黒衣VS仮面
「あれが俺達のアジトだよ」
ある茂みの中、わたしと小柄な男は一緒に隠れていた。非常に狭い。小柄な男には出て行って欲しいのだけれど、それで見つかったりしたら目も当てられない。
わたしは、小柄な男が指差している方へ顔を向けた。
「ふ~ん、あれね……」
そこには厳かで威厳に満ちた屋敷があった。暗黒の森と同化するように色は黒い。窓というものは1つもついていなくて、それは煙突も同様だ。〈イーディー〉のアジトへ忍び込むには、玄関を真正面から突破するか、厚い壁を壊すしかないようである。とわたしは一瞬おもったが、もしかすると、隠された扉などがあるのかもしれない。ある一点を押し込むと、ある場所が魔法のように開くとか。その確立は低いかもしれない。けど0という訳ではないだろう、わたしは視線を横に向け、小柄な男から聞き出そうと思ったのだが、
――グチャ
突然、男の頭が火薬のように破裂した。赤い脳漿が飛び散る。それは、わたしの服へ泥のように付着した。
鼻を摘みたくなるような匂い。
――見つかった!?
とわたしが理解するまでには、0・01秒の時間も要しなかった。まずいことになった、ということも本能的に理解して、
「ちっ」
前方からは鉛玉が飛んできた。ただそれは普通の鉛玉とは違う。なにか仕掛けのような物がついているようで、ところどころ、鋭く尖ったりへこんだりしていた。当たればヤバイ気がする。
小柄の男のようにはならなくても、決して少なくはないダメージを負うことになるだろう。
わたしは右横へ跳躍をした。
鉛玉がわたしの元いた場所へ突き刺さる。そしてそこは、風船のように内側から破裂した。
――こわっ。
わたしは鉛玉の仕掛けに心から驚いた。が、そんな風に驚いた時間は光速よりも短い。
わたしは腰のホルスターから拳銃を片手でドロー。
黒い影を撃ったときとは違う拳銃だ。
仕掛けの詰まった鉛玉は、屋敷の3階に当たる場所からわたしに撃ってきているようだった。極小さな穴の空いた場所が2つあり、1つには銃口が覗いていて、もう1つにはスコープが覗いていた。
――ロックオン。
わたしはその2つの穴に向かって、さっきドローした拳銃の銃口を向けた。トリガーに手を掛けて発砲。
唸るような爆発音がした。
2つの穴があった場所に目を向けると、そこはすでに、小型のミサイルが直撃したように抉れていた。中が丸見えになっている。豪華なソファーと木製のクローゼットがあった。目を見開いている〈イーディー〉のメンバーもいる。
「終わり」
わたしはそのメンバーへ向けて、高速詠唱した魔法を解放。炎の槍が6つほどあらわれる。それらは〈イーディー〉のメンバー目掛けて飛んでいき、易々と心臓を貫いた。
「よし」
わたしは敵を倒したことに歓喜したが、まだまだ〈イーディー〉のメンバーは減っていなかった。連合国家1番のお尋ね者の名は伊達ではないということか。
玄関からもワラワラと敵が飛び出してきて、爆発で空いた穴からも敵が飛び出してくる。手に持った得物は様々である。わたしと同じように刀を持っている者もいれば、見るも巨大な戦槍を持っている者もいた。杖、ハルバード、オートライフル、拳銃、大剣、それらの武器を持っている者もいる。
わたしは抜く手も見せずに黒刀を引き抜いた。
「はぁ!」
迫ってくる敵を一刀の元に切り捨てる。更に迫ってくる敵にも一撃。四方八方から敵がやってきて、わたしは、それらを黒刀のみで葬り去った。上段から身体を真っ二つにしたり、中段から頭を貫いたり。回転切りでまとめて8人を倒したこともあった。
辺りは一瞬で血の海と化す。
わたしは刀に付いた血を振って払い、瞳を開けっ放しの玄関の方へ据えた。そこからただならぬ気配がしたからだ。そして実際、その場所から1人の男が歩いて出てきた。
中肉中背の身体に白い仮面。ペンキで塗りつぶしたような真っ黒いコートを着ている。
反政府組織〈イーディー〉副リーダーのぺルディという人物だ。死体となっている仲間を靴底で踏みつけて、わたしのほぼ真正面に立つ。
相変わらず仮面の奥の表情は伺えない。
「あなた、かなりのことをやってくれましたね」
「悪い?」
わたしは黒刀を構えながらいい、
「わるいで――」
奴の言葉がいい終わらぬうちに飛び出した。ここで仮面男と雑談をしている場合ではないのだ。
「――!!」
わたしは接近して刀を振り下ろす。脳天に狙いを澄ました一撃だった。
だがこの一撃を仮面の男は回避。
地面を蹴って後ろにステップした。距離が開く。
仮面の男の掌には、ステップして後ろへ飛んでいる最中、空のように青い粒子が集まっていた。
なにか武器を具現化させる気だ。
わたしはそう感じ取って、一拍の内に約3メートルの距離を潰す。
喉元を狙った会心の突きを放ったのだが――
「ちっ」
男の方が僅かに早かった。
わたしの突きが喉元へ届く前に武器を具現化させ、間髪入れずに銃弾を放ってきた。あのときと同じマシンガン。
わたしの刀は銃弾の雨を浴びて弾かれてしまう。
――つよい。
わたしは心の中で魔法を詠唱して、仮面の男の頭上に黒剣を出現させながら、被弾する前に横へ身体を逃がした。
あぶなかった。
仮面男は角度を変えてわたしを狙おうとしてきたが、頭上の黒剣が弓のように落ちてきてそれを許さない。
仮面男はどこかへ逃げるしかなかった。
――横だ。
わたしは仮面男の足の動きからそう察し、仮面男が来るであろう場所に銃弾を打ち込んでおいた。予測撃ちである。わたしの読みが当たっていれば、仮面男は、わたしが撃っておいた弾丸に自ら身体をぶつけることとなる。
読みが外れた場合は1発そんしたことになるが、実際、わたしの読みは見事なまでに的中していた。
仮面男の身体に銃弾が直撃。
つんざくような爆発音が轟いた。
仮面男は後方へ吹き飛んでいく。その身体からは黒い煙が立ち上っていて、いかにも哀れといった風体である。自慢の仮面もヒビ割れてしまったようだった。
わたしは地を素早く走り抜ける。
仮面の男が地面へ着地する前に接近。
――終わりだ。
わたしは全ての力を腕に込めて、仮面男の首を清々するほどに撥ね上げようとした。――そう、したのだ。
だができなかった。




