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黒衣黒刀の暇つぶし  作者: 月倉悠
24/24

終わり

「……なんで?」

 振り下ろそうとした黒刀が、まるで誰かに押さえつけられているように動かない。いくら力を入れようとしてもダメだ。黒刀はその場から一歩も動こうとしなかった。

 なんで……?

 わたしは心の底から疑問に思った。だがこの疑問は、いきなりわたしの耳に入った一声が解決してくれた。

「どう? 天才な僕のみが持つ能力――〈グラビティポイント〉のお味は?」

 なるほど。

 わたしの黒刀が動かせないのは、後ろにいる人物のおかげだったということだ。より正確に言うのならば、後ろにいる人物の能力のおかげか。

 わたしは、自分の黒刀から両手を潔く離した。

 そして後ろに顔を向ける。

「はは、中々にお美しい顔をお持ちではないか、真っ黒装備のお嬢さん」

 後ろに立っていたのは剣をも持った男の人だった。いや、この人を男の人と呼んでいいのだろうか? どちらかというと、生意気な男の子といった感じである。

 身長は150も行っていなさそうだし、顔もかなりの童顔だ。美形と言ってもいいかもしれない。白くて華奢な身体には真っ赤な服を羽織っていた。その服の上に絡まっているものは、鎖かなにかだろうか? 銀色に鈍く光っていた。

「ねぇ、あんたが反政府組織〈イーディー〉のリーダーなんでしょ? 名前は確か……そう、アウル」

 わたしはさっきアウルの言った褒め言葉を無視して、仮面の男が完全に気絶したのを確認しながら、単刀直入にそう問うた。

「そうだけど?」

 アウルは拍子抜けするほどにあっさりと頷いた。

「へぇ~、じゃあ早く、あんたたちが攫っていったエリアさんを返してくれない? 返してくれないのなら、あんたを殺してでも、わたしはエリアさんを奪還するから」

「なに、脅しのつもりかな?」

「そう、あんたみたいなお子ちゃまが、おしっこを漏らして逃げ出すように脅してるの」

「ふ~ん、そうなんだ。だけど僕は、その君が言ったエリアさんという人は返さないよ。君には組織をめちゃくちゃにされた恨みもあるしね」

 そう言いながら、お子ちゃまアウルは辺り一面を睥睨して、

「ほら、見てみなよ。君のせいでここは血の海だ。昨日まで一緒にお酒を飲んでいた仲間もいるんだぞ」

「あっそ」とわたしは事もなげに吐き捨てて、「とりあえずあんたは、エリアさんを返すつもりはないと言ってるのね」

「まあそうなるのかな?」

「わかった――」

 数秒のうちにケリをつけてやる。

 わたしは両手で2丁の拳銃を抜き、アウルのこめかみへ一気に標準。連続してトリガーを引いた。

 銀色に光る弾がアウルの元へ殺到する。

 だがその弾は、アウルの元へ届く前に、見えない槌にでも叩かれたように地面へ落下した。全ての弾だ。

 これがアウルの力。――〈グラビティポイント〉。

 並み大抵の攻撃は重力場に阻まれてしまうということか。面倒で厄介な能力である。しかし、さっきまで固定されたように動かなかった黒刀が、とつぜん戒めが解けたように地面に落ちた。

 わたしはその刀を片手で拾う。

 どうやらアウルの〈グラビティポイント〉という能力は、広範囲に効果が及ぶような能力ではないらしい。だから多分、まだ歴然とした確証があるわけではないが、アウルは便利すぎる重力の力を、攻撃と防御両方に使うことはできないのではないか? つまり、アウルがわたしの近くに重力場を発生させたら、自分の近くには発生させることができないということだ。

 わたしは内心二ヤリと微笑んだ。

「ねぇアウルさんとやら、この戦い素直に諦めたら?」

「どうしてかな?」

「わたしがあんたの弱点を見抜いたから――」

 とわたしが口から声を出した瞬間だった。

「けど君が思っているその弱点は、案外僕にとっては弱点ではないかもしれないよ?」

 アウルの後ろにある屋敷が浮いた。

 わたしの元に長い影か落ちてくる。

 中空に浮かぶ屋敷の姿は圧倒的すぎた。

 アウルがその細い腕を振るう。

 すると、

「やっぱり……」

 屋敷はわたしに向かって落ちてきた。空気を切り裂くような音がする。正直わたしもこれには心から驚かされたが、すぐに乱れた自分を打ち倒し、黒刀を構えていつもの自分を取り戻す。

 すでに巨大な屋敷はわたしの眼前。

 ――危険領域。

 だがそれは、わたしこと黒辻雪乃が操る黒刀の射程内でもあった。

 刀身が獲物を求めるように黒く輝く。

「はっ!」

 わたしは一歩前へ踏み込んだ。黒刀は大上段から振り下ろし、屋敷の壁を確実に捉えていた。

 荒れ狂う激流のように打ち砕く。

 屋敷はわたしがインパクトをかました場所を中心に、まるでガラスが割れるようにヒビ割れていき、やがて完膚なきまでに砕け散った。

 わたしの視界は砂のようなもので埋まる。そう、砂のようなもの。厳かな屋敷は砕けて砂のようになってしまっていた。

 ――よし。

 わたしは自分の力を改めて思い知り、少々悦に入ってしまったのだが――

 それがいけなかったのだろう。

「終わりだよ!」

 超至近距離まで入ってくるアウルの姿に気付かなかった。

 でも――

 それがどうしたというのだ。

 わたしはこの世で一番強い旅人。

 多少の不意を打たれたところで焦ることは皆目ない。

 袖からナイフを取り出す。

 わたしはそれをアウルに投げつけて、そのナイフは気持ちいほど綺麗にアウルの喉元に入った。

 完全な不意打ちだったのでアウルも反応できなかったのだろう。

 この勝負わたしの勝ちだ。


     ◆


 その後わたしは、森の中で静かに眠っていたエリアさんを発見した。そして少しだけからかった。

 旅の再開はまた明日である。


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