34. ドラゴンさんによる衝撃の提案。
34.ドラゴンさんによる衝撃の提案。
「すと~ぷ!皆攻撃するの止めて~~~!!」
今まさに戦闘が始まる寸前、私は大きな声で叫んだ。その瞬間動き出そうとしていた冒険者達がぴたりと止まる。……ふう、間に合った。
「よっと!」
安堵の溜息を吐きながら、私は軽い掛け声と共に飛び降りた。どこから?もちろん、ドラゴンさんの背中からだよ!突然現れた私に、皆驚きに顔を見合わせる。そしてざわざわと騒ぎ出す。
「……なんだあの子供は!?」
「ドラゴンの背中から降りてきたぞ……!?」
「……あれ?」
ライム町の冒険者の皆さんには大体顔を覚えてもらったと思ったんだけど、自意識過剰だったかなー?まるで初対面のような反応をされてしまった。まあ、一週間近く町を離れてたし仕方ないのかな?
「あの~私の事知らないです?」
「うっ、可愛い……はっ!?い、いや知らんっ!お、お前らは知ってるか?」
「いや、知らねえが……」
「こんなに可愛い子この町にいたか……?」
一週間居なかったから忘れてたとかじゃなくて、本当に知らないようだ。そういえば私もこの冒険者さん達に見覚えが無い。いつもギルドで見かける人たちなら、名前は知らなくてもそれなりに顔は覚えているんだけどなぁ。
「騒ぐなお前達っ!道を空けろっ」
そんなことを思っていると、ざわつく冒険者たちの間を掻き分けて大柄な男性が私の所にやってきた。手に大きな剣を持っていたり、普段とは違うがっしりとした鎧を身につけていてすぐにはわからなかったけど、見覚えのあるその人は……。
「あ、マスターさんっ!」
「おう、無事だったか……!すまんな、若いやつらを止め損なっちまった」
そう言って謝るのはギルマスさんだ。初めに矢を撃ったり、攻撃を開始しようとしていたのは冒険者になりたての素人さんたちだったようだ。
「ううん大丈夫ですよー。きっと混乱するだろうなぁとは思ってたから……それにしても、さっきドラゴンさんは止めたよって言ったのに迎撃準備を進めてたんですか?」
「いやこれは……一応は説明したんだが、言葉だけで納得しないやつらが多くてな。安全の確認に行くと言って聞かないから、その為の行く準備をして居る最中だったんだ」
「なるほど……そういうことだったんですね」
確かにドラゴンは倒されたから安心だよーって言われても、ちゃんと確認出来るまで不安はなくならないよね。
「しかしファムのお嬢ちゃんよ、何でドラゴンをここに連れてきたんだ?しかも無傷でよ……お蔭で俺も自身が無くなっちまったぜ」
私の後ろにいるドラゴンに視線を送りつつ、肩をすくめるギルマスさん。いや、無傷なのは私もびっくりしたんだけどね?
「ごめんなさーい!後、それはこれから説明するよ。実は……」
「待て、その先は我が直接話そう……」
私がギルマスさんに説明しようとした所でドラゴンさんが口を挟んだ。その方向を見ると、クリスさん達を降ろしている最中のドラゴンさんと目が合った。女の子を抱えたままで大変かなと思ったけど、ドラゴンさんの大きな手でそっと抱えられて降ろされていたので大丈夫そうだ。
「ど、ドラゴンが……!?」
「喋った!?」
突然言葉を発したドラゴンさんに、一部を除く皆が驚きの顔をしていた。ちなみに一部というのは直接話した私とクリスさん、それとギルマスさんだ。驚かなかったのは私から話を聞いていたからなのかな?
その様子を見て「ふん」と呆れた声を発したドラゴンさんだったけど、特にそれについては突っ込まずにゆっくりと話を始めた。
「我は霊峰コヨチ山を守護する火宝竜なり……今回我がこの町を破壊に巻き込んだ理由を告げるためにこの場を借りることとした」
「破壊の理由だと?戯れの破壊じゃないのかっ!?」
驚きから復帰した冒険者の一人が、怪訝そうな声で叫ぶ。恐らく理由も無く気まぐれで襲撃をしたと思っていたのだろう……私も元々はそうだったからその気持ちはよくわかった。
「我は意味の無い破壊は好まぬ。そんな我を破壊の衝動に駆り立てた原因は、我が愛し子をそなたら人間の一味が連れ去ったことにある」
そう前置きをして、ドラゴンさんが詳しい経緯を皆に話し出した。その話の内容に人々は驚き、そしてその者に対して怒りの感情を露にした。しかし、ドラゴンさんの話が終わった後にこんな声も出た。
「だからと言って、この町を破壊する必要は無かったのではないか!?なぜ、初めに声明を出して下さらなかったのか……」
ドラゴンさんの話を聞いた私と同じ問い掛けだった。町を壊された恨みでなく、純粋な疑問であることまで一緒だ。
「何故、か……我はこの世界を守護する七宝竜ゆえ、我にとってこの世界に住むもの全て同様の生物としか見てこなかったのだ。人だろうと鳥だろうと魚だろうと……全てな。その為我に危害を加える種族は、どの個体も皆同じものだという考えでな、話す価値も無ければ我の言葉も聞かぬだろうと思っていたのだ」
「そんな……そのような考えなど……」
「だが、それはついさっきまでのことだ」
あまりに乱暴な考えに異論を唱えようとするものが出たが、続けられたドラゴンさんの言葉によって遮られる。そしてドラゴンさんはちらりと私に目を向けながらこう発した。
「この小さき少女に出会い、その温かさに触れ……その考えが間違いであったと理解したのだ。最初こそ町や友を害された怒りに染まっていたが、後の戦いで我を破ったときに問い掛けてきてな。ただそれだけならば我は何も言わず朽ち果てようとも思っていたのだが……どういうわけか我に近づいてくる。払うことも出来なかったので睨みつけたのだが、そんなことに意も介さずに我に触れて来たのだ」
そこで一旦ドラゴンさんが言葉を切るとざわめきが起きる。そしていくつかの視線が私に向けられていて、なんだかとっても居心地が悪い。うう、目立つの苦手なんだけどなぁ……。
「そこで我は初めて他種族の温もりを知った。そのあまりの温かさに我は衝撃を受け、思わず愛し子の事を頼んでしまったのだ……全く、不思議なものだな」
話を終えると共に、ククッと笑いを浮かべるドラゴンさん。そこには相手を怯えさせる恐怖の威圧など微塵も無く、ただただ愛しい者を見るような目をしていた。……えへへ、なんだか照れるなぁ。
「結果我の下に愛し子は戻った。その為これ以上この町を、いやそなた達を害する必要はなくなったのだが……我がしてしまった事を考えれば、そのままにして帰るわけにも行くまい」
じっと見つめる冒険者達に向き直ると、事前に聞いた私も驚いたその内容を伝えた。
「どうか我に、この町の復興を手伝わせてもらえないか?」
「「「ええええええええっ!!?」」」
「ど、ドラゴンが町の復興を……?」
「それは……どうなんだ?」
衝撃の提案に、冒険者達の中から驚きと疑問の声が上がる。否定的な声は上がっていないが、思いもよらな過ぎる内容のためにパニックになっているだけだ。
そんな冒険者達を、ギルマスさんが前に出て鎮める。経験が違うのか、動揺した様子はあまり見られない……あ、でもおでこに少し冷や汗掻いてる。
「落ち着けお前ら。……火宝竜殿、申し出はとてもありがたいんだが、それは一体どうしてなんだ?いくら破壊したからってそこまでしてもらう義理は無いはずだが?」
そう尋ねられたドラゴンさんは少し考える素振りを見せてから応える。
「それはだな……本来なら恩人であるこの少女に礼を返そうと思っていたのだが、何もいらないと突っ撥ねられてしまってな?とはいえそのままでは我の気が済まん……どうするかと思った所で町の復興の話を聞いてな、ならばと思ったまでのことだ。無論、そなたらが受け入れられないのであれば無理強いはしないが……」
突っ撥ねたって所に少し感情が篭ってる様に聞こえたんだけど気のせいかな?まあいらないって言ったのは本当のことだからなんとも言えないけど。
それはともかく、ドラゴンさんに判断を委ねられたギルマスさんは「なるほどなぁ……」と苦笑を浮かべつつ考え込んでいる……様に見えたけど、ちらちらと私に向かって視線を送って来ていた。スルーするわけにもいかないので視線を返すと、にやっと笑った。
「なあ、ファムのお嬢ちゃんは火宝竜殿の手伝いは賛成なのか?」
「私ですか?勿論嬉しいですし、ボロボロになった町の復興が早くなるなら大賛成ですけど……」
「ふむ、そうか。それなら賛成と行きたい所……なんだが、どうだ?何か異論があるやつはいるか?」
私の返答に頷くと、今度は未だにざわついている冒険者達に向かって問い掛ける……と、その中から見ただけでベテランとわかる人が手を上げて意見を述べた。
「失礼ながら……仮に復興に手を貸していただけることになったとして、そこでまた火宝竜様と我々の間で何かトラブルがあった場合はいかがなさるおつもりで?」
「ふむ……少なくとも火宝竜殿からトラブルを持ち込まれることはきわめて低いと思うが、問題は事情を知っている俺たちじゃなく、余所から来た者とのトラブルだな。今回みたいな馬鹿が、自分の利益のために火宝竜殿に手を出さないとは言い切れねえし……」
至極もっともな意見に再び悩むギルマスさんだったけど、今度は私の方からフォローを入れる。
「とりあえず、門に居る衛兵さんに余所から来た人にしっかり説明してもらえるようにお願いしておくのは大事だよね。それでも万が一何かあった場合、ドラゴンさんが直接手を出さないで、必ずマスターさんに伝えるように約束すれば良いんじゃないかな?それなら大きなことにはならないんじゃない?」
「確かにそれなら問題は無いかもしれねえが……その前に火宝竜殿がぶちぎれたらどうするんだ?」
「あー……」
渾身のアイデアだったんだけど、そう返されると反論できない。いくらお願い(物理)したとしてもさすがに感情までは縛れないだろう。後は信頼関係で保つしかないけど、今日出会ったばかりでそれを望むのはさすがに無理だろう。むう、駄目かなぁ……。
「ならば我と契約すれば良い。さすれば契約者が許可しない限り、我は必要以上の力を奮えなくなるからな」
今度はドラゴンさん本人からそんな言葉が出た。ふむふむ、確かにそういうことなら安全だね~。でも契約ってなんだろう?そう尋ねると「うむ」と頷いて説明してくれた。
「契約とは、簡単に言えば我とその契約をした者との間に結ばれる絆のようなものだ。とはいえ、同等の立場ではなく契約者の方が立場が上だから、命令を受ければそれをこなさなければならなくなるが」
「それって、ドラゴンさんは契約した人の言いなりになっちゃうってことなの?」
「まあ悪く言えばそうなるな。だが、お互いに同意した場合では無いと契約は施行されない上、我が本気で拒絶すれば一度成された契約でも無理矢理破棄することも出来るからその限りでは無いがな?……まあその場合、我は確実に命を落とすことになるとは思うがな」
「そんな……」
本人が提案したこととはいえ、それはドラゴンさんを生き物ではなく道具として扱うような内容だった。そのことに少し気分を沈ませる……が。
「クカカッ、その様な顔をするでない!元よりそんな扱いをするつもりの者と契約する我では無いわっ」
しょんぼりする私の顔を見たドラゴンさんが笑いながらそう言い、ぽんっと大きな指を私の頭に乗せてぐりぐりされる……ちょっと力が強くて痛いけど、どうやら頭を撫でている様だ。
「わっ!」
「それに我が契約するのはそなただぞ?それならばそんな心配など必要在るまい?」
「そっか、それなら……ええっ!?契約するの私なの!?」
またしても衝撃の発言に、しょんぼりしてた気持ちを吹っ飛ばしてドラゴンさんを見上げる。てっきりギルマスさんとするのかと思ってたからびっくりだ。だけど、その顔には全くと言って良いほどからかっている様子は無かった。……ドラゴンの顔見てわかるの?ううん、ただの雰囲気と勘だよー。
「当然だろう?じゃ無ければこんな話などせぬわ。そもそもその話が出したのは、そなたが我を打ち破ったからこそなのだぞ?力で劣るものに契約に耐えられるわけが無いのだからな」
「そう、なんだ……でも、そうだとしても私で良いの?こんな子供だし、変なお願いしちゃうかもしれないよ?」
実際にはそんなことするつもりは無いけど……それでもいまいち納得いかないのでそう問い掛ける。が、それさえも笑いながら一蹴される。
「その場合は我の見込み違いだったと言うだけでただ朽ちるだけよ……それにしても随分な心配性であるな。それもそなたの魅力ではあるが、もう少し気楽にせい!そもそもこれは……ああ、少し言い方があれだったから勘違いしたのだな?」
「えっ、勘違い?」
突然そんなことを言われて首を傾げる。あれ、何か聞き間違えたっけ……?
「此度の契約はそなたから我に願うものでは無い。我がそなたに願っているものであり、つまりは、その……我がそなたと契約したいのだ!!」
最後を言い切る前に少し言いよどんでいたけど、そこまで言い終わると照れ臭いのを隠す様に頭を撫でる指に力が入った。く、首がぁっ!
「……どうだ?わかったかっ?わかったなら返事を……」
「わ、わかったからぐりぐりするの止めて~!」
「む?おお、済まぬ。無意識の内に力が入ってしまった」
返事を迫るドラゴンさんが私の言葉を聞いて気付くと、ようやく指が止まった。いたたた……首が取れるかと思ったよ……。
「それで……どうだ?我と契約してくれるのか?」
「……うん、ドラゴンさんがそこまで言ってくれるなら、喜んで契約するよっ!」
「おおおっ、本当かっ!?」
私の答えを聞いた瞬間、ドラゴンさんは嬉しそうにそう叫んだ。そしてそれだけでは済まなかったのか、四枚の翼を大きく広げ天に向かって「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!!」と大きな咆哮を上げた。よ、喜んでくれたのはわかったから、も、もう少し抑えようね……?ほら、咆哮を聞いた冒険者さんの何人かが尻餅ついちゃってるよ。
「ならば早速契約をしようでは無いかっ!!……さあ、我の額にある宝玉に触れるのだ」
「そんなにすぐ出来るものなの?ええっと宝玉って……あ、これかな?」
言いながら地面に伏せのような姿勢をとるドラゴンさんの頭に近づきその額をじっと見つめてみる。するとそこにはドラゴンさんの鱗の赤よりも、炎のように真っ赤な宝石が埋まっていた。それはとても強い光を放っていて……すごく綺麗だった。
そっと手を伸ばしてその赤い宝玉に触れてみると、そこから少し熱くじんわりとした熱が伝わってきた。
「触れたな?ふむ、やはりそなたの手は温かいな……さて、それでは契約の儀を始める。我の問いに本心から答えよ」
「……はい」
私の手の感触に嬉しそうにしていたかと思うと、突如今まで以上に真剣な口調になるドラゴンさん。思わず私もピシッと姿勢を正す。そして、ドラゴンさんの口から魔力のような力のある言葉が紡がれる。
「我、火宝竜が契約を願い入る……汝、我との契約を飲むことを是とするか否とするや?」
「はい、します」
私が気持ちを言葉にした瞬間、ドラゴンさんの宝玉が激しく輝き出す。とても激しい光なのに、不思議と目が眩むことは無かった。そして次の問いが紡がれる。
「さすれば……汝、その一生を懸けて我を下僕とすることを誓うか?」
「は……え、下僕はやだ」
「……は?」
流れで頷きそうになったけど、下僕という言葉がなんか嫌だったので否定する。まさかそんなことを言われると思わなかったのだろう、ドラゴンさんの口から間の抜けた声が漏れた。少し慌てた様子だったが、すぐに持ち直すと再び問いかけられる。
「な、ならば汝は、我を下僕ではなく如何にしたいのか……?」
「私は火宝竜さんと……」
自分のことを信じてくれた人(竜だけど)を下僕だなんて言いたくない。なので勿論答えは一つしかないっ!
「お友達になりたいっ!」
口と心からそう叫ぶと、赤く輝いていた宝玉に弾ける様な白い光が灯った。
「なんとっ!?我と友に、とは……!!」
「うん、そうだよ……ねえ、ドラゴンさんは私とお友達になってくれる?」
その言葉と共に白い光は赤い光を完全に取り込み、宝玉が持つ本来の色をも変えて行く。
「……汝がそう望むのなら拒む理由などなしっ!!なればここに、我と汝の永久に及ぶ友の契約を結ぶこととするっ!!」
ドラゴンさんが力の篭った言葉でそう叫ぶと、宝玉から光が弾けて私とドラゴンさんを包み込んだ。それは炎のように力強く熱く温かい……それでいて、まるで太陽の日差しのような明るさと優しさを持った光だった。
その心地よさに蕩けつつ……私はいつの間にか意識を失っていた…………。
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