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黒衣黒刀の暇つぶし  作者: 月倉悠
9/24

変人

まだ平原は続いている。景色はまったくと言っていいほど変わっていない。ドラゴンと遭遇いこう、他のモンスターなどには接触していなかった。1人、目の細い老人に出会ったが、あの人は、人畜無害な農家の人だ。

 スカティッシュの村まではどれぐらいだろうか?

 わたしはエリアさんに向かって聞いてみた。

「あの、スカティッシュの村までは、あとどれぐらいなんですか?」

「あと、2時間ぐらいで着くとは思いますよ」

「あとちょっとですね」

「そうですね」

 なんだ、この綿菓子のような会話は。気持ち悪くなるほどフワ~ンとしている。わたしは違うことについて聞いてみることにした。というかよくよく考えてみたら、この質問の方が重要かもしれない。

「はなしが少し変わるんですけど、エリアさん、さっきのアレは何だったんですか!」

 わたしは身を乗りだして聞いていた。

「アレというと?」

「つまりですね、わたしはエリアさんの正体が知りたいということです!」

 自分でも恥ずかしいと思うのだけれど、わたしは、こういう話になるとテンションがハイになってしまう。直そうと思っても直せないクセだ。

 エリアさんは修道女のような笑みを作り、

「といっても、わたしはただの行商人ですよ。どこにでもいる行商人です。強いて特徴を挙げるとすれば、このお美しい顔でしょうか?」

「え、自分で言っちゃいます?」

 確かに、エリアさんの顔は万人が振り返るほど美しい。でも、それを自分で言ってはイケナイと思う。醸し出される魅力が台なしだ。

「だって、お美しいものはお美しいでしょう?」

「まあ、そうですけど……――って」

 わたしは、はぐらされていたことを知った。

「そんなことはどうでもいいんで、お願いですから、わたしの質問に答えてください! 切実にエリアさんの正体が知りたいんです!」

「と、言ってもね……」とエリアさん。「あまり面白いものでもないですよ?」

「大丈夫です!」

 わたしの声は依然として大きい。右横に畑がある。そこで、1人の男の人が働いていたのだけれど、わたしの声に驚いたのだろう、首をこちらに向けていた。農作具が宙で止まってしまっている。わたしは『すみません』という念を込めて、その男の人へ、軽く会釈をしてみせた。男の人は赤くなる。

「わかりました、じゃあ言わせていただきます。わたしの正体はですね――」……ゴクンっ。わたしは固唾を呑んで見守った。「なんと! あの大陸中に名を馳せた賞金稼ぎ、『ブラック・ザ・仮面』! 準伝説級モンスターをも狩り倒し、ある討伐連合会と協力した末には、伝説級モンスターをも狩ってしまったその人です! あ、ちなみに、倒した伝説級モンスターというのは、当時、アルティクスナルタ共和国、ディーネ連合国などを苦しめてきた、暗黒暴竜・ダークロードディノニクスです。けどもう『ブラック・ザ・仮面』は引退して、今ではこの通り、ただの行商人なるものをやっています」

「なるほど……」

 あの経歴はすごいのだろうか? わたしにはよくわからなかったので、とりあえず、頷くだけしておいた。

「あの、ちなみに、雪乃さんは私のこと知っていました? 『ブラック・ザ・仮面』という名を……」

「いえ、全然」

 容赦なく、わたしは首を横に振った。本当は、『ブラック・ザ・仮面』という名を知っていたというのに。あれは10年前ぐらいことだろうか? 当時、『ブラック・ザ・仮面』の名は、並みのアイドルたちよりも知れ渡っていた。ブロマイドなども販売されていた気がする。偽物も現れ、そこら中に仮面を付けた人達が溢れていた。しかしわたしは、そんなことを知っておきながらも、名を知っているかと聞かれたら、首を振らないとダメなような気がしたのだ。一種の義務感のようなものに駆られたのだ。

「知らないですって!」とエリアさんは、笑うおやじ顔負けの大声で、驚いたような声を上げていた。

 わたしはなんとなく可哀に思ったので、

「いえ、すみません、本当は知っていました」

「それが事実なのですね!」

「はい」

「では、わたしのファンだったというのも事実なのですね!」

「いいえ」


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