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黒衣黒刀の暇つぶし  作者: 月倉悠
17/24

転移魔法発動

 ディウスさんがデカイ声を出し、急ブレーキを車に掛けられた。

 わたしは頭をガラスへぶつけそうになったが、堪えて、なんとかぶつけずに済んでいた。

 ディウスさんが急ブレーキをかけたのは、先行していた車が唐突に止まったからだ。バックガラス目と鼻のさきにある。もうちょっとブレーキを踏むのが遅かったら、玉突き事故を起こしていただろう。

 バタン。

 ディウスさんはドアから飛び出した。

 わたしも飛び出す。後ろにいた兵士も続いた。前の車からだって、ぞろぞろと他の兵士たちが出てきていた。

「おい、なにやってんだ!」

 部下を叱責するように、ディウスさんはアホみたいに叫んだ。

 叫ばれた兵士は一瞬、身体全体を強張らせたが、

「前方の橋が落ちていて、通行することができなかったのです!」

 体勢を立て直した。説明するときの声も大きい。噛んでもいなかった。

 えらいと思う。

 ディウスさんは怪訝そうな表情をしてみせる。

「橋が落ちてるだと?」

「はい、その通りであります! 副隊長みずから、お確かめになった方がよろしいかと!」

 その言葉を聞いて、突っ立っていたディウスさんは、前の方へ進んで、橋の現状を見にいった。

 わたしも歩いて後を追う。

 他の兵士たちも同じようなことをした。

 先行車両の前あたりにつくと、確かに、あったであろう橋が落ちていた。対岸までの距離は80メートルほどか。下を覗いてみると、まさに激流という風な川が流れている。落ちたらあぶない。先行車両が急に止まったのも仕方がなかったのだと思う。

「副隊長、どうしますか?」

 1人の若そうな兵士が、ディウスさんに近づき、なにか命令を求めていた。

「う~む」としかしディウスさんは思案顔。「俺1人だけなら転移魔法でわたれるが、というか、お前らも転移魔法で渡れるよな?」

「はい」

「けどそれだと、肝心の車両が川を渡れないのだよな。う~む」

 ディウスさんたちは車が渡れなくて困っているらしい。大変なことだ。

 わたしもここで立ち往生をしていたら困るので、キョロキョロと辺りを見回してみた。が、役に立ちそうなものは見つからない。あるのは石とか岩とか砂利。どう工夫しようとも、これらで軍用車両を対岸に渡せるとは思えない。年月さえかければ、それこそ立派な橋ができそうなのだけれど。

 まあ、仕方がない。

 ない物をねだったところで事態が好転するわけでもないし、なにより時間の無駄だ。

 わたしは、ディウスさんの肩を優しくつついた。あることを提案しようと思ったのだ。

「どうした?」

 とディウスさんは、眉を寄せ、思案顔というもので振り向いた。

 わたしは悪徳代官のような笑みを作ってみせる。

「実は提案があるんです」

 本当はしたくなかった提案なのだけれど、エリアさんを助けるため、ここはグッと我慢しよう。我慢だ我慢。

 どんな提案だ? とディウスさんは聞いてきた。

 わたしはこと細かくは説明せずに、6秒ほどで自分の提案を言ってみた。

「できるのか?」

「できますとも」

 わたしは自慢げに頷いた。

 納得したでくれたであろうディウスさんは、部下たちに対し、転移魔法で対岸へ行くことを命令する。部下達はびっくりしたような反応を示したが、副隊長命令ならばと、各々対岸へ瞬間移動していった。

 残されたわたしと軍用車両。

 対岸からは熱い視線が注がれている。

「よし……」

 もう何回も言っていると思われるが、しつこいかもしれないが、わたしの魔法は優秀だ。天才魔導師ですらかなわないほど。ゆえに、はっきり言ってしまうと、わたしにとっては、軍用車両を対岸に運ぶなど、朝飯前と言って良い仕事なのだ。

 転移魔法をパパッと使ってしまえばいいだけ。

 それなのになぜ、わたしが転移魔法の使用を渋ったかというと、あまり人前で強大な魔法を使いたくないからだ。わたしは、大陸中に名を馳せるような人物にはなりたくないからだ。

 それでも詠唱していた魔法は完成。使用魔力は総魔力の2万分の1ほど。掛け声ともに解放すると、重い軍用車両が浮かび上がった。

 対岸からは歓声が上がっている。

 その歓声を聞きながら、わたしは空中から軍用車両を投げて、軍用車両は対岸へドスンと落下した。



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