謎の影
「伏せて!」とわたし。
「伏せてください!」とエリアさん。
2人は同時に身を伏せた。黒い影がエリアさんに向かって、武器のようなものを振り下ろすのを、わたしは幸い目に止めたのだ。エリアさんがわたしに、「伏せてください」と叫んだのも、わたしの後ろにも黒い影が来たからだろう。気配でわかった。
わたしは拳銃を抜く。
照準機は覗かずに影の頭に狙いをつけた。1発だけ発砲。銃声が響いた。と思ったら黒い影はすでに倒れている。わたしの銃弾に屠られてしまったようだ。さすがわたし。どんな敵だろうとも、即効でケリをつけてしまう。
後ろの気配も消えていた。エリアさんが腰のポーチからナイフを取り出して、それを後ろの影に当ててくれていたからだ。風のように速かった。むろん、わたしの抜き撃ちよりは遅かったけれど。
2体の影は葬った。しかし謎の敵は、もっともっと数がいて、2体ていどでは済まなくて、わたしたちが一定の範囲からでない限り、断続的に攻撃を仕掛けてくるはず。
わたしは、拳銃をホルスターに仕舞いこんだ。
「やっと謎が解けましたね」
エリアさんは、床に突き刺さっていたナイフをぬいた。
「やっぱり、さっきの影が黒幕だったんですか?」
「そうだと思いますよ」
――やっぱり。
けどあの黒い影たちは、一体なにものなのだろう。わたしは初めてみた。新種かなにかだろうか? この世界では1日に、20種類以上の新たなモンスターが生まれると聞く。伝説級モンスターなどはなかなか生まれないらしいが、接触危険種などは、割と狩り切れないほど誕生しているそうだ。
わたしたちが倒した黒い影は、さっきまでそこで倒れていたのに、いつのまにか姿を消していた。
「あの」
黒い影のことを、エリアさんなら知っているかもしれないので、わたしは質問してみることにした。
「黒い影について、エリアさんはなにか知らないですか?」
「黒い影?」
エリアさんは戸惑うような表情をした。理由は知らない。またぞろ私をからかっているのだろうか?
でも、例えそうだとしても、文句を並べるのは面倒だ。わたしは、ただ首を縦に振る。
「はい、黒い影です」
「つまり雪乃さんが見た影は、黒かったということですね?」
「え、エリアさんが見たのは違ったんですか?」
「ええ、わたしが見た影は赤色でした」
なに。
わたしは内心おどろいた。でもよくよく考えてみれば、なにもおかしいことはない。むしろわたしが早計すぎたのだ。自分が見た影が黒色だったからといって、エリアさんの見た影までもが、黒色だなんて限らないのだから。極論を言ってしまえば、虹色や金色だったとしても、なんら不思議なことはない。
わたしたちは村長の家を出た。エリアさんと話し合って、とりあえず、外に出てみようということになったのだ。
ドアを開けると、村は真っ暗な闇に包まれていた。なんだか不気味。夜空には満天の星が瞬いている。
わたしの耳には、物音というものはほとんど聞こえてこない。唯一きこえてくるのは、虫の音ぐらいだろうか? なんの虫かはわからないが、澄んだ音を奏でている。民家は死んだように佇んでいた。
「雪乃さん雪乃さん」
となりに立つエリアさんが、ひそひそと声を掛けてきた。
「どうしました?」
エリアさんの声を聞きながらも、わたしは常に周囲を伺っている。
「いきなりですけど、ここからは別行動にしませんか?」
「え!? なんですか!?」
わたしは、身体がビックと震えあがるのを感じた。エリアさんのせいだ。こんな真っ暗闇の中を別行動するなんて、正気の沙汰とは思えない。怖すぎるじゃん……。
エリアさんは一息はいて、急に真面目な顔つきになった。




