転移魔法発動
ディウスさんがデカイ声を出し、急ブレーキを車に掛けられた。
わたしは頭をガラスへぶつけそうになったが、堪えて、なんとかぶつけずに済んでいた。
ディウスさんが急ブレーキをかけたのは、先行していた車が唐突に止まったからだ。バックガラス目と鼻のさきにある。もうちょっとブレーキを踏むのが遅かったら、玉突き事故を起こしていただろう。
バタン。
ディウスさんはドアから飛び出した。
わたしも飛び出す。後ろにいた兵士も続いた。前の車からだって、ぞろぞろと他の兵士たちが出てきていた。
「おい、なにやってんだ!」
部下を叱責するように、ディウスさんはアホみたいに叫んだ。
叫ばれた兵士は一瞬、身体全体を強張らせたが、
「前方の橋が落ちていて、通行することができなかったのです!」
体勢を立て直した。説明するときの声も大きい。噛んでもいなかった。
えらいと思う。
ディウスさんは怪訝そうな表情をしてみせる。
「橋が落ちてるだと?」
「はい、その通りであります! 副隊長みずから、お確かめになった方がよろしいかと!」
その言葉を聞いて、突っ立っていたディウスさんは、前の方へ進んで、橋の現状を見にいった。
わたしも歩いて後を追う。
他の兵士たちも同じようなことをした。
先行車両の前あたりにつくと、確かに、あったであろう橋が落ちていた。対岸までの距離は80メートルほどか。下を覗いてみると、まさに激流という風な川が流れている。落ちたらあぶない。先行車両が急に止まったのも仕方がなかったのだと思う。
「副隊長、どうしますか?」
1人の若そうな兵士が、ディウスさんに近づき、なにか命令を求めていた。
「う~む」としかしディウスさんは思案顔。「俺1人だけなら転移魔法でわたれるが、というか、お前らも転移魔法で渡れるよな?」
「はい」
「けどそれだと、肝心の車両が川を渡れないのだよな。う~む」
ディウスさんたちは車が渡れなくて困っているらしい。大変なことだ。
わたしもここで立ち往生をしていたら困るので、キョロキョロと辺りを見回してみた。が、役に立ちそうなものは見つからない。あるのは石とか岩とか砂利。どう工夫しようとも、これらで軍用車両を対岸に渡せるとは思えない。年月さえかければ、それこそ立派な橋ができそうなのだけれど。
まあ、仕方がない。
ない物をねだったところで事態が好転するわけでもないし、なにより時間の無駄だ。
わたしは、ディウスさんの肩を優しくつついた。あることを提案しようと思ったのだ。
「どうした?」
とディウスさんは、眉を寄せ、思案顔というもので振り向いた。
わたしは悪徳代官のような笑みを作ってみせる。
「実は提案があるんです」
本当はしたくなかった提案なのだけれど、エリアさんを助けるため、ここはグッと我慢しよう。我慢だ我慢。
どんな提案だ? とディウスさんは聞いてきた。
わたしはこと細かくは説明せずに、6秒ほどで自分の提案を言ってみた。
「できるのか?」
「できますとも」
わたしは自慢げに頷いた。
納得したでくれたであろうディウスさんは、部下たちに対し、転移魔法で対岸へ行くことを命令する。部下達はびっくりしたような反応を示したが、副隊長命令ならばと、各々対岸へ瞬間移動していった。
残されたわたしと軍用車両。
対岸からは熱い視線が注がれている。
「よし……」
もう何回も言っていると思われるが、しつこいかもしれないが、わたしの魔法は優秀だ。天才魔導師ですらかなわないほど。ゆえに、はっきり言ってしまうと、わたしにとっては、軍用車両を対岸に運ぶなど、朝飯前と言って良い仕事なのだ。
転移魔法をパパッと使ってしまえばいいだけ。
それなのになぜ、わたしが転移魔法の使用を渋ったかというと、あまり人前で強大な魔法を使いたくないからだ。わたしは、大陸中に名を馳せるような人物にはなりたくないからだ。
それでも詠唱していた魔法は完成。使用魔力は総魔力の2万分の1ほど。掛け声ともに解放すると、重い軍用車両が浮かび上がった。
対岸からは歓声が上がっている。
その歓声を聞きながら、わたしは空中から軍用車両を投げて、軍用車両は対岸へドスンと落下した。




