リードファイト!ビブリオバトル!
「9時です。おはようございます。北九州市杯ビブリオバトルのお時間です。実況はわたくし、新海がお送りします。
解説はビブリオバトル南浦和名人の山川名人です。」
「名人、よろしくおねがいします。」
『よろしくおねがいします。』
「最初にビブリオバトルの簡単なルール説明をさせていただきます。選手が各々好きな本を持ち寄り、各自でプレゼンテーションを行います。
プレゼンが終了した際、誰の本を一番読みたくなったか、で勝敗を決します。以上です」
「それでは選手の紹介をいたします。今回のビブリオバトルは予選を勝ち抜いた4名による決勝戦となります」
『精鋭揃いですので、楽しみですね』
「最初にAブロックからは藤城選手。青龍の門からの登場です。選んだ本は『サウナの教科書』」
『サウナの効能や各地でのマナーの違いを網羅した本ですね』
「Bブロックからは本間選手。白虎の門から登場です。選んだ本は『週刊紳士 7月24日発売号』」
『今日発売の雑誌をどこまで読みこんできたのか、注目です。』
「Cブロックからポモ選手。朱雀の門から…やや登場に手間取っているようです。選んだ本は「ちびくろサンボ」」
『日本語が話せないということで身振り手振りと現地の言葉だけで予選を勝ち抜いた兵です。
期待しましょう』
「Dブロックからは荒川アンソニー選手。玄武の門からの登場です。選んだ本は非公開となっております。」
『すこし落ち着きが無いのが気になります』
「3名がそろいました。ポモ選手の到着までしばらくお待ちください。」
『心配ですね』
「…ただいま情報が入りました。ポモ選手、決勝を棄権するようです。」
『急ですね、何かあったのでしょうか』
「運営によりますと優勝商品の海鮮ピザ1年分を観光ビザ1年分と勘違いしていたとのことです」
『ピザでは不満だったのでしょうか』
「そもそもなぜピザなのかという疑問はありますが」
『読書家とピザは切っても切れない関係にあります、切れてないピザは困りますが』
「なるほど」
『ピザは本を読むときに手を汚さずに食べられる数少ない食材ですので』
「結構汚れると思いますが」
『本を読む人間は99.98%がピザを食べたことがあるという統計も出ています』
「なるほど」
「1名の棄権をうけて、決勝は3名の選手で行われます。今ゴングが鳴りました。藤城選手と本間選手は様子をうかがっております。立ち上がりはアンソニー選手が仕掛けるようです。」
『さすが新進気鋭の最若手選手です。3歳というハンデをものともしません』
「こういったタイプのビブリオファイターは珍しいのでしょうか?」
『ビブリオファイターとしては日本ではあまり居ないタイプですね』
「思えば名前だけでなく顔つきも日本人とは少し異なります」
『藤城選手と本間選手も取っ掛かりが見つからず攻めあぐねてる感じです』
「情報が入りました、アンソニー選手、犬種はゴールデンレトリバーとのことです」
『3歳といえばもう成犬ですから人間の大人と能力の差は無いと言っていいでしょう』
「しかし犬がビブリオバトルというのは前代未聞ではないでしょうか」
『参加種族に縛りを設けなかったルールの裏を突かれた形です』
「なるほど、アンソニー選手、藤城選手に飛び掛りました」
『尻尾の振れ方が凄いですね、戦う前の挨拶といったところでしょう』
「アンソニー選手、未公開となっていた本は首輪についてる巾着に入っているとの事です」
『藤城選手が開けてますね』
「藤城選手、出てきた本…いえ紙ですね、紙を2枚スタッフに渡しました。こちらにも情報が入るまでお待ちください」
『なんだろうなぁ…』
「…情報が入りました、紙には『玉ねぎ、じゃがいも、ピーマン、ナス』と書いてあったそうです。もう一枚は千円札。」
『これはおつかいの途中ですね』
「おつかいですか」
『カレーです』
「ピーマンとナスがありますが?」
『夏野菜カレーです』
「しかし何故カレーの材料をおつかい中の犬がビブリオバトルに?」
『ありえないことが起こるのがビブリオバトルです』
「なるほど」
「さて、30分が経過してアンソニー選手、場外に走り去っていきました。失格です」
『所詮は畜生ですね』
「放送に不適切な発言がありました。申し訳ございませんでした」
『申し訳ございませんでした』
「ようやく落ち着いて藤城選手と本間選手の一騎打ちとなりました」
『本間選手から仕掛けるようです』
「本間選手、週刊紳士を開きました。おっとそしてこれは、ハサミですか?」
『ハサミですね』
「本間選手、週刊紳士にハサミを入れております。名人これは?」
『袋とじですね』
「袋とじ」
『袋とじを開封しています。7月24日号の袋とじグラビアは人気女優の大澤めぐみですね』
「さすが名人、よくご存知で」
『週刊紳士は過激なグラビアも持ち味ですので内容も期待できます』
「本当によくご存知で。本間選手、舐めるようにグラビアを見ています」
『他の人には見えないアングルを的確に選んでいます。これは読みたくなる』
「本間選手、ページをめくるたびに表情が変わります」
『やや演技過剰ですね』
「しかし藤城選手、内容が気になる様子です」
『性欲には逆らえません』
「…ここで速報です。棄権したポモ選手が不法滞在で拘束されたとのことです。ポモ選手、不法滞在だったのですね、名人」
『日本に残ろうという裂帛の意思が日本語を解せないまま『ちびくろサンボ』の絵本を題材に身振り手振りで予選を勝ち抜いた要因だったようです。勝ちへの執着が結果に繋がったのでしょう』
「ぜひ見たかった」
『見たかったなあ』
「最後は本当に体からバターも出てきたとか」
『…見たかったなあ』
「気を取り直して、藤城選手が攻勢に出ました」
『本の角で直接相手を殴る彼独自の戦法が決勝でも採用されるようです』
「結構厚いので痛いでしょうね『サウナの教科書』」
『彼はこれで今のところ全試合負け無しです』
「いかにもバトルという感じですね」
『直接攻撃を禁止しなかったルールの盲点を突かれました』
「なるほど」
「さて、本間選手も週刊紳士を丸めて応戦しております」
『週刊誌ではやや分が悪い』
「そのようですね。 『完全生中継 世紀の対決 アントニオ猪木VSジャイアント馬場 時間無制限1本勝負』のお時間ですが放送を延長してお伝えしております」
『あれ?本間選手…』
「泣いてます?」
『泣いてますね』
「中年が本の角でシバかれて泣いております」
『ちょっとこの画はお茶の間には厳しいですね』
「しかしやはりこれは藤城選手、戦略が見事にハマったか」
『最後はペンよりも剣です』
「なるほど。本間選手、号泣しながら門へと走って向かいます」
『登場した門に戻ったら失格です』
「これは勝負が決したか…今門を抜けた」
『決まりですね』
「北九州市杯ビブリオバトル、藤城選手の優勝です」
『藤城選手、終始安定してました』
「そして速報です、棄権となったアンソニー選手も無事おつかいを終えて帰宅できたそうです」
『今日は夏野菜カレーですね』
「ピザの具だそうです」
『えー』
「それでは…え?はい、少々お待ちください…はい、はい。訂正があります。
藤城選手、本間選手が失格になる直前、本間選手が落とした週刊紳士の袋とじグラビアを読んでいたためこの勝負、本間選手の勝利になります」
『ビブリオバトルで試合中に相手の本を読むのは負けを認めたも同然です、判定も自動的に敗北となります』
「藤城選手、知らなかったのでしょうか」
『ルールの穴を突いた選手がルールに足元をすくわれましたね』
「大変含蓄のある試合となりました」
『これがあるからビブリオバトルは面白い』
「優勝した本間選手には海鮮ピザ1年分が贈られます」
『観光ビザではないのでご注意ください』
「それでは実況はわたくし、新海。解説は山川名人でお送りしました。名人、ありがとうございました」
『ありがとうございました』
「来週のビブリオバトルは宇都宮杯です。また来週」
終
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製作・著作 NHA