お弁当
「おまえ、半端なくすごいな」
対岸へ渡ることに成功し、車が走りだしてから、わたしはディウスさんにそう言われた。いちおう褒めらているので、嬉しいといえば嬉しい。
「ありがとうございます」
軍用車両は、岩や崖などに囲まれ、ゴツゴツとした道を走っていた。窓から外を覗いてみても、草や花などの植物類は見当たらない。
ディウスさんは「おう」とだけ答え、片手で運転しながら、黒い箱の中から布に包まれたものを取り出した。
わたしの方へ差し出してくる。
「ほら、これやるよ。この車を対岸へ運んでくれた、お礼みたいなものだと思ってくれ」
「ありがとうございます。でもこれ、中身はなんですか?」
わたしはその布で包まれたものを受け取りながら、率直に疑問を投げる。
ディウスさんは笑ってみせた。
「弁当のようなものだ」
「お弁ですか?」
「そうだ。もう12時も回るころだし、腹ごしらえはしておいた方がいいだろ。後ろの奴らは、もうがつがつと食っているし」
確かに、さっきから食べ物のような匂いがして、後ろを向けば兵士たちがお弁当を食べていた。みんなおいしそうに箸を進めている。子供のように、口元に白いごはん粒を付けている人もいた。
「でもディウスさん、あなたは食べなくてもいいんですか?」
運転をしているから、どう頑張っても食べられそうにはないけれど。
車はガタガタと揺れながら進んでいる。
「いいんだ」とディウスさんは、かっこよさを滲みませたような口調で言った。「部下を大事にするのは、隊長の役目だからな。それにあいつらには、100パーセントの力で働いてもらわないと。あいつらが60パーセントほどの力が出せなくて、作戦が失敗したら、俺が隊長に怒られるということもあるしな」
「優しいですね」
「ふん、優しくなんかねぇよ。それよりもおまえは、早くその弁当を腹に入れろ。軍隊メシだが、割といけるぞ」
「了解です」
わたしはディウスさんの優しさに感謝しながら、自分の太ももの上で布を解いた。黒い弁当箱が姿をあらわす。2段弁当だ。
蓋を開けてみると、上の段にはごはんがぎっしり詰まっていて、下の段には色とりどりのおかずが詰まっていた。肉類があり野菜類もある。見るからにバランスが取れていそうなレパートリー。
唾液が湧くほどおいしそうでもあった。
「どうだ、うまそうだろ?」
「はい、食べてしまっていいですか?」
「ああ、さっきも言っただろ、さっさと食え」
わたしはその言葉に甘えさせてもらった。
団子状ものを箸で取ってみる。
口へ運んで噛み締めると、冷たいながらもジューシーな肉汁が、口の中一杯に広がった。おいしい。他のものにも全部手を付けてみたが、そのどれもが、ほっぺが落ちるほどのおいしさだった。
12分足らずで全て食べ終わってしまう。
ディウスさんにお弁当の箱は返却した。
わたしは自分のお腹をさする。
たくさんのものを食べたからだろう、いつもより心なしか膨らんでいた。
地質の悪い道を進む軍用車両は、あの橋以来とくにトラブルに遭うことなく進み、周囲の景色は大きく変わっていった。
鉱物類が生えてくるようになったのだ。崖や岩などに、鉱物商人が目に留めてしまったら、卒倒しそうな量の鉱物が生えている。眩い光を放つものがあった。まったく輝きを放たないものもあれば、おかしな形をした奴もあった。色だって様々だ。赤青白黄色、なんでも来いという感じである。
「あ……」
一瞬みぎよこに見えたのは、魔炎石の原石ではないだろうか? 技術のある者が磨けば、すごい効果を発揮する石だ。なんと決められたワードを口に出せば、直線状に炎を吐き出すのだ。炎の温度は2000℃ぐらい。何も身に付けていない者が食らってしまえば、火傷をする前に丸こげだ。ただ魔炎石は数回つかうと壊れるという性質ももっていて、そこまで需要はなかったりする。
3000年生きてきたわたしだって、一度だけしか使ったことがないのだ。




