……
「静かにして」
わたしは男の顔にナイフを近づけ、悲鳴を上げたら刺し殺すという意を伝えた。
それでも悲鳴を上げられたらまずいので、念のため周りに結界も張っておく。防音の結界だ。これで外へ音が漏れる心配がなくなる。
「ねぇあなた、〈イーディー〉の構成員よね?
男は涙目になりながら頷いた。
よし。
わたしの予想はしっかりと当たっていた。
「じゃあそんなあたなに質問なんだけど、〈イーディー〉のアジトはどこにあるの? ここの森にあることはもう知ってるわ」
「教えたら生かしてくれるのか?」
小柄な男は、横たわる長身痩躯の男に目をやりながら言う。
「さあ? けど教えてくれなかったら、生きながら地獄を見ると思っていいわ」
「俺を拷問するということか?」
「ご名答」
バカでもそれぐらいの察しは付くようだ。
「ちっ」と男は恨めしそうに舌打ちをした。「わかったよ。俺も痛いことはされたくねぇから、俺達のアジトがある場所まで案内してやる」
――良かった。
ここで案内を取り付けられていなかったら、闇雲にアジトを探す羽目になるか、また拷問の相手を探す羽目になるところだった。面倒なことだ。今回ばかりは、小柄な男の虚弱な面に感謝したほうがいいのかもしれない。
もちろん、後で殺す相手に「ありがとう」などという言葉は言わないが。
わたしは、ナイフを男に突きつけたまま立ち上がった。
「じゃあ案内して」
「わかったよ」
男も渋々といった様子で立ち上がる。
その男の喉笛にナイフを付きつけながら、わたしたちはゆっくりと歩き始めた。
「なあ、ちょっと質問いいか?」
数時間後には死ぬ男が、歩き初めて200メートルぐらいでのところで声を上げた。
「なに?」
「まさかオマエは、1人で俺達のアジトに乗り込もうしているのか?」
「そうだけど?」
「バカかオマエは?」
「なんで?」
わたしは世界一強いのだから、徒党を組まずにアジトに乗り込むのは当たり前だろう。わざわざ仲間を付ける必要がまったくない。言っては悪いが、並みの仲間を引き連れてきたところで、わたしの足手まといになることは目に見えているから。むろん、その仲間というのが、〈7ノ神〉のメンバーだったりしたら話は大きく変わってくるけれど。
小柄な男は小ばかにするような表情をした。
「だってな、〈イーディー〉にはぺルディさんもいるし、他の幹部たちも化け物染みた強さを持っているんだし。なにより――」
「なにより?」
頭上のほうで甲高い鳥の鳴き声がした。
森は相も変わらず真っ黒い。
「〈イーディー〉のリーダーであるアウルさんの強さが、もはや神の領域に達してしまっている。おまえ、そのアウルさんの武勇伝聞いたことあるか?」
「いいえ」
というのは嘘で、本当はアウルさんの武勇伝ぐらいは聞いたことがある。ただ断片的にしか聞いたことがないので、わたしは、この男から情報を手に入れようと思ったのだ。構成員と言っても、〈イーディー〉メンバーであることに変わりはないのだから、きっと巷には出回っていない情報だって持っていることだろう。
「ふっ、じゃあ教えてやるよ」と小柄な男は、得意満面の体で言ってのけた。「まず、俺達のリーダーであるアウルさんは、重力を操るという恐ろしい能力を持っている。その能力を巧みに使って、連合の本部を襲撃したのは最近のことだな。連合の高官は、あれは複数人での襲撃だと言っていたが、事実は大きく違っている。総被害額20兆という甚大にもほどがある数は、アウルさん1人でやってのけたんだ。それでも連合が複数での襲撃と言ったのは、自分たちの面子を守るためだろう。たった1人を相手に、本部が総崩れとなっては、国民からの批判もすごいだろうからな」
「へぇ~他には?」
かなりの自慢になってしまうが、わたしでも連合の本部を落とすぐらいはできそうだ。レシュルギュルデン連合国家自体が、そこまで、軍事力の強い国家でもないし。ちなみに軍事力が1番ある国家だったら、わたし的には、グロンディウス大帝国だろう。さいきん新兵器を開発したとの情報も聞く。
「他にはか」と小柄男は、一瞬だけ悩んだような素振りをみせ、「たった1人である賞金稼ぎの団体を壊滅させたとか、連合の英雄――バルクを完膚なきまでに叩き潰したとかだな。あのときは、俺もモニターで戦いを見てたんだが、その熾烈さと言ったら言葉では表現でないほどすごいぜ」
「たたあなた語彙力がないだけなんじゃないの?」
「ちげぇよ」
男はぶっきらぼうに言い放った。




