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4. 冒険者登録完了!(仮)

4.冒険者登録完了!(仮)


「お待たせです~、それじゃこちらの紙に必要事項を書き込んでもらっても良いですかぁ?」


 奥からお姉さんが戻ってくると、一枚の紙と丸い宝石のような物を持ってきた。紙だけを私の方へ差し出し羽ペンと一緒に手渡された。


「え~と……あ、名前とかを書くんだね?」


「そうですぅ。後は生年月日とか出身地ですね~」


「ふむふむ……へ?」


 そこまで言われて名前まで書き進めた手が止まる。別に文字がかけないわけでは無い。天上界にいるときに、創造神様が何故か地上界に存在する言葉や文字についてじっくり教えてくれたので問題なく書くことは出来た。そう考えると私の地上界行きは結構前から決まってたのかもしれない。

 

 いや今はそれが問題じゃなくって……生年月日はまだなんとかなる。転生前に与えてもらった魔法の力のお蔭で現在の西暦と日付を知ることが出来るのでそこから逆算して見た目相応のを書けば良いだけなのだから。


 だとすると一番困ったのは出身地。素直に天上界と書けるなら全く問題ないのだが、そういうわけにも行かない。混乱を避ける為、出来る限り自分の正体はばらさない様にと厳命されているので、そんなことをしてしまったら大変な騒ぎになってしまう。だとしたらどうすれば良いのか……うう、思いつかない……。


「どうしましたか~?」


「ファムちゃん?」


 生年月日まで書き進んだところで手が止まっている私を見て二人が心配そうに声を掛けてくる。早く書きなさいと促されているようで更に私はパニックになってしまい……


「う、ううぅ……ぐすっ……」


 思わず涙を流して泣いてしまった。さっき痴漢に遭って泣いていたせいもあったのか涙腺がゆるくなってしまっていたようだ。頭がオーバーヒートしたせいで溢れてしまったのだ。


「ど、どうしたのっ?どこか痛い……あっ!」


 クリスさんが私の背中を撫でつつ、出身地だけ抜けている記入用紙を見やると小さく声を上げた。それで何かを理解したのか受付のお姉さんにボソボソと話しかける声が聞こえた。自分の嗚咽のせいでよく聞き取れなかったが、お姉さんが驚いているのだけはわかった。すると書き途中にもかかわらずその紙を取り上げると、慌てて奥へ引っ込んでいってしまった。


「ひっく……ぐすっ、クリスさん……?」


「だいじょうぶ、心配しなくて良いからね?」


 一体何事かと問い掛けたのだが、クリスさんは優しくそう言うだけだ。更に問いかけようとしたけど、クリスさんがどこか悲しそうな顔をしているのを見て発することは出来なかった。どうしてそんな顔をしているのか分からなかったけど、私のことをとても心配しているのはわかった。


「お待たせしましたぁ~。はい、こちらをどうぞ~」


「……え?」


 受付のお姉さんが戻ってくると、なにやらカードのような物を手渡してきた。私は涙を拭ってからそれを受け取ると、そこには……


『名前:ファム 生年月日フルツ暦:2053年12月24日 出身地:ライム町』


 カードには必要事項が全て入力されていた。恐らくこれで冒険者ギルドに登録した証になると思うんだけど……なんで出身地まで記入されているのだろうか?


「あ、あの……?」


「登録された町民には様々なサービスがありますから、是非利用してみて下さいね~。持っているだけで効果はありますので失くさない様にに気をつけて下さいね」


「は、はいっ!……じゃなくって……えと……」


「良かったねファムちゃん!これで晴れで冒険者ギルド登録完了だよ♪」


「あ、ありがとクリスさん……もぉ……」


「「おめでとお~っ!」」


「…………ありがとうございます」


 質問しようとすると何故か遮られてしまい、言葉にすることが出来なかった。でも二人の目はとても優しく温かかった……きっと気を利かせてくれたのだと思うけど良いのかなぁ?でも天上界と書かなくてすんだので、ここは二人の厚意に甘えておくことにした。



「でわでわ、ファムちゃんが晴れてギルド登録完了されましたので詳しい説明をしますね~」


「あ、お願いしますっ!」


 お祝いムードから一変して真面目な顔になってそう告げる受付のお姉さんに、私もしっかりと返事をしながら説明を聞く為の頭に切り替える。


「いいお返事ですね~!では説明を始めますよ~、まずは基本的な事から……ギルド登録されたカードを提示して下されば、このライム町以外の町にも出入りすることが可能になります。そのカードが許可証や身分証明証代わりになりますので。ちなみにもし別の誰かがそのカードを奪って使おうとしても、施されている魔法によって本人確認を自動的にしてくれるので勝手に使用されることはありませんので安心して下さいね?」


「なるほどー、それなら安心だね……もしもこのカードを失くしちゃったら再発行は出来ないの?」


「いいえ、ギルドに進言して頂ければ再発行は可能ですよ~。ですが、再発行には登録時の倍の金額が掛かるので注意して下さい」


「ふむふむ……あれ、私登録料金払って」


「では次ですが~」


 またナチュラルに言葉を遮られてしまった。さすがにどうなのかなとも思ったけど、話を止めてしまっても失礼なので仕方なくそのまま聞く体勢に戻る。


「今度は住民としてではなく、冒険者として活動する際のカードの使い方です。このカードはどなたでも発行することが出来るのですが、このまま使用する場合と冒険者としての登録をする場合がございます。今ファムちゃんはギルドで登録しただけですので身分証明書と許可証として使えるだけですね」


「冒険者として登録すると何が出来るようになるの?」


「その名の通り冒険者として活動することが可能になります。一定期間内に依頼をこなしてもらうという義務が発生するようになりますが、発行されている依頼をこなして報告していただければギルドから報酬が支払われます」


 つまりクリスさんのような冒険者になるにはこっちの登録も済ませないといけないわけだ。なるほど、と頷きながら私は続きを促す。


「冒険者登録は特に制限はありませんが、あまりにもマナーが悪かったり犯罪歴がある方は我々の方で吟味して上で登録を拒否させていただく場合があります。……それからこちらで危険だと判断した方も含まれます」


 チラッと私を見てからお姉さんはそう言った。あ、何となくさっき言われた関係ないの意味がわかった気がする。じゃあ、私がこう言ったらどうなるかも予想できた。


「わかったー。ねね、年齢制限も無いのかな?」


「ええ勿論です……って、まさか?」


「それなら冒険者登録します!」


「「えええ~~~っ!?」」


 ほら、ね?そういう反応が返ってくるかなとは思っていたけどすごい驚きようだ。でも、私剣持ってるしもうちょっと反応が薄かったり、静かに窘められるかとも思ったんだけど……。


「だだだ、駄目ですよぉ!ファムちゃんみたいな可愛い女の子が冒険者として働いて何か遭ったらどうするんですかぁ!」


「そ、そーだよっ!いくら武器持ってるからってまだ小さい女の子なんだよ?それに一番簡単な薬草採取なんかの依頼もあるけど、町のすぐ近くに魔物が出現するようになってるからそれでもすごく危ないんだよ!?」


「そうですよぉ!町の中ならお店の手伝いとか色々ありますから……何も危険な冒険者になる必要な無いですよ!」


「うんうん!冒険者の先輩としても言わせて貰うけど、満足に稼げるようになるまで結構大変なんだよ?だから考え直して、ねっ?」


 二人は慌てながらそう注意してくる。そりゃ自分でもこんな小さい子供が冒険者になる!って言われたら反対するけど、私は事情が違う。そもそもこの町に来たのは魔物を退治する為の情報が欲しくて来たのだ。それで情報収集にもちょうど良さそうだからこうやって登録したいわけで……


 それにお金が無ければ暮らしていくのも難しいってジェリーおじさんにも言われたのだ。確かにお店で働くなんて手段もあるだろうけど、そんなことをしていたらいつまで経っても魔物を倒すなんてことが出来やしない。だったらお金を稼ぎながら魔物を倒したほうが効率が良いのだ。なのでここで言い負けるわけには行かない。


「それでも私は冒険者にならなくちゃ行けないの!二人が心配してくれる気持ちはわかるけど……ああでも、もしここで登録が拒否されても私……どちらにしても魔物を倒しに行っちゃうよ?」


「な、なんで……なんで危険を冒してまでそんなことするの……!?」


「だって私、魔物を倒すためにこの町に来たんだもの!創造し……じゃなくって大好きなパパからそうお願いされてきたの!だから私はパパのために働きたいのっ!」


「「……」」


 思わず口を滑らせそうになりながら私は二人に向かってそう伝える。一部はごまかしてるけど、嘘は言っていない。全部私が本心から思っていることだ。私の熱意に押されてか二人は沈黙する。ちょっと勢い込み過ぎたかな……?心配してくれたのにわがままみたいに言っちゃったし……。


「ごめんなさい、私のためを思って言ってくれてたのに無下にして……。だけど、どうしても譲れないの!それだけはわかって欲しいな……」


「ファムちゃん……」


「……は~……♪」


 クリスさんはまだ心配そうな表情をしていたけど、止められないとわかって諦めたような雰囲気を纏っていた。お姉さんは……なんか恍惚とした顔を浮かべてる。……ええ……?今の言葉の中にそんな要素あったのかな……?と思ったら突然お姉さんはバンッ!と机を叩いて立ち上がった。


「わかりましたぁっ!ファムちゃんの真摯な心に応えて冒険者の登録を許可しますっ!!」


「ホントっ!?」


「ですが、さすがに実力を知らないで色んな依頼をお願いするわけには行きませんので、試験という形であるギルド依頼を受けてもらいます」


 大きな声でそう宣言されて私は目を輝かせたが、次に放たれた言葉に首を傾げる。


「試験?」


「そうですぅ!そこで試験見届け人としてクリスさんにお願いしたいんですけど良いですかぁ?」


「私?うん、勿論いいよっ!どんな依頼?」


「それはですね、この町の名産であるライム草の採集です!前までは町のすぐ近くに生えていたのですが、ここ最近の魔物の増加に伴って群生地が荒らされてしまっているのです。ですがつい先日少し離れた森の中に生えているのが発見されたのです!」


「なるほど……それをいくつか採ってくればいいのかな?」


 なるほど、試験と言ってもとんでもない依頼ではなくてあくまで実力テストの薬草採集のようだ。しかしそう思って尋ねた私にチッチッチと指を振って「甘いですよぉ」と言うお姉さん。


「この森に行くには街道を逸れなければ行けないのです。そうすると魔物との遭遇率が大幅に上がって危険なのです!ですからそれを見極めながら進む慎重さと度胸が必要になります。ただの薬草採集だと思って甘く見ちゃ駄目ですよぉ?」


「さすが、良い依頼を試験として選んだね……」


「ふっふっふ~!本当はファムちゃんの可愛さに免じてこんな試験を出したくないのですけど、それで取り返しの付かないことになってしまっては大変です!なのでファムちゃんには悪いですが、初心者さんにはちょっぴり大変な試験とさせてもらいました!……ごめんなさい、これも愛故なのです……」


「な、なるほど……」


 よよよ……と泣き崩れるような仕草を見せるお姉さんに若干引きながら、私は試験の内容を頭の中で反芻する。まず町から出てライム草が生えている森に行く。森に行くには街道を外れていくので魔物が出やすい。なので注意して避けるなり倒すなりしてそこまで行って採ってくる……て感じかな?うん、そこまで難しい試験じゃないね。


「わかりましたっ!早速行って来ます!」


「……ええっ、今からっ!?」


「ちょっ、ファムちゃん本気!?」


 そこで何故か二人に驚かれた。え?だって取りに行かなかったら私冒険者になれないんだよね?だったらやるしかないじゃない~!


「本気も本気っ!すぐに持って帰ってくるから待っててね~!!」


「あ、ファムちゃん待って~~!ライム草どんなのか解ってるの~!?」


「わっかんな~い!だからクリスさん途中で教えてね!それじゃ行って来まーす♪」


「い、いいけど……って待ってってばぁ~!!」


 試験見届け人のクリスさんを置いていく勢いで私は冒険者ギルドから飛び出した。少し遅れてクリスさんが後に続く。嵐のようなその飛び出しっぷりに呆然としながら、受付のお姉さんはある物を見逃していなかった。白いワンピースから覗くぷりんとした物を……。


「うふふふ……ピンク、かぁ……」



 冒険者ギルドから飛び出して速度を落とした。そんな私にようやく追いついて息を切らせるクリスさん。


「はあっはあっはあっ……やっと追いついた~……!も~ファムちゃんったら急に飛び出すんだもん」


「ごめんねクリスさん。だって早く冒険者って認められたくって!」


「そうかもしれないけど……でも森がどこにあるかわかってるの?」


 クリスさんのその問いに首を横に振ってから笑みを浮かべて応える。


「わかんないけど、近くの森だってわかってるなら外に出てから探せばいいと思ったんだ」


「そんな行き当たりばったりな……まあ、いいや。あくまで私は見届け人だからファムちゃんの方法に任せるよ……ああ、ライム草は見つけたらちゃんと教えるから心配しないでね」


「ありがとクリスさん♪」


 呆れながらも優しく言ってくれるクリスさんにお礼を言う。それなら心配事は無いね!まあもし解らなかったら色んな草をいっぱい摘んでくればいいだけなんだけど。マジカルシェルがあるから鞄いらずだし!う~んばっちり♪


「よーしそれじゃ町の出入り口まで駆けっこだよ!」


「ええっ!?また走るの?ちょっとま……」


「よーいドンッ!それ~っ!」


 いきなりそう宣言すると、クリスさんの制止を聞かず私は人混みの中に飛び込んでいった。人の合間合間を上手く掻い潜ってぶつかることなく、速度を上げながら突き進んでいった。


「ええ~~~っ!?な、なにそれ反則っ……あいたっ!ご、ごめんなさ~い!!」


 後ろから叫びながら必死に追いかけようと同じく人混みに飛び込んだクリスさんだったが、見事に人にぶつかりまくって謝り通しだった。ちょっと可愛そうな気もしたけど、私はなんだか楽しくって止められなかった。


 大した苦労も無く息も切らせないで門まで辿り着いた私は、クリスさんが付くまでの間しばらく待ちぼうけすることになったけど……それも含めて天上界にいたころに比べて心が充実していた。どうしてかは解らないけど……そう思えたのだった……。

ここまで読んで下さりありがとうございます!

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