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黒衣黒刀の暇つぶし  作者: 月倉悠
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これぞお祭り

わたしは夜の街を歩いていた。宿から逃げ出してから5分は経過している。追っ手がくるようすはない。わたしが窓から飛び出して、刹那の内に消えたから諦めてくれたのだろう。

 わたしが歩いているところは中心通りだ。人がアリのようにいて、人ごみの中に紛れこめる。いくら保安機関の人達が、捜査のプロフェッショナルだとしても、この中からはわたしを探すことは無理だろう。もし見つかったとしても、わたしは飛翔魔法で空へ逃げてやる。

 活気溢れる中心通りには、絢爛な屋台がいくつもあった。仮面を売っているところもあれば、不思議な飴を売っているところもあった。食品だって売っている。先にある広場からは、楽しそうな歌声が聞こえてきた。周りにいる人たちも楽しそうだ。わたしは来るまで全然知らなかったのだけれど、なんと今日エルムの町は、盛大なお祭りをやっているらしい。規模から鑑みるに、年に2かい開催される、エルムの町聖誕祭だろう。外からもたくさんの人達が来訪している。今回で200回目ぐらいだろうか? わたしが前きたときは、120回目ぐらいだった気がする。

 酔っ払っている人がいた。

 わたしはどうしよう。

 本当は保安機構の手から逃れるために、逃げてそのまま町を出ようと思ったのだけれど、楽しそうな人達を見ていたら、わたしもお祭りに参加したくなってきた。お金も手元にはたくさんある。もしもの時に逃げ切れる自信だってあるし、よし、今日はパルムの町聖誕祭に参加してやろう。

 思いっきり遊びほうけてやろう。

 わたしがそんな風に、自分へ向かって言い聞かせていると、

「なあなあ姉ちゃん」

 肩をポンと叩かれた。ゴツイ手で、声はチンピラのようにチャラかった。ナンパかもしれない。これで何回目だろう。自慢になってしまうのだけれど、わたしはいつも、お祭りとかに行くとナンパをされる。そのナンパにのって、着いていったことは1回たりともないけれど。

 わたしは思い出しながら振り向いた。先には大の男が2人。黄金に輝く髪の男と、地味に輝く黒髪の男だ。どちらも、耳に銀のピアスを付けている。腰には1丁の拳銃を装備していた。

「なんですか?」

 いきなり突っ撥ねるわけにもいかないので、わたしは小首を傾げてみせた。

「良かったら、俺達と一緒に遊ばねぇか?」金髪のほうが、ニヤニヤ笑いを浮かべる。「悪いようにはしねぇからさ、姉ちゃんの欲しいものだって買ってやるよ。もちろん、変なことをしようとは考えてないぜ」

 言っていることを聞く限りだと、見た目に反して、そこまで悪い人達ではなさそうだ。だけどわたしは、

「ごめんなさい。わたしもちょっと、用事があるので……」

 残念だけれど、申し込みを断らせてもらうことにした。わたしは1人がいいのだ。ボッチ趣向とかそういうわけではなくて、1人のほうが気楽だし、自分の好きなようにできるからだ。じゃあなぜ、組織である〈7ノ神〉に入っているのかというと、それには歴然とした理由がある。〈7ノ神〉に入ると、素晴らしい色々な特典がもらえるのだ。伝説級モンスターの在り処を教えてもらえたり、ピンチのときは、アジトに匿ってもらえたり……。他にもいろいろあるけれど、なんかめんどくさいので省くことにする。

 わたしは背をくるりと向けた。これ以上チャライ男たちと話すこともないので、この場を去ろうと思ったのだけれど――

 肩をガシッと掴まれた。

「待てよ」

「まだ何かありますか?」

「俺達が誘ってるっていうのに、断るっていうのはひどいんじゃねぇの? どうせ1人で暇なんだろ?」

 デター、こういう男、とわたしは思った。たまに出没する。最初のほうこそ良い人達だと思っていたけれど、今の言動を聞く限り、ワルノリしているただのチンピラみたいだ。盗賊の次に悪い奴。

 わたしは、乗せられている手を片手で払った。そして振り返る。

「わたしは、あなた達と遊ぶ気はありません。遊び相手を探しているのなら、他を探してください。それじゃあ」

 わたしは踵を返した。続いて短距離移動魔法を詠唱。時間は1秒もかからない。視界が黒くなった。浮遊感。次に視界がクリアになり、地に足が着いた感覚があると、わたしは、路地裏のような場所に来ていた。近くにはゴミ箱がある。くさいけれど、チャライ男たちの手から逃れられたのでよしとしよう。

 わたしは溜息を一ついた。なにをしようか考えながら、早足で中心通りへ戻ることにする。

 わたしがさっきの短距離移動魔法で、直に中心通りへ行かなかったのには訳がある。人々を驚かせないためだ。いくら魔法が繁栄している世界といっても、瞬間移動系の魔法を使える人は少ない。見た事がない人だっている。だというのに、わたしが突然出てきたら、腰を抜かす人や、失神する人が現れるのは確実だ。

 ややあって、わたしはぶじ、きらびやかな中心通りに到達することができた。賑わいは劣っていない。人々は楽しそうに笑っている。子供もいて大人もいた。わたしは近くに林檎パイの屋台を発見したので、お金を握ってならび、ホクホクの出来立て林檎パイを購入することができた。良い匂いがする。

 試しにかじってみると、口の中一杯に、甘くて酸っぱい林檎の味が広がった。やみつきになるほどおいしい。

 わたしは1つ目を1分足らずで完食し、2つ目も3つ目も欲しかったので、飽きずまた屋台で購入した。3分で食べ終わる。お腹は十分ふくれていた。でも、林檎パイだけ食べて帰るのはもったいない気がする。わたしはなにか遊びをしようと思った。近くの屋台をグルッと見回してみると、炎魚すくいやら、魔銃でやる射的、剣を振るうスピード測定みたいなのがあった。どこも店主はおじさん。客層は老若男女とさまざまだ。剣を振るうスピード測定の屋台では、厳ついゴリマッチョなおじさんが、鉄板のような剣をヨイショと振るっていた。子供はナイフじみた剣を振るっている。どうやら、お客さんの体重、身長などで、振るわせる剣を店主が変えているらしい。わたしがやってみたら、とんでもないを数字を出してしまいそうだ。ということで、剣を振るうスピード測定はやめておこう。変に目立ちたくない。

 わたしは、魔銃でやる射的をやってみることにした。店主のおじさんにお金を渡す。300ピースだ。この世界では、ピースという単価のお金が使われていて、100ピースで、林檎を1つほど買うことができる。役人の月収は39万ピースぐらい。一兵卒は、17万ピース~26万ピースぐらいだと聞いている。魔法を使える騎士などになれば、60万ピース以上は貰えるそうだ。わたしがよく倒している伝説級モンスターは、災害指定にもされているので、1体倒すごとに1億ピース以上は貰える。個体によっては200億ピースとかだ。

 わたしの所持金は言うまでもないだろう。と、言いたいところなんだけれど、実をいうと、わたしはそんなにお金を持っていない。装備などを揃えるのに消えてしまうのだ。慈善団体に寄付などもしているから、感謝はされど、わたしのポケットは常に軽いとだけ言っておく。

 射的屋のおじさんは、わたしから受け取ったお金をポケットに入れ、近くにあった魔銃を掴み、わたしに銃口を向けず手渡してくれた。

 わたしは受け取る。

「説明はいるか?」と射的屋のおじさんは、わたしを見つめながら言った。おじさんは、頭に白いタオルを巻いていた。

「ルール説明だけお願いします」

 魔道銃の使い方はよく知っていた。

「あいよ」とおじさん。「まず目の前に、点数の書かれた的があるだろ?」

「はい」

 わたしは頷く。確かに目の前には、点数の書かれた白い的があった。小さくて幾つもある。円形の的だ。わたしが立っている場所から、8メートルほどは離れているだろう。屋台内には提灯がぶら下がっている。

 おじさんは続けた。

「あの的を、そのお客さんが持っている銃で撃ち抜くんだ。チャンスは8回。撃ち抜いた回数で、景品が変わってくるぞ。あ、その魔導銃は威力こそ低いが、本物だから俺には向けないでくれよ?」

「向けると?」

「俺が泣き出しちまう」

 おじさんはノリよく、泣く動作をしてから笑ってくれた。

 わたしは銃を構える。8発すべて当てる自信はあった。

「おじさん、わたしが8発全ての的を当てたとしても、号泣しないでくださいよ?」

「ははっ、お客さん、威勢がいいね。でも俺は、そんなことで泣きはしないぜ。むしろ今までお客さんみたいな人が、的を全て当てたことがないから、当てて欲しいぐらいだぜ。まあ、当てられないと思うけどな」

 挑発か。

 わたしはおじさんの方を見て、ニヤリと不敵に笑ってみせた。挑発のつもりだ。でもこんなことをしたからには、意地でも成功させなければいけないだろう。

 わたしは自分に気合を入れた。

 銃口を的に合わせる。

 準備は指をトリガーに掛けて完了だ。

 ――よし。

 わたしはトリガーを引いた。音はでない。小さな光は真っ直ぐ飛んでいき、狙い違わず1つの的を射抜いてみせた。

 次に1発。これも成功。

 わたしはコツを掴んで次々と撃っていき、おじさんが呆然としているのを横目で見ながら、やがて8発全てを撃ち終わり、外すことは一度もなかった。してやったりという気持ちだ。周りに他のお客さんがいればもっとよかった。わたしの凄腕を見て、惜しみない拍手喝采をくれたことだろう。

 わたしは魔導銃をおじさんに返した。

「どうです、わたしの腕前?」

「すごいとしか言いようがない」おじさんは鼻白んだ。「もしかしてお客さん、なんかやってたりするのか? または、どっかの部隊に入っているとか?」

「いえ」わたしは自慢げに言う。「ただの可愛い旅人ですよ」


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