従業員のもたらした危機
わたしは一仕事おえて、眠かったのですぐ寝てしまいたかったのだけれど、当然そんな訳にもいかなかった。
床は血でベトベト。
戦闘の音はやはり下にも響いていたようだ、ドタドタと従業員が、わたしの部屋に流れ込んできた。このとき、まだわたしは服を着ていなくて、ありのままの姿だ。ペンダントだけが胸元で光っている。
流れ込んできた従業員は、男の人が5人で女の人が3人だったのだけれど、男の人は鼻血を吹きながら倒れてしまった。鼻血で血の池ができている。3人の女の人はそんな男たちを見て、蔑むような視線を向けていた。きっとこの件が片付いたあとは、こっぴどく男の人たちを叱るのだろう。
「あの、これはいったい……?」と1人の女の人が、恐々しながら疑問を投げた。わたしはベッドの毛布をはおる。それから事情を細かく説明して、最後に頭を深く下げた。
事情を聞き終えた従業員は言った。
「なるほど……、じゃあ一度、保安機関に通信を入れた方がいいでしょうか? 死人も一杯でていることですし……」
「え」とわたし。「やっぱり、保安機関に通信を入れてしまいますか?」
ちなみに保安機関というのは、治安や秩序を守り、犯罪を摘発し、悪を撲滅するというのが仕事の機関だ。支部があり本部がある。下っ端の人達ははっきり言って強くないけれど、上の方にいる人達は恐ろしく強い。犯行集団なんてイチコロだ。階級というのもあるらしいけれど、そこらへんことは、わたしにはよくわからない。ただ一番上の階級が、司令官ということだけは知っていた。
「そりゃあまあ、入れた方がいいでしょう……」と従業員が、言いにくそうに言った。どうしよう。わたしは、保安機関に通信を入れられると困る。あそこは真面目でお堅い人が多いから、一度絡まれたら最後、話した事情が納得できるまで返してくれない。前に重要参考人として行ったことがあるのだけれど、あのときはひどかった。こっちの予定などおかいましに、一週間以上は拘束されていたのだ。
「いやけど、わたしは大丈夫なんで」とわたしは、なんとしてでも保安機関に、連絡を入れて欲しくなかった。
でも1人の女の人が、階段を駆け上がってきて、
「保安機関に連絡入れました!」と、ぜいぜいしながら言った。「20分後に、捜査官数人を引き連れて、こちらまで来てくれるそうです!」
「だそうです……」とさっきまで話していた従業員が、わたしに向かって哀れみの視線を向けた。
わたしは凍った。
「マジですか……?」
「はい!」
元気に従業員が応える。連絡をいれてくれた従業員だった。
「だからもう安心していいですよ! ゆっくりできないかもしれないですけど、どうか安心して、ゆっく――」
言い終わらぬうちに、わたしは脱兎のごとく逃げ出した。