23. 女神の奇跡
複数のキャラにそれぞれ個性を持たせるのはやっぱり難しいですねー^^;
要勉強です><
23. 女神の奇跡
「えっと……エインさんが向かったのはこっちだったかな?」
先に飛び出していったエインさんを追いかけるため、私は駆け足で微かに感じる気配を辿る。……結局拘束は壊したのって?最初はそうしようかとも思ってたんだけど、バインさんのコレクションだって言ってたし……いくら趣味が悪いものだからって壊したら悪いかなって、マジカルシェルに仕舞っちゃった。出来るかな~って試してみたらあっさり入っちゃったから、相変わらずこの魔法は便利すぎるね♪
「レインさんの声が聞こえたのはこっちで、エインさんの気配は……あ、扉があった!」
移動に使われているこの乗り物の内装はとても広い。私が入れられていた場所は倉庫みたいな場所だったから分からなかったけど、そこから出たときにはまるで普通の家のような空間が広がっていてびっくりした。てっきり荷車みたいな物を想像していたから、ええっ!?って普通に声が出ちゃったよ……。エインさんの気配を追ってなかったら、出口を見つけるのにもっと時間が掛かってただろうなぁ~。
外に繋がっているだろうその扉に向かうと、沢山の気配を感じて嫌な予感がした。……ブラックドッグなどの弱い魔物の気配だったけど、その数が多すぎる。
「10……20匹……ううん、もっといるみたい」
感じる気配からそう判断すると、私は扉を開けて一気に外に飛び出した……急がないと三人が危ないっ!と思ったからだ。そして……その悪い予感は当ってしまった。
乗り物から飛び出すと、そこには予想通り多数の黒い犬や狼がわらわらと蠢いていた。しかしそれらの半分以上は地に伏していたり、氷漬けや炭になっている。恐らくレインとバインさんが戦ったんだろう。……それでも多くの魔物達が残っていて、ある一点に向かって矛先を向けていた。
「このおっ、邪魔するなぁ!!」
そこには両手にナイフを握って魔物達に応戦しているエインさんの姿があった。彼女は素早く身体を動かし、黒い魔物達からの攻撃を掻い潜っては喉元などの急所を的確に突き、次々と魔物達の数を減らしていた。低ランクの魔物なので、それだけを見れば問題ないように見えた。
しかし、彼女の身体には無数の傷があって服も所々が破れていた。いくら低ランクの魔物達とはいえ数十匹単位で、尚且つナイフという短い射程の武器であることもあってその運動量は半端無い。その為、疲労で動きが鈍くなったところを攻められ、避けきれなかったのだろう。
「エインさんっ!!」
満身創痍のエインさんを見つけた私は、大声で呼び掛けながら急いで駆け寄る。その声に反応した何匹かが私へ意識を向けるのが分かった。
「ふぁ、ファムっ!?ボクが引き付けてる内に早く逃げてっ!!」
気付いたエインさんも私に意識を向け、その隙を突こうとして爪を伸ばす魔物達に押され余裕が無さそうだというのに私へそう言った。自分の身を犠牲にしてでも私を逃がそうとしてくれる意志がそこにあった。……だからこそ、私はエインさんを助けたいっ!
「すぐ助けるから、もう少しだけ頑張ってっ!」
「ファム、こっちに来ちゃ駄目っ!私はいいから、早く……!」
私に向かって声を張り上げるエインさんの言葉を聞き流し、進路を邪魔しようと寄ってきた黒い魔物達に向かって一気に駆け寄り、勢いの乗った蹴りを浴びさせる。
「ギャインッ!!」
「バウウゥッ!?」
ドンッ!!と重い衝撃と共に弾かれた一匹が、近くにいた仲間を巻き込んで吹き飛んでいった。更に飛びかかろうとしてきた別個体を右手で掴み、数匹が固まっているところに向かって思いっきり投げつける。こちらも周りを道連れにしながら飛んで行く。……こんな風に多くの魔物を蹴散らしていると、まるで自分が巨人にでもなった気分だ。小さいけど。
そんなことを何度か繰り返しつつ、さすがに無闇に飛び込むのは危険だと判断した魔物達は攻めの手を止めた。それどころか私が近づくと後退するので、どうやら戦力差に怯えているようだ。あはは……魔物とはいえ、ここまで怯えられるとなんだか困っちゃうな。まあいいや、襲い掛かってくる気がないなら……
「痛い目に合いたくなかったらどいてっ!エインさんの所に行く邪魔をしないでっ!!」
「ヴァ、ヴァウウゥッ!?」
「キャンキャンッ!!」
そう叫ぶと、弾かれるように私の周りから逃げ去っていく魔物達。完全に戦意喪失していたようで、そのまま近くにあった森の中に入って姿が見えなくなった。いけるかなとは思っていたけど、ここまで効果があるとは思わなかった。まあ結果オーライかな?……そんなことより今はエインさんだ!レインさん達の気配を感じないのも気になるし、急がないと!
「はあっ、はあっ……いい加減、しつっこいよっ!……くうぅっ!」
魔物達に囲まれて苦戦を強いられるエインさん。先ほど見えたときよりも怪我が増え、衣服の殆どが赤くなっていた。両手で振っていたナイフも一本がどこかに行ってしまったようで、今は右手にある一本だけで複数と相手をしている状態だ。更に疲労もピークで、身体がふらつく……とその隙を突いて背後から黒狼が襲いかかってきた。
「ガアアアッ!!」
「……あっ!?」
咆哮でその背後に気づいた時には既に遅く、その鋭い牙が首元に……
「させないっ!!」
齧り付こうとした寸前で、私はエインさんを飛び越えて黒狼を蹴り飛ばした。駆け足の勢いと、落下により体重ががたっぷり乗った蹴りを顔面に受けた黒狼は、グチャアッ!!と潰れる嫌な音を立てながら絶命した。うわあ、やだやだ……すっごい生々しい感触が足の裏に残ってるよ。
「……ファ、ム?」
「間に合って良かった!ごめんね遅くなっちゃって。外に出るまで少し手間取っちゃってー……」
呆然と呟くエインさんに私が声を掛ける。途端に顔を真っ赤にして怒鳴られた。
「何で逃げなかったのさ!助けてくれたのは感謝するけど……こんな魔物の群れの中に飛び込んでくるなんて何考えてるのっ!!」
「もちろんエインさんを助けたかったから……」
「そうかもしれないけど、いくらなんでも自殺行為だよっ!?それに合流できたからって、このままじゃ二人まとめて魔物の餌になるだけ……」
私の言い分を遮って捲くし立てるエインさんだったけど、腕を振りながら周りを見渡してぴたりと動きが止まった。なぜならさっきまで自分を囲んでいた魔物達が忽然といなくなっていたからだ。
「あ、あれっ?あの犬や狼達は……?」
「あはは……なんかね、私が怖くなっちゃったみたいで森に逃げて行っちゃったよ」
「ええ……な、なにそれ……?一体何したの、ファム?」
苦笑して言う私に、エインさんは脱力しながらそう問い掛ける。……だけど今はそんなことしてる場合じゃない。
「詳しいことは後っ!レインさんとバインさんは?」
「そ、そうだっ!向こうに二人の姿が見えて追いかけようと思ったらこいつらが襲い掛かってきて……」
そう言って指差したのは、街道から外れたところだった。……よく見ると魔物達の死骸が点々と続いていた。
「魔物達のリーダーでもいたのかな?……とにかく急ごう、エインさんっ!」
「うんっ!!」
そう促すとエインさんも力強く頷いて応えすぐに駆け出した。さっきまでの戦闘でボロボロになっていた姿は痛々しく、すぐに傷薬で治してあげたいけど今は時間が惜しい……エインさんもきっとそう思っているだろうし、治療は後回しにして二人の無事を早く確認しなければ……。
……だけど、少し遅かった。
「れ、レイン姉っ!バインっ!……そんな……」
縺れる足を一生懸命に動かし、駆け続けたエインさんがようやく見つけた二人は……赤く染まった地面に倒れていた。身体のそこら中に擦過傷や裂傷が無数にあり、そして腹部に抉られたような傷があった。
「……酷い……」
屈み込んで何も言わない二人に声を掛け続けるエインさんと並んで、私も二人の身体に触れる。……冷たい。前に触れられたときに感じた冷たさにも似ているけど違う。二人の身体から僅かに残る体温がどんどん無くなっていく、怖い冷たさ……。
「やだ……やだよ……!ねえ、レイン姉、目を覚ましてよっ!ほら、バインも……っ。どうせまた、ボクをからかってるんでしょ……?こんな趣味の悪いこと考えるの、バインだけだしっ……!こんな傷まで作っちゃってさ、ほんっと……悪趣味、なんだからぁ……っ」
手が血で汚れるのも構わず、エインさんはぎこちない笑みを浮かべながら、二人の腹部に出来た『穴』に手を当てる。その手がほんのりと光って見えるのは、きっと治癒の魔法を使っているからなんだろう……だけど。
「……ねえ、何で?なんで、傷……塞がらないの?確かにボク、魔力弱いから大怪我をすぐに直すの無理だけどさ……なんで全然、手ごたえ無いの……?弱い治癒の魔法だからって、少しずつは治せるんだよ……?……っ……生きてれば、時間掛かるけどその内治せるんだよ……っ!?こ、これじゃ、まるで……っ……う……うああぁ……っ!」
治癒魔法の効果が現れないことへの疑問を口にし……そしてその答えにたどり着いた瞬間、堪えていた涙が溢れ出した。それでも諦めきれずに、手は傷口に当てられたまま淡く光を放ち続ける。
「うっ……ひっぐ……」
その様子を見ていた私も嗚咽を漏らし涙で視界が歪む。ぽたりぽたりと涙が零れて、触れていた二人の身体を濡らす。
「うあぁ……っ!どうして……どうしてさ……っ。今日の仕事が終わったら、あいつから解放されて……やっと自由になれるって言ってたじゃない……!確かにボク達は、悪い事したけど……だからってこんな……こんなことって、ないよお……っ!!うああああああああああっ!!」
「え、エイン、さん……ひっく……っ……ぇ?」
顔をぐしゃぐしゃにしながら、泣き崩れたエインさんの身体を支えようと思ったが、視界の中で微かに何かが動いたのを感じた。その場所に視線を戻すと、それはお互いに添えられたレインさんとバインさんの手だった。微かに、ほんの微かだけど……確かに動いてる。
「……っエイン、さん!」
「……うあ、うああああ……っ!」
その事を伝えようと慌てて声を掛けるが、エインさんの耳には届かない。……ぐずぐずしてたら間に合わないっ!!そう思い、私は肩を掴んで無理やり顔を上げさせると再び大声で叫んだ。
「エインっ、二人ともまだ生きてるよ!!だから諦めないでっ!!」
「……ほ、ほんと、ファム……っ?で、でも……魔法が効かなくって……」
「それでもやるのっ!!……ほら、これも使って!!」
ようやく声が届いたのか、弱弱しく返事をするエインに喝を入れながら治癒魔法を続けるように言う。それとマジカルシェルからライム草の傷薬を取り出して押し付けるように手渡す。ちゃぽんっと音を立てながら、それは仄かに緑色の光を放つ。
「これ、なに……?」
「ライム草の傷薬!!気休めかもしれないけど、何にもしないよりはマシだよっ!!ほら、早くっ!!」
「わ、分かった……!!レイン姉、バイン……っ!お願い、戻ってきて……ボクを一人にしないでっ!!」
何とか気を取り戻したエインは頷き、治癒魔法を再開した。それと傷薬の蓋を開けて傷口に塗るだけでなく、何を思ったか口に含む。そしてレインさんの口に触れると、そのまま口移しで飲ませた。……傷薬って飲んでも効果があるのかな?こんなときに考えることじゃないけど、真剣な目でエインが実行している以上そうに違いない。
レインさんの次はバインさんにも口移しを施し、後は治癒魔法に専念するエイン。……先の戦闘で満身創痍だった身体で、ぐっと目を瞑って必死に魔法に集中する。私も二人の手に触れて……頑張ってエイン……頑張って、二人とも!!そう硬く目を瞑り、心の中で強く願い、祈る。
だから……二人して目を瞑っていたから、この時私の身体が白い光に包まれていたことに気付かなかった。純白の光は繋いだ手を通し、レインさんとバインさんの身体へと吸い込まれる。そして……
「……ん……」
「……ぁ?」
小さな声が聞こえた。その声の主は私でもなければエインでもない……はっとして瞑っていた目を開き、二人の顔を覗きこむ。エインも同様に、治癒魔法を行使しながら目を開いた。……この時には既に私を包んでいた光は霧散していた。太陽の日差しのような暖かさだけが残っているだけで、当人である私にもそれすら気付いていなかったけど。
「……レイン姉?バイン?」
「……エイ、ン、なの?」
「んん……あたし……なんで地面で、寝てるの……?」
「あ……ああっ!うわああああああんっ!!」
今度ははっきりと紡がれた言葉に、堪らずエインは泣きながら二人に抱きついた。二人の傷が心配に思ったけど、いつの間にか完全に塞がっていた。それどころか、傷だらけで血に濡れていた身体も綺麗になっていて、残っているのは破れた衣服だけだ。
……良かったねエイン、エインが頑張ったから……二人とも助かったんだよ。泣いているエインと、いきなり抱きつかれて困惑している二人を見ながら、私は微笑む。嬉しくって流れ落ちる涙を指で拭う。
「ちょっとエインっ!?どうしたのよ突然……それに、何で泣いてるのよ?」
「うわあ~~~ん!!だって……だって、二人が死んじゃうんじゃないかって……全然傷が塞がらなくって……だからっ……!」
「落ち着いてエイン。そっか、私達……あいつにやられたんだったわね」
「……ああっ!?そうだったわ!!それでボロボロにされて、最後に何かにゴリッって齧られて……!あれ?それなら何であたし達……無傷なのかしら?」
エインを宥めながらレインさんが自分達の身に起きた事を思い出す。バインさんも姉の言葉で思い出したようだったが、こちらは自分の身体をチェックして無傷なことに首を傾げていた。
「ひっく……ファムが……泣くしか出来なかったボクに力を貸してくれたんだ」
「ファム?」
「うん、そう……ほら、そっちにいるよ」
エインが私の方へ視線を向けると、それを追った二人の目が私を捉えた瞬間驚いた表情をする。あ、泣いてる顔見られちゃったな……ちょっと恥ずかしい。
「ええっ!?……ど、どうしてあなたが私達を助けてくれるの?だってあなたは……」
呆然としているバインさんを置いて、レインさんが驚いたままそう言う。あまりにも困惑しているらしく、言葉の最後は小さくなって聞こえなかった。……「私達を恨んでるはず」と口の動きで内容を理解することが出来たので、私は目に溜まってた涙を拭いながら首を横に振る。
「んーん、確かに眠らされて攫われたのはびっくりしたけど……もう怒ってないよ。エインから話を聞いて、何か事情があるんだってことは知ってるから、ね?」
「……そう、なの?だけど……」
それでも納得しない様子のレインさんだったが、復帰したバインさんがそれを遮り、立ち上がると突然頭を下げられた。
「……ありがとうファムちゃん、あたしとレイン姉さんを助けてくれて。見捨てられてもおかしくないのに、救ってくれて……あなたにはどんなにお礼を言っても足りないわ」
「そんな、ただ助けたかっただけだから気にしないで。それに二人を救ったのはエインだよ?私はちょっと声を掛けてサポートしただけだから、そんなにお礼を言われる事なんかしてないよ」
前に見ていた態度との違いに内心びっくりしつつ、私は頭を上げてと伝える……が、今度は違うところから声が掛けられる。
「そんなこと無いよ、ファムっ!ファムがいなかったらボク、何も出来なかった……だから、本当にありがとうっ!」
エインも立ち上がると、私をぎゅっと抱きついて顔を胸元に埋めて泣き出した。ここまでされちゃうとさすがに気恥ずかしいなぁ……少し顔を赤らめながら背中を撫でて上げる。するとその手に何かぬるっとしたものが触れる……そういえばエイン、傷だらけのままだ。
「……エインもお疲れ様。こんなにボロボロになってまで頑張ってたから、私も全力で協力したかったんだ。……さっきは時間が無かったから渡せなかったけど、エインもこれ使って?」
「……うん、ありがと……んっ……」
優しく声を掛けて、少し身体を離してライム草の傷薬を渡す。エインは受け取ると、蓋を開け口をつけて傾ける。緑光を放つ液体がゆっくりと口の中に入り、コクッコクッと飲み込む音が聞こえた。瓶の中身を飲み終えると、エインの身体が緑色にほわっと光る。
「わあっ、なに……これ?ボクの身体光ってる……?」
「ライム草の効果みたいだよ?前にも傷を負ってた人に使ったんだけど、微かに光ったと思ったらすぐに傷を癒してくれたんだ」
「そうなんだ……使ったこと無かったからびっくりしたよ」
戸惑うエインに、心配ないよと笑みを浮かべて答える。その様子を見ていた二人も再び驚いていた。
「……レイン姉さん、ライム草ってそんなに効果高かった?」
「そんなわけ無いわ……それにあんな風に光を放つ物ではなかったはずよ?だけど……見て、エインの身体」
傷だらけだったエインの身体だったが、緑色の光に包まれると見る見るうちに傷が癒えていた。レインさん達とは違って血の汚れなどはそのままだったけど、傷口は完全に塞がったようだ。
「すごい、痛みが全く無くなったよ!それに……あれだけ戦って疲れてたのに、なんだか元気が出てくるみたいっ!」
「そんな……傷の速攻治癒に疲労回復まで?やっぱりライム草の効果じゃないわ……あれは一体?」
私の手を取って嬉しそうなエイン。その様子を見る二人は、ただ呆然とそれを眺めていた……。
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