12. (元)女神だけど英雄になっちゃった!
連投してみました^^;
12.(元)女神だけど英雄になっちゃった!
ドドドドドドドドッ!!
地響きと土煙をたてながら無数の魔物がラムネ村目掛けて猛スピードで突っこんで来ていた。その魔物の姿は大きな猪のようだった。硬質な体毛は緑色でそれが名の由来となりグリーンボアと呼ばれていた。
猪を模しているこの魔物の武器は口の左右から突き出ている太くて長い、そして刃物のように鋭利な牙だ。普通のそれとは違い両刃の剣のような見た目をしており、突き刺すだけでなく斬ることにも向いていた。突進の猛スピードと共に斬りつけられたら、いくら頑丈な鉄の鎧を身に着けていても簡単に切裂かれてしまうだろう。
「別に当らなければ関係ないけどね?」
目の前から迫ってくる緑猪を見つめながら私は呟く。ここまで全速力で走ってきたので、観察する程の余裕があった。それでも後一分もしないうちに村に到達しそうな距離ではあるので早速行動を開始することにした。相手の数は……15匹。そこそこ多いけど、ちょっと大変なだけだ。
「悪いけど……私、怒ってるからね?」
群れに向かって歩みを進めながら背負っている剣をすらりと引き抜く。刀身が青白い光を放ちながら、それが私の手に握られた……刹那っ!
「『空牙』……」
叩きつけるような縦振りを一閃。遠くで「ブギュアアッ!」と断末魔が聞こえた。それを意に関せず、私は素早く向きを変えて返す刃で縦に……振り上げる!
「……『追』っ!」
続けざまに繰り出された真空波は狙い違わず二匹目を討ち取った。本来は空牙一発で倒せない相手に追撃を与える剣技なんだけど、ちょっと工夫を加えると複数相手にも使える技なので便利だ。突然二匹の仲間が見えない何かに切裂かれる光景を見て別の個体に動揺が走るが、その突進速度は落ちない。……そして私も止まらない!!
「ふふっ」
無意識に笑みを浮かべながら一番右端にいるグリーンボアに突撃する。
「ブギイィィィッ!?」
突然の接近に驚きながらも私に牙を振ってきたが、そんなまともに振られていないものが当る訳が無い。最小限の動きで避けて逆に斬り返す。
ズパンッ!と見事な切れ味で緑猪を一太刀で真っ二つにする……揶揄ではなく文字通り上半身下半身綺麗にだ。断末魔を上げることも許さず骸と化した。
「……よし」
その呟きは倒れる魔物を見て言ったわけではない。倒した三匹を除いてあと12匹、ただ単に数を減らしただけに思うかもしれないけど、実は考えがあったのだ。
最初の二匹は列から離れていたから狙い撃ちに……今斬り倒した個体は位置取りするのに最適な位置に居たから。何が最適なのか?……それは顔を上げればわかるだろう。
私の位置から見えるたのは、少し離れた場所にいる緑猪の一匹。……え?それがどうしたって?ふふん、上から見てみればわかるよ?
横から見れば猪が一匹、だが上から見るとそこには……一直線の緑の線があった。これで私が狙っていたことがわかったかな?……それじゃ答えあわせだよっ!
今まで以上に力を込めてながら剣をやや斜め上段に構える……身体に捻りを加えながら、一気に振り抜く!!
「止められないよ……!『空牙・旋』っ!!」
通常の空牙に比べてやや構えが変なだけではない。真空波は見えないから解り難いけど、今飛ばしたものは鋭い回転が加わっているのだ。普通の空牙でも二、三匹切裂いても勢いは衰えないけれど、五匹を超えるとさすがに無理がある(虎さんは一匹でも無理だったけど)。そこで回転を加えたこの『旋』なら、かなりの貫通力を持っているため複数の魔物を貫けるのだ。斬る範囲は狭くなるけど、その分突きに重点を置いた技となっていた。
ズブブ……ブシャァッ!!……ドズッ!……ブパンッ!!ズブブ…………
横に並んだグリーンボア達をまるで串刺しするかのように、横っ腹に突き刺さっては反対側から抜き出て更に隣の獲物へと突き刺さっていく。じっと目を凝らせばぽっかり開いた空洞から隣の個体が見えるだろう……いや私は見たくないけど。
「プギイイイィ!!」
「ブギアアアッ!?」
「……ッ!」
「…………ッ!?」
かなり遠くからも悲鳴が上がるが、私の耳にまでは届かなかった。それでもあれだけあった気配がどんどん消えていくのでこの作戦は成功だろう。
「よしっ、私の作戦勝ち~♪」
一本の真空波が通り抜けた後、一直線に並んだまま倒れた緑猪の群れは全て動かなくなっていた。大成功を収めた私は一人小躍りをしていた。……が、どうやらそれだけでは終わりではなかったようだ。不意に大きな気配を感じて視線をそちらに向ける。その気配は、グリーンボア達が群れを成して突進をしていたそのずっと後方からしているようだった。
「ブヴォオオオオオオオオッ!!」
「わあおっきい猪さん!あれはこの子達のリーダーさんかな?」
見るからに他の個体と違う巨大な体躯と、大剣のごとき大きな牙。そして体毛の色は何故か緑ではなく赤くなっていた。速度は三倍ではないけど……名前をつけるならきっとレッドボアだろう。何で三倍?いや、特に理由は無いんだけどね。
「虎さんとどっちが強いのかなぁ?……折角だから少し楽しませてもらおっかな♪」
あえて空牙を使わず私は突進してくるレッドボアに突撃する。剣は背中の鞘に戻してある。
「ブブオウッ!!」
「自ら我に飛び込むとはとは愚か者め!!このまま轢き殺してくれるわ!!」と言っているかもしれない咆哮を上げる。だけど私は更に速度を上げる!何十メートルもあった距離が一瞬で数メートルになり、やがて数センチになる。そしてついに……激突した!
ズドォォォォンッ!!
大きな音と共に、その破壊的な衝撃で土煙が上がった。……誰かが見ていたら、きっとさっきの音は私の小さな身体が吹っ飛んだ音だと思っただろう。しかし現実はそうではなかった。
「ブヴォオオオッ!!?」
「……んー、さすがにちょっと手が痺れたかなぁ?」
吹っ飛んでも居なければもちろん轢かれてもいない……私は赤猪の鼻を右手で押さえていた。その突進の勢いを自らの突撃の勢いで止めたのだ。なおも赤猪は押し込もうと踏ん張っているのだけれども全く動いていない。
「ブ……ブヴオォォ……ッ!!」
「頑張ってるところ悪いけど……もう終わりだよ」
私は冷たくそう言うと、大きな鼻をつかんでその身体を横倒しにする。レッドボアは成す術もなく地面に叩きつけられる。
「ヴギイイイイイイイイッ!!」
それでも立ち上がろうとしていたみたいだけど、もう遅い。私は素早く剣を引き抜くと、横倒しになった身体の……僅かに脈打つところを目掛けて剣を突き立てた。
「ブ……ッ!……ギィ……ィ…………」
猛然と暴れていた身体から急激に力が抜け、最後にぴくんっ!と跳ねた所で完全に動きが止まった。念のため手を当てて確認してみたけど絶命しているようだ。
「ふう……もうこないかな?」
問題なく終わったようなので、私は戦利品の確保の為に動き始めた。ふんふんふ~ん♪やったね、今日は猪パーティだよ!……昨日の影響で魔物=食べ物になってしまっていたけど気にしないように……。
「……おおっ!?あの小さい影は……あ、あの子だ!無事に帰ってきたぞお~~~!!」
お肉を出し入れしやすいようにカットを済ませてからマジカルシェルに仕舞い込み、証拠品として一部だけを手に持って私は村へ戻ってきた。すると大きな声と共に多くの村人さんたちに迎えられた。
「よかった……良かった無事で……!」
「ま、魔物は……?やつらは一体どうしたんだ?一匹も村の中に来なかったぞ!?」
「もしかして……君が追い払ってくれたのか!?」
私を囲んだかと思うと数々の質問が飛び交う。答えようとするもすぐに別の質問が飛んできてしまい、なかなか答えることが出来ない。う~んどうしよ……と思ったら一人のおじいさんの声が響きわった。
「静かにせいっ、お嬢さんが戸惑っておるだろう!!」
その一喝で人々のざわめきがぴたりと止む。声の方を向くと、杖を突いて歩いてはいるものの、意外にも身体ががっしりとしているおじいさんの姿があった。わお、筋肉もりもりのおじいさんだ。
「村のものが失礼しましたな。私はこのラムネ村の村長をさせていただいておるものです。どうぞお見知りおきを、お嬢さん……いえ、英雄どの」
「いえいえそんな……へ?えーゆー?」
えーゆーって英雄?あの創造神様がどこか熱く語ってくれた、物語の中に出てきたあの英雄?……誰が?
「私達の村を救ってくださったあなた様を英雄と呼ばず、何と呼べばよろしいのでしょう?このまま魔物に村を荒らされ、朽ちるしかなかった我々を救ってくださったあなた様は紛うことなき英雄なのです!」
「わ、私が英雄ぅっ?い、いやいやそんなすごいことしてないよ!?ただ牛さんの家族の敵を討つために魔物を倒しただけで……」
「……牛さん?いえ、どんな理由があったにせよ村が救われたのは事実です!その証拠にその手に持っていらっしゃるのは、かの畑荒らしの親玉の牙ではありませんか?」
そう言っておじいさんが視線を向けたのは証拠として出しっぱなしにしておいたレッドボアの牙だ。もう一本は沢山のお肉と共にマジカルシェルに仕舞ってある。
「た、確かにそうですけど……」
「まさか追い返すだけじゃなくて倒したのか……?」
「こんな小さな女の子が……し、信じられん……!?」
「しかしあの牙は……確かにあの緑に紛れ込んで暴れまわってたあの恐ろしい赤いやつの牙だぞ?信じる以外ないだろう!!」
「ええい静かにせいっ!!」
再び騒がしくなった村人達を再び一喝する村長さん。う、う~ん、昨日以上になんだか面倒なことになっちゃったぞー……と考えていたら、あの牛さんの世話をしていたおじさんが声を掛けてきた。
「君……いえ、あなた様のお蔭で村は未曾有の危機から助けられました!本当に、感謝をしても仕切れません……」
「さっきと同じ接し方で良いよぉ……それより牛さんは大丈夫だった?」
「ええもちろんで……だよ。怪我も無ければ変に怯えてストレスを感じているようなことも無かった……これで今まで同様に素晴らしいミルクを恵んでくれるはずさ」
「ほんとっ?よかったぁ~♪」
おじさんの言葉を聞いて私はほっと笑みを零す。すると村長の一喝を受けてもざわめいていた村人達が何故か静かになった。ん、なんで急に?
「「「「か、かわいい……!!」」」」
「ふぇっ?」
「「「「何て可愛い英雄様なんだあ~~~~~!!!」」」」
「うっひゃあ~っ!?」
しんとしたかと思ったらいきなり皆で大声を上げられてびっくりする……間も無く次々に手が伸ばされた。その向かう先は皆私の頭だった。ナデナデされるのはいいけど、いくらなんでもこの大人数でされるのはさすがに困る!その上あぶれた人はほっぺに向かって伸びてきてぷにぷにされる。
「ちょ、皆さん落ちつ……むにぃ~~!」
「おお……ふわふわで何て触り心地の良いお頭なんだ……!」
「ほっぺもぷにぷにで柔らかくって……素敵♪」
「む~にゅ~~~っ!!」
ナデナデぷにぷにされて全く動けない。そ、そうだ!こういう時こそ村長さんが……っ!
「孫に匹敵するくらいの可憐さじゃぁ~……」
あ、駄目だ。完全に自分の世界に入って一喝どころじゃない……
そこから私は考えることを止め、皆さんの気が済むまでお触りし放題のマスコットと化していた。あーもー好きにしてー……。
「「「「申し訳ありませんでしたっ!!!」」」」
結局30分近く揉みくちゃにされたところで村長が正気に戻り、それはもう大きな一喝で村人達から私を解放してくれた。ふー……頭とほっぺた触られすぎて熱くなっちゃってるよ……。
「英雄様に何たる失礼を……本当に申し訳がありません!!この命を絶ってお詫びを……」
「いらないよそんなお詫びっ!?別に怒ってないからそんなに謝らなくても良いよぉ」
「しかし……いえ、これ以上は逆に失礼に当たりますな、ここは英雄様のご厚意に甘えさせていただきます。それで、英雄様は冒険者でいらっしゃったそうですので、依頼の報酬を……と言いたい所なのですが、実は……」
そこで不意に言い淀む村長さん。先ほどまで騒がしかった村人の皆さんもそれに釣られるように静かになっていた。なんだろう……とは思わなかった。連日に渡る畑や牛さんたちへの被害……それに追い払おうとした村人さんにも犠牲者が出るなんて被害もあって大変だったんだ。報酬なんて用意する余裕がないのは明らかだ。なので私は初めから決めていたことを言う。
「報酬ならいらないですよ」
「……なっ!?で、ですがそれではあんまりにも……」
「村の皆さんがそれで余裕が在るなら頂きますけど……無いですよね?」
「うっ!?……お見通しでしたか……」
ちょっと意地悪な言い方だったけど、思ったとおり余裕なんて無さそうだ。牛のおじさんがチラッと言ってたけど食べるものも少ないって言ってたから相当辛いんだと思う。そんな人たちから貰うなんて、とてもじゃないけど私には無理だ。
「気にしないで下さい。私はただ依頼書を見て困っているなら助けたくて来ただけなんです。ですから身を削ってまで出されてしまうと逆に困っちゃいますから!」
「なんという……まるで女神様のようなお方だ……!!」
「ぶふっ!……あ、あははは……それは言いすぎですよ……?」
ごめんなさい女神です。転生してるから元女神だけど。
「しかしそれではさすがに我々の気が済みません。何か変わりになるものがあれば良いのですが……」
「ホントに大丈夫ですよ!皆さんの食事だって心もとないのに……あ、そうだ!」
自分の言葉で良いことを思いついた。
「それじゃ一つだけ……おじさん?」
「わ、私ですかっ?なんでしょう?」
「今度村に来たら……あの牛さんのミルク飲ませて♪お礼はそれが良いなっ!」
「そ、そんなものでいいんで……いえ、わかりました!次来られる時にはとっておきの物を用意してお待ちしております!」
「えへへー、楽しみにしてるね♪……それと、食事で思い出したんですけど……ん~と、あっ、ここで良いかな?」
ミルクを貰う約束をし報酬の件はそれで切り上げると、私はキョロキョロ辺りを見回す。そして手ごろなテーボアを見つけたのでそこに向かって一言。
「緑猪のお肉取り出し!」
ポンッ!という音と共に、マジカルシェルからテーボアいっぱいに、綺麗に切り分けられたお肉が山になって出てきた。突然の光景に皆が驚いた顔でそれを見つめていた。ちなみに猪ではなく緑猪のと言ったのは、赤猪のお肉は別にして自分で食べたかっただけだ。こんなときでも食い意地張っててごめんなさい。
「い、一体どこから出したんですか!?それにこの量の肉は……」
「これは皆で分けて食べて下さい。さっき退治したばっかりの猪のお肉ですから、新鮮できっと美味しいですよ♪」
「なっ!まともなお礼もしていないのに更に頂くなんて……」
村長さんが驚きながらも搾り出すように問い掛けてきたけど、一部をごまかすように言い包める。でもやっぱり素直に受け取ってくれようとしないので言い方を替えた。
「んー、それじゃ私一人じゃ食べきれないからここに置いていくね?もし欲しい人が居たら好きに持って行っていいよ~!」
「それでは何も変わって」
「さてっ、依頼も達成したから町に帰るねっ!まったね~♪」
村長さんの言葉を遮り、私は村の入り口に向かって駆け出していた。
「お、お待ちください!英雄様っ!!せめてお名前を……!」
「……そういえば言ってなかったっけ?ファムだよ~!!でわでわ~!」
ぴたっと止まって最後の質問に答える。が、停止時間は僅か1秒ですぐにまた駆け出す。まだ何か村の人たちが叫んでいたみたいだけど、今度は一切足を緩めず一度も振り向かないで私はラムネ村を後にした……。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
今後も気まぐれで連投していきますので、期待しないでお待ちください^^;