントにお友達……?」
「本当にお友達だよ、ファムちゃん♪」
「わあ~~~い!!よろしくね、クリスさ~~~ん♪」
私の疑問に笑顔付きの即答で返してくれるクリスさん。私はまた一段とぱああっと明るくなった笑顔でクリスさんに抱きつく。クリスさんも力強く抱き返してくれた。もう嬉しくて嬉しくて……思わずまた涙が流れた。
「えへへ……嬉しくても涙って……出るんだね?」
「あははっホントだね……♪でもさっきより温かい涙だよ」
「うん……♪だって、幸せの涙だもんっ!」
ぎゅ~っと抱き締めながら私は涙を拭いながら私は笑った。こんなに泣いたのも……笑ったのは初めてかも。今ならどんなことでも出来そう!
「幸せの涙かぁ~なんか良いねそれも…………あっ!近くに魔物の気配が……」
突然クリスさんが口調を鋭くして気配がした方へ視線を向ける。それよりも早く魔物は動き出そうとした……けど。
「えいっ」
左手で抱きついたまま右手でクリスさんの腰の剣を引き抜いて……その場で向かってくる気配に向けて素早く振るう。空振り……ではなくって。
「グオオオォォォォ……」
ドスゥゥゥン……と遠く離れたところで断末魔を上げて魔物と思われるものが倒れた。邪魔者が居なくなったのを確認してすぐに剣をクリスさんの腰に戻すと、私はもう一度クリスさんを抱き締めなおした。
「えへへ、クリスさ~ん……♪」
「はっ?…………へっ?」
わけもわからずぽか~んとしたクリスさんを置いて、私は初めての友達のぬくもりを思う存分味わうべく頬をすりすりする。
「ファムちゃん……?今一体何をしたの?」
「ふにゃ~……剣振っただけだよぉ~」
すりすり……ごろごろ……
「それは見れば解るけど……でさっきの断末魔は?」
「むふう~……♪魔物の声じゃないかなぁ~?」
ごろごろ……ぎゅっ、ぎゅっ……
「……魔法?」
「あったかぁい……!違うよぉ……剣技だよぉ~……」
ぎゅっぎゅっ……むぎゅうっ
「ほわぁっ!?む、胸揉むのはさすがに止めて!……剣技ぃ?あ、あれが……あんな遠くまで届くのが剣の技なのっ!?て言うかファムちゃんどこでそんな技覚えたの!?私そんな剣技見たことも聞いたことも無いよ!?」
私にされるがままになっていたクリスさんだったけど、女性の象徴の胸を揉んだらさすがにそうはいかなかったみたいだ。引き攣っていた顔を赤くして私の手を押さえると、私の剣技に付いての突込みが入った。あれ~、地上にはそんな技無いのかな?
「え~となんだったかな?確か『空牙』って技だったと思うんだけど」
「知らない知らない……ど、どうやるの?」
「こう……剣を縦に振って真空波を打ち出すイメージなんだけど……」
「へえー結構簡単に……できるかぁ~~~!!」
手振りで教えてあげるも、頷いた後にそう突っ込みを入れられた。えー、私が覚えた中で一番簡単だったんだけど……あ、そういえばこの技って……
「ごめん~、これ私のオリジナルだった~」
「はあはあ……ど、道理で知るわけない……ってオリジナル!?あ、あんな危険極まりない技が……ファムちゃんのオリジナル技っ!?」
「そうー、剣の練習する時間がなかったから途中で思いついて使ってみたの~。名前はその時つけた適当な名前だから変えても良いよ?」
そうそう、あの一年前に戦争を終わらせた時に編み出した技の一つだった。遠くから攻撃してくる魔物が厄介だったから面倒だなぁ、って思ってやってみたらすんなり剣戟が飛んで行って切裂いたのだ。空中を切裂く牙みたいだから空牙、安直だね。
「べ、別に良いです……ファムちゃんって……何者?」
「?」
小さくぼそぼそ何か言ってたけど、よく聞こえなかった。だけど質問が止んだので満足いったのかな?そう判断して私はクリスさんに抱きつくのを再開する。むにゃ~止められない、この柔らかさと温かさ……♪
「……さっき叫んでた内容って実は本当の……?天上界ってことは……天使?でも転生って……」
「はふぅ~……!クリスさん?ぶつぶつ言ってどうしたの~?」
私が抱き着いてすりすりしたりごろごろしたりしても反応を返してくれない。声を掛けても届いていないようなので、にやっと笑って胸を揉んでみる。
むぎゅっ!
「んはあっ!?だ、だから胸は弱いから止めてっていってるのに~~~!」
「あはははっ♪やっと反応してくれたー!だって全然反応してくれないんだもん~」
「全くも~……ふう、もうどうでもよくなっちゃった。さ、大分時間経っちゃったから早くライム草採りに行こう?」
「あ、忘れてた~!」
クリスさんの言葉に試験の最中だったことを思い出した。ついお友達が出来た嬉しさでいっぱいになってしまっていたのだから仕方ない!
「冒険者になるのに大事なことなのに忘れちゃ駄目だよ?ほらほら、森に向かってダッシュ~!」
「あっ、クリスさんずる~い!疲れてたんじゃなかったの~!?」
「あっははは!ファムちゃんがびーびー泣いてるうちにすっかり回復したからね~♪ほら置いてくよ~!」
「む~!びーびーなんか泣いてないもん!あ、待てー!」
軽口を言いながらクリスさんは森に向かって走り出す。私は怒りながらその背中に向かって駆け足で追いかける。ぶーぶー文句を言いながらも私の顔は笑顔だった……。
ここまで読んで下さりありがとうございました!