普通の人
わたしは魔銃の射的を終え、「ありがとうございました」と言ってから店を出た。景品は指輪のような物をもらった。屋台のおじさん曰く、どんな強大な魔法でも、一度はその魔法から身を守ってくれるらしい。ただ、真相はわからない。常識的に考えるなら、嘘と見るのが普通だろう。と言っても、おじさんが嘘をついてるとも思えない。どうなんだろう。わたしには考えてもわからない。まあ指輪は息を呑むほど綺麗で、アクセサリーとしての価値も十分あると思うから、屋台のおじさんからは、アクセサリーを貰ったと考えればいいだろう。大事にしようと思う。
空は夜が明けて、光の満ちる朝に向かっていこうとしていた。薄く太陽が見える。そろそろ、お祭りからも引きどきかもしれない。伝説級モンスターの情報はまだ掴めてないけれど、町には保安機構もうろついていそうだし、情報は次の町で聞こうか。うん、そうしよう。
わたしは町の出入り口に向かった。
そうして、10分ぐらい歩いたあとのことだろうか? ふと、わたしは足を止めた。歩いているうちに思ったのだ。
エルムの町を出て、また、長い道のりを徒歩で行くのはかなり疲れる。なにか良い足はないだろか? と。
わたしはその場に留まって、首を周囲に巡らしてみた。
「あれだ……」
視線の先には馬があった。色とりどりの物を積んでいるから、長い道を行く行商人の馬だろう。3頭ほどいる。見た感じだと、全て同じ行商人の馬のようだ。
わたしは声を掛けてみた。
もちろん馬ではなくて、持ち主である行商人に。
「あの、ちょっといいですか?」
「はい?」
行商人の女の人が振り向いた。綺麗な人だ。栗色の髪は、1つ縛りにされている。髪飾りの類は見当たらなくて、年齢は20代前半といったところだろうか。太ってもないし痩せてもいない。健康的な身体つきだ。
わたしは単刀直入に、
「もし良かったら、わたしもその馬に乗せていってくれませんか?」
「え、う、馬に、ですか?」
女の人は大層おどろいたようだ。目がまん丸になっている。
「そうです、馬に乗せてくれませんか?」
「えと、事情を話してもらってもいいですか?」
「はい」
わたしは包み隠さず、女の人に事情を話した。次の町に行こうと思ったのだけれど、馬などの乗り物がないこと。そこで運よく、女の人の馬を見つけたこと。最後に、心からラッキーと思ったこと。
事情を聞き終えた女の人は、よくわからないような表情をした。
「ちなみに、どこまで乗っけていって欲しいのでしょうか……? 幸い馬は一頭空いているので、乗っけてあげることはできるんですけど……」
「え」とわたしは声を上げた。「それは本当ですか!」
しょうじき驚いた。女の人が馬に乗せてくれるなんて、頼んでおきながら思ってもみなかったのだ。目の前の女の人は、どこぞの警備兵よりも警戒心が強そう。見ず知らずの他人を乗せるなど、死んでもできない人だと思っていた。
わたしは聞いてみた。
「あ、けど、あなたは私を乗せることに、抵抗はないのですか? まだ私達、あって10分も話をしてないのに……」
「それは心配しないでください」
女の人は微笑んだ。
「旅人から、馬に乗せてと言われることはよくあるんですよ。それにあなたは、悪そうな人にはみえなない。むしろ優しそうな人にみえます」
「そうですか?」
「はい」
わたしは嬉しくなった。この行商人に対しての好感度も、うなぎ登りに上がったとおもう。
「それで、またさっきの話に戻るのですけど、あたなは、どこまで行くことをお望みですか?」
「そ、そうですね……」
わたしは考える。とくに目的地というものは決めていなかった。最初は機械都市・グランザムに行こうと思ったのだけれど、よくよく考えてみると、エルムの町からは、馬などでは行けないほど離れていた。第二候補にあった、灼熱都市・ファグマスティナも同じようなものだ。
わたしは、脳が悲鳴を上げるほど熟考した。その末に、ある都市部の名前をはじき出す。行商人の人に向かって言ってみた。
「剣の都市・シュペルツルムソードルスまで、乗せていってもらえないでしょうか?」