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黒衣黒刀の暇つぶし  作者: 月倉悠
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フルボッコ

エリアさんが変態だということが、発覚してから6時間ほど経ったころ。わたし達はスノーマウンテンを抜けて、なだらかな平原を歩いていた。平和だ。そよ風が木々たちの梢を揺らして、地面には草花が生えている。白い花や赤い花。珍しいことに、レインボークリスティンという虹色の花も生えていた。

 右前方に見えるものは、風機と呼ばれている機械だろう。バルティッシュ帝国が生み出した最新技術を用い、風を利用して、魔力を作ることのできる機械だ。作った魔力は、青石という希少価値の高い石に、なんらかの方法で封印するらしい。そのあとのことは、博識のわたしにもよくわからない。

 時間ができたら、どっかの図書館にでも行って調べてみようと思う。

 エリアさんはわたしの方へ顔を向けた。

「こういうのどかな平原、とても良いと思いませんか?」

「思いますよ」

 わたしは同意をする。正直な気持ちだ。エリアさんの機嫌を損ねたくないとかではなくて、本当に、わたしものどかな平原は素晴らしいと思う。空気がきれいだ。なによりとても平穏だから、余生を暮らすには丁度いいかもしれない。〈7ノ神〉に所属しているおじいちゃんことクロムスさんに、今度オススメしてあげようか。かならず喜んでくれるはずだ。

 などと、わたしがクロムスさんの顔を思い出し、他のメンバーの顔も思い出していると、

「あ、あれは、なんだと思いますか?」

 エリアさんがわたしの肩をおそるおそる叩いてきた。左手は空中の一点を指している。

「はい?」

 わたしは、エリアさんの左手が指している方向へ、ゆっくりと首を向けてみた。赤い点がある。

 徐々にそれは近づいてきて――

 ――あ、ドラゴンだ、

 と理解するまでには、それほどの時間を必要としなかった。にしても、こんなところにドラゴンがいるとは驚きだ。わたしはてっきり、この平原にモンスターなどは出ないと思っていた。でも、おじちゃんことクロムスさんは、私と同じぐらい強いから、余生をここで過ごしても大丈夫だろう。ドラゴンなどのモンスターなんて、指先1本で倒してしまうだろうから。盗賊などだって同様だ。心配はいらない。クロムスさんにかかれば、ものの数秒で灰になってしまうはずだ。

 わたしは柄に手を掛けながら言った。

「近づいて来るのはドラゴンですけど、なにも心配にはいりません。馬に乗せてくれたお礼に、わたしがあのドラゴンを倒します」

 わたしは言いながら思ったのだけれど、向かってくるドラゴンは、復讐の為にきたのだろうか? エルムの町で、わたしが、他のドラゴンのお肉を食べちゃったし。――まあ、どのような理由があるにしろ、わたしは向かってくるモンスターに容赦をしない。斬られたことすら理解させず、瞬時に絶命させてやる。

 わたしは意気込み、かっこよく鞘から剣を抜こうとしたのだが――

「それには及びません」

 エリアさんに止められてしまった。真っ白くて細い右手が、わたしの柄に掛ける手を押さえつけている。

「な、なんですか?」

 わたしは戸惑いながらも聞く。だがエリアさんはこちらに向き、聖母のような笑みを湛えただけ。意味がわからない……。わたしは首を捻るばかりである。

 炎のように真っ赤なドランゴンは、着々とわたし達との距離を詰めていた。もうブレス攻撃がきてもおかしくない。だというのに、エリアさんの雰囲気は余裕綽々だ。本当に大丈夫なのだろうか? わたしは心から心配した。――が、その心配は、刹那の内に杞憂となった。

 わたしが危ないと思って動こうとしたとき、それよりも早く、エリアさんが動いたのだ。そして、残像を残すようなスピードでドラゴンに肉薄。顔面に蹴りを2発かました。ここで骨が砕けるような音が2かい鳴る。痛そうだった。次に、エリアさんはドラゴンの懐へ入り込んだ。渾身のストレートパンチ。それはエリアさんから繰り出され、ドラゴンの身体を確実に射抜いた。悲鳴が上がった。と思ったらドラゴンの身体は真っ二つになり、それをエリアさんは蹴り飛ばした。ドランゴンの身体は悠久の彼方に飛んでいく。恐ろしい脚力……。

 わたしが唖然としていると、なに食わぬ顔で、変態にキッカーという属性がプラスされたエリアさんが宙から降りてきた。

「す、すごいですね……」

 わたしは呆気に取られながらも、本気でエリアさんを褒め称えていた。さっきの一連の動作、あれは息を呑むほど半端なかった。うまくやれば、各国の将軍ぐらいなら相手にできるだろう。

「いえいえ、そうでもないですよ」

 それより、とエリアさんは言いたした。

「早く馬に乗って、スカティッシュの村に向かいましょう。1秒でも早く、わたしはお金を手にしたいです。うへぇへぇ!」

「やっぱり、お金なんですね……」

「え、なにかいいました?」

「いえ、なんでもありません!」

 わたしは誤魔化すようにあたまを振って、パッと馬に飛び乗った。


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