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黒衣黒刀の暇つぶし  作者: 月倉悠
18/24

お弁当


「おまえ、半端なくすごいな」

 対岸へ渡ることに成功し、車が走りだしてから、わたしはディウスさんにそう言われた。いちおう褒めらているので、嬉しいといえば嬉しい。

「ありがとうございます」

 軍用車両は、岩や崖などに囲まれ、ゴツゴツとした道を走っていた。窓から外を覗いてみても、草や花などの植物類は見当たらない。

 ディウスさんは「おう」とだけ答え、片手で運転しながら、黒い箱の中から布に包まれたものを取り出した。

 わたしの方へ差し出してくる。

「ほら、これやるよ。この車を対岸へ運んでくれた、お礼みたいなものだと思ってくれ」

「ありがとうございます。でもこれ、中身はなんですか?」

 わたしはその布で包まれたものを受け取りながら、率直に疑問を投げる。

 ディウスさんは笑ってみせた。

「弁当のようなものだ」

「お弁ですか?」

「そうだ。もう12時も回るころだし、腹ごしらえはしておいた方がいいだろ。後ろの奴らは、もうがつがつと食っているし」

 確かに、さっきから食べ物のような匂いがして、後ろを向けば兵士たちがお弁当を食べていた。みんなおいしそうに箸を進めている。子供のように、口元に白いごはん粒を付けている人もいた。

「でもディウスさん、あなたは食べなくてもいいんですか?」

 運転をしているから、どう頑張っても食べられそうにはないけれど。

 車はガタガタと揺れながら進んでいる。

「いいんだ」とディウスさんは、かっこよさを滲みませたような口調で言った。「部下を大事にするのは、隊長の役目だからな。それにあいつらには、100パーセントの力で働いてもらわないと。あいつらが60パーセントほどの力が出せなくて、作戦が失敗したら、俺が隊長に怒られるということもあるしな」

「優しいですね」

「ふん、優しくなんかねぇよ。それよりもおまえは、早くその弁当を腹に入れろ。軍隊メシだが、割といけるぞ」

「了解です」

 わたしはディウスさんの優しさに感謝しながら、自分の太ももの上で布を解いた。黒い弁当箱が姿をあらわす。2段弁当だ。

 蓋を開けてみると、上の段にはごはんがぎっしり詰まっていて、下の段には色とりどりのおかずが詰まっていた。肉類があり野菜類もある。見るからにバランスが取れていそうなレパートリー。

 唾液が湧くほどおいしそうでもあった。

「どうだ、うまそうだろ?」

「はい、食べてしまっていいですか?」

「ああ、さっきも言っただろ、さっさと食え」

 わたしはその言葉に甘えさせてもらった。

 団子状ものを箸で取ってみる。

 口へ運んで噛み締めると、冷たいながらもジューシーな肉汁が、口の中一杯に広がった。おいしい。他のものにも全部手を付けてみたが、そのどれもが、ほっぺが落ちるほどのおいしさだった。

 12分足らずで全て食べ終わってしまう。

 ディウスさんにお弁当の箱は返却した。

 わたしは自分のお腹をさする。

 たくさんのものを食べたからだろう、いつもより心なしか膨らんでいた。

 地質の悪い道を進む軍用車両は、あの橋以来とくにトラブルに遭うことなく進み、周囲の景色は大きく変わっていった。

 鉱物類が生えてくるようになったのだ。崖や岩などに、鉱物商人が目に留めてしまったら、卒倒しそうな量の鉱物が生えている。眩い光を放つものがあった。まったく輝きを放たないものもあれば、おかしな形をした奴もあった。色だって様々だ。赤青白黄色、なんでも来いという感じである。

「あ……」

 一瞬みぎよこに見えたのは、魔炎石の原石ではないだろうか? 技術のある者が磨けば、すごい効果を発揮する石だ。なんと決められたワードを口に出せば、直線状に炎を吐き出すのだ。炎の温度は2000℃ぐらい。何も身に付けていない者が食らってしまえば、火傷をする前に丸こげだ。ただ魔炎石は数回つかうと壊れるという性質ももっていて、そこまで需要はなかったりする。

 3000年生きてきたわたしだって、一度だけしか使ったことがないのだ。


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